求む、ヒロイン殿! え、男? いや、むしろいい! 大歓迎だ!
男女逆転ものに挑戦しました。
ルージュ・ベルシュタインは、物語に出てくるヒロインが大好きだった。そう言うと、人々は、彼女が可愛らしいヒロインに憧れているものと思うだろう。しかし、自分で自分の姿は見られないように、自分で自分のかわいさは愛でられない。ルージュは、ヒロインとして愛でられたいのではない。ヒロインのかわいさを堪能し、それを愛で尽くしたいのだ。
ああ、どこかにいはしないものか。はかなげで、思わず守ってあげたくなるような美少女は。そんな人物を見つけたら、絶対に溺愛して、そのかわいさを堪能するというのに……。
ルージュは完全に自分がヒーローになるつもりでいた。ヒロインとお近づきになるには、彼女を助けるヒーロー的立ち位置にいなければいけないと、そう思ったのだ。
強く、賢く、そして行動力に溢れた存在。両親や家の者たちの心配をよそに、彼女のヒーロー度は増しに増していった。
かくしてルージュは、十九になる頃には、かわいいヒロインとは正反対の、女傑へと成長していた。しかし、彼女のヒロインは未だ現れないままだった。
ある時、ルージュは父の名代として、領地を離れ、王都を訪れた。さて、とあるパーティーに出席していた時のこと。何やら向こうが騒がしい。
「婚約破棄ですって。かわいそうに」
「なんだか、もめてるみたいよ。婚約破棄しないでくれって」
婚約破棄……か。ルージュは運命に導かれるように、騒ぎの方向に向かった。
「お、お願いです……。どうか、どうか婚約破棄だけはご容赦くださいませ……」
人だかりの中心で、一人の人物が額を床に擦り付けている。それを見下ろす男女二人は、しかし跪く人物を残して立ち去ろうとする。
「何でもいたします。どのようなご命令にも従います。ですから……」
立ち上がり、縋りつくように伸ばした手を、女は思い切り振り払う。その反動で、人物の身体は後方に思い切り倒れ込む。
「大丈夫か?」
ルージュはすかさずその身体を受け止めた。
「は、はい……。ありがとうございます」
涙に濡れた顔が、ルージュのことを見上げる。長いまつげ。新緑色の瞳。上気してほんのり赤みを帯びた肌。形のいい小さな唇。
瞬間、ルージュの心は完全に射抜かれた。間違いない。この子こそ、私がずっと探し求めていたヒロインだ!
「とりあえず、ここは人の目が多い。このまま別室にお連れしてもよいだろうか?」
ルージュはさっとヒロインの身体を抱き上げた。
「え、ええ……?」
戸惑いながらも、やがてヒロインは小さく頷いた。その耳が真っ赤に染まっている。かわいい……! かわいいがすぎるぞ……! 内心で身悶えながら、ルージュはヒロインを、広間の隣に設けられていた休憩室に連れ込んだ。
「先ほどはいきなりすまなかったな」
ヒロインをソファに座らせると、ルージュは自分もその向かいに腰を下ろす。
「私はルージュ・ベルシュタインだ。して、貴殿の名は?」
「ノエル・ガンブルクです。助けてくれてありがとうございました」
ヒロイン——ノエルは頭を下げる。
「あの、どうして助けてくれたんですか?」
「ノエル殿。私はずっと探していたのだ。貴殿のような最高のヒロイン殿を」
やや強引とも言える返し。しかし、問題ない。ヒロインを見つけた場合、物語のヒーローたちは、その好感度を猛烈に加速させ、そしてアピールすべきなのだ——と、少なくともルージュは考えていた。
「えっ、ヒロイン……ですか? で、でも……」
ノエルは顔を真っ赤にすると、うつむいてもじもじと両の手をもむ。うーむ、さすがにこれは押しすぎたか。ここらで少し引いておこう。
「婚約破棄の件、ご心労のことだろう。今夜は私が家までお送りしよう。方向を教えてくれないか?」
ルージュは咳払いの後、落ち着いた声でそう言った。本当なら、今すぐにでも家に連れ帰りたいところだが……。さすがのルージュも少しは自重することにした。
しかし、その台詞にノエルは青ざめ、ぶるぶる震え始める。
「家には帰れません。婚約破棄をされてしまったのがばれたら……」
ルージュは、ノエルが必死に婚約者に懇願していた様子を思い出す。そして、これは何かあるな、と直感する。
