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悪魔を狩る死神  作者: 神崎ミキ
第二章
15/21

♯14 光に憧れ目指した少女

 キアラ・マルティーニは弱かった。

 泣き虫であり、運動も勉強も、何も誇れるモノが無かった。

 キアラはそんな自分が嫌いだった。

 そして……そんなキアラに幸か不幸か転機が訪れた。

 その転機とは――悪魔。

 ある時、悪魔が現れキアラに襲いかかった。

 佐伯望ならば迷わず不幸と呼ぶだろうその事件をキアラは幸と捉えた。

 死を目前としたキアラは恐怖で目を瞑り――再び目を開けたキアラが見たのは光。

 悪魔を斬り伏せ、消し去る正義の味方の姿だった。

 そしてその瞬間、キアラはその正義の味方に憧れた。

 その輝くまでの力に憧れた。

『うーん、記憶を消さないでくれって言われてもねぇ』

 悪魔を知ってしまった一般人は記憶を消去される。

 キアラもその例に漏れない。

 だがそれを拒否をした。

 拒絶した。

 あの姿を忘れたくないと。

 この奇跡を覚えていたいと。

『でも、決まりだからね。それに普通の子は悪魔なんて知らなくて良いんだ』

 悪魔なんて異常を知ってしまうと、今まで見ていた普通の景色ががらりと変わってしまう。

 佐伯望が嘆いている様に、普通には生きる事は叶わなくなる。

 引き返せなくなる。

『なら……普通なんていらない』

 だと言うのに。その時キアラは普通である事を自ら捨てた。

 異常な世界へ祓魔師として足を踏み入れた。

 自分を助けてくれたあの正義の味方の様に強くなるんだと希望を抱いて。

 そんな夢見る少女の前にはあるモノが立ちはだかった。

 それは――才能。

 人によればそんなモノは生きていく上で重要じゃない、大事なのは努力して身に付けたモノだ……なんて知ったような、それっぽいような事を言う者もいるが、現実は非常で、そんな甘い言葉は通じない。

