婚約破棄された泣き虫な公爵令息と、そんな彼に興奮する私
こちらは、柴野いずみさん主催企画「ヘタレヒーロー企画」の参加作品となります。
ぜひ、最後までお楽しみ下さい( ´ ▽ ` )ノ
私の名前は、リネット・ベアトリクス。
もうすぐ華の十七歳を迎える、辺境伯令嬢ですの。
そんな私は今、それはもう大変興奮しておりますの!
なぜなら……
「ロドルフ・ブランシャール公爵令息!今ここで、婚約破棄を言い渡すわ!」
「なっ!なっ……なんでですかあああああああ!!」
そう!今ここで!公の場で!婚約破棄の茶番劇が始まっているからなのですわ!
しかも、ここは王族が主催する、年に四回行われている特別な夜会。
そんな中で、国王陛下も王妃様もいない状態で!第一王女であるクラリス様が、彼女の婚約者であるロドルフ様を婚約破棄なさるだなんて!
驚きすぎて、手に持っている扇子を落としてしまいそうですわ!
でもまぁ、婚約破棄だけでしたら、こんなに興奮はしないのですけれど。
では、貴女は何に興奮しているのか、ですって?
それはもちろん、ロドルフ様に決まっていますわ!
ほら。見てくださいますか、あのロドルフ様のご様子を。
婚約破棄された途端、膝を落として四つん這いとなり、そのまま右手をクラリス様に伸ばしながら、涙目になっているのですよ?
もうっ!本当に、本当にっ!最高ですわ!
昔から、辺境伯の訓練場で、泣きそうになっている弱い男性を眺めては興奮していた私ですもの。
だから、あんなみっともない姿を見てしまったら、心がゾクゾクして仕方がないのですわ。
ふふふふっ。あとは、この場で泣き叫ぶロドルフ様を見て、身体を悶えさせるだけ……なんですが。
それにしても、やはり公爵令息なりのプライドがあるのでしょう。全然泣く様子がありませんわ。
なので、もう少し観察してみる事にしましょう。
「あっはははは!なんで、ですって?それはもちろん、貴方が私の愛しい恋人であるルーイに多くの嫌がらせをしたからだわ!そんな男は、私の夫としてふさわしくないもの。だから、大人しく婚約破棄を受け入れて頂戴」
「はい!?そもそも、そのルーイって誰ですか!?俺知りませんけど!」
いや、私もクラリス様の恋人については初耳ですわ!
ほらほら。この夜会に集まった貴族たちも首を傾げたり噂話してますし、ルーイって貴族名簿に載っていませんし。
もしや、その恋人って、貴族じゃなくて平民だったりします?
「はぁ!?知らないって何よ!しらばっくれないで頂戴!ルーイは私たち王族が懇意にしているアルヴィエ商会のご子息。そしてもうすぐアルヴィエ男爵令息になる人よ!可愛らしくて、背は私よりも少し大きいぐらいだけど、目が大きくて金髪で天使なの。あの天使にイタズラをしたという証拠は、この書類の中に書いてあるんだから」
「なんだって!?しかも、俺とは何もかも正反対じゃないですかああああああ!!!」
あぁ。やはり証拠より、身長と顔を比較してしまいましたのね、ロドルフ様。
確かにロドルフ様は、身長はとても高く、顔もシュッとしててカッコいい部類に入りますものね。
だからこそ、そんな顔が大量の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている姿を見ると、興奮してしまうんですけれど。
そういえば、そのルーイさん?をいじめていたという証拠とは、一体何でしょうか?
その中に、私を興奮させてくれるものがあるのでしょうか?
