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33.過去と、これから。

注!!

難解用語の簡易版の『物語』を執筆しています。

こちらの頻度はいったん遅くなります。申し訳ございません。


専門用語は世界観の要素、、、と思っていたのですが、もっと簡易にすべきかな。例えば、修久羅利(からーじゃ)⇒超秘剣とか。そう思って考えていたんですけど、とりあえず専門用語はこのままにして、あまり専門用語が溢れないようにします。


文章が乱筆なので、適時に修正していきます。


 儀式が終わる。

 宴も終わり、静けさが戻った王城遺跡。いまは束の間の休息に身をゆだねて、所々から寝息が聞こえていた。だが、遺跡のはずれの闇間に沈む部屋、そこから小さな音が聞こえる。誰もいないはずの場所であるはずなのに、人為的な音が鳴った。

 ただ星空の光だけが、その崩れた部屋を青く照らし出していた。


 ことり、と陶器の欠片を置く。


 夜光に照らされた部屋のなかで、キナノ翁が目を細めて自らのてのひらを見つめていた。いや、正確にいえば、手のひらにのった陶器の欠片。それに満たされた液体をじっと見ていた。それを窓際に置き、また手に戻す。その度ごとに陶器の音が鳴っていた。

 その欠片に満たされているのは、ただの水。本来であれば酒がなみなみと注がれているはずだが、水以外に手に入るはずもない。いや、水でさえも貴重であった。


 キナノ翁は目を閉じる。

 この部屋には彼一人しかいない。それもそのはずで、キナノ翁は儀式と宴が終わると、人目を避けるようにして、この場所に辿り着いたのだ。

 その宴の場から離れるとき、アルナが不審に思ったのだろう。見止めてキナノ翁の後を追いかけようとした。それを制したのがベルジェで『男には、一人で飲みたい時があるものだ』とアルナを制したのだ。その一連をキナノ翁は背中越しに気配で察していた。


「さすがベルジェ様。年寄りの我儘を聞いて下さる」


 キナノ翁は陶片を窓際に置き、自らの意識を円として広がるように拡散させていく。同時に自らのなかにあるものに触れる。すると眼裏に輿地図(よちず)が広がった。まさに王の力に相応しく、情報集約が飛躍的に向上することは疑う余地がない。そして、目を開ける。


「分かっておりますじや、従者に求められるは忠義・・・」


 再び手にした陶片、その水面は揺れていた。決心はついたはずなのに、恩もある、名誉もある。なにを迷うことがあるのかと自らに問う。

 既に祝いの儀式も宴も終わり、出陣の準備は調ったのだ。しかしーーー、

 キナノ翁は深く目を閉じた。


 それは耳目に焼き付いて離れない幾つかの光景のひとつ。



ーーーお父さま、お帰りなさいませ! えっと、来週の今日はお家にいて下さいますか?

ーーー父を困らせてはいけませんよ。大事な仕事がおありなのですから。

ーーー大事な仕事?

ーーーそうですよ、領主様と一緒に世界を平和にするための大事なお仕事なさるのですから。そうなのでしょう? あなたからも言ってやって下さいな。


ああ。


ーーー来週、舞台があるの。

ーーーもう、この子ったら。でもね、ずっとあなたに見せたいと一生懸命練習しているんです。でも、この混乱した情勢下では無理ですよね。・・・本当に平和になったら家族の皆で一緒にーーー


ああ。


ーーーほんと? ずっと父さまといられるの? 私ね、私ね、お父さまとずっとずっと一緒にいたいの!



 果たせなかった娘との約束、そして自らの主を守れなかった負い目。そのことごとくが胸の奥で渦巻いて苦しめる。酒もどきの水に、自らの老いた顔が揺らめく。しかし、星明かりに照らされた水面に写るは、眼光だけが鋭く光る己の顔だった。


 諦めてはいない。これは自分自身に対する儀式なのだ。昔、教会の密偵として、とある領主を探るために、その領主と縁のある貴族の娘と婚姻し子をもうけた。そして目的の領主にに仕えることとなった。愛のない偽りの家族と思っていたが、いつの間にか本当の家族だと思えてしまっていた。そして、領主に対しても家臣として誇らしく思う自分に気づくのもそう時間の掛かることではなかった。そして悲劇が始まる。政争はいつの世でも起こるものだ。それを忘れたことは一度としてない。しかし、まさか自らに降りかかってくるとは失念を通り越して度し難い。自分は密偵としての立場と家臣としての立場、家族を守る夫としての立場に揺らいでしまったのだ。それが結果として領主に報告する時間を逸失させ、家族を守る手段を失うことにつながった。この手に残ったものは何もなかった。主を失い、密偵としての立場も失い、家族をも失ってこの地に堕ちたのだ。


