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悪魔を狩る死神  作者: 神崎ミキ
第二章
14/21

♯13 闇に生きる死神と立ち向かう光

「ふぅ……」

 携帯を取り出し、時刻を確認するともう七時過ぎ。

 ゲームに熱中しすぎて、気がついたら外はもう暗かった。

 ようやく一面のボスを倒したと所だったと言うのに、仕方なく中断して解散と成った。

 あのゲームは難易度が高くてクリアに時間がかかるらしいので、また集まって地道に進めるしかない。

 まあ、ファイアーが使える様になってまともに戦闘に参加できるまでにはなったので僕は取り敢えず満足。

「さてと……さっさと帰るか」

 僕は駆け足で夜道を行く。

 そう言えば夜に出歩くのは久しぶりかもしれない。

 二度も悪魔に出遭ってしまってせいか、自然と夜を避けるようになった。

 ……まあ、夜を警戒するのは僕だけじゃないけど。

 この街が、日本全体が今怯えているのだ。

 もっとも、怯える対象は悪魔ではなく、もっと現実的でイメージも容易い存在。

 二週間前、ブエルの件の時出没した通り魔。

 それが、今では通り魔でなく殺人鬼と呼ばれている。

 今巷を騒がせている殺人鬼。

 全国北から南のどこにでも出没し、ナイフで殺す連続殺人犯。

 ……あの時は、勝手に悪魔の仕業だって決めつけてたっけ?

