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悪魔を狩る死神  作者: 神崎ミキ
第三章
18/21

♯17 死を受け入れる事は容易ではない

「あ……電話しなくちゃ」

 警察に殺人鬼の事を通報する為、携帯をズボンのポケットから取り出そうとするが――

「無駄だと思うよー」

 どこからか声がした。

「……誰?」

 声の主を捜そうと視線を泳がせるが、見当たらない。

 どこからだろうと疑問に思いながら、ふと上を見上げる。

「うーん、誰でも良いんじゃない?」

 すると、そう呑気に良いながら男が落ちてきた。

 視線を伸ばすと先には塀があり、男はそこから飛び降りて来たようだ。

 ジーパンにTシャツとラフな格好をした男は、欠伸をしながらこちらを見る。

「警察じゃあ、アレは捕まえられないと思うよ」

 やる気を感じさせない口調。

 なんだかだるそう。

 だが言っている事は最もらしい。

 これだけの大事件を起こしながらも、未だ捕まらず、被害を拡大させている。

 けど――

「……それでも通報する事で情報が広がる。そうすれば街の人も気をつける事が出来る」

 そう、通報する事自体は無駄ではないはずだ。

 過ぎた知識は身を滅ぼすけど、無知も同じくだ。

「あー、なるほど。そう言う考えもあるのか」

 男が軽い感じに手をポンと手をうつ。

「……もう良いですか?」

 僕は男を無視して携帯を持つ。

 あと、ついでに立ちあがる。

 いつまで道の真ん中に座り込んでるつもりなんだって話だ。

「ねえねえ」

「…………何?」

 110と打ち込もうとした所で男が声をかけてきた。

 無視をしようかとも思ったが、それも面倒そうなので止めた。

「いやさ、このままじゃ――死ぬよ?」

 相変わらず、だるそうで軽そうな口調。

「…………はい?」

 そんな口調でいきなり死ぬと言われて、素で訳が分からず声をあげた。

「この街ってホント変わってる。さっき会った二人も変わってたしね。あ、そうだ」

 男が鞄からナニかを取り出す。

 一見包帯の様にも見える。

 そして男はそれを、僕の服を捲り腕に直にぐるぐると巻き始めた。

 一周二周……と計五周。

 テープ状になっていたのか、腕にぴたりと張り付いて剥がれない。

「……何これ?」

 男が何をしたいのかがさっぱりだ。

「あぁ、これはキミの寿命」

 そして言ってる事もさっぱりだ。

「うーん、気って知ってる? どんな生き物でも持ってる生きる為のエネルギーの様なもの」

 それなら天宮寺さんやマルティーニさんから聞いた事がある。

 そう……あの二人から。

 僕はここに来て男の言葉に重みを感じた。

 嫌な予感がアラームを鳴らし、額から汗が流れ出す。

「普通は気って減るんだよ。生きてる限り……ね」

 男は僕を……先程巻いた包帯を見る。

 すると、包帯の先端がほんの少しだけ焦げていた。

 勿論さっきまでそんなものは無かった。

「気には許容量がある。本来なら気が許容量を越すなんて滅多にないんだけどねぇ、ホントおかしな事もあるもんだ」

 男は対して驚いた風もなく、おどけた感じで話を続ける。

「……何が言いたい?」

 そう言って後悔した。

 さっき真実は知るものじゃないと自分に言い聞かせたはずだと言うのに。

 知らなければ、知らぬまま終われたかもしれないと言うのに。

「キミは正直おかしいんだ。普通減るはずの気が逆に増えてる。そして、とっくに許容量を超えてる」

 気が許容量を超える……それは即ち、あの夜のマルティーニさんの様に成ると言う事。

 溢れる気が身体を崩壊させる。

「キミが今内包している気は尋常じゃない。このままじゃ死ななかったとしてもまともには生きられないだろうね。異界の怪物共の良い餌だし」

 ……異界の怪物?

 それは悪魔の事か?

 気が増え、許容量を超し、その膨大な気が悪魔を引き寄せる。

「はは……そんな馬鹿な」

 それじゃあ、僕は運が悪かったんじゃなくて、出会うべくして悪魔に出会ったみたいじゃないか。

「うん、そんな馬鹿げた事がキミの身体で起きてるんだ」

 こんな事でも軽く男は言う。

「普通なら軽く許容量を超しただけで立ってもいられなくなると言うのにキミは平然としてる。でも、キミの身体は確実に限界を迎えようとしている」

 その証拠がそれだと、腕に巻かれた包帯を指差す。、

 これは許容量を超えた気に呼応し、その分燃えるという代物らしい。

 つまりこれが燃えたと言う事は、男が言う通り僕の身体は限界を迎えているという事になる。

「長さは適当だけど、ペースは正確。まさかその程度の長さで燃え出すとは思わなかったけど」

 この包帯の残りが、そのまま僕の限界へのタイムリミット。

 今までで一ミリ程燃え尽きた。

 ……僅か数分で。

 なんと言うハイペース。

 男が言うには普通ならもう死んでる……だそうだ。

 少なくとも、こんな風に立ってはいないと。

 どうやら、頭痛や発熱はこれのせいだったみたいだ。

 許容量を超えた気が、身体を滅ぼす前兆。

 そして、それが消えた事はやはり異常。

「……なんとかならないんですか?」

 僅かな希望をかけて男に尋ねる。

 真実など知っても何にもならない事を知っていても尚。

「……無理だね」

 男は今までのだるそうで軽そうな口調ではなく、真面目に言う。

 きっぱりとはっきりと。

「もっと早ければ気を放出させると言う手もあったかかもしれない。けれどもう……手遅れだ。ソレが燃えた時点でな」

 どう足掻いても無駄。

 ほら、真実なんて碌でもない。

「はは……そうか……」

 ある意味余命半年とか一ヶ月とか宣告されるよりはマシかもしれない。

 苦しみ悩む時が少なくてすむのだから。

「……頑張れよ」

 男はそう言い残して消えて言った。

 ……一体何を頑張れって言うのかが分からない。

 足掻く事も適わず、死をただ待つだけ……。

「はは……」

 僕は笑う。

 笑う以外にどうしようもない。

 こんな異常でふざけた結末。

 やがて笑う事も出来なくなり。

「……もうすぐ死ぬ? はは――ふざけんなっ!」

 行きどころのない想いが溜まりに溜まり、無意識の内に拳を作り塀へとぶつけていた。

 痛くも痒くもない。

 ただ、寿命が燃えて灰となるのが見えただけだ。

 死にたくなどない。

 死にたいはずがない。

 こんな異常で不可解な事で死ぬなど納得出来ない。

 けれど――現実は残酷で、寿命を告げる包帯は刻々と短くなって行く。



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