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悪魔を狩る死神  作者: 神崎ミキ
序章
1/21

♯00 僕はこの日死神に出会った

 どうしてこんな事になったのか……それはおそらく誰にも答えることは出来ないのだろう。

 今此処にある納得しきれない現実が、偶然だったのか必然だったのかさえ闇の中。

 今まで僕は普通の人生を歩んできた。

 ……いや、歩んでいたつもりだった。

 ただ気づいていなかっただけ。

 どうせなら一生気づきたくはなかった。

 何も知らないまま普通に生きて、普通に死にたかった。

 けれど、現実はそうもいかなくて――こうして異常な状況で異常に死のうとしている。

 誰も応えなくて良い、ただ言わせてくれ。

 どうしてこんな事になったのだろう……と。

 

 

 ◆

 

 

 

 それは本当に気まぐれだったんだ。

 この日僕は、なんとなく見ていたテレビのCMに唆されてコンビニに足を運ぶ事に。

 目的の品はプリン。

 別にプリンが格別に好きという訳ではなく、ただなんとなく『プリン食べたいな~』って思っただけ。

 ほんの軽い気持の、軽い決断。

 命とプリンどっちが大事かって言われたら、当然命をとる。

 普通なら命とプリンを同じ天秤にかけること自体おかしな話なんだけど。

 どうやら、僕は知らず知らずの内にそれらを乗せてしまっていたらしい。

 まあ、簡単に話しを纏めると、プリンの入った袋を片手に持った僕――佐伯望さえき のぞむは現在死の危機に面していたと言う事。

 ……訳が分からない。

 月が街を照らす静かな夜。

 買い物を無事済ませてついでに立ち読みまでしてきた僕は、家に帰ろうとコンビニを出た。

 そして、まばらに立つ街灯が明かりを灯す近所の公園に通り抜けよう足を踏み入れた。

 明かりは非常に弱く公園は暗い。少々不気味な感じ。

 家に帰るのに公園に寄る必要はないのだけど、今日に限ってなんとなく公園に立ち入ってみた。

 ……これが間違いだったらしい。

 それは間違いない。

 でも、一体誰に分かると言うんだ。

 こんな日常でよくある軽い選択が、異常な現実へと繋がっていたなんて。

 今僕の目の前には、背の丈軽く二メートルを超す怪物が存在していた。

 熊のようにも見えるが、毛の色は緑色で上にはベスト、そして下にはダボッとしたズボンを身につけている。

 どうやら野生の熊が山から下りてきた訳ではなさそうだ。

 明らかに異質な存在。

 明らかに有り得ない存在。

 そんな異常な怪物の目は僕を捕らえて放さない。

 今にも襲いかかってきそうな雰囲気を醸し出している。

 要するに僕は、結果的に命とプリンを天秤に乗せたあげく、プリン側に限界を超えるぐらい傾けてしまい、その果てに運命の天秤が壊れてしまうという事態に陥ってしまったわけだ。