 元々祓魔師の家系ではないキアラは、他の祓魔師に比べて気が圧倒的に少なかった。

 術式もろくに組めず、他の祓魔師には諦めと時に嘲笑いながら、時に真顔で言われてきた。

 しかし、キアラはそんな現実を叩きつけらても尚諦めなかった。

 文字通り血反吐を吐きながら、ボロボロに身を削りながら努力に努力を重ねた。

 それでも――駄目だった。

 努力の果てに身に付けた力も祓魔師としては平均以下。

 努力なんて殆どしていない者にも劣り、生まれ持った才能を持つ者だけが強くなる。

 キアラが今まで倒せた契約悪魔はゼロ。

 術式を編みこんだ装備ををいくら身に纏おうが、術式の込められた道具をどれだけ使おうが……適わなかった。

 仲間内からは役立たずの烙印を押され、悪魔の討伐依頼すら来なくなった。

 そんな時、キアラはある噂を耳にした。

『日本に強力な悪魔がいるんだって』

 日本の八塚という場所から偶に強大な魔力を感じるという噂。

 だが、日本側はそれを否定し、祓魔師も手を出せずにいる……それを聞いた時キアラはある考えに至った。

 その悪魔を倒して見返してやろうと。

 もう自分は弱くないのだと証明してやるのだと。



 ◆



「でも……それも事故に遭って延期。ようやく、この街に来れた」

 全身から……いや、全身に纏う装備から光を放ちマルティーニさんは死神に向かい合う。

「そして魔力を使うあなたにけしかけられた。話から少なくともあなたが目当ての契約者でないことは分かってた。でも……逃げたくはなかった。」

 マルティーニさんはやはり僕とは異なる世界に生きている。

 異常な現実から逃げるのではなく、自らぶつかって行く。

 ゲームや漫画なら、主人公にでも成れそうな感じだ。

「……この街の悪魔について知っている事を吐かせようしただけよ。無駄だったけど」

 天宮寺さんは後ろ見向きもせず、気にする素振りも見せず、公園を去ろうと出口へ向かう。

 その途中で――僕と目が合った。

 寒気がした。

「ふん……逃がすと思う?」

 明らかに、圧倒的に不利なはずのマルティーニさんが言う。

 右手に構える短剣を突きつけて。

 ……ホント無駄な事をする。

 どうせ立ち向かっても呆気なくやられるだけ。

 せっかく逃げるチャンスがあるのに、それを意地だとか信念だとかで自ら首を振る。

 ブエルを前にした天宮寺さんと言い、この異常な世界は死にたがりが多いのだろうか?

「……まだやるの?」

 ため息混じりの死神。

「言ったでしょ? 逃げるくらいなら死んだ方がマシだって」

 この場合は見逃されるのであって逃げるには入らないんじゃ……とか言っても無意味なのだろう。

 彼女にとって、見逃されようと、戦いから退く事が逃げであり負け。

 そして彼女は負けを嫌う。

 そして不意に、そんな彼女の持つつ短剣が光に包まれ――一本の剣へと変わる。

「さっきまでのは封印状態って訳。有りっ丈の気を込める事で真の姿が解放される仕組みなの」

 そう説明するマルティーニさんの顔は険しく辛そうだ。

 それなのに……笑っている。

 余裕なんて有りはしないのに……何かに歓喜する様に笑う。

 彼女の持つ剣は、さながら聖なる光を宿す聖剣。

 ゲームとかなら、ラスト辺りに出てくる、強者のみに許された強力な武器。

 そんな武器の封印を解くだけで、マルティーニさんには精一杯。

 有りっ丈の気を込めたと言うが、気を失えば命を失う。

 雨宮さんが気の不足で意識を朦朧とさせていた様に、気とは生命力であり、生きる為の力。

 それを、こんな意地の為に使うマルティーニさんを僕は理解出来ない。

「な……あなた本当に死ぬ気?」

 それは死を司るはずの死神も同意らしい。

「その剣は自ら気を放ってる。このままじゃ、その剣が内包する気に、あなた身体がついていけない」

 気とは個人により許容量が決まっているらしい。

 その許容量を越すと、身体が崩壊するとか。

 それでも……マルティーニさんはお構いなしに光を全身から放つ。

 溢れて止まらない気の光を。

「これがワタシの本気……全力よ!」

 まさに決死。

 命懸け。

 何が彼女をここまで突き動かすのかは、僕には理解出来ないし、理解しようとも思わない。

 けど――その姿が僕には眩しく見えた。

 物理的にも……心理的にも。

 マルティーニさんは聖剣を持って死神に向かって駆ける。

 その姿は一筋の閃光の様。

 その閃光を黒の鎌は受け止めようとし――弾き飛ばされた。

「はぁ……はぁ……ワタシの……勝ち……」

 息を、意識を切らしながらも剣を天宮寺さんの首元に突きつけ笑う。

 天宮寺さんは強い。

 今まで幾度と悪魔を葬ってきた死神。

 そんな死神に一矢を報いた事をマルティーニさんは喜び笑う。

 けれど――

「う……からだ……が……」

 かろうじて意識を保つがその身体は限界だ。

 聖剣の力で気が許容量をオーバーし、発熱を起こして今にも弾けそうだ。

 身に余る力を使った代償。

 あまりにも無情な結末。

 そんな終わりを前にしても尚彼女は笑う。

 悪魔を倒す正義の味方の姿に憧れた少女。

 弱く才能が無かった少女が、それでもと努力した先がこれだ。

 そんな少女の放つ光は辺り一面を呑み込む様に覆い――

「…………え?」

 ――消えていった。

 そこには、さっきまでと同じいつも通りの夜があり、聖剣も元の短剣へと姿を戻していた。

 ただ唯一変わっていた点と言うならば――マルティーニさんが気を失い、それを抱える様に抱く僕がいた事位だ。




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