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6.異能と刀剣術

4/29 改変済(ポンヌ登場)


「うん」

「んー、そうだなあ。俺が実存強度が1ってのは知っているよな? そして異能が使えることも知っていると思う。この異能はリリが言ったように『魂を喰らうことで実存強度を上げる』ことができる。だが、これが災いしてか、俺は実存強度を上手く上げることが出来なくなってしまっているんだ」


 俺の話に聞き入る二人の様子をちらりと伺う。真剣な表情で聞き入る二人の姿を見ながら、ふと思う。俺の異能をどこで知ったかんだろうか? ‥‥‥モモは勘が鋭いから、それで推察したのかもしれない。


「いい機会だから、異能について詳しく言っておく。俺の異能は、連樹系喰ラーガディといい、その効果時間は極端に短い。しかも異能を使うには前提条件として、瀕死にならないといけないし、それに条件を満たしたといっても発動するかどうかは五分五分だ。要するに余り当てにできない能力なんだ」


 だから、簡単に命を使ってくれだなんて言うんじゃない。そう釘を刺そうとしたら、


「でもさ~、ベルジェなら必ず発動できると思うんだけどね」

「今回の戦闘での発動成功は、たまたま運が良かったに過ぎない。そもそもだ、戦いに運任せを持ち込んじゃ、命を散らすだけだぞ。だから確実に勝てる戦いをする、それが大事なんだ」

「で、でもさ。いざってときはオレらの命をーーー」

「リリ、それを言ってくれるな。リリの命もモモの命もは大事なんだ。だから、自ら命を手放すようなことは言って欲しくはないんだ」


 ベルジェが語尾に力を込めて少女の二人に言う。しかし、リリはというと『大事なんだ』とベルジェに言われてたじたじになっていた。助けてくれとばかりに横にいるモモにしがみ付く。一方のモモはベルジェからの異能の説明を受けて何かが引っ掛かったのか、ぶつぶつと考え込んでいる様子。そんな二人の様子を見て、ベルジェは上手く伝わったんだろうかと少しだけ不安になった。


 が、


 結局のところ、命を投げ出すような状況にならなければいい。そのためには刀剣術をもっと上手く扱えるようになる必要がある。

 ベルジェは彼女ら2人を見て、固く一本を結ぶ。というのも、それに先ほどの異能の説明をする上で、省いた部分があったから。『成功率を上げるには、より親しき者(・・・・)の魂を喰らう必要がある』ということ。親しければ親しいほど、ベルジェの異能発動確率は上がる。果たして目の前の少女二人に、それを言う必要があるだろうか。俺を慕う子どもに言ったらどうなる? いざという時に命を差し出せと催促しているみたいで、俺自身に反吐が出る。


 ベルジェは気分を変えようと、倦怠感が残る体を無理矢理に動かした。


 俺たちがいるのは黒ノ信徒(≒黒魔術師の配下・実働部隊)が支配する地域、いわゆる飼育場。点在する闘技場と、それを包む地域を総称して飼育場と呼んでいた。その飼育場で行われているのが実存強度を上げるための人間の飼育・・だ。剣奴と呼ばれる者たちが闘技場で選別され、合格者には番号が与えられる。その後に放牧場と呼ばれる広いエリアに放たれる運びだ。その放牧場では凶悪な魔獣たちが徘徊しており、剣奴はそれらを狩り、生命結晶石を得て自らの実存を強化していく。そして一定程度の実存に達すると、黒ノ信徒によって肉屋と呼ばれる施設で解体され黒魔術師の為の生命結晶石が収穫される。残った血肉は魔獣の餌として、放牧場に捨てられるってわけだ。

 だからこそ、こんな飼育場で大人しく付番を待つつもりはなかった。俺たちは黒ノ信徒の隙をついて、闘技場から脱走した。ただ、転移陣によって逃げた矢先で魔獣と鉢合わせしてしまったのは、運が悪かった。だが、こうして計画の一段階目である闘技場から脱走して、こうして皆無事にいるのだから、結果として運が良かったのだということにする。


 ベルジェは腕組みした。


 できれば大きな町に行きつくことが出来たら良いのだが。俺たちは飼育場からの逃亡者、いわゆる流民だ。この世界での流民は根無し草と同義で社会的地位が低い奴隷と同じ。町に受け入れられても、待っているのは安価な労働力の提供者として、もしくは道楽玩具としての立場しかないのが実情だった。


