第051話 槍の改良
石垣家の居間。ハジメの妹フタバは母に相談していた。
「ねぇ、お兄ちゃんが変……」
「どういう風に?」
「今度は変な仮面被って鏡に向かってブツブツ言ってる」
「お人形じゃなくて?」
「うん、でね見えたり見えなかったりしてる」
「ふ~ん、電球が切れかかってるみたいな感じ?」
「そうそう、そんな感じ……」
「じゃあ、お腹が空いてたんじゃないの?」
「そう言う物なの?」
「直ぐにお腹を空かせる年頃だもんね」
「へぇ~そうなんだあ」
どうやらハジメが、グレイウルフの仮面で認識阻害のテストをしているのを見られていたようだ。
お腹が空いたからと言って、人は見えたり見えなかったりしない。
だが、ハジメの事なので違和感に気が付かなかい母娘であった。
そんな会話がなされているとは知らずに、ハジメはダンジョンの第四階層に向かっていた。
「バッテリーを十分あるし、張り切ってスライム狩り頑張りましょうかね」
ハジメは自走ドローンを飛ばしてスライムの捜索に入った。
今日は第四階層のマッピングを終わらせる予定だ。
噴水らしき跡のような場所がまだ有るのではないかと期待している。
「お、昨日の場所にもうポップしている」
昨日、退治したミューカス・スライムがポップしているのを見つけた。
側まで駆け足で向かい、近付いたら認識阻害を有効にした。
そして槍をスライムに突き刺し同時にレバーを操作する。
はずがモタモタしていたら槍が外れてしまった。
「おお、怒ってる怒ってる」
スライムは怒ったように四方八方に粘液を飛ばしていた。
姿が見えない敵に怒り心頭のようである。ハジメは慌てて距離を取った。
「姿は見えないから助かるけど失敗すると厄介だな」
万が一にでも自分に粘液が掛からないように気を付けようと考えた。
耐酸エプロンを付けているとはいえ万全では無いだろうし、同じものを購入するには財布が厳しいのだ。
ハジメは槍の先端に中和液を掛けておいた。こうしないと槍(物干し竿)が持たない。
「戻ったらもう一本作っておくか……」
予備の武器が無い事に気が付いた。壊れたら石斧で対処しないといけない。
ミューカス・スライムのHPは高いので石斧だと苦労しそうだ。
それに、兵站を気にしないと一人探索では、直ぐに困った事態になると思い至ったのだ。
「よしっ、もう一回!」
気を取り直して、もう一回挑戦する。
今度は上手くいったのかプチュンとスライムは弾けた。注入のタイミングがバッチリだったのだ。
「うん、注入開始の方法を工夫する必要があるな……」
ハジメが望んでいるのは引き金みたいな物でアルカリ液を注入できる方式だ。
今のようにレバーハンドルを下げる。だけでは動作が緩慢になってしまい槍が外される隙が出来てしまうのだ。
「そうだ、外しちゃったけど散布機にはそういう奴が付いていたな」
祖父が農薬を散布しているのを見た時のことを思い出した。
その時にはレバーハンドルを事前に何度も操作していた。中に空気を溜め圧力を高くしてから使う物なのだ。
そして、ホースの先に付いた器具のスイッチを操作して散布していた。
ハジメは本体の方に気を取られて器具の存在を失念していた。
というか普段使ってないので思い出せなかったのだ。
「槍に付ける時には、水が出るかどうかしか気にしてなかったから忘れてたわ」
ハジメは一度納屋まで戻って器具を取り付けた。スイッチは手元にあるので操作性は上がった。
器具はステンレス製らしく耐酸性も高そうである。
「さあ、今日中に殲滅してしまおうかね」
張り切ったハジメだが、第四階層のスライムを四十匹程討伐した所で帰宅時間となった。
「狩りきれなかったかあ……」
シン・スライムプレスの作動時間に合わせて、第一階層と往復しているので時間を取られてしまうからだ。
スライム狩りも大事だが、経験値獲得も大事なのだ。
それに発見した場所を地図に書きながらだったのも、地味に時間が掛かった原因だ。
「まあ、仕方がないか」
ハジメはダンジョンを出ようと転移魔法陣にやって来た。
「第四階層に転移……」
試しに呟いてみる。しかし、魔法陣は赤く光って転移した様子は無かった。
まだまだ、条件を満たしていないようである。
「ちぇっ……」
ハジメは残念そうに呟いて第一階層に転移していった。




