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31.王と王麒樹、それぞれの立ち位置

一か月に3~4回は投稿していきたいです。感想やご意見があればコメントを頂きたいと思います。

文章が乱筆なので、適時に修正していきます。

訂正:△秘書 → ◯相棒・ベルジェが求めるのは相棒。秘書が良かったらコメント等ください。

*月末はエクトプラズマに忙しいので、投稿は12月初旬となります。


 儀式と併せての宴の準備が始まる。邂逅ノ儀は出会いの祝いであり、そして宴は始まることへの祝いである。だから、一緒に開いてしまっても問題はないだろうとベルジェは思う。とはいっても、せっかくのハレの場にもかかわらず豪勢な食事とはならない。ここに来るまでの道程で、食糧のほとんどは食い尽くしてしまっていた。亜獣を倒して手に入れた肉類は、15人の流民団にとっては多量とはいえない。それでも一日に一食で良くここまで持ったものだと思う。なにより、今日は新たな門出の祝いだ。一口だけ多めの食事をするくらいの贅沢は大目に見てもらいたい。


 ベルジェは広間を見渡した。

 すでにキナノ翁の指示のもとに大方の人達は広間を後にしていた。残されたアルナと従者達のみが、ベルジェの次の言葉を待っている。

 そこで、ベルジェは食糧問題を話そうと考えをまとめていた。

 ここを拠点にして穀物栽培が出来れば一番だ。山の上では生命力が削がれる法則が働いていたが、どういうわけかこの遺跡では肥沃な土が確保されている。この土を使えば穀物を手に入れることが出来るはず。時間はかかってしまうのが難点だが、穀物と野菜を収穫すれば食料も栄養も確保できる。そうすれば身体の鍛錬も大幅にはかどるーーー、


「恐れながら、ベルジェ様」

「ん? キナノ翁、なにかあるのか?」

「はっ。恐れながら先ほど拠点の話がございましたが、第二、第三の拠点については如何ようにお考えでいらっしゃるのか、このキナノにご教授お願いしたく思いますじゃ」


 第二、第三の拠点だと? 予想だにしていなかった問いにベルジェは「ふむ」とだけ応えて腕を組む。一体どういうことなのかと頭を捻りながら、キナノ翁を見て再び唸った。キナノ翁は元々は帝国の諜報員だったといっていたな。それに流民たちのまとめ役でもある。そこからの発言だと考えれば・・・。

 ベルジェは質問の意図を推し量れず、ふとアルナを横目で盗み見た。そこには彼女の思案気な表情があった。いや、どちらかといえば思い悩んでいるような表情。それを見て、はっとした。そうか! ここはアルナの落城した玉座の間だ。そこを拠点にすることは、アルナ自身にとって心中穏やかではないはず。それなのに、嬉々として拠点とするなどと言い出した俺は、まったく情けない。そして、キナノ翁の意図に気づく。王樹が起動したことに目を奪われていたが、大きな力が発生したのだからここが山頂付近ーーー力が減衰する力場ーーーであっても力の波動は周囲に轟いたに違いない。強者であればなおのこと気づいたはずだ。そこまで至って言葉が漏れる。


「できれば食料を確保するだけの時間が欲しかったんだがなあ。だが、安全を考えるなら、すぐにでも移動するしかないな」


 ベルジェの発言に、キナノ翁の眼光が我が意を得たりとぬらりと輝いた。その静かな迫力にベルジェは内心で冷や汗を拭う。それを億面に見せることなく、


「だが、宴だけは行う。もちろん儀式もだ。敵に恐れをなして尻尾を巻くなんてあり得ない。せっかくの門出の祝いをなくすわけにはいかないだろ?」

「はっ、おっしゃる通りでございますじゃ」


 宴をする時間は確保する。それぐらいの時間なら何とかしてみせる。ベルジェの覚悟を受けて、キナノ翁は頭を下げて準備の場に去って行った。モモもリリを連れ立って準備に向かおうとしたが、ベルジェが止めた。モモはまだ病み上がりなんだから休養していた方がいいんじゃないか。とアルナに同意を求めようと思い、傍らに声をかけた。