「確かにいきなり町に着いたとしても、流民認定されるだけだよな。ならば、その前に何らかの社会的地位を手に入れておかなきゃならんなあ。ふーむ、人脈かなにか有力な後ろ盾が出来ればな‥‥‥商隊が襲われているのを助けて恩を売るとか?」


 そう考えて、頭を掻く。いや、そもそも未だ飼育場から脱出は出来ていないんだ。人脈を創るなどと絵空事を描くのは、飼育場を脱出してからだろ。変な色気を出して、下手をこいたら終わりだ。

 ベルジェは腰に差してある刀の柄を握る。まー、何をするにせよ、力がなければ何一つ手に入れるものではない。そうすると俺の場合は、刀剣術を法術技(≒剣技)が扱えるまでの練度に達しないとならないわけだな。

 ただその頂は遠く、刀剣術としては初歩の段階で足踏みしているのが現実だった。


 と、突然にモモが声を発した。


「やっぱりそうだったんですね。ベルジェさんは天恵の持ち主だったんにゃ!」


 何度も頷き得心したように満面の笑みを浮かべるモモがベルジェをじっと見つめる。


 確かにモモが言ったように俺の異能は天恵のように見えなくもない。天恵とは女神聖典に謳われている天を司る聖霊からの贈り物を意味する。それは他の追随を許さない絶大な能力であり、その能力があれば伝説に名を刻める。だが、俺の異能は明らかに異質でり、天恵とは全く異なるものだ。転生者である俺には分かっている。異能はこの世界の法則ではない。他世界の法則の現れなのだと。

 天恵という言葉に心惹かれたのか、リリがモモに尋ねる。


「モモ、その天恵ってのは?」

「天恵は聖霊様からの贈り物にゃ。100年に一人いるかいないかのとっても素晴らしい授かりものです。リリも女神聖典を勉強すれば分かることにゃ」

「つってもよ、ここは黒の信徒の領域だぜ? 勉強するにしても、聖霊に関わるものは全部燃やされてるってーの」

「あらあら、私がいつもいつも女神聖典を教えているのを忘れちゃったのにゃ?」

「聞いていると眠くなっちゃうしさ、子守唄代わりにはいいけどー」

「リリ〜、信心が足りにゃああいっ」


 いつものリリとモモのじゃれ合いが始まった。そんななかで、ベルジェは自分たちの実存強度を改めて観てみることにした。



実存強度

 ベルジェ   1.3210

 リリ 土属  3.0001(前値:2.9987)

 モモ 水属  2.5793



「リリが実存強度3になったか。できれば4後半まで上げていきたいな。対してモモは実存強度が2の半ばだからなー。当面はリリを戦闘の主軸に置いて、モモの実存跳躍を目指していこう。とすると、戦闘体形と戦術は練り直すべきだな」



□■□異世界メモ□■□

 実存強度の強化には、次段階の実存に対応した生命結晶石が必要になります。相手の「生命結晶石を使う」とは、相手の次元跳躍累積値を奪うこと。ですので、相手の存在次元が自分よりも大きいことがとても重要となります。とはいっても、現実的に自分よりも強い相手を倒すことは無理難題で、人員と装備を揃えることができる者だけが達成可能な討伐となっています。ですので、持てる者がますます強くなる世界です。


 ①実存強度1=粗珠

 ②実存強度2=輝珠

 ③実存強度3=光珠

□■□メモ終わり□■□



 ベルジェが今後の指針についてぶつぶつと呟きながら思案していると、モモが意を決したように口を開いた。


「ベルジェさん。私はやっぱり、ベルジェさんが生命結晶石を使った方が良いと思うにゃ」


 俺が考えていたことが分かるのか。さすが聡いな。


「しかしなあ、さっきも言ったと思うが、俺は生命結晶石と相性が殊の外悪いわけだし‥‥‥そうだ、モモ、粗珠を持っているか?」


 モモは腰袋に大事にしまってある幾つかの結晶石のうち、粗珠を手渡した。

 ベルジェはモモから渡された粗珠を片手で砕いてみる。すると、リリのときと同じように光の泡がベルジェを包み込むが、決して体に吸収されることはなかった。結論から言って、実存強度は上がらずに体力の回復だけが行われただけだった。

 

「見ての通り、俺は生命結晶石を使っても実存が上がらない。輝珠を使ったとしても、おそらく光珠さえも難しいだろうな。俺自身のことだから良く分かる。俺を心配してくれるモモの気持ちはとても嬉しい。だからこそ、モモがもっと強くなって俺を助けて欲しいんだ。モモとリリが一緒に強くなっていくことが、俺にとっては一番嬉しいし、大事なことなんだよ」