「まず、貴方はアルヴィエ商会の提供した宝石を買わずに、屋敷の外に追い返した!しかもその訪問にはルーイもいたのに、怖い顔して『帰れ!』って言ったそうね。そんな薄情な男は私の婚約者に相応しくないわ」
「違う!俺はそんなことしていません!信じてください!」
そう叫びながら、無罪を主張し始めたロドルフ様。
その目の淵に光るものを見た気がして、私はつい扇を広げて口に当てて、興奮を抑えました。
確かにロドルフ様がそういう人だったら、最低な男ですわね。
けれど、私は知っているのですわ。ロドルフ様がありったけの宝石をアルヴィエ商会から買ったということを。
なにせ三ヶ月前くらいに、たまたまこの独り言を、昼の王城の中庭で聞いてしまいましたから。
『ふへへ〜。クラリス様に似合いそうな宝石を、アルヴィエ商会で三十個買い占めちゃった〜。どうしようかな〜どうしようかな〜。ふへへへ。何が似合うかなぁ、どんな加工がいいかなぁ。ああっ!せっかく買ったトパーズを、地面に落としちゃったぁ。しかも、傷ついてるしぃ。うっ、うぅっ、うわあああああん!』
ああっ!つい過去の回想で、私の鼻から赤い鼻水がっ!
まぁ、結構昔のことですし、多少は私の想像で補完している所もありますので、ここは多めに見て頂きたいですわ。
この時のロドルフ様は、ほぼ一人ぼっちでしたし、泣いていたのは正しかったということだけ覚えてくださいませ。
「そして、二つ目。貴方はアルヴィエ商会から、物を買わないように根回ししていたようね。そのせいで、アルヴィエ商会の売り上げはガタ落ち。平民にしか物が売れないと、ルーイは嘆いていたわ!この話、どう始末してくれるのかしら?」
「へ?どうしてそうなるんですか!アルヴィエ商会が持っている良質な粘土は、遥か遠方から取り寄せたと、アルヴィエ商会の商人から聞いております!それを、我がブランシャール家が買い占めて、洪水の起きた橋を修復したのです!聞いておられないのですか?」
「お黙り!たとえそれが本当だとしても、アルヴィエ商会の経営がガタ落ちしている事実は変わらないわ!」
「そ、そんなわけ、ないじゃないですかああああ!」
あら?ロドルフ様、今度は顔を両手で覆って悲痛な叫び声を上げ始めましたわ!
あぁ〜、ここで顔を覆う手を外して涙を見せてくれれば、ここで飛び跳ねますのに!
けれど、ロドルフ様の言っていたことは半分正しいですわ。
なにせ二ヶ月前、ロドルフ様が彼の屋敷の正門で、ブランシャール公爵に死ぬほど怒られて泣いている姿を、たまたま見てしまいましたもの。
『うわあぁぁぁぁん!酷いですよ父上ぇ!どうしてこれ以上買ってはいけないのですかぁ!この粘土はありとあらゆる建物を修復できます!それで感謝されてますし、公爵領の税収も国への税収も各段に上がったではないですかぁ!』
『こんのバカ息子が!だからと言って、ワシらの屋敷三個分の金額を勝手に全て粘土に注ぎ込むなと言っただろうが!そのせいで、アルヴィエ商会で粘土の調達が間に合っておらず、商人も疲弊しておるんだ!だから、今はひとまず返金を申請しろ!そして粘土が入ったら、また金を注ぎ込んでおけば良い。分かったな、ロドルフ!』
『ひっ!う、うあっ、あああああああああ!!!わがりまじだあああああ!!!』
あああっ!また過去の回想で、私の口の端から赤い唾液がっ!
この泣き方は、大変興奮しましたわ!興奮しすぎて、私の身が削られるほどに!
しかも今、クラリス様が私たちに見せている書類では、売り上げがガタ落ちしているようなグラフがハッキリとありますわ。
これだけで、ロドルフ様が返金対応をしたという証拠にもなりえますし、あわよくばその彼がっ!泣きながら返金申請をしたと考えるだけでっ!もうっ!
この夜会にあるステーキを全て食べ尽くせますし、何なら婚約破棄の場で泣きそうになっているロドルフ様を眺めながら、会場のど真ん中で永遠の眠りにつけますわ!
けれど、それで死んでしまったら、この先も興奮して喜ぶことができませんし、死にたくないのも事実ですわ。
だからせめて、新しい証拠が出なければいいのですが……。
「最後に!貴方はアルヴィエ商会が男爵位を持つことに最後まで反対したそうじゃない!せっかくルーイが私と結婚したいからって、男爵令息になる事を決めてくれたのに、とっても酷いわ!よって、私クラリス・ドゥ・モンタニエは、正式にロドルフ・ブランシャールとの婚約を破棄し、正式にルーイ・アルヴィエと婚約することを誓うわ!」
「えっ!?そんなの……そんなの間違っています!そもそも、俺がアルヴィエ商会の男爵位を与えてくださるよう、国王陛下に直々に伝えたんです!ブランシャール家にも、国王陛下と王妃様がサインした書類もあります!その中に、アルヴィエ商会の会長と、そのご子息であるルイゾンの名前もっ!……あれ?」
「!?ルイ、ゾン?」
あら?どうやら、アルヴィエ商会のご子息は、ルーイさんじゃなくてルイゾンさんって言うのですね?
