30.王と従者
再開します!よろしくお願いします。
次回(ep.31)は11/23に投稿します。
ベルジェを中心にして描かれていくのは光焔に輝く樹形制御式。伝説で語り継がれる光景を目の当たりにして呆然としてしまう流民たちであったが、ただアルナだけは満足そうに笑っていた。『よもやここまでの芽吹きに至ろうとはな。やはりベルジェは吾が求めていた者に相違ない』確信を深めて胸中が熱さで満ちる。それが何かを思い出させたかのように目線が広間を向く。
そう、ここはかつての玉座の間。そこでは己が有していた王麒樹、その吾に対して平伏する家臣たちがいた。しかし、アルナは首を横に振る。過去で現在を染めるわけにはいかない。それではせっかくの芽ぶきを台無しにしてしまう。吾にできることは、
「キナノ翁。系譜開祖の誉れを口にしたのなら、その意味の重さが分かるであろう? すなわち誉れを成すとは、身の不断によって行いを為し、心により示し続けるということだ。それが系譜開祖の誉れとなる」
「はっ。払暁の紅様のおっしゃる通りでございますじゃ。このキナノ、不肖ながら一意専心で望む覚悟でございます」
「ふむ、ならば良い。が、吾も多言すぎたようだ。せっかくの王樹の芽吹きに立ち会っているのだからな、今は系譜開祖の栄誉に浴そうか」
「ははっ」
キナノを筆頭にして皆が頭を深々と下げている。ベルジェは「あー、腹がいてえ」と思わず腹をさすった。いや、だって、王麒樹が突然に起動するなんて何がなんだか分らねえし、王と呼ばれて威厳を保つために気を張っちゃいるが・・・刀を振っているときが自分には一番性に合ってると思う。にしても、アルナはずいぶんと得意げだよな。その隣にいるモモは感極まっている様子だし、いや、俺はそんなにすごくはないんだ。そうだろ? と、ベルジェは傍らのリリに同意を求めてーーーあれ、リリ? 固まってる? 仁王立ちで口元を真一文字にしての腕組み状態。あー、これは何も分ってないって顔だな。そうだよな! リリ、俺と同じで訳が分かんねえよな!
ベルジェがうんうんと頷いていると、ちょうどアルナから思念通話が入った。
(ベルジェ、さっそくだがーーー)
(アルナ、その前に聞きたいことがある。王麒樹について何も知らされていないんだけど、何か説明はしてくれないのか? 系譜開祖とかどうとか難解なことばかりで、どうにも俺は蚊帳の外過ぎると思うんだが・・・)
(そう拗ねるものでない。むしろ王麒樹がこんなにも早くに起動したことを誇る場面である)
そのアルナの説明のない応えに、ベルジェは何か言ってやろうと思い息を吸った。その隙間を狙ったように耳に響く声があった。
「うわ~い、石床の欠片がぴかぴか光ってる。懐に入れたらぽっかぽかだよ~」
「ちょっと、勝手に取っちゃ怒られるわよ。って、ポンヌ! みんなが畏まっているのに、あんたがそんなことしたら、ご飯抜きになっちゃうんだからね!」
「ご飯抜き? それはお腹ぴかぴかで許して~」
「だからって、私の服のなかに石を入れるんじゃない~!」
和やかだな、とベルジェは思った。そして息を深く吐いて頭をかく。ここで揉めたところで仕様もないか。俺が無学なのは事実だし、それをひがんだところで前に進むわけでもない。
(分った。だが、後で説明はしてくれよ)
(ああ、分っている。吾の至らぬ点は謝罪する。だが、王麒樹が起動しているうちに3名の従者を選定して欲しいのだ)
(従者? 王の従者ということか?)
(そうだ。王麒樹はベルジェを王として認め目覚めた。こんなにも早く芽吹きに至るとは想定外ではあったが、逆に安息の地を手に入れる手段がついたともいえる。王麒樹は王の力となるものであり、その具現として『従者』がある。ゆえに、安息の地を創ろうとするお主は、これから王麒樹を育てていかねばならん。従者を育てることで王麒樹は成長し、若木となるだろう。それが王の力になって、同時に民にも恵みをもたらすものとなる。端的に言えば、良いこと尽くしというわけだよ)
(へー、そいつは凄いな。だが、当然に悪い面もあるんだろ?)
(今それを聞くか。・・・そうだ、2つある。王に対する多大な負荷と、そして王麒樹を育てるのは現段階では不可能であることだ)
(そうか、分った)
そこで思念通話を切って、ベルジェは崩れた王座から立ち上がった。アルナもまたうなずき、告げる。
「王麒樹が芽吹き、王と共に在る者は王麒樹の加護を受けることとなった。我らは王と共に在る、相違ないか?」
「はっ、我らのすべては王と共に在り、聖霊を祝福いたしますじゃ」
その応えにアルナは頷き、頭上に輝く王麒樹の光を見上げた。
「王は従者を求めている。だが、王麒樹はまだ芽吹いたばかり。全ての者たちは加護を受けるが、従者となるのは3名だけとなる。始まりは3名ではあるが、全ての者が従者の任を受けられるよう奮励せよ」
アルナはベルジェに向き直り、頭を垂れた。それを受けてベルジェは従者となる者の名を広間に響かせる。
「始めの一人はキナノ翁。引き続き皆のまとめ役を頼む。俺は若輩者ゆえに経験が足りないからな、そこを補ってくれれば有難い。そして、モモ、リリ。俺について来てくれるか?」
「はい、もちろんですにゃ」
「おう! 師匠の弟子として頑張るぜ!」
王麒樹の一部が各々の体に入って、一瞬だけ輝いた。それで王麒樹と共に王であるベルジェと繋がったという。それは感覚として理解できた。気配が分かるというか、存在として常に認識できるような感じだ。
その様子を横で見ていたアルナは頤に手を置いて、ふむふむと呟いている。現状の組織の在り方をそのまま追認したような従者認定であったな。確かに想定しない出来事が立て続いた故に、各々の立場や役目が不安定になりそうだった。悪く言えば崩壊しそうであった。そこを王麒樹という絶大な信頼を持つ保証によって現在の組織体を繋ぎ止めたというわけか。組織をいずれ変革するにせよ、まずは組織の安定をこそ最優先にする。この場面ではベルジェの人となりが分かったといえよう。アルナはそれを踏まえて、今後の安息の地を手に入れる進路の絵を考えていく。
王麒樹は、ベルジェが従者を決めると、すぐに彼自身のなかに吸い込まれるようにして消えていった。
「従者を決めたことだし、キナノ翁が進めていた邂逅ノ儀を含めて宴の場を設けようか。俺たちの新たな出発という意味でな。ああ、そうだ。その前に皆と今後の指針について共有しておきたい。当面は安全確保と食糧確保が優先課題となる。そのための仮の拠点については、この遺跡を第一候補と考えている。意見がある場合は言ってくれ。それで、十分に備えが着いたら飼育場からの脱出を行う、といったところだな」
□■□ 今後の指針 □■□
大目標:安息地を創設し、生活を確立する
中目標:飼育場からの脱出(黒魔術師に勝てないため)
小目標:安全確保&食料確保
□■□ メモ終わり □■□
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