8.これ求むるは天吏の武
4/29 改変済(ポンヌ登場)
闘技場を脱出できたとはいっても、未だ飼育場のなかにいる。この飼育場には魔獣と剣奴しかいないと思っていたが、まさかポンヌ達のような人々が住む農村があったとはな。闘技場で集めた情報とは違う。
とにかく、農村についてはポンヌの仲間達を救ってからだ。
ベルジェは左右に編み上がっていく聖霊制御式を交互に見る。まだ12歳と14歳の子どもなのに精緻に制御式を描くことが出来ている。
「水と土の制御式。本当に大したもんだよ」
少女たちが描いているのは、高位聖霊魔法(≒平面複合制御式)と標準聖霊魔法(≒平面単一制御式)だ。繊細に緻密に、練り上げられていく。
ベルジェは意識を集中し、腰にさしてある刀の柄に手を添えた。
今から使うのは刀剣術のなかでも特殊な部類のもの。刀剣術は身体操作による法術技によって発現するが、これは聖霊魔法の最も精緻な制御式を土台にして成すもの。法術技と聖霊魔法を同時に必要とするのだから、制御式を描けないベルジェでは成し得ない技の一つ。
精緻な制御式となると、最低でも実存強度は3でなければならない。
「リリ、モモ! 今から術を始めるが、引っ張られても踏ん張ってくれよ」
「はいにゃ」
「も~、分かってるってば」
この術は盗賊時代に何度か使った術になる。大丈夫だ、上手くいく。なにせリリは実存強度3、モモは実存強度2でありながらも制御式を複雑に描ける。
踏まえて、聖霊制御式は水と土の2種。六律系譜の二つがあれば、地に在るものの実存強度を捉えることが出来るし、水は生命を捉える。だから法術技の型を丁寧に表す。
「六律の理、これ求むるは天吏の武なり」
□■□異世界メモ□■□
法術技はスキルのことを言います。この世界では『身体で行う聖霊魔法』と呼ばれています。聖霊魔法の一種となるので、制御式に代わって身体的な動作=『型』が大事になるのです。ただ世の中には例外があって「無型」というのが存在するらしいです。それは達人を超えて伝説級や神話級の物語の中にしか出てきません。
なお、法術技(=スキル)の上位スキルが耳慣れしない言葉=マダラーンとかカラージャとか良く分からん名称になっています。ですので、良く分からない単語が出てきたら、戦術核なみにヤバい上位スキルなのだと理解できます。ただ神話などには神話などには、それ以上のモノがあると謳われていますね。
□■□メモ終わり□■□
リリとモモが成した地と水の制御式がベルジェの足元に吸い寄せられていく。その制御式が輪廻の図式として再構成された。そして中心の円を囲むように六つの円陣も微かに現れ―――、
『連天観紋』
ベルジェを中心にして観紋が花咲く。
法術技の行方を見守っていたリリとモモが紡いでいる制御式が一気に形を歪めた。
「くっ、引っ張られて制御式が壊れちまうー!」
「にゃにゃっ、にゃああっ!」
「はわわ~、皆さん頑張ってなのです」
見えない力が同心円状に波打つ。その広がりに呼応して、リリとモモの力が吸われていく。それでもリリとモモは、制御式を維持しようと踏ん張り続けた。
一瞬、黄色の煌めきが数度明滅した。
「ああ、くそっ! そういうことかよ」
「どうしたんだ、兄貴!」
「もしかして、魔獣が来たのにゃ!?」
「いや、大丈夫だ。こちらに向って来ている魔獣いない。それよりもポンヌ、南方3ミーレに実存強度の高い個体がいる。おそらく、それだな?」
「はいです、みんな一つの場所に集められてるです」
「そうか、場所は特定できた。リリもモモもご苦労さん。よく頑張ってくれたな。索敵は成功だ」
リリ達を労うベルジェの片目からは血涙が流れていた。相当に体に負荷がかかったに違いないが、ベルジェは気にする様子もなくリリとモモに笑いかけた。
「ベルジェさん! 血がーーー」
「ん? ああ、気にしなくていいぜ。この術はこういうもんだからな。そのうち血も止まる」
「でもっ」
ベルジェは大丈夫と言うが、それでもモモは駆け寄って血涙を布で拭う。「すまんな、心配をかけた」と申し訳無さそうにベルジェは頭を掻いた。
「では、索敵の結果を共有しようか。ちょっと厄介なことになりそうだからな。ポンヌもよく聞いて欲しい」
「はい、分かりましたです」
「分かりましたにゃ」
頷いたポンヌ。モモはベルジェの血を見ておろおろとしていたが、モモに強引に引っ張られて座る。「ベルジェさんは大丈夫にゃ。大事な話はちゃんと聞かにゃいと」そう言って、リリの手をがしっと握った。思い切り力を入れて握ってしまったのは、モモもまた少なからず動揺していたから。
「10ミーレ(≒15km)を索敵して、分かったことがある」
「10ミーレ!? わわ、実存強度1で出来る法術技を遥かに越えてるです」
「ザコおじにしては、やるじゃん」
「それほどの広範囲を索敵できる法術技にゃんて、女神正典にも載っているかどうかなのにゃ」
「いや、すごいのは制御式を維持し続けてくれたリリとモモだ。女神正典云々てのは雲の上すぎる話だよ。そもそも俺は出来上がった制御式を組み替えたにすぎないからなあ」