それでも、知らない名前だということは変わりませんわ。
もしかして、『ルーイ』というのは愛称なのかしら。
私は広げていた扇をパタンと閉じ、その先を顎にくっつけます。
すると、当然会場の扉がバタン!という大きな音と共に開かれたので、そこに視線をやると、とある一人の青年が肩で息をしながら立っていました。
見た目からして、小さな見た目で金髪で目が大きい、なのに貴族の服を着ていますわね。
もしかして、彼がルイゾンさんかもしれませんわ。
「クラリス王女殿下!いらっしゃいますでしょうか!?」
「んなっ!ル、ルーイ……どうしてっ!」
ええ、やはり駆け足で会場に入ってきた殿方は、クラリス様の恋人で間違いありませんわ。
ルイゾンさんの纏うオーラから、怒りの感情が見えている気がしますし、クラリス様もどこか慌てていらっしゃる様子。
きっと、ここからまた何か新しいことが始まるのでしょうか?
「ふぅ。ようやく見つけました、王女殿下。そして、貴女の婚約破棄の現場も、実際に見てはいませんでしたが、大声で叫ばれていたので、一部始終聞こえておりました。なぜ、そんなことをなさるのですか?」
「だ、だってっ!そのほうが、貴方と婚約することを公に知らしめることができるじゃない!しかも、婚約を破棄するには理由が必要でっ!」
「僕は二週間前に貴方に婚約の打診をされた際、『婚約解消をするなら』と言ったはずです。この場で婚約破棄をしろとは言ってません!」
「ひっ!」
あらあらまぁ。そういうことだったのですね。
クラリス様とルイゾンさんが恋人かどうかはさておき、婚約をするための条件を破ってしまわれたら、怒るに決まっていますわ。
しかも、この急展開に、ロドルフ様も目を赤くしながら呆然としていますわね。
そういうところも、少し可愛くて興奮するんですけど、もしかして涙が枯れてしまわれたのかしら?
この際、どうすれば彼を泣かせることができるのでしょうか?
私は考えを絞ろうと、扇の先をこめかみに当てて知恵を絞り出します。
そんな中、会場の中心に到達したルイゾンさんが、胸に右手を添えて紳士の礼をしたかと思うと、会場全体にこう声を張り上げました。
「紳士淑女の皆々様。お初にお目にかかります。私、来月にアルヴィエ男爵令息となる、ルイゾン・アルヴィエと申します。このような下らない婚約破棄の茶番にお付き合いさせてしまい、大変申し訳ありません。そして、未だ平民の身であるが故、先にこの場で発言をしてしまった無礼をお許しください」
「えっ!なんでそこで謝るのよ、ルーイ!貴方はもうすぐ王族になるんだから、先に発言してもいいのよ?」
「僕は王族になりたいだなんて、一言も言ってません!……はぁ。僕はアルヴィエ商会を大きくしたいとは言いましたけど、王族になってまで大きくしたい訳ではないんです。あと、王女殿下が出した証拠は二つ目以外捏造です!ロドルフ様は、三ヶ月前にアルヴィエ商会から宝石を三十個買い占めており、一ヶ月前にも『男爵位を授ける』という書類を、彼の感謝の手紙と署名もある状態で商会に送ってくださいました」
「そ、そんなっ!証拠はあるのかしら、ルーイ!?今持っていないようだけど!」
どうやら、捏造を見抜かれたことに慌てて、クラリス様はルイゾンさんに詰め寄り始めましたわ。
しかし、そんなクラリス様を見向きもせず、ルイゾンさんは冷静さを保ったまま、こう返答をしました。
「それは急だったから、持ち合わせていないだけです。我が商会に出向けば、ロドルフ様の無罪は明らかになります。また、売り上げが下がったグラフが載っていた書類がどこかに消えていたのですが、あれは貴女が盗んだのですね?表に出していた落ち度はあったとはいえ、まさか本当にこっそり持っていくとは。あれはロドルフ様が粘土に対する返金申請を行ったからだと、先ほど父さん……いえ、父上からお聞きしました。しかも、その返金申請の書類はなぜか、書いたところ以外がボッコボコになっていた状態で届いたそうなんです。一体どうしてでしょう?」
「ギクッ!そ、そこまで返金の話を掘り下げなくても、いいんじゃないかなぁ、ルイゾン殿……」
き、き、きましたわああああああああ!!!!
