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29.希望の居場所

◯次回投稿は10月に投稿予定(全体を見直し中のため)

✕次回は9/30まで、投稿予定です。

 二人のやり取りを見守っていたベルジェが胸を撫で下ろす。気づけば、傍らにいるリリが震えていた。労をねぎらうようにベルジェはリリの頭を撫でながら「リリは良く頑張ってくれた。おかげでモモは大丈夫」と、ベルジェの言葉にリリは頷きながら目元を拭った。


「モモ、よがっだああっ〜」


 リリは感涙にむせび泣く。「良かった。うぅ、本当に良かったよおおお!」モモが助かったことと、本当の意味での笑顔が戻ることに感激して「なんか聖霊って、いい奴じゃん」とか言っている。相手は高位聖霊なんだが、リリは皆と違ってアルナに恐れを感じていないようだ。感受性は高いのに、不思議に思う。だが、優しい子であることに違いはない。


 ベルジェはふぅと息を吐いて、広間の下段に平伏している流民たちに目を移す。

 俺は護衛役でいいと思ってはいるんだが。ああ、いや今は相談役か。俺のような貧農家ひいては奴隷出の者にとっては、王なんて目が霞む。「どうしたものか」と、ベルジェは逡巡する。まあ、アルナの企ては分かっちゃいる。結果としてその企てに乗るしかないというのが、なんとも言えん。俺がもう少し若ければ、王という言葉に胸を熱くしたと思う。


 だが、だからといって皆の熱を冷ますわけにはいかないのが、俺たちの置かれた現実だ。寄る辺なき者たちが見出す希望こそが、彼らが生きていくための力になっている。これまでは聖霊信仰に謳われた聖地を目指すことが生きる糧になっていた。ただ、それは蜃気楼のような不確かなものにすぎず、信仰心によってのみ見出すことができる点で、尋常ならざる精神力が必要だった。

 しかし、それらを吹き飛ばす出来事が目の前で起こったのだ。彼らの目には神話説に讃えられた聖霊がまざまざと姿を現しており、その払暁の紅のアルナが王と呼んだ男ーーー王麒樹の継承を宣されたベルジェがいたのだ。


 これまで辛酸を舐め続けてきた彼らは、どう思うだろうか。想像するに、我らの王として聖地での安寧の生活を約束してくれる? それとも、自分たちを虐げてきた者どもに一矢報いるための力となってくれる? いずれにしても、流民たちの王となってくれると確信しているのは事実だ。なにせ、目の前にいる男は間違いなく自分たちと同じ聖霊信仰者なのだから。


 ベルジェは誰にも分からないように軽く息を吐いて、口元に力を入れた。


 膨らんでいく勢いを失速させてはならない。これから剣奴や黒ノ信徒、そして黒魔術師との戦いがあることは想像に難くなく、勢いが削がれてしまえば死を招く結果となる。詰まるところ、俺は王を演じなければならない。期待を抱かせ続ける希望とならねば、皆の生存が危ういのならなおさらだ。


 俺は足元の崩れた玉座に座り、皆を見渡した。まったく柄じゃないんだがな、と胸中でうそぶきーーー「ったく、俺はこの年になっても往生際が悪い」いや、俺は恐れているのだ。嘗てのように彼らに夢を魅せ、彼らを死地に招いているだけではないのかと。


 ベルジェは少しだけ震えている拳を、力任せに堅く握った。


「これからのことを話したい。皆は顔を上げて欲しい」


 呟くように言ったベルジェの言葉を待っていたとばかりに、アルナは勧んで「御意に」とベルジェの前で傅き、そして立ち上がると流浪の民たちに目を向けた。

 広間に聖霊たる声が凛と響く。


「王の許しぞ。皆の者、面を上げよ」


 いきなりのアルナの言葉にベルジェは面食らった。見やれば皆は押し黙ったまま。


(アルナ、いきなり王だなんて俺なんかがあり得ないだろ。まったく、大上段のモノ言いすぎる)


 その呟きに、返答があった。


(ベルジェよ、王が不安がってどうする? 王の立場に慣れぬのは分かるが、そう自らを卑下するものではない。乾いた土に水が浸透するにも時間がかかるものだ)