 しかも、このままではプリンを食べる事すらも叶わない。

 つまり、得るものなど一切無く命を差し出す事になる。

 思い返してみると僕の過ちは、宿題をやるのに疲れたという理由でテレビを見てしまった事から始まっていたのだろう。

 テレビさえ見なければ、プリンを食べたいなんて思う事も、外に出ようなんて考えにいたる事も無かったのだから。

 そう言えばいつも隣の席の友人が言っていたっけ、『宿題は後回しにしない方が良いよ、いつか絶対しっぺ返しを食らうから』と。

 まったく、本当にその通りだった。

 もし、生きて家に帰ることができたら、真っ先に宿題をしようと心に誓う。

 ……もっとも、その誓いは果たせそうにないけれど。

 怪物が爪を尖らせた腕を振り上げ、僕へと向かい寄る。

 すぐそこに迫り来る脅威を前に、僕は正常な思考などできるはずもなく……ただ呆然としていた。

 理解が理性に追いていないのか、恐怖することも出来ない。

 ……いや、抵抗などしても無駄なんだと直感的に感じて諦めてしまっているだけなのかもしれない。

 もう駄目だと全てを諦め目を瞑る。

 その間が嫌に長く感じ、思わず息を呑んでしまった。

 そしていつまで経っても何も起きず、僕は恐る恐る目を開く。

 すると――そこには化け物の爪を巨大な鎌で受け止める何者かがいた。

 暗い上に後姿のため詳しくは分からないが、その人物は黒いローブの様な物を身に纏っている。

 フードを被っている為性別さえも分からない。

 唯一理解できることは、目の前の人物も怪物と同様に普通ではないということだけだ。

 手に握られた漆黒の鎌は禍々しい空気を帯び、その身に纏うはローブだけでなく殺意。

「……なに、ぼさっとしてるの」

「…………えっ?」

 急に発せられた声に間抜けな声をあげる。

 鎌の主だろうか、声から察するに女性だ。

 冷たく背筋が凍りそうな声。

「……だから、なに呑気に突っ立るのって言ってるの。邪魔だから消えて。それが無理ならせめて後ろにさがりなさい」

「……っ!」

 彼女(おそらく)の言葉でようやく脳が作動し、身体を動かせると言う発想に至った。

 その場から動くという考えが頭からすっぽりと抜け落ちていたみたいだ。

 僕は慌てて後ずさる様に下がる。

 今更襲ってきた恐怖で震える足を無理やり動かして。

 そんなこんなで、やっと彼女から距離を取ったと呼べる場所まで辿り着く。

 そして深呼吸をした後、前に視線を戻すと――化け物がもう一方の腕を振り上げ彼女に襲いかかろうとしていた。

 が、その爪は彼女にはかすり傷一つ負わせる事無く、空を裂き、地面を砕く。

 その一撃は僕に再度恐怖を上塗りする。

 彼女がいなけれ僕は確実に死んでいた。

 そう――一瞬で。

 この熊の姿をした怪物は異常なのだ。

 そして、その怪物から僕を助けてくれた命の恩人も異常。

 怪物の攻撃を前に彼女は闇に溶け込む様に姿を消したのだ。

 そして再び姿を現したと思えば、怪物の背後で鎌を振り下ろし――――怪物を斬り殺していた。

 冷酷に。

 何の躊躇いもなく。

 斬られた化け物はそのまま微動だにもせず、青い血を流してその場に倒れ落ちる。

 ……本来なら僕がそうなっていただろう姿で。

 鎌を持つ彼女は無表情で無感情に化け物を見下ろしていた。

 そんな一連の出来事を見て僕の脳が出した答えは、何が何だか分からないと言う事だ。

 唯一理解できる事と言えば、この現状が異常だという事だけ。

 それは考えるまでも無く、肌を貫くようにひしひしと感じさせられている。

 恐怖が一周回って既に現実感の欠片も感じられないでいる僕は、おもむろにふらふらと化け物に近づき、

 この時僕は何も考えていなかった。

 ただ身体が吸い寄せられる様で、倒れる怪物の側まで来ると、そおっと手を伸ばす。

 そして緑色の毛に触れようとした瞬間――

「何やってるの! 死にたいの!?」

 無表情だった彼女が声を荒げた。

「死ぬって、こいつもう死んでるんじゃ……」

 倒れている化け物には生気が全く無い……いや、それは動いていた時ですら無かったかもしれない。

 目の前のモノは常識から逸脱した存在。

 ならば、僕程度の持つ常識で判断するのは愚かな事なんだろうか。

 普通の世界で生きる僕には、この異常な有様が分からない。

「死んでいても普通の人間が悪魔に触れたら死ぬのよ」

「…………悪魔ぁ?」

「そう」

 何を言ってるのか理解出来ず素っ頓狂な声をあげる悠斗に対し、彼女は平然と当たり前の様に答える。

「悪魔ってゲームや漫画に出てくるあの悪魔?」

「……大体そんな感じだと思えば良いんじゃない」

 鎌を地に突き刺す形で置き、フードを外しながら適当に答える。

 フードを外すことで、今まで隠れていた顔があらわになる。

 ゆっくりと揺れ腰の位置まで届くほど長い髪は闇の様に黒く、僕を見る目は怖い程に光がなかった。

 彼女の言う悪魔とはなんだ?

 そんなものがこの世に存在するはずかない。

 ここはゲームでも漫画でもない現実なのだから。

 そう反論しようと口を開いた瞬間、僕は口を動かすのを止めた。

 僕の目に映るソレが否応なしに現実を告げる。

 彼女が悪魔と呼ぶソレは、燃え尽きて灰になるかのように存在が段々と希薄になり――遂には消えて無くなった。

 まるで最初からそこに存在しなかったかのように。

 これは夢なんだろうか?

 もう悠斗には夢と思う他に手段は無かった。

 こんな現実が有るはずがないと信じる手段が。

 しばらく悪魔と呼ばれたモノが消えた跡を見つめた後、視線を彼女に移す。

 仮に悪魔が存在したとして、その悪魔を殺した彼女は何だと言うのだろう。

「……君は何者?」

 僕の問に彼女は何も答えず歩み寄って来る。

 その手にはいつの間にか、地面に突き刺さっていたはずの黒い鎌がある。

 そして彼女は呟いた。

「私は――死神よ」

 その言葉と同時に、鎌は僕を貫いていた。

「――――え……?」

 そして何が起こったのか分からないまま地に突っ伏す。

「これは夢……全て忘れなさい」

 薄れゆく意識の中、死神と名乗った彼女は安らかに呟いた。

 ああ、なるほど。

 確かに死神だ。

 

 


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