「アルナ、ーーー?」


 ベルジェの言葉は耳に入っていない様子で、アルナはただ広間を見つめていた。かつての王の広間を、そして崩れ去った現在の広間の瓦礫をただ見つめて、それから自らの手のひらに目を落とす。呟きが聞こえた。


「『聖霊転じて天麒となり、其を支える王樹とならん』・・・か。確かに吾奴(あやつ)の言った通りであったな」

「アルナ? 大丈夫か?」

「ベルジェ? ああ、いや、何でもない。それよりも、吾に聞きたいことがあって声を掛けたのであろう?」

「ああ、そうだった。モモの体調が大丈夫かってことが聞きたかったんだ。それと、さっきはこの場所を拠点にすると言ったが、別の場所に移動した方が良いと思ってな。そこで、どこか作物の栽培に適した場所の見当があれば、それを含めて教えてくれないか?」

「モモなら大事無い。できれば少し体を動かして、体に気力を巡らしてみるのが良いだろうな」

「そうか、心配し過ぎだったか」

「ふふ、モモとリリに対しては心配し過ぎる方が良い。従者との絆を育むには最良ぞ?」


 アルナはベルジェに言いながら、顔はモモとリリに向けてほほ笑んでいる。聖霊に祝福されし、良い仔らじゃ。


「で、作物とな? ふむ、なるほど。確かに肉類の食べ物では栄養価が偏る。早々に穀物や葉野菜は確保せねばなるまい。ならば、良い方法がある。この場は吾の居城の影響を受けて、土が肥沃である。求める食材の種があれば、吾の聖霊魔法をもって実を得ることは容易いことだ」

「本当か!? それならば食糧を確保する労力を、兵力の増強に充てられる。さすがはアルナだ。王麒樹といい、聖霊魔法といい、ここ最近なんだかトントン拍子に進んで恐い気もする。誰かが後ろで糸を引いているみたいじゃねえか? そういえば、アルナは『律龍の思惑』とか言ってたよな?」


 パチンと指を鳴らすのはアルナ。

 突如として、景色が暗転する。モモもリリもいなくなって、ベルジェとアルナだけが別の場所に飛ばされたよう。だが、飛ばされたのはどこか安心するような空間。突然すぎるのは今に始まったことじゃないが、事前に説明があったもいいんじゃないのか。そう思いながら、新たに来た空間を見渡す。そこは明らかに執務室の形をした部屋。ただ調度品や書物もなく、机と椅子があるだけの質素な造りの場所だった。


「アルナ、ここは?」

「いきなり『律龍(・・)』と言ってくれるな。我らにとってその名は禁句ぞ。吾奴を呼び寄せる呼び水となってしまうのだ」

「え? そうなのか? しかし、アルナがそこまで神経を尖らす相手なのだとしたら、よほどの強者つわものってわけか。でも、それなら王麒樹の起動に気づいて、既に俺達のことを見つけているんじゃないのか?」

「強者か。その言葉ですらぬるい。そもそも王麒樹など些末なものに反応などせぬよ。吾奴にとって興味があるのは自らの手札となるモノのみ。そのためのーーーいや、結論から言えば、この場所ならば大丈夫だ。『律龍』と名を言っても吾奴の耳目には決して届きはしない。なぜなら、ここは吾とベルジェ、お主との魂の接点なのだからな」

「魂の接点? それが執務室? あー、訳が分からないんだが・・・」

「ふむ。最初から説明した方が良いようだな。吾は王麒樹であり、王麒樹はお主の中に入って魂と同化した。そして吾の存在は消え失せ、王麒樹の力は完全にベルジェのものとなった・・・いや、なるはずであった。しかし、ベルジェが来訪者であったために同化が途中で止まり、力の承継も不完全となった。ゆえに、吾も存在することとなってしまったのだ。ただ、その方が現世界に戻ってくるのが早くなったのは、過ちの功名ともいえる。力を継承した場合、ベルジェが使い方を覚えるまで時間を要してしまうからな」

