第017話 夜中のダンジョン
ハジメはベッドからムクリと起き出した。寝ていた訳ではない。布団に潜り込んでネットを徘徊していたのだ。
時計を見ると深夜十一時。夕方十八時にダンジョンを後にしてから五時間経過している。
ダンジョン内では二十五時間以上経過しているはずだ。
(大まかな基準で一日経過で再出現するかだな……)
魔石に依らずにリポップするかどうかの調査を行っている最中だ。
(ダンジョンまで行くのダルいな)
本来なら監視カメラを設置して確認したい所だ。
だが、外世界の物はダンジョンに吸収されてしまうので無理であった。
ハジメは生来の出不精である。外に出掛けるを嫌がる方だ。
それでも『知りたい』という欲求に贖え無かったらしい。
窓から外の様子を伺った。誰もいなようだ。
(家族を起こさないようにしないとね……)
ハジメの部屋は二階の角部屋である。夕方に帰宅してきた時に、窓外に梯子を立て掛けておいた。
夜中にコッソリと窓から出入りする為だ。
(時間経過で新規に発生するかどうかも知りたいよな)
ハジメの知識要求が止まらない。ダンジョン・マニアであるのだから仕方がないのだ。
手元のライト以外に照らす物が無い山道をビクつきながらダンジョンにやって来た。
(さあ、結果はどうだろうねえ……)
今回はサッと見て回って直ぐに帰る予定だ。
「べ、別にお化けが怖いとかじゃ無いんだからね!」
微妙なフラグを立てるような台詞を吐き出しながらダンジョンに足を踏み入れる。
早足に成りがちな感じでダンジョン内を見て回った。
「……」
家から持ってきたスクリームの仮面を被って歩いていた。
お化けが出ても相手がビックリしてくれるかもと妙な期待をしていたのだ。
その隙に逃げる為だ。戦うという選択肢はハジメには無い(きっぱり)。
「…………」
いつも見かける場所にスライムたちの姿は無かった。
「うん、やっぱり魔石無しではスライムはリポップしないか……」
夜中にダンジョンに様子を見に来たハジメはスライムがリポップしていないのを確認していた。
居ない事を確認したハジメはそそくさと帰宅した。
「さて、次の課題は……」
コレで魔石が無いとリポップ出来ない事が判明した。
次はどうしたら自然発生するのかである。
ハジメはスライムが居ない状態になると発生すると踏んでいる。
「まあ、ダンジョン時間の一日じゃあ無理だとは思ってたけど」
一週間もしくは一ヶ月とかだろうかと考えた。
しかし、リポップ間隔が二時間半。分に直すと百五十分である。
ふとハジメは考え込んだ。
「…………」
ここである事に気が付いたのだ。
「五の倍数なんだよなあ……」
最初にスライムを発見した時も十であった。それ以上に増えていない。十も五の倍数だ。
何らかの規則性が或るような気がしたのだ。
「じゃあ、明日の夕方なら相当な時間が経過している事になるよな……」
七百五十分(十二時間半)ならば、ダンジョン内では六十二時間半経過している。
前日に総てをやっつけたのでスライムが居なくなってから二十五時間となる。
日数に直すとダンジョン日数で五日ぐらいだ。
「ここでも五の倍数になるな」
核心を突いているような気がしてきた。そして、実際にどうなるのかをハジメは知りたくなってきた。
コレは新発見になると思ったのだ。ただ、残念な事に発表する相手が居ない事だ。
「よし、明日の夕方にやってきて確認してみよう」
再出現するのは分かっている。現にハジメは複数の魔石を所有していた。
それはスライムが再出現している証であるのだ。
明日の予定を決めてハジメは自宅に帰っていった。
翌日、存在を空気と同化させていた学校から帰宅して、真っ直ぐにダンジョンにやって来た。
昨夜の検証の続きだ。
「さあ、俺が睨んだ通りなら十匹のスライムが居るはずだ」
恐らくは五日ダンジョン時間で発生しているはずと考えていた。
根拠は……無い。
自分が予想していた通りに新たなスライムが発生していた。
「ふふふ…… 1……2………………9……10」
ハジメは得意げにスライムの数を数えていく。
そして、睨んだ通りに十匹のスライムが発生していた。
「次は魔石を一個だけ置いて十匹になるかを検証だな……」
新たに出現したスライムを総て魔石に変えて、自宅から持ってきた魔石の一つをダンジョン内に置いて帰宅した。
時間経過した魔石でリポップするかどうかを確認する為だ。