 その殺人鬼のせいで、夜道に人は少ない。

 今日に至っては火野の家を出てから一度も人を見かけていない。

「――っ!」

 家向かう途中、急ぐ僕の身体が急に止まる。

 ……頭痛がしたのだ。そして目眩も。

 それは軽いものだったけど、あの時の事を嫌でも思い出してしまい……身体が震えた。

 頭痛や目眩もそうだが、僕は生まれつき丈夫で体調を崩す事が無かった。

 おかげで病院にお世話になった事は一度も無く、小学校でインフルエンザが流行して学校閉鎖した時も、僕だけは何事も無かった

 頭痛や目眩も、二週間前が初めて。

 そう……悪魔が現れて以降。

 だから、これが何か異常な出来事の前触れなんじゃないかと勘繰ってしまう。

 そして、前を見た僕の目に映る景色は、不安を一層に加速させる。

 そこあるのは……あの公園。

 僕が異常な世界を知る切欠となり、死神に出遭ってしまった熊公園

 昼間は何となし通り過ぎる事の出来るこの公園も、夜に見ると見過ごす事が出来ない。

 そして暗い夜の公園を見つめていると――光った。

 公園の奥から溢れる光で、目を細める。

 ……どうやら僕は神か何かにでも選ばれてしまったらしい。

 もちろん選ばれたと言っても勇者みたいな大層なものではなく、ただの観劇者。

 この異常な世界と言う舞台の上でどう物語が進むのかを、ただ観ているだけ。

 ……こんな事を本気で思ってしまうと、いよいよ僕も狂ってきたのかもしれない。

 異常な世界に毒され、ほんのちょっと前まであった日常が遠ざかる。

 でもそうでもなければ、この不幸さに納得出来る理由が思いつかない。

 いくらなんでも遭遇率が高すぎる。

 異常が身近に有り過ぎだ。

 目の先……公園の奥に見えるのは闇と光のぶつかり合い。

 綺麗な様な不協和音の様な音が金属音が聞こえる。

 そして見える二つの影。

 一人は黒の鎌を構える死神。

 一人は、光の短剣を両手に構える祓魔師。

 ……天宮寺さんとマルティーニさんだ。

 考えるまでもない。

 こんな異常な人物達を僕は他に知らない。

 死神である天宮寺さんが夜の闇に溶け込みそうなのに対し、マルティー二さんは光を放ち存在感を露わにして向かい合っている。

 身に纏う白を基調としたにも服も手に持つ短剣にも、何かの模様名の様なモノが輝き浮かんでいる。

 ……僕はその光景を吸い寄せられるように、耳まで澄ましながら観ていた。

「……この様子だとあなたは役立たずのようね」

 必死に短剣を何度も振るうマルティーニさんの攻撃を、天宮寺さんは優々と鎌で全て受け止めていた。

 それはまるで、以前の天宮寺さんとブエルの対峙の様。

「なにを……!」

 短剣の軌道が一層激しく描かれ、その度に鎌に弾かれる。

 光の筋はただ闇に呑み込まれて消える。

 表情は見えないけど、黒いローブに隠された顔は面倒そうで余裕そうだ。

 悪魔に向けていた殺気や敵意、冷気も今は感じない。

「どうしてあなたがこの街に来れたのか分かったわ。……下っ端なんでしょ? 期待はずれも正直いいところよ」

 この街にマルティーニさんが来た理由は、この街の悪魔を狩る為。

 だがこの件は、日本の退魔師が否定し拒んでいるせいで外国の祓魔師は介入できない。

 だと言うのにマルティーニさんはこの街に来た。

 ……来れた。

「……あなたとこうしてやり合ってても時間の無駄ね」

 そう言うと天宮寺さんは、今まで防御のみに使っていた鎌を振るい短剣を……マルティーニさんを吹き飛ばす。

 そしてマルティーニさんは地に倒れそうになり――何とか踏み止まる様に堪えた。

 その青い目は死神を睨み、その短剣を握る手には更に力が込められる。

「ワタシを――なめるなぁぁぁぁぁぁっ!」

 叫びと共に振るわれた短剣から光が刃と成って放たれる。

 その光は天宮寺さんを襲い――消えた。

 光を喰らって尚死神は平然と立つ。

 まるで、その黒のローブで光を全て呑み込んだかの様に、何事も無かったかの様に。

「あなたの私には攻撃は効かないわ。いえ……悪魔にも効かないでしょうね」

「なっ……!」

 天宮寺さんは鎌を地に向け、とうとう構えを解いた。

 戦う意志は無いと主張する様に。

 そんな態度に、マルティーニさんは火に油を注がれた様に攻撃を激化させる。

 双剣を翼の様に構え、死神へと飛びかかる――しかし無傷。

 死神の鎌が短剣を受け止める。

 仕切り直す様に上空へと跳び、円を描く様に短剣を振り落とす――が、結果は同じ。

 それからも同じ事を繰り返す。

 マルティーニさんが攻め、天宮寺さんが平然と受け止める。

「……何度やっても無駄だって。諦めたら?」

 必死なマルティーニさんに冷たい言葉。

 そして――

「がっ……!」

 天宮寺さんがマルティーニさんを蹴り飛ばす。

 鳩尾を思いっきり。

 その衝撃でマルティーニさんは左の短剣を落とし、そのまま砂埃を起こしながら今度こそ地に倒れる。

 そんな彼女は立ち上がる為に見上げてしまうのだ。

 闇に佇む死神を。

 ……こうして改めて観ると、この世界の異常さが良く分かる。

 あんな風に、さっきしていたゲームの様に戦うマルティーニさんは天宮寺さんに全く歯が立たない。

 圧倒的強さ。

 鬱陶しげにしているのが良く分かる。

 でも、そんな天宮寺さんも、二週間前に現れた獅子の悪魔ブエルには手も足もてずやられた。

 確か今この街にはそのブエル級の悪魔が潜んでるんだろ?

 ……ホント出鱈目だ。

 死神は倒れるマルティーニさんに背を向け、その場から消えようとする。

「諦めろ……そう今までも言われ続けてた」

 そんな死神をわざわざ引き止める様な声。

 ……彼女には悪いけど馬鹿なのかと言いたくなった。

 せっかく見逃してくれると言っているのに、それを自ら拒否した。

 僕なら素直に倒れたまま死神がするのを待っていただろう。

「でもね、ワタシはその度にこう返してきた」

 そして、あろう事か立ち上がる。

 右手に持った短剣を前に出して構える。

「逃げるくらいなら――死んだ方が遥かにマシ」

 その言葉と同時に、光が放たれる。

 眩しく、激しく……今が夜だと忘れさせる程に。




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