第021話 思惑の延長
外に出てみるとスマートフォンが振動した。母親からである。
『ちょっとコンビニまでお使いに行って来て!』
検証まで時間が有るので行ってくることにした。
母親に逆らうと碌な事にならないのは学習済みだ。
・おかずを一品減らされる
・自分の部屋を念入りに掃除されて、ホニャララな物を見つけてしまう
・朝早く起こされてしまう
・抱きついてこようとする
など、思春期を患っているハジメには地味にダメージが来る。
コンビニまで行って帰って来るとリポップ時間は過ぎていた。
ハジメは学校からの帰宅時のような早足でダンジョンまでやって来た。
中に入って直ぐの場所にスライムプレス装置はある。
検証用に入口近くに移動しておいた。ストッパーを外す縄が短いからだ。
今回はダンジョンの外で操作して経験値が入るかを検証するのだ。
「居るよな?」
スライム・プレス装置の中を覗くとスライムは十匹リポップしていた。
逃走防止用に仕切った板状パネルの間にみっしりと詰まっている。
「う~ん、この石を超えられないのか?」
逃げ出しているとばかり思っていたが違うようだ。
高さの問題か或いは板状パネルに何らかの特殊機能が有るかだ。
「をー、検証事案が増えたぜ……」
悩みどころが増えたというのにハジメは嬉しそうであった。
ハジメの飽くなき探究心は底が無いのであろう。学校の勉強に活かせないのは残念である。
「取り敢えず、今は経験値取得の実験をしないと……」
ハジメはストッパーの紐を持ってダンジョンの外に出て直ぐに紐を引いた。
ストッパーが落ちるのが見える。中に入ってスライムプレスを上げると魔石が十個あった。
問題なく動作したようだ。
ハジメは鑑定を使って自分のBP値を確認した。
「よっしゃ! 増えている!!」
どうやら物理的に繋がっている事が肝心なようであった。
その物理的繋がりが、どういった塩梅を示すのかは謎だが検証する価値はある。
「次は引き伸ばす方法だよな……」
ダンジョンの草を撚り合わせて、自宅までの紐を作ろうかと考えたが距離が有りすぎて無理ゲーだ。
「ホームセンターに行ってみるか……」
ハジメが考えたのは釣り糸。細長くて丈夫だ。
これなら洞窟から自宅まで引っ張ってきても切れたりしないであろうと推測した。
何より長さ千メートルもあるのに値段が二千円程度であった。
貧乏高校生に優しい価格設定である。
「……」
ホームセンターにやってきたハジメは、センター内を彷徨っていると気になる物を見つけた。
ベランダ・田・畑などへの野鳥の飛来防止用の防鳥テグスだ。
こっちは安い物で二千メートルで五百円程度。自宅とダンジョン間が概ね二キロぐらいある。懐具合にも優しい。
「まあ、釣りするわけじゃないから、こちらの方が良いか」
見た目も透明に近いので発見される可能性も低い。
もし、見つかってもどっかから飛んできたのだろうと言い訳もしやすいと考えたのだ。
防鳥テグスを購入したハジメは再びダンジョン前にやってきた。検証する為だ。
紐の先にテグスの端を結びつけてリールのまま手に持っている。
これが駄目だったら草部屋から草を採取して、テグスに撚り合わせてみるつもりであった。
「まあ、やってみて駄目だったらだけどなあ……」
ハジメはアレコレ考えて行動するタイプでは無い。直感で行動する方だ。
失敗も多いが考えすぎてチャンスを逃がすのが嫌なのだ。
「全て自己責任さ」
ハジメが紐を引くとスライムプレスが落下するのが見えた。
ストッパーを外す事には成功したようだ。
しかしながら、ここで不思議なことがある。
ダンジョン内と外世界では経過時間に差異が有るはず。本来なら早送りのように見えるはずだ。
だが、その事にハジメは気が付いていない。
眼の前の出来事に夢中になっているのだ。
思惑通りに事が運ばれているので舞い上がってしまっている状態だ。
「さあ、どうだ?」
ハジメは鑑定を使って、震えながらも自分のBP値を確認する。
緊張の瞬間である。
「!」
BPが0.01増えていた。板状パネルの中でリポップしたスライムの分である。
「うひょーーー」
喜んだハジメは喜びの舞をした後にVガッツポーズを決めていた。
これで寝ながらでも経験値の取得が可能になったのである。