「そ、そこまで言われてしまったら、何も言えなくなってしまいます。分かりました。私はリリと強くなっていくにゃ」


 モモはしっかりとベルジェを見つめ返した。木漏れ日が降り注いできて、モモは眩しそうに目を細めてベルジェを見上げる。

 季節は春、風は少しだけ冷たさを身に纏い、木々の葉を揺らして若葉の匂いを運んできた。モモは胸いっぱいに吸い込んで、ベルジェに誓った『強くなる』の気持ちを強く抱きしめた。


「えっと、ベルジェさん? どうしたのにゃ?」


 ベルジェが険しそうな視線で東の方角の一点を凝視していたことに気付く。はっとしたモモは、瞬時に全身に緊張を走らせ、戦闘態勢に移る。そして、ベルジェと同じ方角に目を向け、神経を集中させる。

 ベルジェは緊張を表した声音で、モモとリリに警戒を促した。


「モモ、リリ、左右に分かれて身を潜めろ。そのまま気配を断ちながら、俺の合図を待て。何者かが此方に走ってきているようだ」

「にゃっ!」

「まさか、魔獣なのか!?」

「いや、どうもこれは人の気配のようだ。数は一つだが、油断はできん。俺はこのまま接敵する」


 無言で頷いたリリとモモは、すばやく左右の茂みの中に身を隠した。

 残されたベルジェは気配が近づく方向、茂みをじっと見据える。もちろん周囲をも探り、別動隊がないかにも注意を払う。


 さて、この飼育場で初の人との対面だ。俺達の敵か、味方か? いや、できれば味方に引き込みたい。にしても、やけに実存強度が小さいのが気にはなるが。


 しばらく待っていると、無造作に茂みが動く。その枝葉を掻き分けて一人の少女が姿を表し、満身創痍の息を肩で吐いている。見れば全身の至る所は傷だらけであり、腹部には血の染みが大きく広がっていた。端的に感想を言ってしまえば、それは何かから必死に逃げてきたといえた。


「そこで、止まれ」


 少女の眼前に立ち塞がる。こうして目の前で見てみると、戦いには縁のないような少女だった。ベルジェが予想していたのは剣奴だったのが、まさか狸族の少女だったとはな。瞳が大きく、丸い耳も含めて縫いぐるみのような愛くるしさがあった。

 声を掛けられた少女は予想外の出来事だったらしく、口をパクパク開け閉めしている。

 ベルジェの腰に刀があるのを認めた途端に、少女はがたがた震えて、


「ひっ! こ、殺さないでっ」


 悲鳴を上げた。勢いよくそのまま逃げようとする。だが、足がもつれて上手く走れずに転んでしまった。ベルジェは剣奴でない少女の姿に多少の戸惑いを感じながら、倒れた少女を起こそうとする。しかし、少女は自分にとどめを刺しに来たのだと思ったのか、必死になって藻掻く。


「安心して欲しい、何も獲って食おうってわけじゃない。お前が何処から来たのか、何があったのかを教えて欲しいだけだ」


 かたがたもって紳士的に言ったのだが、少女が落ち着く気配など微塵もなく、恐慌状態に陥ってしまう。おかしいな、笑顔で話しかければ万事うまくいくと思ったんだが。

 少女は何とか立ち上がろうと、震える手で近くの茂みの枝葉を手繰り寄せた。何度か目の挑戦で、立ち上がることに成功した少女は、そのまま逃げて行こうとする。しかし、それは駄目だとばかりに、ベルジェは少女の肩と手を掴んで柔術よろしく地面に押し倒し、身動きを封じた。


「あああああっ!」


 怯えた少女は絶叫して、そのまま気絶してしまった。


「ザコおじ‥‥‥やりすぎだ」

「おい、俺は取り押さえただけなんだが?」

「ベルジェさん、女の子には優しくしなきゃです」


 二人からジト目で責められてしまう。ベルジェは「えっと、その、すまん。彼女の傷の手当てを頼む」とだけ言い残して、その場を後にした。少女が介抱されているのを背中に感じながら、ベルジェは少女が逃げてきた大元の方角を厳しく警戒する。少女を追って何者かが来ているのではないか? その気配を見逃すまいと、睨むように見つめていた。



御一読下さいまして、ありがとうございます。

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