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32.継承すべき王の力

一か月に3~4回は投稿していきたいです。感想やご意見があればコメントを頂きたいと思います。

文章が乱筆なので、適時に修正していきます。

 アルナは腰に手を当て得意そうに大きく胸をそらしている。その表情には先ほどの不安な影はない。ベルジェは「大丈夫そうだな」と軽く呟いて、身を起こした。


「律龍の件は分かった。これからは言葉にしないように気を付けるよ。ってことで、アルナ。ここに来てからそれなりに時間が経ったし、そろそろモモとリリの所に戻らないか? 心配していると思う」

「それは大丈夫だ。ここは現世界との時間軸が異なっておる。いくらここで時間を過ごしたとして、現実世界では刹那の出来事である」

「聖霊魔法ってことか?」

「そうだ。正確には王麒樹の力といえる」

「王麒樹の力ねえ。それはアルナの力でもあるわけだろ。王麒樹はアルナ自身でもあるわけだからな」

「ふむ! 良いところに気づくものよ。・・・そうだな、もう少し目途がついてからと思っていたが、王となるベルジェに吾から祝いを送ろう」

「え? 王麒樹は受け継いだからーーー」

「吾が王であったときのものだ。既に吾では使うことかなわないが、お主だからこそ使えるものになる。いずれは全てを使えることとなろうが、今は一つだけになってしまうことを許してほしい。だからこそ、選ぶのだ」


 アルナは立ち上がり、宙に複雑な制御式を描く。そして、選ぶべき王の力は三つ。


 ひとつは、天炎。それは大地を焼き尽くす業火で決して消えることはない。

 ひとつは、あまねく豊穣。それはすべての植物を育む大地で決して土がやせ衰えることはない。

 ひとつは、雫集めし輿地よち図。それは王と繋がる者からの情報を即時に集約する情報図で決して余人に見られることはない。


「最後だけ毛色が違うよな」

「やはり気になるか。説明すれば、輿地よち図は世界地図のようなものだ。記載されるのはあらゆる情報であるが、しかし情報を集めねば意味がない」

「情報集めなら、俺の索敵術がある。それに余人には見えないといっても俺と繋がる従者なら? 俺と同じ当事者となり得るのではないか? ゆくゆくはポリーヌとポンヌの音声通信網を併せれば情報の確度が上がるだろうし、元諜報員のキナノ翁が情報網を組織化すればさらに隙がなくなるはずだ。考えるだけでも、十分魅力的だ」


 それに、もっと輿地図の発展性があるように思えてならない。うーむ、輿地よち図に組み込む能力? いや、もっと別の使い方があるとか? はあ、出来の悪い俺の頭では具体的なひらめきがないのが情けなくもある。だが、従者が多くなっていけば予想もつかない使い方を見つけてくれるはずだ。  

 そんなベルジェに諭す声がある。


「ベルジェ、良く考えることだ。輿地図も万能ではないぞ? 従者の集めた情報が偽情報である場合も考えられる。それを即時に情報を共有化してしまうことの危険性。戦いのなかであればなおのこと、致命傷となってしまうこともあろう」

「しかしなあ。天炎は強力な攻撃力となってくれると思うが、正直何発も撃てるものでもないんだろ? たとえ現段階で使ったとしても、おそらく最後は多勢に無勢になる。俺たちの目下の敵は剣奴、魔獣、黒魔術師といったように多勢力だ。しかも、敵の数も要所も分からん始末ときている。確かに2、3発撃てば限定された戦場では勝てるだろうが、戦場が連なっていく敵地では数の少なさにジリ貧になる。それに、黒魔術師には勝てないだろうな。奴らの力は想像を超える。だから、現状では天炎は有効に使えない。次に(あまね)く豊穣だが、もちろん目下の食糧問題は一気に解決するよ。だが作物栽培には時間がかかるものだから安全な拠点があってこその力だろ。それに戦闘手段にならないから防衛手段を別に用意しないとならない」

「ゆえに輿地よち図を選ぶと?」

「ああ。俺たちの最優先事項は拠点の発見および維持だ。拠点候補を見つけ、選ぶうえでも情報集約の輿地図は役に立つ。それに索敵の共有や、今後の戦略や戦術を検討するうえでも期待できるものだ。それに、食糧についてはアルナが聖地の土を使って聖霊魔法を用いれば何とか出来るって言っていたからな。だからアルナに頼らせてもらう。出来ればこの先一ヶ月分の作物の実を得て欲しい。それまでに必ず拠点を見つけてみせるから」

