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悪魔を狩る死神  作者: 神崎ミキ
第二章
12/21

♯11 自分の観ている世界が真実だと言う保証は無い

 天宮寺さんは屋上を去り、僕とマルティーニさんだけが残された。

 ……助けてくれたのは良いけど、どうせなら安全も保障して欲しかった。

 二人きりになったら、また刃を向けられるのではと危険で不安。

「あなた……彼女とどういう関係?」

 尋ねると言うより問い質す様な感じ。

 とっととこの場を退散したいのも山々なのだけど、勘違いさせたままなのは後々面倒事になる。

「……ちょっと前に悪魔に襲われた所を助けてもらったんだ。仲はあまりよくない」

 まあ、天宮寺さんと仲が良い人自体存在するか怪しいけど。

 少なくとも学校内にはいない。

「……もしかして本当に契約者じゃないの?」

「……さっきからそう言ってるけど」

 溜め息混じりにそう返す。

 だが内心では、ようやく話が通じ始めてくれたかとちょっぴり安堵。

「いや、だってかなり怪しいよ、あなた。人払いは効かないし、ワタシが祓魔師だって当てたし」

「……人払いがどういうモノかは知らないけど、祓魔師云々は適当に言っただけ。あんな異常現象を起こせる人間って言ったら以前天宮寺さんが言ってた祓魔師って奴かなって」

 悪魔を祓う異常な存在……それが祓魔師。

 悪魔に死神に続いてついに祓魔師まで現れるなんて、この街はいつの間にかファンタジーな世界と化してしまったらしい。

「じゃあ、悪魔の事も彼女に聞いたの?」

「……うん」

「どうして?」

「……え、何が?」

 僕の理解力が乏しいのか展開についていけなかった。

 急に『どうして?』と言われても困る。

「……だから、彼女があなたに悪魔の事をどうして話たのかって事」

「え? そりゃあ……」

 答えようとして言葉に詰まる。

 脳をフル稼働させ、ようやく口から出た言葉は

『なんでだろ?』

 そんな答えではなく疑問のオウム返し。

 言われて見れば天宮寺さんが僕に悪魔の事を話す必要なんてない。

 最初の夜は、記憶が消えるだろうと見込んで口を滑らしただけだろうけど、次の日の放課後に詳細を教えられた時は今になって考えると少々違和感があった。

 天宮寺さんの正確からして余計で面倒な事をするとは思えない……なのに、なのにあの時天宮寺さんは自ら語りだした。

 この事に推測を立てるとしたら、誘導尋問めいたものしか思いつかない。

 僕が契約者かどうかを確かめる為に、敢えて情報を話、それを知っているかどうか反応から探る……みたいな。

 それなら有り得るかもしれない。

 現に今も容疑が晴れていない事は、さっきの態度でも明らかだし、僕は常に疑われているし。

 ……そう回想と思考でしばらく沈黙していると、マルティーニさんがコホンと咳をして青い目をじっと向けて来る。

「あなたと彼女の事を包み隠さず言いなさい。それであなたを信用するかワタシが決めるから」

 それは嘘や誤魔化しは要らないと言う真剣な目。

 開け放れている屋上の空気が張り詰めていくのを感じる。

 今逆らうのはただ愚行。

 そして、これから僕自身がマルティーニさんと友好的に接せられるのか、敵対的に接する事になるのかが決定づけられる重要なターニングポイント。

 僕は深く深呼吸を一度二度と繰り返し、しばしの間を開けた後、語りを始める。




「……なるほどね。粗方理解は出来たかも」

 とうに昼間が終わり、皆が授業を受けている中、もうどうにでもなれと開き直った僕は時間を気にせず、天宮寺さんと最初に出逢った時から今に至るまでの話を語った。

 包み隠さずと言う事なので、僕が怯えて逃げようとした事や、ブエルの暴走の時の不可解な現象まで全て。

 ……まあ、僕が大した事じゃないと思っていたり些細な事は話から漏れているかもしれないけど支障は無いだろう。

 あと、今話すのは『僕と天宮寺さんについて』なので、雨宮さんの事は出来るだけ省いた事も。

 例え契約はしていないと言っても、召還をした事実を祓魔師が知ればどうするか分からない。

 だから、多少無理があるかもしれないけど『何者かが召還した』と言う事にした。

「彼女……天宮寺さんは悪魔を殺す存在で、この街にも悪魔を殺す為に転校して来た。そして、二週間前に、新たに現れた悪魔の眷属に佐伯君が襲われそうになった所に駆けつけた。……いくつか不可解な点が有るから聞いていい?」

「え、あ……うん」

 納得出来ない部分が有るなら僕としても解消したい。

 やむを得なければ雨宮さんの事も話さざるを得ない。

 ……ホント僕は弱くて情けないな。

「まず一つ。最初の夜が悪魔の初見だとしたら、何故記憶が消えなかったのか」

 まあ、一番気になり腑に落ちないのはそこだよな。

 僕もそうだし。

 理解不能で納得出来ない。

「これについて考えられるのは三つ。一つは、佐伯君が嘘をついていて実は悪魔を知っていた場合。二つは、天宮寺さんの行った記憶消去が単に失敗していただけの場合。三つは……あなたが特異体質か特異能力を持っていた場合」

「…………は?」

 思わず。

 素で。

 自然に。

 漫画とかであれば頭の上にハテナマークが浮かんでるであろう声を出した。

 一つ目二つ目は分かる。けれど……三つ目は何だ?

