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悪魔を狩る死神  作者: 神崎ミキ
第一章
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♯04 何も出来ないからこそ迷惑だけはかけたくない

「通り魔って知ってる?」

 寝不足な身体を動かし、登校して教室に入った翌日の朝。 そこで昨日女の子から聞いた通り魔について何かしらないかと折原に尋ねてみた。

「ん、何を言ってるの、佐伯? 学校どころか街中で噂になってるじゃないか」

「え、そうなのか?」

 よく耳を澄ましてみると、そこらから刺されたとか、夜道には気をつけなくちゃとか言ってるのが聞こえる。

「新聞にも載っていたよ、昨晩二人組みの男が刃物で刺されて重症だって話」

「……そうなのか」

 普段から新聞は読まないからな。

 せいぜい見てテレビ欄。

 ……今日は余裕が無かったせいでそのテレビ欄もニュースも見てないけど。

「新聞位は読んだ方が言いよ。情報が多くて損するって事は滅多にないから」

「……ああ、分かってる」

 折原は普段から必要最低限の知識は持っておけと僕に言っている。

 別段、知識の欠落でそれ程困った事は無い程度に知識はあるつもりなんだけど……折原の言う最低限と僕の考える最低限とでは大きな隔たりがあるからな。

 折原基準の最低限の知識を有している者達がこのクラス、いや学校にどの位いるのかいっぺん調べてみたいものだ。

 折原は無駄に知識が多く、予知能力もその膨大な知識による推測なんだろう。

 全く……どこまで頭良いんだろうな。

「ほんとに分かってる? いざって時に困っても知らないよ。『あ~、あの時新聞を読んでさえいたら僕の人生は……』って」

「何があったんだよ、その僕に……」

「ま、今は一週間後に控えてる中間テストに備えないとね。ちゃんと勉強してる?」

「……一応」

「昨日宿題やってなかったみたいだけど?」

「……僕は悪くない。悪いのはプリンのCMだ」

 そして僕の最悪なまでの運の無さだ。

 元々テスト勉強なんてしなかったけど、こんな状況で呑気に勉強出来る程……僕は図太くない。

 悪魔が現れて、転校生は死神で、人が襲われて。

 おかげで、昨日も今日もろくに寝ていない。

「脈絡が読めないんだけど……」

「折原、お前もCM買いだけは気をつけた方が良いぞ」

「ははは、分かったよ」

 折原は明らかに作った笑いを浮かべる。

 おそらく、何を言っても無駄だということが分かったのだろう。

 でもな、折原……どんな些細な出来事が運命を左右するか分かったものじゃないんだぞ。

 知識は力だとお前は言うが、僕はこんな事は知りたくなかった。

 悪魔の存在なんて忘れたかった。

 一昨日の夜の僕の、ほんの気紛れの行動のせいで、知らなくても良い事をしってしまった僕はどうすれば良いと思う?

 お前ならどうする?

「……何かあったらボクに相談しなよ。力になるからさ」

 暗く難しい顔をしてしまっていたのか、気を遣わしてしまったらしい。

 感の良い奴だからな。

「……ああ」

 その気遣いに僕は出来るだけ明るく応える。

 もういっそ、全てを話せば楽になるのかもしれない。

 それに折原なら、真面目に聞いてくれ、その上助けてくれるかもしれない。

 でも――出来ない。

 だからこそ簡単には話せない。

 自分のせいで人を厄介事に巻き込むくらいなら、馬鹿にされる方が遙かにマシだ。

「お、何話してんだ?」

「ああ、火野か。なんでもない。火野はは好きなだけゲームの攻略法でも考えていてくれ」

 いつもより少し早めに登校してきた火野を軽くあしらう。

 今僕は折原と話をしている最中なのだ、火野に構ってる暇はないのだ。

「おお! ……ってちょい待て」

「なに?」

 火野は自分の席に向かいだしたかと思えば、くるりとこちらに振り返る。

 何か用だろうか?

