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悪魔を狩る死神  作者: 神崎ミキ
第三章
19/21

♯18 最初から僕は異常だった

 どうしてこんな事に?

 その問いに答えられる人はおそらくいないだろう。

 まあ、今となってはそんな問いにも意味はなく、僕としてもどうでもよく思えた。

 考える事事態無駄で、無意味で、ただ疲れるだけ。

 余計な事を考えて、苦悩して……だから何だと言いたい。

 僕は改めて腕に巻かれた包帯を見る。

 たった五周程まかれたちっぽけなコレが僕の寿命だと言うのだから笑えてくる。

 笑わずにはいられない。

 推測するに持って後一日二日。

 けれど正確な時間までは分からない。

 いつどんな死に方をするのかも分からない。

 ならばもういっそ――

 僕は道を歩き、交差点を飛び出す。

 すると車が勢い良く向かって来るのか見えた。

「はは……」

 車は僕に気づいていないのか速度を落とそうとしない。

 これに弾かれたら死ねるかな……そう思ったのか僕は避けようとせず、あまつさえ自らぶつかりに行こうとさえしていた。

 死に怯えて生き、異常に蝕まれ異常に死ぬのが恐かった。

 だから、こういう全うな方法でさっさと死でしまった方が楽だと……僕は逃げた。

 けれど――逃げきれなかった。

 車は止まってしまった。

 僕は弾かれなかった。

「おいおい……」

 車は僕にぶつかる寸前にブレーキをかけた。

 その距離は一メートルもなく、勿論勢いは止まらす僕にぶつかった。

 ……そう、ぶつかりはした。けど弾かれなかった。

 なんの衝撃も痛みも感じず、僕は車を止めたのだ。

 車の方は、僕にぶつかった後に余った勢い分タイヤを回して停止。

 その間も僕は何も感じなかった。

 ただ、腕を見ると包帯が半周程燃え尽きていた。

 それを見て僕悟った。

 自分の異常性を、特異能力とやらを。

 思い返してみれば、僕がおかしかったのは最初からだったのかもしれない。

 産まれた時から異常だった。

 風邪等の病気には一切かからず怪我すらも無かった。

 僕はこれをただ身体が丈夫なだけだと思っていた。

 小学生の時、総合遊具の一番上から落ちて身体を思いっきりぶつけたにも関わらず打撲一つ無く、乗ったバスが交通事故にあった時も、僕だけがかすり傷も負っていなかった。

 殴られた時はさすがに痛かった……気がしていたが、よくよく考えてみると痛くなかった気もする。

 殴られたら痛いと言う先入観から、痛がっていただけなのかもしれない。

 沸騰したお湯を被った時も熱くて焼けそうな気がしたけど、医者に見てもらうと火傷は無いと言われた。

 詰まる所、僕の痛さは全てイメージであり勘違い。

 僕はダメージを知らない。

 今だから思うが、最初に悪魔に襲われたときに例え天宮寺さんが助けてくれなかったとしても僕は死ななかったのではないのだろうか。

 何故なら、悪魔に少しでも触れれば死ぬはずなのに、僕は二回目に遭遇した時に確かに触れた。

 けれど何とも無かった。

 僕には魔力すらも効かない。

 いや……魔力をも呑み込む。

 ブエルの時もマルティーニさんの時も、暴走は消えたんじゃなく僕が請け負ったんだ。

 ダメージ全てを気に代え、体内に溜め込む……それが僕の特異能力。

 さっきまで起きていた頭痛や目眩は、身体が限界だと言う警告音。

 本来なら気が許容量を超えると、身体が気で侵食され崩壊……つまり死に至る。

 それなのに、今もこうして平然と立っていられるのは特異能力で崩壊する際のダメージすらも吸収していたから。

 頭痛や目眩は、許容量を超えていたために漏れ出たダメージの一端。

 それを階段から落ちた時に、そのダメージごと吸収して今の状態へと成った。

 ダメージを負えば負うほど、気は溜まり死が近くなる。

「じゃあ、どうしろって……」

 車に弾かれてたった半周。

 おそらくビルの屋上から飛び降りても無傷。

 一思いにこの世を去る事は出来ず、寿命をじわじわと減らすだけ。

 そんな拷問の様な目は御免。

 打つ手無し。

 ……いや、まだ手はある。

 いくらダメージを吸収出来るとしても、所詮僕も人間。

 心臓を刃物で刺されたりすれば生命維持は出来ないはず。

 もしそれでも生きていたなら、それはもう人間じゃない。怪物だ。

 そう、死にたいなら心臓を突き刺せば良い。

 ……しかし、どうやって?