「頼もしいな。それによく観えている。たとえお主がどれを選ぶにせよ、吾が全力で支えることに違いはないのだ。ベルジェ、本当に輿地図で良いのだな?」

「ああ、よろしく頼む」


 アルナの長い指先が宙をなぞり制御式を紡ぐ。軽やかに踊るように制御式を編みながら、彼女は横目でベルジェを見る。なるほど、ベルジェは慎重な男なのだ。力を手にしたのだから己を誇示するように天炎を選ぶものとばかり思っていた。それが男の性であると確信していたのだがな。ベルジェは組織の安定と安寧を選ぶか。ふふ、良い男だ。拠点を得るために輿地図の選択は最善の手段といえよう。

 アルナの描く制御式が執務室を星空に染め上げて、


「ベルジェ、用意はいいか?」

「ああ、問題ない」


 アルナは両手でベルジェの頬を包む。彼女の顔が間近に迫ったことに戸惑いを覚え「え? アルナ、どうしたんだ?」とベルジェは想像していたのと違う一挙手にたじろぐ。


「戸惑うことはない。ベルジェ、吾の瞳をみるのだ。それで輿地図は継承される」


 真っ赤な紅の瞳。吸い込まれそうなほどに透明で綺麗に思う。だが、どこか悲し気な、深く傷ついた色をベルジェは観た。そのまま十秒ほど経過しただろうか、自分の瞳が熱く燃えるような感覚を覚えた。


「こら、動くでない。継承は継続中ぞ、じっとしているのだ」

「ああ、分かってる」


 それから数秒ほどが経って、額にひやりと冷たさを感じた。それはアルナが自身の額をベルジェに押し当て、それで継承は完了した。アルナが言うには、輿地図は王の瞳の中で稼働するもの。したがって、余人は見ることが出来ないのだと。


「従者は見れるんだよな?」

「勿論だ。ただ王が従者に与えてやらねばならんがな」

「どうやって与えるんだ?」

「ふふ、吾と同じように与えればよいだけだ」


 にやりと笑うアルナに、ベルジェはふむと唸る。先ほどのアルナの手順を思い出しているベルジェ。その姿を見て、真面目な男というものはかくも可愛いものかと、アルナは新たな発見に微笑む。来訪者は聖霊とはわかつものであるが、吾はベルジェに聖霊の祝福があることを願おう。世界は今もなおいびつであるが「ベルジェに、どうか数多(あまた)の聖霊の祝福があらんことを」と。

 とーーー、

 ベルジェが部屋を見渡していた。そしてアルナに尋ねる。


「そういえば、部屋の装飾が増えたような気がするんだが?」

「そうだ。この部屋はお主の力の有り様を表している。輿地図を手に入れたのだから、当然に調度品が増えるのは道理だよ」


 以前は執務机と椅子といった質素なものだったが、今は来客用のテーブルとソファが置かれており、しかも暖炉には火が揺らめいているという。「様変わりすぎる」と言ってしまうのも無理からぬこと。


「テーブルの上の調度品を見るがよい。ここは現実世界とは異なるのだから、輿地図を広げてみることもできる。が、早く元の場所に戻りたいのがお主の心境か」


 アルナはテーブルに置かれてあった三球儀のようなものを指先で軽く触れた。回り出す三つの球を見ながら「しかし、そう急ぐものでもないか」と頷き、ベルジェに向き直った。


「王が戻ると言うのなら、是非もない」

「突っかかる言い方だな」

「ふふ、まあ気にするな。吾とて拗ねるときもある。ああ、そうだ。一つ注意すべきことを伝えよう。お主の異能は吾が抑制している。だから、異能が無秩序に周囲の生命を貪ることはない。だからといって、発動条件は変わらぬままだ。輪廻の途上においてこそ発動条件ーーーお主が瀕死になることは省略できたが、あまりその力は使うでない」

「分かってる。そもそも俺には刀がある、これをものにすることが俺の課題だ」


 刀を示すベルジェにアルナは頷き返す。それからアルナは両手を一度合わせて、叩いた。乾いた音が室内に響き、すると視界が一変した。


 ベルジェの目に見慣れた顔が覗き込む。


「ベルジェさんにゃ?」

「モモ? ああ、そうか。戻ったんだな」


 心配そうに見上げてくるモモ。その頭に軽く手を添えて「大丈夫だ」と応えた。ベルジェは目をこすり、数度頭を振った。なるほど、輿地図が観えるとはこういうことか。索敵を意識することで輿地図を意識下に展開できる。使ってみても、体に負荷が掛かるといった問題はなさそうだ。ならば、早速これをモモとリリに与えないとな。

