第012話 時間のズレ
ハジメは学校帰りにワンコインショップに寄ってキッチンタイマーを買ってきた。
本当はストップウォッチが欲しかったのだが品切れだった。
キッチンタイマーをダンジョンの入口、入って直ぐの場所、手持ちの三種類用意した。
本当に時間の遅延が有るのかを確認する為だ。
(まあ、外界の常識が通用しないのがダンジョンの特徴だと思ってたけど……)
スライムを十匹ほど潰して外に出てきた。もっと狩りたかったが見つからなかった。
外に置いておいたタイマーと持って入ったタイマーを比べてみる。
「ほぉ、時間の経過が違っているじゃないか」
入って直ぐの場所に置いたタイマーと自分が持っていたタイマーは同じ経過時間だった。
しかし、外に置いたタイマーと持っていたタイマーには明確な違いがあった。
やはりダンジョン内部と外世界に時間経過にズレがある。
「五分の一ぐらいか……」
中では一時間(六十分)経過していたが外では十二分であった。
「ダンジョンで五日間過ごしても外世界では一日分」
つまり、五倍の経過時間の差がある。
「じゃあ、学校から帰ってきて一時間は探索に充てられるな」
ダンジョン時間で五時間も有れば探索やり放題だ。
「つまりレベル上げ放題になる……かな?」
恐らくレベルが上がるとそれに連れて力などが上がると予測している。
もっとも、中で宿泊してまで、レベル上げをするつもりは無かった。
「そうすれば魔法が使えるようになるかもしれん……」
これまでの事からレベルを上げると、何らかの特典が在りそうだとは考えている。
それが魔法であっても不思議ではないとハジメは考えていた。
「と…… その前にやることが有るんだよなあ」
道具の収納場所だ。自宅から持ってくるのでは手間がかかる。
何をしているのかと勘ぐられるのも面白くない。説明が面倒だからだ。
ハジメは自宅に戻って使わなくなった物置を持ってきた。
物置と言っても高さが一メートル程で抱えられる程度の物である。
最初は母親が家庭菜園の道具入れで使っていたが、大きい物置を買ったので放ったらかしにされてたやつだ。
自宅から装備(?)を持ってくるのが面倒なので、仕舞っておくのに使う予定だ。
「使ってあげないとね~」
それを有効活用するべく持ってきてからダンジョンに侵入した。
家から謎の装備を着て来るのも持ってくるのも嫌だったからだ。
それに装備を着ている状態で家族に見つかったら、今度こそ病院に連れて行かれるかも知れないと考えたからだ。
「よしっ、レベル上げの為にスライム刈りだな」
自分のステータスを確認して再びダンジョンの中に戻っていった。
経験値というかBP欄が倒したスライムの値と一致しているので大丈夫であろう。
「目指せ魔法使い!」
ハジメはダンジョンの中で拳を振り上げていた。
きっと、経験値が無いので魔法が使えないのだろうと自己完結したようだ。
「お……」
すると目の前にスライムが現れた。
「ふむ、外に出て中に戻るとスライムが湧くのか?」
外に出る前には中々見つからなかったスライムが目の前にいた。
ハジメはダンジョン内に人が居るとスライムが再出現しないのかと考えた。
「物置を持って来て設置した時間が三十分ぐらいだから、ダンジョンの中では二時間半って感じかな?」
ハジメは魔獣の再出現の間隔が二時間半なのかも知れないと当たりを付けていた。
もちろん、これは検証する項目のトップとなった。
「十匹を倒した所で外に出たんだから同じ数だけ湧いてるかもしれん……」
ハジメは懐中電灯を点灯させてダンジョンの中を探してみた。
石を持つ都合上、両手が塞がってしまうのでタオルをほっかむりして頭上に差し込んで使用している。
「うーん、小遣い貰ったらヘッドライト買おうかな……」
スウェットの上にキャッチャー防具と軍手。足元はゴム長靴。
怪しさが限界を突破しそうだが、ダンジョンにはハジメしか居ないので平気であった。
「おやっ? 九匹しか居ないな……」
ダンジョンの終端まで来たが、スライムは九匹しか居ないのだ。
途中にあった枯れ草しか生えていない部屋や石しか落ちてない部屋も見て回った。
最初に探索した時もそうであったが、それらの小部屋にスライムはいなかった。
「一定の数が自動的に湧いてくるんじゃないのか……」
ハジメは引き返そうとした時に、足元に落ちていた魔石に違和感を覚えた。
「ん?」
黒い霧のような靄が魔石から噴出している気がしていたのだ。
「なんだ?」
ハジメはしゃがみ込んで不可思議な様相を示している魔石を見つめていた。