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悪魔を狩る死神  作者: 神崎ミキ
第二章
10/21

♯09 新たな登場人物

この話から二章が始まります。

 悪魔とはどこからやって来るのか。

 悪魔とは何者なのか。

 その問いに答えられる人間は、何処を探しても一人もいない。

 そんな悪魔の世界に一つの人影があった。

 勿論人間ではない。

 あくまで人の形を成しているだけの悪魔。

「人間の世界はどうだった?」

 黒いローブ状の衣服で顔すらも隠す人型の悪魔は、正面で地に座り込んでいた獅子の悪魔……ブエルに問いをかけた。

「思った通りじゃったわ。あのままでは、あっちの世界も危ういだろうな」

「……そうか」

 ブエルの応えに何か思う所があったのか、人型の悪魔は暗く短く言葉を零す。

「じゃがな、面白いもんもあったぞ。……ナナシよ」

 ブエルは人型の悪魔を見ながらそう言うと、愉快そうに笑い声をあげた。

 光の無い黒い空の下で。

 剥き出しのマグマが赤く染める大地の上で。

 この――悪魔の世界で。






「…………は?」

 天宮寺さんが、この八塚高校に転校して来てから二週間が経った頃。

 見える悪魔の脅威が去り、潜み感じる事の出来ない悪魔の脅威だけが残ったこの街で、僕は日々怯えながら生きている。

 さすがに全く眠れなないって事は無いけど、時々不安で中々寝付けなかったり、夜中に目を覚ましたり。

 自分が臆病で弱い人間だと言うのが嫌でも分かる。

 漫画やゲームの主人公の様になんだかんだ言っても前向きに進んでいる人種と違い、常に後ろ向きな僕。

 このまま異常な世界から抜け出す事無くし、溺れるように死んでいくのかと思うと、以前と同じ平凡な日常も憂鬱になる。

 せめて少しでも悪魔等の事は忘れられたら幾分かマシなのだけど、僕の背後にはいつも異常の象徴である死神がいる。

 早く席替えをして欲しいと担任の曾根田に何度か嘆願しているが、席替え今学期はしないと一刀両断で返された。

 学校に来なければ死神に会う事もないのだけれど、家に独りで籠もっていると余計な事を次々と考えてしまい意味が無い。

 願わくば異常が世界から消えて無くなってくれれば幸い。

 妥協点として現状維持。

 人間とは意外と図太く慣れる生物らしい。

 こんな異常も時が経てば当たり前になって、やがては何も感じなくなるかもしれない。

 そもそも、まだ悪魔がこの街にいるなんて証拠は無く、死神の嘘だと思い込む事も不可能ではない。

 なので、このまま何も起こらず何も変わらなければ、まだマシだった。

「……何て言った?」

 ……だと言うのに僕を取り巻く環境は変化を求める。

「留学生が来るんだって」

 隣の席に座る友人の発言。

「……なんで?」

 そんな折原の言葉に嫌な予感が頭をよぎる。

 この八塚高校はどこにでもある普通の公立高校。

 進学校でもないし、スポーツの強豪でもない平凡な高校。

 あえて特筆するなら新しい事くらい。

 なんとまだ築二十年の平成生まれ。

 そんな事もあってか、今までも留学生が来た事は一度もないらしい。

 そんな学校にどうして?

 しかもこのタイミングで。

「なんでも向こうからここが良いって言ってきたそうだよ」

「……だからなんで?」

 どこの国の人かは知らないが、何故八塚高校なんだ?

 選ぶ理由がさっぱり分からない。

 もしここが特別だと言うのなら……悪魔がいる可能性が有るくらい。

「さあ、そればかりは本人に聞かないとね。何らかしらの思い入れがこの街に有るのかもしれないしさ」

 確かに知り合いが昔この街に住んでて話を聞いたとかかもしれないし、なんとなく選んだ可能性も全く無い訳でもない。

 だが……反応が過剰になってしまうのもしかたがないだろう。

 なんせ前に似たような前振りで現れたのが天宮寺さんだ。

 デジャブの様に嫌な予感が消えない。

「……でもいつ来るんだ?」

 この時期に噂が回っているのなら九月かからか、それとも来年の一月か四月か……。

「今日だよ」

「…………何が?」

 折原が突然訳の分からない事を言い出した。

 今は留学生の話をしいてたはずなのに、何が『今日』なんだ?