「そうか。では、我がベルシュタイン邸においで願おう」
「え……?」
「帰る場所がないのだろう? ああ、安心してくれ。別に貴殿を襲ったりはしな……」
「そ、そんなこと思ってません!」
ノエルが顔を真っ赤にして大声を出した。その後、自分が大声を出したことが恥ずかしかったのか、さらに顔が赤く染まっていく。またしてもかわいい。
「その……ベルシュタインということは、辺境伯家のご令嬢でいらっしゃるのでしょう? そのお屋敷に行っていいはずが……」
「いいや、私が来てほしいのだ。無理を承知で頼む。どうか、我が屋敷に来てはくれないだろうか」
ノエルはしばらく迷っていたが、やがて、ゆっくりと頷いた。
*
「お嬢様、そのお方は……?」
ルージュはノエルを伴って、王都にあるベルシュタイン家の邸宅に帰宅した。迎えに出てきたメイドたちは、二人の姿を見て口をあんぐりと開ける。パーティーに行ったお嬢様が、かわいいヒロインをお持ち帰りしてきたら、まあ、こんな反応になるだろう。
「私の大切なヒロイン殿だ。少し汚れているようなので、湯浴みと、そして新しい服を頼む」
「は、はい! かしこまりました!」
ノエルをメイドたちに連れていかせ、ルージュは自室でくつろぐ。
なんという、なんという王道展開だろうか! ルージュは興奮していた。ピンチに陥ったヒロインを助け出し、そのまま家にまで来てもらうとは。このままノエル殿にお友達になってもらい、側でそのかわいさを堪能する生活を実現してみせるぞ!
「ですが、驚きました。お嬢様は昔からずっと、ヒロインだヒロインだおしゃってばかりでしたので、てっきり、もうだめかと思っておりました。私は嬉しいです。旦那様と奥様にもご報告しなければ」
老メイドが涙をハンカチで拭う。
「うん?」
「今まで男性に興味を抱かれなかったお嬢様も、ついにお立場を自覚し、決断されたのですね。ベルシュタイン家の跡取り娘として、婿を取るという……」
「婿? 何を言っているのだ。ノエル殿は完璧なヒロイ……」
その時、
「失礼します」
と、タイミング良く扉が開き、ノエルが入ってきた。
「おお、ノエル殿。ちょうど良かった。実はこの……」
ルージュはノエルの頭からつま先まで一瞥し、そして呟いた。
「え、男?」
今一度ノエルを見てみれば、顔立ちこそ美少女のように整っているが、れっきとした男性であることは明らかだった。本来なら見間違えることなど有り得ない。どうやら、あまりのヒロインオーラに、ルージュは冷静さを失っていたらしい。
こんなにかわいいのに、男……。予想だにしなかった展開に、一瞬、ルージュの頭の中は真っ白になったが——
「いや、むしろいい! 大歓迎だ!」
ルージュはそう叫んだ。完璧なヒロイン、だが男。ルージュの妄想の中には、既に完璧なヒロイン像があった。だが、まさか、現実が妄想を上回ることがあるとは。ヒロイン。ただでさえ完璧なその素材に、男、という属性を付け足す。それによって、ノエル殿は究極のヒロインとなったのだ! ルージュはガッツポーズを決めた。
「あ、あの……。ルージュ様?」
ノエルが首をかしげる。
「ご、ごほん。貴殿の家には遣いをやっておいた。今夜はゆっくり休まれよ。今後のことについては、明日の朝、話し合おう」
興奮を誤魔化すため、ルージュは慌ててそう言った。
*
「ノエル殿に朝食のお誘いを入れてくれないか?」
朝起きると、ルージュはメイドたちにそう頼んだ。
「それが……」
メイドたちに連れられたルージュは、階段の雑巾がけをしているノエルを見つけた。
「泊めていただいて、何もしないわけにはいかないと思って。あの、ご迷惑でした……?」
ノエルはぺこりと頭を下げる。
「構わない。しかし、その服は……」
ノエルが着ていたのは——いったいどうしてこうなったのだろう——メイド服だった。
「仕事着がこれしかないということで、借りてしまいました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
ルージュはしばらく無言で立ち尽くしていた。その鼻から、つうっと血が一筋伝う。ヒロイン×メイド服。ただでさえときめくこの展開が、二重においしいではないか……!
