第001話 洞窟発見
いつもと何も変化の無い田舎の風景。
そんな学校帰りの道のりを石垣一はゆっくり自転車で帰る。
高校に入学して最初の夏を迎えようとしている。この道も自転車で往復するのも手慣れたものだ。
中学時代は陰キャ代表のような有り様だった。教室では本を読んでるか、机に突っ伏して寝たフリするかだった。
なので高校デビューを期待したが、空回りしただけで変な奴と思われてオシマイだ。
クラス内でのボッチぶりは相変わらずで、空気と同化しているかのようである。
「まあ、想定内さ……」
ハジメはそう呟く。人付き合いが苦手なのでボッチは苦にならない方だ。
クラスで何人か口を聞く程度の奴はいるが、休日に連れ立って遊び回る程の付き合いは無い。
無害な知り合いといった感じだ。
「今日はダンジョンシーカーでも読み直そうかね……」
どこの部活にも所属していないハジメはネット小説を読むことを趣味としている。
何しろタダなので万年小遣い不足の高校生には有り難い。
もう少しで夏休みといった日曜日。
昼食を食べたハジメは居間のソファの上で寝そべりながらスマートフォンをいじっていた。
すると、足元から突き上げるような感じで、ドンッと来たかと思うとユサユサと横揺れが来たのだ。
不意打ちのような地震だ。
「デカイぞ!」
父親が母親を連れて外に出ていく。ハジメも妹を庇うようにして外に出た。
家は祖父の代に建てた物なので耐震性能が不安だったからだ。
外に出ると山々から鳥たちが飛翔していくのが見えるのと同時に土煙が見えた。
きっと、地盤の弱い斜面が崩れたのであろう。
「怪我は無いか?」
父親が心配そうに家族に聞いてきた。
「私は平気よ」
「だ、大丈夫……」
「俺は何ともない」
家族は全員無事であった。
「山で崖崩れがあったみたいだな……」
「あれは南側の急斜面じゃない?」
母親が登っている土煙を指さしながら言った。
「ああ、後で見に行ってくるよ……」
「気を付けてくださいね」
両親はそんな会話をしていた。
山というのは石垣家が先祖から受け継いでいる山だ。
コレと言って何かが採れる訳では無いので資産価値は皆無。正直持て余し気味なのだ。
しかし、山の管理は所有者の責任だから、何か異変があったら即急に対応しないと拙い。
山と言う資産の厄介なところは所有者に無限責任が発生するという点だ。
崖崩れが発生しても、基本的に補修などは持ち主が負担しないといけない。
道路などに土が被さったりしたら持ち主が自腹で原状回復させないといけないのだ。
国や行政は余り補助金を出してくれない。
資産なのだから売れば良いと素人は考えるが、価値が無い山は絶対に売れないし買ってはイケナイ。
遺産相続の時に物納は受け付けて貰えないし相続放棄も出来ない。
まさに負動産だ。残された子孫はずっと苦しめられてしまう厄介な存在である。
「ハジメは北から山頂辺りまでを見に行ってくれないか?」
「ああ、分かったよ」
「母さんと双葉は家の事を頼む」
「分かった」
「うん」
父親に言われてハジメは了承した。母親と妹は家の中を片付けるのだそうだ。
棚という棚から荷物が床にバラ撒かれてしまったのだ。
ハジメが見に行く北側の斜面には杉ぐらいしか植えられていない。
最初は電柱用に真っ直ぐに伸びる杉は有用と言われていたが、コンクリート製に取って代わられてしまった。
次は住宅建築用と持て囃されていたが、格安の外国産にコストで負けてしまった。
何のために植えたのかが分からなくなってしまった植林であった。
崖も無いし被害は無いと思うが念の為に調べておく必要があった。
「じゃあ、ちょっと行ってみますか……」
父親に言いつけられたハジメは北側の斜面を登って行き、頂上からは反対側の斜面を降りていった。
山と言っても標高が五百メートル程度の丘みたいなものだ。
男子高校生の足なら一時間程度で降りることが出来る。
「まあ、何時も鍛錬で走っている場所だしな」
ハジメは祖父の影響もあり忍者修行のマネごとをしている。
祖父は自称『南朝を警護する乱破の末裔』なのだそうだ。
「面白かったから良いけど……」
祖父は後を継いで欲しがったが、忍者の真似事は趣味程度にしておこうとハジメは考えていた。
頂上までひとっ走りしたハジメは、数本の倒木以外に被害は無いのを確認したので帰ることにした。
裏山からの帰り道。
獣道とかしている山道の脇で木が一本倒れていた。コレ自体は珍しいものでは無い。
だが、湿った土と根が付いたまま倒れている所を見ると先程の地震で倒れたものらしい。
「……」
地震が無くても台風などで似たような倒木は良く見かけるので心配はしていなかった。
念の為に山道から降りて倒木を見てみる。根元はハジメの背丈より小さいくらいだ。
放っておいても害は無さそうに思える。
だが、倒れた木が有ったであろう場所に妙なものを見つけた。
「ん?」
山の斜面に黒い空間がポッカリと空いているのだ。
穴の幅は小型トラックが1台入る位の大きさ。
洞窟だ。
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