「いや、そんなあからさまに嫌そうな顔をされても……っじゃなくて! 何故俺を無視するんだ!」

「別に無視なんてしてないよ、ただ時間の無駄だと思ったから軽く流しただけだよ」

「それは無視って言わないのか?」


「言わないと思うけど?」

「すまない、本気で疑問顔で返されるとこっちが困る。だが望、何故時間の無駄かなんて分かる!」

 確かに決め付けで考えるのはよくない事だ。だけどこの場合は違うと思う。

 今は火野のテンションの高さに付き合える気分じゃないんだ。

 普段はそれなりに楽しいんだけどなぁ……。

「じゃあさ、通り魔って知ってる?」

「……魔物の一種か?」

「さよなら」

「ちょっと待っ――」

 ほら、やはり時間の無駄だった。

 火野は新聞はおろかニュースさえ見ない。

 いつも勉強そっちのけでゲーム攻略に励んでいる。

 その上馬鹿で単純。

 今この場に、火野の出る幕は無いのだ。

 ……しかし、通り魔事件の事は知らないかもと思ったけど、まさか『通り魔』という単語の意味すら知らなかったとは。

 呆れを通り越して逆に感心する。

 あ、でも今回の場合は通り魔が魔物ってあながち間違ってないのか。

 悪魔もゲームとかでは魔物扱いだから。

「はは……」

 本当に笑いたくなるな。

 ゲームと現実が惜しいって。

 いつから現実はファンタジーに成ったんだ。

 僕の今まで持っていた常識が嘘みたいに否定されていく。

 そんな中でキーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る。

 このありきたりなチャイムの音も、いつか普通ではなくなってしまうんだろうか?

 チャイムが鳴って、それと同時に曾根田が現れ朝のホームルーム……そんな日常もいつかは崩れ去るのだろうか?