「しかし、貴殿は客人。別に働いてくれなくてもいいのだぞ?」
鼻血を拭きながら、ルージュは言う。
「でも、申し訳ないですし。それに僕、働くのが好きなんです。それで、もしよろしければ、使用人として、しばらくここにおいてくださいませんか?」
ノエルはおずおずとそう切り出した。
かくして、ノエルはしばらくの間、ベルシュタイン邸にかくまわれることとなった。とりあえず、昨夜のうちに遣いの者は送っているが、これがほぼ強奪状態であることに変わりはない。早いうちに手を打たなければ。ルージュは頭を悩ませる。
しかし、その前に、ガンブルク家について調べる必要がありそうだ。昨夜のノエルの態度。パーティーにしてはみすぼらしかった服装。身体は細く、つめ、髪の毛もぼろぼろ。家でいったいどのような扱いを受けているのだろう。まあ、大方予想はつくが……。どうも胡散臭い匂いがする。
ルージュは使用人に命じ、ガンブルク家の情報を集めさせた。
その一方で、ルージュは、全身全霊でノエルを愛でることにも尽力していた。ノエルは最初こそおどおどとした態度が目立っていたが、だんだんと心を開いてくれるようになっていた。普通に話したり、笑ったり、まるで別人のように表情が明るくなっている。ああ、これぞ王道展開。かわいいヒロインが、さらにかわいくなっていく。
「助けていただいた、そのお礼がまだだったので」
ある時、ノエルはヒロイン力を発揮して、手ずからケーキを焼き上げてくれた。
「昔、母が教えてくれたんです。僕、こんなことくらいしかできなくて。無能なんです。婚約破棄されたのも納得ですね」
「そんなことを言うな。ノエル殿は私がようやく見つけたヒロイン殿。たとえ本人であったとしても、それを乏しめるような言葉は見過ごせない。それに、ここ数日で、私は貴殿のいいところをたくさん知った。何なら、今から小一時間ほど語ってもいい」
驚いて目を丸くした後、
「そんなこと言ってくれるの、ルージュ様が初めてです」
と、泣き笑いのような表情を浮かべた。
*
そんな折、ガンブルク家を探らせていた者から、ようやく報告が届いた。
どうやら、ノエルは愛人の子供らしい。幼い頃は市井で暮らしていたが、母親の死によって、ガンブルク家に引き取られた。ガンブルク家での扱いは、ひどいものだった。邪魔者として扱われ、義母や兄弟姉妹に苛め抜かれる日々。あの家に、ノエルの居場所はなかった。
しかし、私生児だとしても、一応は長男。面倒な立ち位置のノエルは、家にいれば、争いの火種となりかねない。よって、さっさと婿入りさせてしまおうと、十六歳になるや否や、厄介払い同然に、男爵家に婿に出されることになったのだ。しかし先日、それさえも破棄され、ノエルは完全に行き場を失った。
助けたい。ヒロインが虐げられていたことを知った時、多くのヒーローが思うように、ルージュもまたノエルを助けたいと思った。
家から引き離す方法。それを考えた時、ルージュははたと気付いた。え、結婚……?
