第048話 宝箱開封の儀
ハジメは初めて見る宝箱を撫で回したり頬擦りしたりしていた。
嬉しかったらしい。尻尾があったら千切れそうなくらいに振りっているに違いない。
「でも、宝箱を開けて中身を取り出すと箱自体は消えてしまうんだよなあ」
指南書(属性:ライトノベル)によると宝箱は中身を取り出すと光となって消失する。
「じゃあ、中身を出さなければ消えないのかな?」
そうなのだ。中身を取り出さなければ何も起きない。
「家に持って帰って机の上に飾りたいな……」
そこで宝箱ごと外の世界に持っていけるのではないかとハジメは考えたのだ。
「ダンジョン草は外に持っていけたよな……」
第一階層の草部屋(現回復魔法陣部屋)に生えていた草を、リポップ防止の為に外に持ち出したのだ。
その時には何とも思わなかったが、元々ダンジョンの物は持ち出せないような印象を持っていた。
「持ち出す時に何か障害とか無かったはずだよな……」
宝箱を外世界に持っていけないか試してみる価値はありそうだと思った。
ハジメは宝箱を抱えて第一階層に戻ってきた。
「さて、いきなり外世界には持っていけないから……」
その前に検証作業だ。大事な宝箱をいきなり外世界には持ち出さない。
代用品で試してみる事にしていた。
「ナナシ・スライムを連れ出せるかやってみる」
納屋まで行ってお菓子が入っていたらしい缶を持ってきた。
スライムを触ろうとすると攻撃してくるので、缶の中に閉じ込めて持ち出そうと思い付いたのだ。
シン・スライムプレスで、リポップしたばかりのスライムを一匹缶の中に入れた。
入れたと言っても上から被せて蓋をしただけだ。
「よし、準備完了」
それをダンジョンから五メートル程離れていて入口から見える場所に吊るした。
缶を振ってみると、ボタボタとスライムが缶に当たっている音がする。
どうやら無事に持ち出せたようだ。
「時々、蓋を開けて確認するだけで良いか」
缶はダンジョン草をグルグル巻き付けて蓋が開き辛くしてある。
ダンジョン草を巻いたのはスライムが溶かしてしまうのを防止する為だ。
「さて、経過観察の間に他のテストもやってみようかね」
第四階層で仕留めた、ミューカス・スライムの魔石をシン・スライムプレスで潰せるかの実験だ。
まずは一個だけ仕掛ける。サイズが大きいのでプレス出来るかの確認だ。
今はアーズス・スライム二十匹でプレス処理をしている。アーズス・スライムはソフトボールぐらいの大きさだ。
この大きさならば大丈夫だが、ミューカス・スライムはソフトボールより一回り大きい。
「上手くいかないのなら油圧ジャッキを買い直さないと……」
最初に一匹だけ試験して、上手く行くようなら二十匹でプレスを掛けるようにするつもりであった。
ナナン・スライムは一回のプレスで経験値が0.01取得出来る。アーズス・スライムは0.04だ。
ミューカス・スライムならば0.08もある。
「一晩で経験値が2以上も貯まる」
リポップの時間が来てミューカス・スライムがリポップした。
ハジメは迷うことなくプレス機を動作させる。ブチッと音を立ててミューカス・スライムは潰れ黒い霧になった。
成功したようだ。次は十匹でやってみる為十個の魔石を準備した。
「外に吊るしたスライムはどうなったんだろ?」
ダンジョンの外に吊るした缶のところに行き缶を振ってみる。
ボタンボタンと手応えを感じ、蓋をちょっとだけ開けて見るとスライムは居た。
「外では魔蘇が無いと思ってたけどそうでもないんだな……」
生活魔法が使えないのは分かっている。なので、外に魔蘇が無いのは明らかだ。
ハジメは魔石をペンダントにして、身に付ける事で魔法が使えるようになっている。
なので、宝箱は直ぐに分解が始まってしまうものと考えていたのであった。
「もう少し放置するか……」
ハジメは缶を元通りにして宝箱を開けてみる事にした。
自分の部屋で開封の儀を行おうかと思った。だが、事後処理が必要だった場合を心配した。
面倒な事になるのを避けたかったのだ。
「黒い霧になった時に霧が消えなかったら困るからね」
スライムのように溶解液が出現した時も考えていたのだ。
他にも、魔獣ミミックの可能性もあった。
「さて……」
ハジメはソっと蓋を持ち上げた。蓋は普通に開いた。
中を覗くと仮面が在った。仮面と言っても目の部分を隠すだけの物だ。
「どこだっけ……ベネチアングラスって言うんだっけか?」
灰色していて狼の顔をイメージしているようである。
「灰色狼ね……」
それはそれで格好良いイメージではないかとハジメは納得した。
灰色狼がハジメの厨二心に響いたようだ。




