第007話 パッとしない男
オーブらしき魔石が消えた右手の裾を肘まで捲り上げて眺めたが何も変化は無かった。
その日はダンジョンの探索を諦めて自宅に引き返した。
風呂上がりに鏡に自分を写して顔や身体を右に向けたり左に向けたりして異常を確かめてみる。
これといって変化は無かった。
鏡にはパッとしない男子高校生が写っているだけだ。
「くそ~」
何も変化が無いのが返って不気味である。
「アレはオーブだと思うんだけどな」
ラノベ限定の世界観ではオーブには何らかの特典が有るものだ。
鑑定でも使えれば分かるのにとハジメは考えた。
「鑑定……」
何の気なしにその言葉を口にした。
すると、目の前に謎の電子パネルのような物を浮かび上がった。
名前:石垣一
階級:1
HP:5/5
MP:1/1
BP:1.002
状態:正常
職業:謎こんにゃくと闘う者
筋力:2
頑丈:2
敏捷:3
魔力:1
知力:1
幸運:1
特技:(鑑定:初回特典)
「うぉっ!」
いきなりの出現にハジメは驚く。
「こ、これは……」
顔を左右に振ってみたが眼の前に追従してくる。
何より壁にパネルの一部がめり込んでいるように思えたが壁には傷が付いていなかった。
「物理的なものじゃ無いのか」
どうやら視覚的に見えているようになっているらしい。
網膜に情報が投射されて見えていると考えるとしっくりと来る。
「ステータス表示なのか?」
パネルは透明に近く向こう側が透けて見えていた。これなら歩くのに少し邪魔になる程度だ。
「どうやって使うんだろ……」
そう考えて名前の所をじっと見つめていると『詳細』が浮かび上がってきた。
どうやらパネル表示者が興味を持つと感知する仕組みのようである。
『名前』-鑑定対象の名称
『階級』-強さの区分
『HP』-生命の量、0になったら死ぬ
『MP』-魔蘇の量、0になれば気絶する
『BP』-ボーナスポイント・初討伐などイベントクリアで取得。能力に割振る事が出来る
『状態』-パネル表示対象の健康状態
『職業』-パネル表示対象の職業
『筋力』-打撃力の強さ
『頑丈』-防御力の強さ
『敏捷』-素早さ
『魔力』-魔法を使う強さと魔力の回復力
『幸運』-幸を呼び寄せる能力
『特技』-魔法に依らずに使える特技(3つ)
パネルをジッと見入っていたハジメは感心していた。
(こうやって使うのか)
指で触ろうとしたがすり抜けてしまう。手を振っても触れた感触は無かった。
(頭の中で空中に浮かんでいると思ってるだけなのね)
つまり、イメージした事が具現化しているのだ。
(それよりも……)
気になっているのは魔力の欄である。
(魔力って事は……魔法が使えるって事だよな?)
魔法……世界中の厨二病を持つお友達が望んで止まないモノだ。
彼らの心の渇望を満たしてくれる言葉である。
(特技っていうのはスキルの事か……)
特技欄に『鑑定』とある。これが実装された御蔭でステータス画面が見られるようになったに違いないと考えた。
気になったのはHPがゼロになったら死ぬという項目とMPがゼロになれば気絶するという項目だ。
(死ぬのは勘弁だな……)
まだまだ、やりたいことが多いので死ぬ気は無かった。
(ゼロになると気絶するという事は、気絶している間に魔物に襲われたら死ぬんじゃね?)
結構、厳しい環境であるようだ。
(BPってボーナスポイントなんだろうなあ)
気になったのが小数点以下が三桁ある点だ。
(この半端な0.002って)
ダンジョンの中に入って倒した魔獣はスライム二匹だ。
数が丁度合うから魔獣を倒すことに寄って得られる経験値なのであろう。
(魔獣の強さによって違いがあるのか知りたくなるよねぇ)
他の魔物によって経験値が幾つになるのかが気になる所であった。
(まあ、それは今後の課題ということで……)
次は鑑定の項目を見てみた。
(初回特典って書かれているな)
初回特典ってこの洞窟で初めて魔獣を倒したからなのだろうとハジメは考えた。
実際は世界で初めて魔獣を倒した特典だということまでには思いが至らなかったのである。
(そうかそうか……)
だが、一つだけ気に障る項目があった。
(職業欄の謎こんにゃくと闘う者ってなんやねん……)
ハジメとしては格好良い『ドラゴンスレイヤー』とか『ウィザード』が良かったのだ。
「どうして落ちを付けないと気が済まないんだ……」
情けない感じの職業名に、ハジメはしょぼくれてしまっていた。