「過ちの功名なんて言うんじゃない。アルナには感謝してもしきれない」

「そう言ってくれると嬉しい。しかし、良かったのか? 吾が存在しているということは王麒樹の継承は不完全であるということだ。したがって従者育成に支障をきたしてしまう」

「んなこと、気にする必要はないだろ。そもそも俺はアルナをあの場所から助けたかった。こうしてアルナが無事なんだから上手くいったってことだ。それに、王麒樹も他に方法を見つけてやるさ。方法は一つに決まってるわけじゃない。アルナも手伝ってくれるだろう?」

「ああ。ああ、もちろんだとも。吾が手伝うことは当前だ。この場所は吾とお主との魂交の証しであり、王麒樹の中枢に繋がる場所でもある。ここが執務室の形となったのは幸いといえる。閉じた執務室の扉。それを開ける方法さえ探し出せば、きっと糸口が見つけられよう。それに執務室の形となったのはベルジェの記憶による意識付けが大きい」

「へー、なるほど。重要な場所が執務室になったってのには納得するところがあるよ。執務室ってのには・・・たぶん、憧れていたんだろうと思う。いつかはそういう場所でーーーってな。まあ、その話は置いておくとして。アルナ、それともう一つの疑問を聞いてもいいか? どうして服装が変わってしまってるんだ?」

「ふふん、やはり気になったか。先ほど魂の同化と、つまり魂交と言ったであろう? 部分的には混ざりあったのだ。吾がお主の記憶を観れるのは当然である。そのなかでも特に気に入った服装があったので着てみたまでのこと。お主の記憶では・・・確か仕事が出来る者、秘書が着る服ということであったな。どうだ、吾に合っているであろう?」

「え? 俺の記憶ってーーーまさか、元世界でのってことか」


 タイトスカート、ノースリーブで首元にリボン。曰く、秘書ということらしい。いまさらながらに俺の元世界での趣味ってどうなってたんだ。ど趣味すぎるだろ・・・確かに良く似合ってはいるがっ! 


「そうか、気に入ってくれて何よりだ」

「え?」

「この場所は魂が触れ合う場所でもある。ゆえにお主の心も分かるというもの」

「まぢで? じゃあ、俺もアルナの心が分かるってことか」

「ほう? 吾を覗きたいのか? ふむ、興味を持たれるのは嫌な感じはせぬがな」

「あー、いや。そう言われると、からかい甲斐がなくなるっていうか何というか。はあ。まー、大事なことがあれば言ってくれればいい」

「覗こうと思えばいつでも出来るのだが、妙なところで律儀な男であるな。だからこそ、お主が来訪者であっても吾が存在できたのであろうよ。来訪者はすべからく異能を有している。本来であればその異能が聖霊との調和を滅ぼすものになるはずだった」

「調和を滅ぼす? どういうことだ?」

「ふむ。来訪者は聖霊と調和が出来ぬゆえに、聖霊魔法は使えない。それほどまでに来訪者の力は絶大だということだよ。だが、吾は王麒樹の力により異能の力を抑制できる。お主は魔法に憧れているのであろう? 来訪者であっても聖霊魔法が使えるように術式を新たに組もう。どうだ? 吾はできる秘書であろう?」

「お、おう」


 身を乗り出して自らを誇示してくるアルナに押されて、ベルジェは執務室の椅子に倒された。アルナが自分を売込みたい気持ちが強いってことは十二分に分かった。考えてみれば、そうか。自分の立ち位置を決めるってのはアルナにとっても例外じゃなかったってことだ。既に王としての役目は国が滅んだのと同時に失ってしまったのだから、これからは出来る秘書として頑張って行きたいってことなんだろう。


「アルナには助けてもらっているよ。だから、今後も出来る『相棒』として色々と教えてくれ」

「ふふん、当然だ。全て吾に任せるがよい」


ご一読くださいまして、ありがとうございました。

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