やはりロドルフ様は、泣きながら返金申請の書類を書いていましたわ!
私の読み通りです!最高です!興奮してきましたわ!!
そのうえ、ロドルフ様がまた泣き出しそうな顔に戻りましてよ!
あとは、彼の目に涙が一粒流れれば、問題なしですわ!
さぁ、早く見せてくださいませ!貴方の涙をっ!
バシィッ!
「いったあぁ。もうっ、淑女の後頭部を掌で叩かないで下さいませ、お兄様」
「ったく、ここで呑気にロドルフ様の涙を待ってても仕方ないぞ、リネット。お前の気持ちはよく分かるし、俺もお前も弱者男性の泣いた顔が好みだからな。けれど、泣きながらも立ち向かう姿も興奮するだろ?」
「ま、まぁ。確かに、訓練場でべしょべしょに泣きながらも、一本取り返した訓練兵を見ると、さらに興奮度が増しますわね」
突然後ろから軽く頭を叩いてきたクロヴィスお兄様に、さらに興奮する条件を言い渡され、私は軽く縦に頷きました。
この婚約破棄の茶番劇で、今一番弱いのはロドルフ様ですわね。
いきなり夜会で王女様に婚約破棄を突きつけられ、断罪されかけ、そんな無罪を主張する最中に救いの手が差し伸べられているのに、訳が分からず困惑して涙目のロドルフ様。
これだけでも美味しいというのに、未だロドルフ様が立ち上がって、クラリス様に立ち向かうシナリオが見えませんわ!
しかも、泣きながら立ち向かうという、素晴らしいお姿を!
なのに私含めて、皆さん傍観者なのはいかがなものでしょうか?
「あぁ、そうだ。リネット、俺に一つ提案がある。お前、ここであの婚約破棄現場に躍り出て、ロドルフ様をかっさらってはどうだ?」
「はぁ!?それ、正気なのですか、お兄様!」
「正気正気〜。なぁ、我が愛しの妹よ。お前は見たくないのか?泣き虫ヘタレな公爵令息様が、苦しい辺境伯の訓練に参加して泣き続け、それでも立ち上がって勝っていく姿を見るのは」
「み、見たいですわね……」
「ふっふ〜ん。だろう?」
「……くっ!」
ああもう、お兄様がドヤ顔で鼻を高々にしているのが、なんかムカつきますわ!
「あと、知ってるとは思うが、俺は隣国との結びつきを強めるために、あの国の麗しき公爵令嬢と結婚して婿入りをする予定だ。それで、お前をベアトリクス辺境伯の女主人にしようと考えていたんだが、今気が変わった。このことは父上にも進言するつもりだが、ロドルフ様と婚約して彼がベアトリクス辺境伯になってくれれば、その泣き顔を一生見ていられるぞ」
「んなっ!ななっ、なんて素敵な提案なのでしょう!確かにここ数ヶ月、ロドルフ様をたまたまお見かけした際、あまりにものお金の浪費加減に、ふざけるなって怒らせてギャンギャンに泣かせたい衝動がっ!」
「だろう?であれば行ってこい、我が妹よ。失敗したら俺が骨を拾ってやるからな〜。ははっ」
「〜〜〜っ!本当にお兄様にはムカつきますが、ぜひそうして頂きたいですわ!では、リネット・ベアトリクス、参ります」
そう言って、私はドレスのスカートを軽くあげ、婚約破棄現場に乗り込みました。
ああっ、四方八方に突き刺さる視線が痛いですわ!
ですがそれよりも、私は今この場で、なんとしてもロドルフ様を泣かせて鼓舞し、立ち上がらせたいのです!