「だから留学生が今日来るんだって。もう学校にいるかも」

「……いやいや、いくらなんでも急すぎるでしょ」

「別に急にでもないみたいだよ。本当は四月からの予定が、事故に遭って遅れちゃったとか」

 ……毎度思うがこの出来過ぎた展開はなんなのだろうか。

 ご都合主義とも呼べそうなまでに物事が進んで行く。

 もっとも、誰の都合に合わせた結果なのかは知らないけど。

「……ちなみに学年は?」

 ここまで来たら何となくなく嫌な予感が具体化して来る。

 そして、そんなのはただの予感に過ぎないと否定したかった。

「二年生だって。もしかしたら、このクラスに来るかもね」

 けれど、結果はより不安を悪化させただけ。

 折原の『かも』はかなりのか確率で当たる。

 転校生が来たばっかりのクラスに留学生を入れるものか……とか、嫌な予感がする一方で、合理的に自分を納得させようとするが、あまり効果は無い気がする。

 そうこうしてる間に、鳴り響くチャイム。

 同時に現れる曾根田。

 そして――明らかに日本人じゃない金髪の女の子。

 こうして嫌な予感は実体化した。

「キアラ・マルティー二です」

 流暢な日本語でそう名乗る女生徒は、八塚高校の制服を身に纏い皆の前に立つ。

 肩まで伸びた金の髪、青い瞳、雰囲気、その全てが外国人。

 なんだか僕とは住んでいる世界が違う……そんな気がした。

 それが外国人だからなのか、根本的に生きている世界が違うのかは分からないけど。

 突然の留学生に、教室はざわめく。

 そんな中で、イタリアからの留学生マルティー二さんは緊張をしてる風も無く落ち着いて教室を見渡していた。

 感性が日本人と違うのか、自分と違う初対面の人間を前に緊張も戸惑いも感じない。

 自己紹介を終えると、いつの間にか用意されていた席へ。

 廊下側の一番後ろにある天宮寺さんと真反対の席。

 そこに座ると、マルティーニさんは天井を見上げた。

 蛍光灯の光と、今は使われていない冷暖房があるだけの天井……それを何気なく見つめながら時が過ぎるのを呆然と待っていた。

 その姿がなんだか綺麗で、誰も声をかけずに見とれていた。

「おっす! 俺は火野大地だ、よろしく!」

 ……約一名の馬鹿な男を除いて。

 空気の読めなさに定評のある火野。

 そのあまりの暑苦しさに、あの天宮寺さんをイラッとさせる程の鬱陶しさ。

「……あ、うん」

 マルティーニさんも少しひいている。

 最初に話しをするクラスメートが火野で大丈夫なのだろうか。

 クラスのイメージが誤解されるかもしれないし、そのせいでマルティーニさんとクラスの間に距離が出来てしまうかもしれない。

「よろしくね、マルティーニさん。日本に来たばかりで分からない事とか多いかもしれないけど、その時は遠慮なく言ってね。クラスの皆も優しいから」

 それを危惧してか、折原がフォロー。

 どうして火野と違ってこんなにも安心できるのだろう。

 初対面でも『この人は信用出来る』と感じさせるオーラがある。

「ありがとう。えっと……」

「折原です。この学校の生徒会で副会長をやってます」

「そうなんだ。よろしくね、折原君」

 そう言ってマルティーニさんは微笑む。

 愛想笑いなのかもしれないけど、見ていて癒される……そんな笑顔だ。

 ……僕は癒される余裕なんか無いけど。

 あの自然体でいる事も、こうして微笑む事も……全てに裏がありそうな気がして落ち着かない。

 疑心暗鬼とでも言うのだろうか。

 一度疑いだすと、何でも無い事まで怪しく見えてしまう。

「あれ、俺は!?」

「あ、あっちにいるのが僕の友人の佐伯。その後ろが最近転校して来たばかりの天宮寺さん」

 叫ぶ火野をスルーして折原は、何故か僕と天宮寺さんの紹介をし始めた。

 そのせいで、マルティーニさんがこちらを見てくる。

 ……天宮寺さんの時もそうだったが、どうして折原は僕を紹介したがるんだろう。

 正直止めて欲しい。

 けれどそんな事を言う訳にも態度に表す訳にもいかず、無難に頭を下げる。

 ……天宮寺さんは無反応だけど。

「なあ、俺は!?」

 火野は相変わらず煩いが、マルティーニさんは気にせずこちらに微笑みかけてくれる。

 これは単なる日常の中のちょっとしか変化。

 悪魔や死神の様な異常な世界とは関係無い。

 そう思いたくなる笑顔だった。

 けれど――無理だった。

 一度崩れ去った日常はもう戻らない。

 僕は普通には二度と生きられない。

 これは変える事の出来ない決定事項。


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