 僕は楽に死にたいんだ、自ら心臓に突き刺すなんて狂気の沙汰は出来ない。

 さっきの車の様に咄嗟の出来事ならまだしも、計画的に自殺する度胸は僕には無い。

「あ……そうか」

 どうしようか頭を悩ませている所に一人の男の姿が浮かんだ。

 ナイフ一つで百人近くの人を殺してきた殺人鬼。

 あの男なら僕を殺してくれる。

 さっきは、ただ気紛れで見逃されただけで、次遭えば確実に殺されるはず。

 僕は、足を進め殺人鬼を捜す。

「はは……」

 殺人鬼を殺される為だけに捜す……十分狂気の沙汰だが、今は気付かない振り。

 どうせ死ねば一緒なんだ。

 余計な事は知らなくて良い。

「……また地震」

 さっきから地面がよく揺れる。

 しかも今回は地面が砕けた様な音が聞こえた気がした。

 何かとてつもなく重いモノが堕ちた様な音。

 僕はその音がしたであろう場所に向かう事にした。

 もしかしたら、また異常が起きているかもしれないと。

 もしそうならば死ねるかもしれないと。

 そんな風に街を歩く。

 気が付けば街には昼間だと言うのに誰もいない。

 殺人鬼の噂が広まり家の中に隠れているのだろうか。

 ……まあ、もしそうならばそれが賢明だ。

 わざわざ命を危険に晒す必要はない。

 生きれる命を無駄にするなんて有り得ない。

 死にたいはすががない。

「……どうしてこうなったんだろ?」

 腕に巻かれた包帯を見る。

 半周が焼け焦げ、残る寿命は十分の一。

 いくら開き直っても、やけになっても、やはり納得出来ない。

 どうして僕なんだと。

 何故僕が死ななくてはいけないんだと。

 死ぬなんて嘘だと誰か否定して欲しい。

 これは夢なんだと誤魔化して欲しい。

 僕は立ち止まり、誰もいない街を見る。

 ついこの間まで、当たり前だった景色がなんだか遠いものに思える。

 僕はもう普通には戻れない。

 それは万が一死ななかったとしても変わらない。

 僕の様な異常な人間は、異常な世界で死ぬべきなのだ。

「はは……神様とやらは何がしたいんだか」

 僕は目の前に再び現れた殺人鬼を目にしてそう思う。

 観客だと思って端から舞台を眺めていたら、いつの間にか舞台に上げられ、そして退場させられようとしている。

 それは演出か何か?

 それともただの気紛れか?

 殺人鬼は相変わらず、焦点の合わない目でふらふらとした足取り。

 そんな殺人鬼を前に僕は――逃げ出した。

 どんな言い訳をしようと死にたくはない。

 まだ生きていたい。

 例え、後一日ちょいの命だとしても――

「ひゃっはっは~、安心しな坊主。あいつはお前を殺さねえよ」

 抗えぬ現実から逃げ出そうとする様に必死で走っていた僕の前に、不快な声をしたナニかが現れ道を塞ぐ。

 そのナニかは一見人間にも見えるが、右手が蛇の顔に成っており、半身が鱗で覆われている。

 そして何よりも、コイツは異常だと身体が告げている。

「……悪魔?」

 それしかない。

 人型の悪魔。

 いや、蛇の悪魔。

「んまぁ、人間はそう呼ぶな。いっひっひ」

 悪魔は不快に笑う。

 聞いているだけで虫酸が走ってくる。

「……お前が僕を殺すのか?」

「ひゃっはっは、それも良いかもな。見た所お前はかなりエネルギーを秘めてるみたいだしなぁ」

 ブエルを見た時は悪魔は本当に悪なのかと疑問を持った。

 けれどこの蛇の悪魔は疑うまでもなく悪だ。

 そう直感が告げている。

「でもそれは後回しだ。いっひっひ、見てろよ、おもろいもんが見えるからよ~」

 悪魔がそう言うと――街が透けた。

 塀や家が透明になり見えなくなる。

 試しに触ってみた所消えたのではなく、単に見えないだけ。

 そんな訳で辺りが何も無い広野の様になり――見覚えのある姿が見えた。

 ファンタジーの世界に出てきそう黒い竜を相手に、鎌を向ける死神と双剣を構える祓魔師……天宮寺さんとマルティーニさんだ。



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