だから、未だに四つん這いになっているロドルフ様の前に立ち、クラリス様に綺麗なカーテシーを披露しました。
「クラリス王女殿下、お取り込み中失礼いたします。リネット・ベアトリクスと申します。たった今、この場をお借りして、ロドルフ様に声をかけてもよろしいでしょうか?」
「へ……?リネット、嬢?なんで……?」
「ふん。何かと思えば、貴女はベアトリクス辺境伯のご令嬢ね?ベアトリクス領の精鋭たちを、この国の敵に回したくないし、いいわ。好きになさって頂戴。私はルーイに言いたいことがあるから」
「はい、承知いたしました。では」
いともあっさりとクラリス様のお許しが出たので、私はクルリと後ろを振り返り、ロドルフ様に右手を差し出しました。
「ロドルフ様。先程貴方は、この場で婚約破棄されたとお見受けしました。なので、これはまたとない千載一遇のチャンスだと思いまして、こうして声を掛けさせて頂きました。どうでしょう、ロドルフ様。私と婚姻関係を結んで、我がベアトリクス領に来て頂けませんか?」
「……えっ!?」
「っ!?ど、どういうことかしら、リネットさん!?」
やはり案の定、こうなると思ってましたわ!こう発言してしまった以上、後には引けませんが、会場がさらにどよめいてしまいましたわよ、お兄様!
けれども……あぁ、なんということでしょう。ロドルフ様の両目に涙が溜まり始めましたわ!
あと一歩、頑張ってくださいまし、私!
「ちなみに私も、王女殿下が持ってきた証拠は捏造だと、最初から知っておりました。なにせ、偶然にも貴方が泣いている姿を、ここ三ヶ月の間に二回も見てしまったのですから」
「に、二回って……」
「ええ。最初は、アルヴィエ商会から買い占めた宝石三十個を、王女殿下のために加工しようと考えたけれど、結局宝石の一つであるトパーズを地面に落として傷つけて泣いたお姿。次に、アルヴィエ商会の取り扱っている良質な粘土を買い占めようと、ブランシャール公爵家の屋敷三つ分のお金を払ったけれど、粘土の供給が間に合わず、それをブランシャール公爵に知られて怒られて泣いたお姿。ふふっ、両方とも、とっても可愛かったですわ♡」
「なんで……なんで知ってるんだあぁぁぁ!知られたくなかったのにいぃぃぃ!うっ、ううっ……」
あああああ!どうしましょうどうしましょう、どうしましょう!!
ついに、ついに!私の言葉で、ロドルフ様が泣き出してしまいましたわあああああ!!!
悪気は全くなかったのですが、もう、可愛すぎて心臓がっ!破裂しそうですわああああああ!!
……ゴホン。感動して泣かせる予定が、計画ミスでトドメを刺してしまいましたが、まだ私の役割は残っていますわ。
なので、私は意を決してその場に座り、泣いて涙を流しているロドルフ様を、真正面から優しく抱きしめました。
「申し訳ありません、ロドルフ様。悪気は全くなかったのです。なのに貴方を傷付けてしまいました」
「……リネット嬢」
「けれど、私は知っていますわ。王女殿下や国民の皆さんが喜ぶ笑顔が見たくて、一生懸命頑張っているという事を。きっとその笑顔を見るために、沢山涙も流してきたのでしょう。そして、その涙のあとに何度も立ち上がってきたのでしょう。私はまだ、ロドルフ様の立ち上がった姿は見た事ありませんが、ぜひその素晴らしきお姿をこの目で見たいのです。きっともっと、貴方を愛しく思ってしまいますわ!」
「リネット嬢……うっ、うわあああああぁぁ!!」
あらあらあら。素晴らしき勇姿をこの目で見たかったのですけれど、また盛大に泣き出してしまいましたわ。
本当に、なんて可愛らしくて愛しくて、私を興奮させてしまう、罪なお人なんでしょう!
そして、私に身体を預けて安心して泣いているこの姿もそそりますわ!