 これは思念通話? 驚いてアルナに顔を向ければ、彼女は涼し気に流民たちを見下ろしていた。しかし、自信に満ちた彼女とは裏腹に、水を打ったように押し黙っている彼ら。ベルジェが不安に感じ始めていると、アルナが機を見計らったように畳みかける。


「不敬であろう? 王が聞いておるのだ、応えよ」


 場が動いた。嫌な空気ではない。高ぶる気持ちを落ち着かせるような、それでいて少しだけ自らの境遇の行く末に不安を滲ませた、そんな彼らの気持ちを感じた。

 ベルジェは、彼らもまた自分と同じく不安なのだと理解した。だからこそ、その不安を安心に変えてやりたいと強く思う。


 畏まったキナノ翁が、流民を代表してはっきりと力強い声音で、


「ベルジェ様、やはり貴方様こそが王でございます」


 流民の皆の表情も見えた。胸の内に積もりに積もったものが燃えている熱さを感じる。そういうことなのだ、俺は皆の気持ちを一身に集める場所に立っているのだ。もう二度と失敗はあってはならない。ベルジェは、再び皆を率いる場所に立つことの重さを実感する。


 傍らに目を向ければ、リリが瞳をキラキラに輝かせて俺を見ているし、モモは顔を上気させて見つめている。そして、キナノ翁をはじめとする流民たちも胸に期待を膨らませているのも分かる。今まで虐げられてきたのだ、その反動は大きなものであって然るべきだ。


 過去の俺は全て自分一人の力でやり抜こうとしていたが、リリやモモ、そして流民達と共に居場所を築いていくのであれば、失敗はない。それにアルナも手伝ってくれるのだろう?

 そう思っていると、アルナは俺の胸の内が分かるのか、優しく頷いてくれた。


 ベルジェは皆を再び見渡してから、想いを語る。


「寄る辺なき者たちと呼ばれる人たちがいる。聖霊信仰を光の道しるべとして、幾星霜もの間、連綿と口碑を絶やさずにいた。苦難という言葉では語りつくせない日々に耐え、ついに聖地への糸口を手にした。その者たちがいま、聖霊アルナと共に在る。俺は約束の地を求めるのではなく、築こうと思う。これは宣言であり、皆に対する誓約だ。俺と共に、俺たちの居場所を創り上げないか?」


 俺たちは寄る辺なき者ーーー元奴隷や流民だ。居場所のないものが既存の町に流れ着いたところで、新たな受難の日々は目に見えている。それに聖地を探し求めて歩いても同様だろう。ならば、築き上げるべきだ。彷徨い歩くよりも、創り上げる。希望はそこにこそあるはずだ。

 即座に応えたのはアルナだった。


「安寧の場所・・・なるほど、我らが王は天下国家を望まれておるのだな。皆、聞いたであろう? 王は我らを必要としているのだ」

「我らで良いのでございますか?」

「キナノ翁、臆するでない。国を興すことは、すなわち始まりの者としての栄誉を浴するということ。なればこそ、誇れ。王と御子を連れてきたそなた等にはその権利がある。吾から言えることは、王と共に成すべきことを成せ」


 キナノ翁はアルナの言を受け、左右に目を配る。すでに広間には流民の全員が来ていた。そしてキナノ翁はゆっくりと頷いて、ベルジェをまっすぐに見上げた。


「我らは故郷を失いし流民ですじゃ。聖地を目指すことにすがりながらも明日は知らぬ身の者たち。このような我らをベルジェ様は救ってくだされた。この御恩はお返しせねばなるまいと、皆で話しておりましたじゃ。しかも、このような我らに王の始まりの民になれる栄誉を与えて下さる機会を・・・我らの応えは一つにございますじゃ。ベルジェ様、貴方様こそが我らの王でございます、どうか我らをお使い下され」

「使うという言葉はあまり好きではないよ。俺が求めるのは、俺と共に創り上げる者たちだ。キナノ翁をはじめとして、皆にそれを期待しているし、頼りにしている」

「もっ、もったいなき御言葉。系譜原典となられるベルジェ様から、かような言葉を頂けること、これ以上の誉れはありませぬっ」


 その言葉を受けて、王麒樹が起動した。


うーむ、、、この29話の後半の会話、、ちょっと改変するかもしれませぬ。。。

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