ルージュはヒロインが大好きだった。しかし、女であるルージュが、ヒロインと結婚できることはない。よって、ルージュのヒロインへの想いは、あくまでファン心とでも呼ぶべき存在にとどまっていた。
しかし、合法的に結婚できるヒロインが、今、彼女の前に現れた。ルージュが震えたのは、嬉しかったから——ではなかった。
今までは、ファンとして平気でヒーロームーブができた。しかし、結婚と思った途端、ルージュは、今までの自分の行動が一気に気持ち悪くなってきた。世のヒーローたちは、すました顔でなんということをやっているんだろう……! あいつら、面の皮がぶ厚すぎやしないか……!
「ルージュ様、今日はどうかされたんですか?」
と、ノエルが尋ねる。
ヒーローの皮が剝がれたルージュは、その日、かなりの挙動不審に陥っていた。
「い、いや……。考えてみれば、私の行動はやや強引だったかもしれないと反省してな」
「まあ、確かに最初はびっくりしましたし、正直、ちょっと変わってる方なんだな、と思いました」
「くっ……」
きつい一撃がルージュを襲う。
「だけど、ルージュ様は見ていて面白くて、そして何よりかっこいいです。僕、婚約者に見放された時、目の前が真っ暗になって……。ルージュ様が助けてくださらなかったら、本当にどうなっていたか。颯爽と現れたルージュ様は、まるでヒーローみたいで……。僕、ルージュ様に憧れているんです」
そう言って、ノエルはにっこり笑った。
「くっ……」
別の意味できつい一撃がルージュを襲う。やはり好きだ。こんなかわいいヒロイン、絶対に手放したくない。こうなったら、ガンブルク家に赴かなければ。ルージュは心を決めた。
*
「今回、ご子息を勝手に家に連れ帰ってしまったことの責任を取らせてほしい」
ルージュはノエルと共に、ガンブルク家の当主、そしてその夫人と向かい合っていた。
「いきなりの申し込みで失礼なのは承知している。しかし、私はノエル殿にベルシュタイン家の婿になっていただきたいと考えているのだ。どうか認めていただけないだろうか」
その言葉に、ノエルを含めた面々が、口をあんぐり開ける。
「まあまあまあ。我がガンブルク家から、ベルシュタイン家に婿をお出しできるとは、なんたる光栄でしょうか」
そう言ったのは夫人だ。逆玉の輿ということで、盛り上がったのだろう。
「婿をお望みでしたら、このような出来損ないでなく、次男のマークを婿にお出しいたしますわ。あの子は学問、武術、礼儀作法、全てにおいて秀でているのです。ねえ、そうでしょう?」
「え、ええ。ノエルは出来が悪いものでして……。ベルシュタイン家のお嬢様とでは、とても釣り合わないかと」
と、当主もそれに同意する。
本人の前でひどい言いようだ。ルージュは苛立つが、ノエルはただ深くうつむくだけだ。
「そうだ。剣術の勝負をさせましょう。お噂では、ルージュ様はかなりの使い手でいらっしゃるとか。ぜひ息子の腕前をご覧になってくださいませ」
夫人は勝手に話を進めていく。断ってもいいが、ルージュには、いきなりノエルを連れ去るという、非礼を働いてしまっている負い目がある。ここは相手に従って試合を見学し、その後、改めてノエルとの婚約を申し込むのが得策だろう。
*
ノエルと弟との試合は一瞬で終わった。体格も、教育も、差は歴然としている。一瞬で木剣を弾き飛ばすと、次男はノエルに足をかけて転ばせる。倒れたノエルは、さらに顔めがけて木剣をたたき込まれる。
「もういいだろう。勝負はついている」
ルージュが間に入って、次男の腕を握りつけなければ、ノエルはさらにこてんぱんにされたことだろう。
「ご覧の通り、無様でしたでしょう?」
「我がガンブルク家の恥さらしです。やはりノエルを婿に出すことはできません」
両親は口々に言う。
「申し訳ありません……。こんな、情けないところをお見せして」
