18.はわわ、わ〜
4/29 改変済(ポンヌ登場)
「はっはは。姉妹とも元気で何よりだ」
ポリーヌとポンヌのやり取りを微笑ましく思いながら、ベルジェは先ほどキナノ翁から伝えられた狸鬼族の内容を口の中で反芻する。
「キナノ翁。蜘蛛の性質といったが、情報構築に長けている種族と受け取っていいのか?」
「はい、狸鬼族の糸は通信網となり得ますじゃ。ただ、範囲と精度は実存強度に応じますので、現状では300テリム(≒300m)が限度ですじゃ」
「300テリム! 十分すぎる。通信が出来れば状況が劇的に変わるぞ。いや、すると、剣奴側にも狸鬼族がいるということになるか」
「恐れながら、剣奴は聖女信仰に染まっております故に人間種族以外は認めません。人間以外は魔獣の肥料になっていますじゃ。ですので、奴らが通信を使うとしたら魔動器以外にはございませぬ」
「人間以外を肥料扱いとは、全くの外道どもだな。ポリーヌとポンヌ、俺はこの一団の護衛役を引き受けるつもりでいる。だから、安心して欲しい。剣奴どもの好きにはさせないからな」
「ベルジェ様っ! 護衛役などと」
「さすがに駄目か。今しがた出会ったばかりだしな。ただ情報を聞くだけで終わりっていう関係も味気ない―――」
「いえ、ベルジェ様には儂ら一団の長になって頂きたくございますじゃ。このキナノ、伏してお願い申し上げまするっ!」
「なっ!?」
俺が一団の長だって? 確かに俺は原始聖霊信仰者であるが、素性の知れぬ男をどうして一団の長に据える結論になる? 一団に入団は認められることはあっても、それ以上はないと思う。正直分からん。冗談かと思ってキナノ翁を見れば、力強い眼力で受諾を迫る勢いだ。本気なのだ。
『皆を率いる』との言葉に過去を思い出す。かつて俺が農奴だったときの仲間たちに対しても、盗賊だったときの仲間たちに対しても、一緒に俺は村を作ろうとか、表の世界で一旗揚げようとの謳い文句で誘った。しかし、いずれも彼らを焚き付けただけで終わってしまい、結局何も成すことはできなかった。残ったのは無残に敗れた夢と、累々と横たわる仲間の死体だけ。三度目の今もそうするというのか? そこまで俺は厚顔無恥にはなれない。俺では無理なのだ。本当に一団の長になれるような、皆を率いていけるような人物ではない。そう、只の凡人でしかないのだ。出来る事があるとすれば、この身を呈して盾になる以外に使い道などない。
「俺は見ての通り、ただの奴隷崩れだ。キナノ翁の推薦はうれしく思うが、俺よりもキナノ翁の方が経験と信頼がある。だから、これまで通りキナノ翁が一団の長をすべきだと思う。俺は一団の護衛としてあるだけで、手一杯だ」
「ベルジェ様が護衛役では皆が納得致しません。そうでしたら、儂は一団の調整役として任を果たします。ベルジェ様は何卒一団の長、無理と仰られるなら相談役に! どうか御就任して頂けますようお願いしますのじゃ」
「相談役か。それ(護衛の相談とかなら)なら、いいか」
「畏まりましたのじゃ! ポリーヌ、ポンヌ、ベルジェ様が一団の相談役(長と同格)をお引き受け下さった。早く皆に周知するのじゃっ」
キナノはベルジェの言葉を掴んで、そのまま号令を発する。
キナノからの指示を受けて、動いたのはポリーヌ。素早く一礼するとすぐに、続いてポンヌは慌てて一礼もどきをして駆けて行く。
あっという間の出来事にベルジェは暫く呆気にとられていた。「確か相談役って、長よりも格下だよな? もしかして相談役って長の別名でもあったんだろうか」と考えたところで承諾した事実は覆らない。自分の頭をわしゃわしゃと搔いた。
「分かった。相談役として任は引き受けたよ。キナノ翁、今後ともよろしく頼む」
「ははっ、このキナノ。ベルジェ様に誠心誠意お仕えいたしますじゃ」
完璧なまでの一礼に、つられてベルジェも一礼してしまう。俺に果たして務まるのかと不安がよぎるが、キナノ翁のそこまで期待に何とか応えねばとも思う。
ベルジェは無意識に手を握り締めては開くを繰り返す。その硬質化した手の皮膚に剣ダコができた手を見やって、自分が躊躇している原因を思い返す。俺は過去においてそうだったように、また皆に期待を抱かせて死地に誘っているだけではないのか? と恐れているのだ。『ベルジェ、お前に皆を守れるのか?』と問われれば、自信がないのが本音だ。だが、だからこそ俺は刀剣術を遮二無二、研鑽を続けてきたのではないのか? ベルジェは天を仰いだ。とはいっても洞窟のなかで見えるのは、沫光明で照らされた岩肌と無限に広がっていく暗がりだけ。
その闇間の向こうから楽し気な喧騒が聞こえてきた。料理も出来上がる頃合いなのだろう。「覚悟を決めるべきってことか」ぽつりと呟き、刀に手を置いた。迷いがあるかどうかを気にする時期は既に通り過ぎている。一団の相談役を引き受けた以上、必要なのは己の覚悟のみだ。大きく息を吐いて、ベルジェは前を見据えた。俺は必ず皆を守り、皆を安息の地に連れて行こう。そこでなら元奴隷の逃亡者なんて肩書は意味をなさないし、きっとリリもモモも幸せに暮らせるだろう。もちろん俺がそこにいるかどうかなんてのは分らんが、全力を懸けて必ずやり遂げてみせる。
ならば、まずはお互いに良く知ることから始めよう。
「そういえば、一団には狸鬼族以外にもう一種族いたよな?」
「はい、豚豪族と申す者たちですな。一族の数は減って現在3名のみになりますじゃ。名はブオウ、ブコツ、ブタン。全て成人している男性でありますゆえ、気兼ねなく使っていただければと思いますじゃ」
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