 そう考えているベルジェの耳に元気なリリの声が入ってくる。


「モモ、何を心配しているか分からないけどさ。師匠なら大丈夫だぜ」

「んー。それなら、いいんだけどにゃ」

「あっ、そうか! 師匠は難しいこと考え過ぎて気持ち悪くなったとか?」

「もう、そんなわけにゃいでしょ。リリ、貴方こそ物事をきちんと考えなきゃいけないです」

「えー、またその話かよ。頭使うよりも体を動かした方が問題解決は早いっての」

「リリぃ~」


 彼女らのやり取りを見ながらベルジェはふと思う。俺の意識が別の場所に行っていたのは刹那の時間でしかない。だが、モモは何かを感じたようだった。これも巫女ゆえの能力なのか、それとも人の機微を感じるのが鋭い子だから、聖霊魔法にも気づいたのかもしれない。というか、それよりも問題はリリだ。お前も刀を習ってるんだから、もう少し気配を感じられるようにならんとなあ。もっと勘を練磨しないと刀剣術はものには出来ない。そもそもだ、剣を振るというのは、相手の動態に合わせるだけではなく、その相手の精神やカロリックの状態を掴む必要があるわけで・・・。

 ぶつぶつと唱えているベルジェ対して、アルナもまたベルジェと同様に二人のやり取りに目を向けていた。ただ、それは微笑ましいものを見るように二人の様子を見守る優しさがあった。

 そんなアルナの姿に気づき、ベルジェは思う。戦いのない太平の世であったのなら、彼女らの微笑みも一層温かみを増すのだろうか。だが、それを手にするためには、無情にも子どもであっても戦いに臨まなくてはならない。


「モモ、リリ。ちょっといいか?」

「はいにゃ」

「師匠、待ってたぜ! 刀の修行だろ」

「いんや、それよりも大事だな。従者たるもの王の力を使えるものだろ」

「にゃ?」


 ベルジェはモモをじっと見つめる。それからモモの頬に手を当てがって「そのまま、俺を見続るんだ」と言い終わると、自らの額をモモの額にくっつけた。


「にゃにゃにゃっー」

「師匠っ!?」


 驚いて叫ぶモモとリリ。モモはびっくりして大きな瞳をものすごく大きくしているし、リリは後に続く言葉が出ない様子で口を開け閉めしている。ベルジェは「リリ、もう少し俺のそばに来てくれ」と、リリにも同様に、じっと見つめて彼女の額に自らの額を押し当てた。もちろんリリはびっくりして声が出る。


「ちょわわっ!!」

「よし、これで輿地図が使えるようになった。しかし、キナノ翁にも同じ事をしないといけないのか」


 うーんと悩んでいるベルジェの姿に、傍目で見ていたアルナが声を押し殺すように笑っていた。


「くくっ、安心しろ、ベルジェ。キナノ翁に同様にする必要はない。確かに輿地図の共有化には接触(・・)は必要だが、そもそも王が輿地図の権能を渡すと従者に対して決めれば済む話だ。あとは王麒樹が自動作用する。それに吾が先ほど行った、互いの額を合わせるのは演出だよ。そのほうが熱が入るであろう?」

「まぢで?」


 呆気に取られているベルジェを、ぷぷぷとアルナは笑って応えた。


「従者の絆を深められたであろう?」


 なっ!? 驚くベルジェの肩にアルナは手をのせて「安心しろ、モモとリリに輿地図を利用する権能は渡っている。それに良かったではないか、モモもリリも喜んでおる」と、ベルジェの視線を彼女らに向けさせる。


 モモとリリはアルナの説明は聞こえていないようで、それぞれに顔を赤らめて、そして頬を緩めていた。そんな様子を見てベルジェもまた「くっ、今更ながらに恥ずかしすぎる」と片手で自らの顔をおおっていた。

 アルナはそんなベルジェに「新鮮であるな」と感想を漏らす。大真面目でやった行為を茶化したのだから怒ると思っていたのだがな。この反応は、ふむ、新鮮である。


 ベルジェはこれまでの区切りが突いたとばかりに、大仰に大きく手を振って、

 ぶっきらぼうに言う。


「さあ、宴の準備に行くぞ」



ご一読くださいまして、ありがとうございました。

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