 特異体質やら特異能力やら、またも聞き慣れないファンタジーな言葉が増えた。

 しかも僕が?

 冗談も大概にして欲しい。

 僕は普通の人間であり、そんな聞くからに異常な力は持っていない。

 持っているはずがない。

「うーん、その様子だと特異能力とかについては天宮寺さんに聞いてないみたいね」

 マルティーニさんはポカンとしている僕を見て言う。

 ほんの僅かだが、マルティーニさんと接して感じたのは、彼女は思い込みが激しく、自分の考えを絶対とするタイプだと言う事。

 融通が聞きにくいが、一度信用されれば安心できる。

「特異能力って言うのは先天的に持っている力の事で、祓魔師の家系の先祖は皆特異能力者。まあ、今じゃ血が薄れるにつれて、力も薄くなってるのが大体だけど」

 そんな中稀に強い力を持つ者や、突発的に力を持つ者が現れるらしい。

 で、マルティーニさんは僕がその後者ではないかと言う。

「はは……そんなまさか」

「その後現れた悪魔の暴走も止めたんでしょ? 契約者でもなく祓魔師でもなければ、特異能力しか考えられないって」

 断言。

 明言。

 有り得ない。

「……僕は一般人だ」

「一般人でも才能溢れる人や特別な力を持つ人もいるよ。……羨ましいくらいに」

 僕は普通だ。

 何の力も無い一般人。

 その事実が今否定されかけている。

 崩れようとしている。

「ま、その話は置いて置こうや。今は佐伯君より天宮寺さんに関してが第一!」

 僕が異常説。

 それを唱えた張本人は、一瞬青い瞳に影を映した後、いきなりテンションを上げた。

 拳を勢い良く挙げ、暗い空気は無しにしようぜと言う感じ。

 おかげで話題が天宮寺さんにシフト。

「あー、それで……何だっけ?」

 一旦話題が逸れた事で自分が何を話そうとしていたか度忘れしてしまった様だ。

「……僕の話に不可解な点があるって所だと思う」

 そう指摘すると、マルティーニさんは『あ、それだ!』と思い出した様で、人差し指を僕に向けてビシッと突き出す。

「それでね、不可解な点ってが……天宮寺さんそのものなの」

「……天宮寺さんそのものが不可解?」

 確かに謎は多いし、正体も不明な怪しい人物だし、不可解と言えば不可解。

 だけど、そんな事言われなくても出遭った時から知っている。

 まあ、要するに今更。

「そう、あなたの言う事が正しければ、彼女の行動は矛盾している」

 ……矛盾?

 どうやらマルティーニさんの言う不可解な点とやらは、僕の話の中で生じたらしい矛盾らしい。

 ……僕にはさっぱりだけど。

「まず始めに言うと、彼女は祓魔師じゃない」

 それは以前聞いた……気がする。

 聞いてない気もするけど、天宮寺さんの態度が否定していたのは確かなはず。

 頑なに、一遍も揺るがず天宮寺さんは死神と名乗っている。

 悪魔を殺す事が自分の全てだと主張するように。

「そして祓魔師じゃなければ、彼女の力は何なんだって話になる。少なくともただの人間が悪魔を殺すことは不可能」

「……さっき言ってた特異能力ってやつじゃないの?」

「ううん、違う。特異能力にしろ、祓魔師の術式にしろ、使うには気が必要なの。生物が内に秘めるエネルギー。だけど……彼女はそれを使ってない」

 マルティーニさんの話をざっくりと纏めると、人間が悪魔と戦うには気を使わなくては成せない。

 なのに、天宮寺さんはその気を使っていない。

 ……確かに矛盾だ。

 しかし、マルティーニさんが言う矛盾はこれとは違う、もっと先の事な気がする。

 その証拠に、まだ話は途切れず続いている。

 続きがあるのだ。

「彼女は気ではなく違うエネルギーを使っている。この世界には存在しない力。つまり……魔力」

 僕がその言葉の意味を脳が処理しきるより前に、マルティーニさんは言葉を溜め……そして口にする。

「彼女……天宮寺さんは――契約者よ」



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