 僕は教室の端にある自分の席に腰をかけ窓を見る。

 外を見るのではなく窓を。その目は焦点を合わす事なくぼんやりと眺める。

 そしてそのまま首も動かさず、時間ぎりぎりに教室に入って来た天宮寺さんに話しかける。

 話がある……と、そう一言。

 すると『昼休みに屋上で』と返されたので、僕は黙って前の黒板を眺めた。

 本音を言うと天宮寺さんなんかに関わりたくはない。

 けれど今現状を知る為には彼女を頼るしかない。



 ◇



「ん? 望はメシ食わないのか?」

「ちょっと用事があるから。後で食べる」

「ははーん、なるほどな。頑張れよ」

「……ああ」

 何を頑張るのかはさっぱり見当がつかないけど、適当に返事を返しておいた。

 授業中に、眠気に襲われたせいでテンションが更に下がって、今は火野には付いていく余裕が無いんだ。

 それに、気づいたら天宮寺さんはすでに屋上に向かったのか、教室にはいなかったので急ぐ必要もある。

 授業が終わってまだ一分も経ってないのというのに……これでは僕がもたもたしてたかの様だ。

 廊下へ出て、屋上へと向かう為の道を走るとまではいかないギリギリの早歩きで進む。

 どうせなら走りたいのだけど……脇を見ると、そこにあるのは職員室。

 職員室前を走って教師に捕まったら本末転倒。

 余計な時間を喰う。

「あ……」

 急ごうと職員室前を通過しようとして、僕は一旦足を止める。

 そしてもう一度職員室の方へと目を向けると――職員室の扉の前をうろうろと右往左往する女子の姿が視界に映った。

 プリントを抱えて、扉の前を行ったり来たり。

「なにしてるの?」

「……キャッ!」

 女子はビクッと肩を震わしながら声を上げる。

 気になったので声をかけてしまったのだが、そこまで驚かれると何か悪いことをした気がしてくる。

「……あれ、もしかして昨日会った人ですか?」

「ああ、やっぱり」

 昨日の夜道で遭った女の子。

 昨日も思ったけど、常にオドオドしている。そして弱々しい。

「偶然だね。えっと、名前は――」

 と言おうとして気づいく、僕は彼女の名前を知らない。

 昨日の今日だし、僕は偶然出会った女の子に名前を聞くようなタイプじゃないので当然と言えば当然だ。

「……雨宮由紀あまみや ゆきです」

「僕は佐伯望、よろしく」

「……はい」

「昨日は帰り大丈夫だった?」

 声をかけた理由はそれが気になったから。

「……はい」

「良かった。安心した」

 まあ、大丈夫じゃなかったら学校に来てないとは思うけど。

「……はい」

「…………もしかして迷惑?」

 雨宮さんは、さっきから単調な返事を小さな声でしてくるだけ。

 鬱陶しがられているんだろうかと、そろそろ落ち込んできた。

「……違います。……ただ口下手で、話しかけてくれるのは……むしろうれしいです」

 雨宮さんは首をブンブン振りながら応える……と言っても割とコンパクトな振りだけど。

「で、雨宮さんは何をしてたの?」

「……プリントを提出しに来たんですが、なかなか呼べなくて……」

「ああ、なるほど」

 二年にもなると、一々そんな事を気にする事は無くなったけど、僕も最初の頃は勝手が良く分からず、先生が出てくるのを待ってた気がする。

「呼んであげようか?」

「……えっ、いいんですか?」

「このぐらい構わないって」

 そうして、僕は職員室の扉を開ける。



「……ありがとうございました」

「別にいいって」

 無事プリントを提出出来た雨宮さんがぺこりとお礼。やっぱりコンパクト。

「……あのままじゃ、お昼食べれないところ……でした」

 結局雨宮さんの目当ての先生はおらず、プリントは代わりの先生に預けておいた。

 なんでも出張中らしく、昼過ぎまで帰って来ないらしい。

 あのまま待っていてもその先生に会える事なく、昼休みを終える所だったかも知れない。

「それだったら、早くしないと昼ごはん食べる時間なくなるよ」

 まあ、昼休みはまだ三十分以上あるんだけど。

 速い人はもう食べ終えてたりするが。

「……はい、ありが――」

 雨宮さんが再び頭を下げようとした時、、途中でバランスを崩したようにふらつき、そのまま前のめりに倒れる。

「大丈夫!?」

「……はい。ちょっと最近……貧血気味なんです……」

 雨宮さんは頭を抱えて辛そうに言う。

 顔色も悪い。

 改めて思い返してみると、さっきから調子も悪そうだった気がする。

「保健室行ったほうがいいんじゃ……」

「……大丈夫です。気を使ってもらってありがとうございます」

 雨宮さんは、そう言って立ち上がろうとし――再びふらつく。

 どう見ても大丈夫じゃない。

「やっぱり一応保健室に行った方が良い。場合によったら、親に迎えに来てもらってでも帰った方が――」

「だ……大丈夫……です……」

 雨宮さんは、精一杯の笑顔を作り、首を横に振る。

 小さく、弱々しく――儚く。

 そうして、ふらふらと頼りない足を懸命に動かし、歩いて行く。

 そんな雨宮さんの背中を僕はただ見送る。

 無理やりにでも保健室に連れて行くべきだったんだろうか?

 そう思わずにはいられない。

 でもあの笑顔を前に……僕は何も言えなかった。

 やがて雨宮さんが角を曲がり姿を消す。

「……僕も教室に戻るか」

 僕は教室に足を運ばせ、自分の席へとつく。

 そして鞄から、弁当箱と水筒を取り出す。

 早く食べないと昼休みが終わ――

「あれ、望一人なのか?」

 弁当箱の蓋を開け、いざ食べようとした所で、火野が話かけてくる。

 何を言ってるんだと言い返そうとした瞬間――思い出した。

 瞬時に弁当箱から手を離し、勢い良く立ち上がり教室を飛び出す。

 今度は職員室前だろうと気にせず突っ走る。

 階段をドタドタと登り屋上へ――

「……何してたの?」

 そこには、きつい眼光を僕に向ける天宮寺さん。

「……すいません。忘れてました」

 天宮寺さんの顔が視界に入らないように、頭を思いっきり下げる。

 雨宮さんと話していたとかは言い訳にはならないだろうから潔く。

 すっかり忘れてしまっていたのは事実なのだから。



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