つい、顔が緩みそうになって、私はロドルフ様の肩に口を寄せて隠しつつ、彼の背中を優しく撫でます。
そうして、時間が経つ事、数分。ようやく涙が止まったロドルフ様は、私の左手をとって一緒に立ち上がったかと思うと、両目を右手の甲で擦ってからこう宣言しました。
「クラリス王女殿下!ひとしきり泣いた事で、頭がとてもスッキリしました!なので、貴女の言った婚約破棄、喜んでお受けいたします!そして、この場を持って、リネット・ベアトリクス嬢と婚約を結ぶ事を、ここに宣言いたします!」
「ぅえっ!?は、早くないかしら!?でも、貴方がルーイにした事は」
「全て捏造だと理解しております。きっと、後からやってくる国王陛下も、お怒りになられる事でしょう。さて、リネット嬢。いえ、リネット。これからどうしますか?ここで踊っても構いませんが、きっと国王陛下がいらっしゃったら地獄と化してしまうか、お開きになるでしょう。その前に、貴女とこの場を去って、あらかじめ婚約婚姻の準備を進めたいのです。……よろしいでしょうか?」
「はうっ!す、素敵ですぅ!ええ、ええ!もちろん、よろしくお願いしますわ!」
「ふぅー、よかった」
あっあっ、どうしましょう!泣き腫らした赤い目をしながら、スッキリした顔もちで、幸せそうな笑顔を向けられてしまったらっ!
ま、眩しすぎてっ、さらに興奮しすぎてっ、倒れてしまいそうですわあああああ!!!
なんとか両脚を踏ん張りながら、そして右手を胸に当てて抑えながら、私は最大の興奮に包まれつつ、ロドルフ様と共に夜会会場を後にしました。
あぁ、この先どんな素晴らしい興奮に出逢えるのか、今からすごく楽しみですわ!
※※※
さて、ここからは、婚約破棄の茶番が終わってから少しだけ、私達の未来の事をお話したいと思いますわ。
まずはクラリス様についてです。
彼女は結局、国王陛下に婚約破棄による捏造の証拠をでっち上げたという事で、案の定陛下の怒りを買い、とても厳しい修道院に送られたそうですわ。
それでも、クラリス様の王女の地位を剥奪しなかっただけ、甘い処遇だったなとは思いますけど、今頃クラリス様も泣いている所でしょう。
次に、ルイゾンさんについてです。
彼は無事、国王陛下からの正式な紹介で、アルヴィエ男爵令息となられましたわ。
それに先駆けて、アルヴィエ商会も貴族からの注文が大量に増え、さらに忙しくされているとか。
なので今、ルイゾンさんはしばらく婚約者を作らないそうです。
あんなに綺麗な可愛らしい顔立ちに、キラキラとした金髪をしているのに、もったいないと思っているのは私だけではないはずですわ。
だから、今は彼の忙しさを待ってから、存分にロドルフ様と観察することにいたしましょう。
最後に、ロドルフ様についてです。
あの夜会から一夜明けた日のお昼時。国王陛下と王妃の署名、そしてクラリス様の署名が書かれた婚約解消の書類がブランシャール公爵家のに届いたことで、無事にロドルフ様はクラリス様と婚約を解消となりました。
そして、その書類に署名をして王城に送ったロドルフ様は、その脚で公爵家の馬車に乗って、我がベアトリクス辺境伯領へ。
そこで、正式に私に盛大なプロポーズをし、晴れて私は彼の婚約者となったのですわ!
それはもう、最高のプロポーズでしたのよ!
私が返事をずっとしないもんだから、不安になったロドルフ様は「ふえぇ……」と泣き出してしまい、それに大興奮した私が慰めて頷いて、その返事に喜んでまた涙を流すだなんて!
もうっ!愛しさが限界突破してたまりません!ここで死んでもいいですわっ!
……ゴホン。それにしても、やはりロドルフ様は素晴らしき逸材ですわね。
きっと結婚して子供が出来ても、絶対飽きませんし、もっと愛しさが募っていくと思いますわ。
だから、これからも沢山泣いて沢山涙を拭いて、私を興奮させて下さいませ、未来の愛しの旦那様♡
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
久しぶりに精神が強い令嬢と、ヘタレ泣き虫なヒーローを書けて楽しかったです!
よろしければ、感想や「☆☆☆☆☆」の評価、いいね等つけて下さればとっても喜びます!
よろしくお願いします(^^)/