「なぜ、このような使命を私にお与えになるのか。聖霊よ、女神よ、なぜ今になって!」


 もし、あの時ベルジェ様がいて下さっていたならば皆が助かったであろうに! もちろん駄々をこねている自覚はある。だからこそ皆には見せたくはなかった。しかし、自分の底にある感情を観る必要があった。ベルジェ様を主として仰ぎ、忠義を尽くすならば己の心に闇となって深く沈んでいるモノを観なくてはならない。


「娘を助けられなかった」


 思わず言葉が漏れ、涙が溢れた。それほどまでに大事であったのに、気づくのが遅すぎた。襲撃のあった屋敷で、焼き崩れる屋敷の中で、手の平にあったのは娘だったものの顔半分。そのときの娘の表情が脳裏にこびりついて今でも忘れられない。どれほど苦しかったことか、どれほど痛かったことか。何もかもが遅すぎたのだ。


 ふと冷たい風が崩れた部屋のすき間から吹き下ろし、目元を流れる涙をすくう。思わず顔を上げたキナノ翁の耳元に甦る言葉があった。


ーーー本当に平和になったら、ずっとお父さまと一緒にいたいです!


 平和・・・ああ、そうだな。

 もう叶えられないと思っていた、かつての約束。自分の無念さを唾棄し、娘との約束を胸奥に閉じ込めたのだった。それが心の痛みと共に思い出された。「そうか、そうだったな」キナノは呟き、掌に載せていた陶片を窓枠に置いた。


 ならば我が魂にかけて、妻と子のために私は歩もう。


 眼光は、その強さを増していた。

 娘との約束を果たそう。かつての我が主との約束を果たそう。そして、妻に贈るべき花を手にしよう。


「すまぬな。儂はもう少しこちらでやらねばならんことが出来た。約束を果たさねばな。だから輪廻のたもとにて、しばし待っていてくれ」


 星空の蒼さが輝く夜の空に誓うキナノ翁。その朽ちた部屋の死角にあった壁際、その薄暗さのなかにアルナの姿がすっと消えた。しかし、キナノ翁が気付いた様子はなかった。


 蒼穹からは風が冷たく吹きおろしていて、肌寒い。キナノ翁は思う、これは今の状況なのだと。ベルジェ様も、そして我々も力も財もがか細い。これから我々が住むべき場所を創り上げていくのだからその通りなのだ。そう、これから奮い立ち、戦っていくのだから。


 部屋を後にするキナノ翁の背後で、光の泡となって消える、盃もどきの陶片。それを背中越しに感じて、目を閉じた。

 そして目を開く。もう振り返るべき過去はない、進むべき道のみがあるだけだ。キナノ翁はベルジェたちのいる場所に向かって力強く歩いて行った。



 ベルジェは、ふぅと息を吐いた。「全く困ったやつ」と呟いて天井を見上げた。それから意識を内観に切り替えて、王麒樹の従者権限を制限していたのを解除する。


 キナノ翁は気配に聡い。あそこまで近づいてしまうと気取られるだろ。ったく、全く俺が輿地図の権限制御をしていなかったら、とうなっていたことか。


「ますます悪手の一手だろ」


 俺がアルナを制したにもかかわらず、あそこまで気にする必要があったのか? となると、まさか・・・そういうことか? この遺跡が、アルナの堕ちた王城なのだから、過敏になってしまった? このアルナの王城は---従者の裏切りにより堕ちた? 多分、そういうことになのだろう。ふむ、と口元を固く結んでからベルジェは何度か目のため息をつく。


「まったく困ったやつ。自分で抱え込まないで、俺に話せば良いのにな」

「にゃ?」

「すまん、起こしてしまったか。大丈夫だよ、何も問題はない。ほら、モモ。明日は早朝から強行軍だぞ。いまは、しっかり寝ておけ」

「ぐごー」

「リリったら、寝息たてすぎにゃ」

「はは、そうだな。でも、俺としてもしっかり眠ってくれて安心する。だから、モモも安心していい。俺はずっとそばにいるからな」


 そう言って、ベルジェは左右にいるモモとリリを抱き寄せた。それから、風邪をひかないように毛皮の毛布に包まる。今日の風は冷たいからな。


 しばらくして、寝息をたてるモモを見やって、ベルジェは空を見上げた。アルナの気配は、今だ遺跡のどこかを彷徨っている。思うところがあるのは分かるが、独りで抱えるべきではないと思う。なにせ、俺とアルナは魂でつながっている相棒なのだから。

 まったく困ったやつだよと、今度は胸中で呟いた。



ご一読くださいまして、ありがとうございました。

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