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24.諦念と希望

投稿間隔は1週間に1回ほどの予定です。


 話の内容が理解することなしには状況を打開する方策も見つからない。ベルジェは気が急ぐ。こうしている間にも、最悪の事態ーーー黒魔術師が一団を蹂躙している可能性があるのだ。呑気にやってる暇はない。

 焦るベルジェを冷ややかに、その女性はベルジェを観察するように眺めていたが、突如として瞳に生気が灯った。見つめる先はベルジェの左腕。


『‥‥‥貴様は来訪者か? しかも連樹子が血命樹とはな、皮肉が効いている』

『しかし? ふむ、なるほど。巫女の器による逆流入というわけか。しかし、人の身では耐えられるものではなかろうに』

『このような次元に囚われるとは、お主も運がな‥‥‥いや、まさか律龍の思惑ではあるまいな?』

「あんたが何を言っているか見当もつかない。悪いけど、こちらの希望を単刀直入に言わせてもらう。俺は元の場所に帰りたい。その方策を知っていたら教えて欲しいんだ」

『吾に対するその物言い、立場が分からぬ痴れ者ではあるが、吾もまた願いを乞うた者。しかし、時間が経ち過ぎてしまったよ』


 そう話す女性の口元には力がなく、前髪が紅い瞳を覆い隠す。うなだれた肩に無念さが滲み出ていた。


「ちょっと待ってくれ、時間が経ち過ぎたって? それは元の場所に帰れないって言うんじゃないだろうな」


『ふむ、そうか。帰ることを願うお主は、巻き込まれたと考えられような。吾が言葉を残してから何年が過ぎたか‥‥‥現世界での時間で約三百年が過ぎていたか。そうであれば吾の言葉が失われる道理であるか』 


 ぶつぶつ呟く女性は自らの思考に沈んでいく。だが、ベルジェは言葉を交わすうちに徐々に会話が成立していくことに安堵を覚えた。このまま会話を続けて、帰るための糸口を探し当てよう。ベルジェの瞳から観ても、朧気だった女性の形も魂の宿った存在として映っていた。

 だから、強引だとは思ってもベルジェは女性の両肩を掴んで、強く意志を伝える。


「頼むっ! 俺は元の場所に帰らねえとならねえんだ」

『ほう? 力づくで我を通そうとするか、まさに男よな。吾が求めたのは、王の魂と巫女の器である。お主は来訪者ではあるが、王としての強引さは合格としよう。だが、すまぬ。すでに中枢まで侵されていてはどうにもならぬよ』


 呟くように言う女性は悔しさを瞳に滲ませて、ベルジェを見つめた。『許せ、力なき吾を。既にこの次元は輪廻の途上である』そう言ってベルジェの腕をするりと抜け出ると、王座を見上げた。その姿を受けてベルジェは、やはり女性は王に違いないと確信した。


「お前は王なのだろう? 力がないからといって簡単に諦めるのかっ、方法があるんじゃないのか?」

『‥‥‥吾は既に肉体を失っておる。ここにあるのは王城と共に砕けた残滓に過ぎない。それに実存強度1のお主では何を頼んでも到底無理であろうし、来訪者の連樹子であれば八騎士が黙っておらん。ここはそういう場所なのだ』

「勝手に決めつけないで欲しい。やってみなければ分からないだろう?」


 ベルジェはなおも食い下がるが、逆に女性は口元を硬く結んだ。確かに男の言葉に思うところがないわけではない。ここで朽ち果てることに納得しているわけではないのだ。だが、受け入れるしかないではないか。既に吾の肉体は滅び、そして力も失われ精神もあやふやな状態にあるのだ。男の呼び掛けによって吾は吾であることを取り戻しはしたが、なにせ今の今まで正気を失っていたし、吾の中枢が受けている浸食が止まるわけでも回復するわけでもない。

 こうやって男と交わす問答も無意味なのだろう。ベルジェの必死の訴えさえも、諦念を退けることにはならない。と、男の腰に差してある刀を見止めて自嘲気味に笑った。


『刀? まさか、お主は修久羅利からーじゃの使い手と言うのではあるまいな?』

「そうだと言ったら?」

『そう上手い話などありはしなーーー」


 突然に言葉が止まる。女性は瞬時にベルジェに詰め寄り鬼気迫るように「有り得ぬ! 来訪者が修久羅利からーじゃを扱えるなど、決して有り得ぬのだ」と吐き捨てた。だが、すがるようにベルジェの左右の手首を掴んで、聖霊魔法を流し込む。


 ばちっ


 鋭い閃光が視界を奪う。明滅の直後に女性の驚愕する表情と微かに笑う口元が見えた。『まさか、このようなことが有り得るとは信じがたい』女性はベルジェに流し込んでいた自分の両腕を見せた。その右手―――ベルジェの左腕を掴んでいた手は吹き飛んでいたが、しかしベルジェの右手を掴んでいた手は蒼い制御式を浮かべたままだった。


「おい、大丈夫なのか。お前の右腕がーーー」

『気にするでない、吾が勝手に確かめただけのこと。そして収穫があった。これが律龍の思惑であったとしても、女神の慈悲なのだと受け取ろう』




ご一読下さいまして、ありがとうございます、

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