「自分よりも上位の実存強度である制御式を組み替えるにゃんて、普通は‥‥‥ううん、そもそも出来っこにゃい」
「モモ、それぐらい出来て当然なんじゃないの?」
「そんなの有り得ないにゃ。ポンヌが言うように実存強度を越える法術技にゃんて、今まで見たことも聞いたこともにゃい!」
「そりゃあ、オレらの経験なんてたかが知れてるわけだろ。そう! 水たまりみたいなもんじゃん。だから、見たことも聞いたこともないなんて当たり前ってことよ」
すごく良いことを言ったとばかりに胸を張るリリ。対して、納得しきれず眉間にしわを寄せるモモは、胸中に渦巻くもやもやを抱えたまま。
「むむ~、教会の文献にだって‥‥‥」
「それよりさ。ベルジェは索敵でポンヌの仲間たちを見つけたんだろ?」
「ああ、実存強度3の奴を見つけた。そいつがいる場所に集められていると考えていい。だが、気になるのは10ミーレ(≒15km)以内に実存強度3が多く点在していたことだ」
「それが悪い知らせにゃ?」
「魔獣か人間かは分からんが、俺が観た限りでは連携しながら動いているように感じられた。だが幸いにも、件の南側の奴はその群れからは離れている。狙うなら今だな」
実存強度3の存在は、おそらく剣奴達だろう。その剣奴たちが組織を作っているとなると、飼育場から脱出するのは想像以上に大変かもしれん。
「リリ、モモ、闘技場から出れば後は楽だと言っていたが、すまんな」
「ベルジェが謝ることなんてないよ。オレたちベルジェ組は、さいきょーじゃん!」
「リリ、それは楽観しすぎにゃ。常に最悪な状況を想定して動かなきゃ、いざとなったときに混乱してしまうにゃ。今回はポンヌちゃんの情報とベルジェさんが索敵で敵の位置を見つけてくれたから、奇襲攻撃が出来るんだよ」
「わーってるって。オレにかかれば奇襲攻撃なんて楽勝でしょ」
「もうリリってば、ちゃんと分かってーーー」
「大丈夫だ、モモ。リリもちゃんと分かってる、そうだろ? ‥‥‥よし、じゃあ奇襲については移動しながら話す。ポンヌは剣奴たちのことを詳しく話してくれ。ちょっと気になっているのは、そもそも実存強度が3なら、俺たちが先の魔獣と戦った戦闘音を確実に耳にしているはずなんだ。だが、こちらを警戒している動きが見られない。ポンヌ、もしかして奴らは手を離せない何かをしてるんじゃないのか?」
「あ、それは‥‥‥」
「いや、無理して言わなくていい。だいたいの予想はついた。それとリリに壊れた大剣の代わりとして長剣を渡す。持ってみれば扱いも自然と分かるはずだ」
「よっしゃあああ、早く助けに行こうぜ!」
ベルジェはポンヌを抱きかかえて、すぐに走り出す。後ろをリリが追い駆ける。そして最後尾にいるモモは、先ほど見せてもらった索敵術の仕組みについて考えていた。あの奇跡のような術が果たして歴史上存在していたものなのか? そして、はっとして息を飲んだ。思わずベルジェを凝視してしまう程に。教会の、なかでも女神聖典の一説に思い当たったからだ。数々の奇跡を行う者、世界の法則を越える者―――ベルジェさんは教会が謳う聖人その人なのではにゃいの? そう思ってしまったから。ううん、絶対そうだにゃ。そう確信してしまう自分に少し驚いて、でも胸の底が 熱くなったのを感じて思わず両手で胸を押さえて、隠す。
なんとなく、「ふぅ」と息を吐いてベルジェは頭を掻いた。モモの視線を感じて「やっぱ、そこに行きつくよなあ」と。モモは幼いながらも教会関係に詳しい。なかでも経典や聖伝に造詣が深い。だから聖人という単語に思い至るのは時間の問題だと思っていた。
確かに、この世界は俺がいた世界の文化や知識が言葉や諺として反映されている。それは俺以外の来訪者が、この世界に影響を強く与えた証左だといえた。それを教会は聖人という名で物語っている。ならこの世界では来訪者はごくありふれた者なのだろうか? 来訪者の創り上げた物は至る所に存在しているのだろうか? だが、不可解なことに、俺はこれまで元の世界の道具や料理、そして何よりも来訪者に一度として出会ったことはなかった。
□■□異世界メモ□■□
法術技?:連天観紋(2種/6律)
①持続型の術。現時点では1時間。
②自己を中心とした任意の範囲内のものを読み取れる。
③観れるのは取り入れた聖霊魔法制御式・実存強度の度合いで異なる。土を軸とした水との2種律は、大地を歩行する生物の実存強度となる。
④インターバルは、現時点において1日。
□■□メモ終わり□■□
□■□異世界メモ□■□
聖霊魔法は六律系譜を原典とする体系。火、水、風、土、死、天の六属性がある。
土:操作中心点【物体】⇒ 大地、植物、鉱物
効果概念【創造】
補:定着
水:操作中心点【液体】⇒ 生命、氷
効果概念【秩序・維持】
補:吸収
□■□メモ終わり□■□
◇
御一読下さいまして、ありがとうございます。
お気に召しましたら、☆評価をお願い致します。