第009話 見果てぬステータス
朝になってハジメは目を覚ました。
「知らない天井……じゃなくてステータスパネルが表示されたままじゃねぇか!」
目を開けると知らない天井ではなく、見慣れたステータスパネルが展開されたままであった。
「もう、見飽きたし……」
困った事態になってしまった。ステータスパネルが表示されたままでは自転車は漕げない。
歩くだけならステータスパネルが曇りガラスみたいに透けているので可能だ。
だが、速度が出る自転車では安全が確保できない。
つまり、学校へ行くのに支障が出てしまっているのだ。
「うーん、歩いて行くか……」
ハジメは学校の制服に着替えて朝食を取ろうと廊下に出ようとした。
しかし、パネルが邪魔でドアの取手を取りはぐれてしまった。
「くそっ、邪魔だな」
思わず手でパネルを跳ねるように振った。すると、ステータス画面は消えてしまった。
「へ?」
顔を上下左右に振ってみたがステータス画面は現れなかった。
「おお、消えたのか……」
スマートフォンで言う所のスワイプ操作で画面が消えたようだ。
気が付けばなんて事のない動作であった。
「ふふふ……そうやるのか……」
エアーメガネをクイッと上げニンマリと微笑みを浮かべている。
「鑑定」
ハジメは再びステータスパネルを呼び出そうと鑑定を使った。
「……」
しかし、ステータスパネルは現れ無かった。
「あれ?」
ハジメはキョトンとしている。
「鑑定!」
やはり、どこにも表示されてこない。
「……」
ハジメの額を汗が一雫流れ落ちる。
「…………どして?」
厄介な問題が解決したと思ったら違う厄介が舞い込んできた。
今度はステータス画面が現れないのだ。
「何らかの動作が必要なのか?」
手でパネルを払う動作をしたら消えたのだ。
じゃあ、逆の動作をすれば現れるのかと思い付いたのである。
片手・両手で戻すような動作を廊下でやってみた。
しかし、ステータスパネルは現れなかった。
「アレ? あれ? あれれれー……」
ハジメは焦ってしまった。動作も大きくなっていく。
すると、後ろから声を掛けられた。
「兄ちゃん、邪魔!」
振り返るとフタバが後ろで激怒している。
彼女から見ると廊下でブツブツ呟きながら、手を左右に振ってる挙動不審な兄にしか見えないからだ。
「もう……」
フタバは頬をぷっくりと膨らませながら降りていった。
ハジメも居間に降りようとしていた。
「お母さん、お兄ちゃんが変……」
妹は母親に相談したようだ。
ハジメは居間に降りようとしている所で気が付いたのであった。
「変って……それなら普段通りじゃない?」
母は即答してきた。
(もしもし?)
母親の意外な返答にハジメは戸惑った。
自分としては品行方正で真面目な息子のつもりであったのだ。
「それはそうだけど……」
フタバは口ごもったが思い当たることが多かったのか同意していた。
(いやいやいや、同意するのかい!)
ハジメは心の中で妹にツッコミを入れる。これは大事なマナーだ。
自分としては普通に行動していたつもりだが、家族からは不思議な奴と思われていたようだ。
「階段の上でブツブツ言いながら手を左右に振っていたよ?」
「後、これが見えるかって何もない所を指さしてた」
連日に渡るハジメの奇行を報告している。
(いや、事実関係を確認したかっただけなんだが……)
ハジメとしては自分の見えている物が本当かどうかを知りたかっただけだ。
些細なことでも気になったら、居ても立っても居られない性分なのだ。
「そう言えば、大雨で雷が酷かった時に俺の闇の力が溢れ出てるとか言ってたわ」
「ああ、前にもちょっとした地震の時には、ここは俺が沈静化させるからとか叫んで地面を抑えだしたしね」
「今度は冥界の邪眼が開化したとか言い出すんじゃない?」
「まあ、そういう年頃なんだろう」
「そうよねぇ~クスクス」
(ああああぁぁぁぁ……)
両親は一刀両断の元に、ハジメは恥ずかしい年頃認定してしまった。
(うああ、もう止めてさしあげて……ハジメのHPはゼロなのよ…………)
ちょっとしたイタズラのつもりだったのだが、青春期特有の痛い奇行と捉えられていたらしい。
ハジメは階段の上で身悶えしていた。