ルージュに助け起こされながら、ノエルは言う。
「気にするな。私はどんなノエル殿でも好きだ……」
「もう、やめてください」
しかし、ノエルはルージュの手を振り払う。その瞳からは、とめどなく涙が流れている。
「ルージュ様は僕に優しくしてくれる。だけど、それって、惨めで、かわいそうだから、同情してくれてるだけじゃありませんか。そんなの、僕、辛いだけですよ。結婚だって、僕の事情を知って、助けてくれようとしているんですよね? だけど、もういいです。僕なんかのために、これ以上ルージュ様にご迷惑をおかけするわけにはいきません」
ヒロインを、自分が泣かせてしまった。
「私は……貴殿を傷付けてしまっていたのだな。すまなかった。もう貴殿にちょっかいは出さない」
「では、マークと……」
夫人はすかさず次男の背中を押してくるが、
「いいや、私のヒロインはノエル殿、ただ一人だ」
と、ルージュはそれをかわした。
「私はこれで失礼する。重ね重ね迷惑をおかけしてすまなかった」
玉の輿なしと諦めたのだろう。ガンブルク家の面々は部屋に残り、使用人、そしてノエルだけがルージュを見送りに出た。
エントランスの広間で、ルージュは振り向いて、ノエルのことを見た。
「これで最後だろうから、言っておく。短い時間だったが、貴殿と過ごせた時間は、私にとって心安らぐ、とても楽しいものだった。感謝するぞ」
ノエル殿を超える存在と出会うことは、もうないのだろう。ルージュの心は空虚だった。
その時、老朽化が進んでいたのだろうか。シャンデリアがルージュの頭めがけて落下してきた。普段であれば、すぐさまよけたであろうルージュも、この時は反応できなかった。
しかし、ルージュは無事だった。とっさにノエルがルージュをかばって、その身体を押し飛ばしたのだ。
「ありがとう、ノエル殿」
目を開けた時、ルージュは危うく心臓が止まるかと思った。覆いかぶさっているノエルが、なぜだか別人のように見える。いつもは女の子のようにかわいいのに、今は……。
「そ、そんなことより、怪我をしているではないか!」
ノエルの頬が切れて、血が一筋伝っている。
「ルージュ様が無事なら、こんなの平気ですよ。ほら、僕、やられ役ですし、怪我するのは慣れてますから。最後に大切なルージュ様を少しでもお守りできたのなら、僕は嬉しいです」
ノエルは、ヒロインのようなかわいい顔で、ヒーローのようなかっこいい笑みを浮かべる。
これは参ったな。ルージュは口元を手で押さえる。
「今のは……その、かっこよかった。ときめいてしまったぞ。いや、いつもノエル殿にはときめいているが……いつもと違う方面でときめいた」
ルージュの顔は真っ赤に染まっている。ただでさえ二度おいしかったノエルだが、その意味が変わってきた。今、ルージュはノエルに二度目の恋に落ちたのだった。
「や、やはり貴殿は、究極のヒロイン殿だな。昨今のヒロインはかわいいだけでなく、こういったかっこいい面も持っているものだ」
ルージュはなんとか自分のペースを取り戻そうとするが、
「それを言うなら、ルージュ様の方が、よっぽどかわいくてかっこいい、最高のヒロインですよ」
その言葉に、いつものノエルの何倍も赤くなって顔を逸らす。ヒーロームーブは照れることなく行えていたルージュだが、ヒーロームーブをされる耐性はまるでなかったのだ。
「すみません。ご無礼でしたか?」
「……いや、むしろいい。大歓迎だ」
ルージュは小さな声で呟いた。
「と、とにかく、私は一層諦められなくなってしまったぞ。断られたとしても、やはりノエル殿以外、私は考えられないのだ」
「で、でも……」
「でも……ではない! 私をヒロイン扱いした責任はとってもらうぞ!」
二人になったヒロインが結ばれる日は、案外近いのかもしれない。