第005話 スライムに勝つ
ハジメはダンジョンを出て近所に住んでいる幼馴染の家に行った。
中嶋健二(彼女いない歴更新中)に木刀を貰いに来たのだ。
中学の修学旅行で男子が購入して死蔵してしまう嫌土産ナンバーワンだ。
「今更、剣道を始めるのかよ」
「いや、毎年冬になると風邪引くから身体を鍛えようと思ってな」
「だったら、俺の通ってる道場に行った方が良いんじゃね?」
「いや、そこまで本格的なものじゃなくて庭先で朝ちょこっとやりたいんだよ」
「剣の振り方とか上達者に見て貰って指導受けた方が早いよ」
「ああ、一人でやるのに飽きたら訪ねてみるよ」
「おう、待ってるぜ」
健二と別れたハジメは自宅に帰ってから教えてもらった『ヨッ!ツベ動画』を見ながら素振りを始めた。
動画だと風切り音が聞こえるが、ハジメの素振りでは何も聞こえてこなかった。
「初めてだとこんな物か……」
十分程素振りのマネごとをしながら防具のことを考えた。
「やはり上下スウェットじゃ防具の意味が無いか……」
剣道の防具を考えたが、装着すると重さで運動神経の無いハジメにはリスクの方が高くなる気がした。
「う~ん……」
そこでふと思い付いたことがあった。
「あっ、打撃に気を付ければ良いのなら野球の奴で良いんじゃね?」
腹を狙われたので野球部の知り合いから、キャッチャー防具を一式譲ってもらった。
新しいのを親から買って貰ったと嬉しそうに話しているのを聞いたのだ。
ハジメは早速電話をして安く譲ってくれと交渉したがボロボロだからタダにしてくれると言ってきた。
親に新しいのを買って貰ったのでいらないと言っていたのだ。
自転車で受取に行くと『野球始めるの?』と中嶋と似たようなことを言われてしまった。
「チェーンソーの使い方を父さんに教えてもらうから防具代わりにするんだよ」
「そうか、チェーンソーの防具って高いからな」
「ああ、木くずとかを避けることが出来れば良いだけだからコレでも役に立つと思うよ」
防刃性能が皆無だがスウェットよりはマシな程度だ。
「そうか、捨てるだけだから役立ててくれ」
「さんきゅう」
見た目が結構ボロボロ状態だが、野球ボールではなくスライムの攻撃防御なので役に立つような気がしている。
武器と防具を用意したハジメは謎のコンニャクに挑むことにした。
頭には自転車通学の時に使っているヘルメットを装着してある。
「うん…… 怪しげ雰囲気で大変宜しい」
鏡に自分の姿を写したハジメの感想だ。
本当は爺さんの猟銃を持ってこようとしたが鍵が掛かっていた。
「きっと内緒で持って行ったら怒られるだろうけどな」
怒られるどころの話では無いが、ハジメは持って行くことを諦めている。
「狩猟免許持ってないからって、絶対貸してくれないだろうしなあ」
爺ちゃんに代わりに倒して貰うことも考えたが、絶対話しを信じないだろうからと諦めたのだ。
頭の硬さは堅焼きせんべい並である。
「さぁっ!リベンジ戦だあ」
ハジメは意気揚々とダンジョンにやってきた。奥に行くと謎のコンニャクことスライムがいた。
「うぉりゃああ!」
ハジメは徐ろに木刀を振り下ろした。
ぼよん
スライムは少しだけ横に広がったが元通りになった。
ハジメの渾身の一撃は通用しなかったようである。
「でぇりゃあああ!」
ハジメは再び木刀を振り下ろす。そして、今回も打撃は通用しなかった。
それから何回も木刀で攻撃をしたが成果は得られなかった。
「むぅおりゃああああ!」
ぼよん
バキッ
ハジメが振り下ろした木刀は中程で折れてしまった。お土産品なので耐久性に問題があったようである。
「ええー、どんだけ丈夫なんだよ……」
木刀が折れたので、次は父親のゴルフバックから何か持ってこようかと考えた。
「出直しするか……でも、その前に……」
最後にハジメはダンジョンに転がっていた一抱えも有りそうな岩を持ち上げた。
結構、重いはずだがハジメは持ち上げる。火事場の馬鹿力という奴であろう。
「コンチクショー!」
ハジメは抱えた岩を思いっ切りスライムの上に落とす。
スライムは横に目一杯広がったかと思うと限界を超えたのかプチュンと弾けた。
そして、スライムは最初は黒い霧状の物が岩の下から出てきた。
黒い霧は徐々に空気に溶けていくように消滅した。
スライムに勝ったのだ。