第064話 薄い本(魔法本)
真っ直ぐ家に帰宅したハジメはダンジョンの入口にやって来た。
魔石が白色化する条件の検証をする為だ。
「まずは回数からだな……」
ハジメは光学迷彩のオン・オフを繰り返す。
光学迷彩は一回使うとMPを2消費するのは分かっている。
なので、実験に使えるのは4回が限度だった。
「ぐぇー、気持ち悪い……」
ハジメはダンジョンの中に入って回復魔法陣でMPを回復させた。
そして、ダンジョンの外に出て隠密魔法の使用を繰り返した。
「十回やっても大丈夫……」
どうやら白色化の原因は、魔法の発動では無いようだ。
「たぶん、使い始めに少しだけ消費するって事なんだろうな」
試しに魔石を持たずに光学迷彩を使おうとしたが駄目だった。
やはり、魔石が持っている魔蘇が必要なのは変わりない。
「じゃあ、使用時間なのかな?」
ハジメは光学迷彩を使ってそのままジッとしていた。タイマーは経過観察用のスマフォの横にある。
最初は手に持っていたが、光学迷彩を使うと一緒に見えなくなってしまったのだ。
「まあ、身に付けた物……だからだよね~」
思い出しながら苦笑していた。
光学迷彩を使い始めてから五分程経過したであろうか魔石が白くなった。
「ふむ、やはり魔蘇の枯渇が原因なのですね」
エアメガネをクィっと上げながらハジメが現れた。
外世界では魔蘇が無いので、魔石から配給されている。
その魔蘇が無くなったので光学迷彩が解除されてしまったのだ。
分かってしまえば、どうという物では無い。
だが、誰も知らない事なので、自ら手探りしなければならない。
新しい知見を得てハジメはニコニコしていた。
「これからは予備の魔石を持ち歩く事にしよう……」
ハジメはそう決めて本来の目的である図書館に向かった。
本当なら図書館に籠もって、他の魔法を取得する方法を探っていたはずである。
想定外の調査で少し手間取ってしまったが、魔法石が持っている魔蘇の事が少し理解出来た。
「さあ、本を借りてみようかね……」
ダンジョンに何か要求する時には、具体的な事を言わないと駄目なのは学習した。
なので、紅蓮の炎の使い手になりたいハジメは借り出したい本を決めていた。
「生活魔法の入門書が欲しいです」
基本は大事だよね。
『承りました……チックタックチックタックぼぉーん本』
ポンッと言う感じでテーブルの上に本が現れた。
魔法本の出現が可能になった瞬間である。
「やたらと薄いな……パンフレットみたい……」
表題に書かれていた文字は読めなかった。神代文字に近い。
恐らくは『楽らく生活魔法入門』とでも書かれているのだろう。
まあ、後で鑑定しながらゆっくりと読もうと考えた。
「有難う御座います」
ハジメはペコリと頭を下げて、魔法本を抱えて図書館の外に出ようとする。
しかし、図書館入口で引っ掛かってしまい外に行けなかった。
魔法陣が赤く光っているのが分かる。
「あれれ……魔法陣を鑑定……」
注意書きが表示されている。『図書館から本を持ち出すことは出来ません』となっている。
「えええ……どういう訳だ?」
ハジメは魔法スクロールのように、オモイカンの石像で伝授してもらえるのかと思っていたのだ。
図書館の外に持ち出せないのなら、ここで内容を覚えて自ら取得するしかない。
「乗り越えるハードルが高くない?」
魔法本を借り出せた。だが、書かれている異世界の言葉自体が分からない。
鑑定しながらでは時間ばかり掛かってしまいそうだ。
まあ、締切がある訳では無いので、じっくりと取り組んでも良いが出来れば直接読みたい物であった。
「異界言語理解みたいなの無いかなあ……」
某指南書(付与:ラノベ)を思い出しながら呟いてみた。
ハジメはダメ元で図書館の司書パネルの前に来た。
「異世界の言葉を学習できる本が欲しいです」
『承りました……チックタックチックタックぼぉーん本』
ポンッと言う感じでテーブルの上に本が現れた。
これも薄いパンフレットみたいな本だ。
「?」
表題は異世界の言語で書かれているのでチンプンカンプンである。
パラパラと捲っても全て異世界の言葉だらけだ。
異世界の言葉を覚えたいのに、肝心の読み方が分からないでいた。
これも鑑定しながらになるのかなと考えた。だが、ここで違うことを思い付いた。
「見ただけで本の内容が頭の中に入れば良いのに……」
ハジメがそう呟くと魔法本がボゥッと光出した。続いてキラキラとした粒子が魔法本から飛び出てきた。
粒子はクルクルと回転したかと思うとハジメの頭の中に吸収されていった。
「…………え?」
意外な展開にハジメは呆気に取られてしまった。
未知の物が頭に入っていったのだ。普通の感覚であれば狼狽えてしまう。
だが、ここはダンジョンなのだ。理解が追いつかないのは仕方が無い事である。
「異世界風早期学習って事か?」
ハジメは手に持った薄いパンフレットを改めて見た。『初めての翻訳技能』と書かれている。
技能と言う事は魔法とは違った物であろう。ハジメには区別が分からなかった。
「あっ、読めるじゃん……」
それでも本のタイトルが読めることに感動していた。
どうやら、ハジメは異世界の文字を翻訳出来るようになったらしい。




