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17.ポリーヌとポンヌ

4/29 改変済(ポンヌ登場)

◇ 


 戦闘があった場所から南方に5ミーレ(≒7.5km)ほど進んだ先の、岩山の傾斜に出来た小さな洞穴。そこにベルジェ達はいた。運よく見つけたその場所を野営地として、流民たちと食事の準備を始めていた。


 洞窟の暗闇に灯るのは聖霊魔法の沫光明(ライト)。手元が見える程度の明るさだ。


沫光明(ライト)か。火属性の使い手は、旅路で重宝するよ」

「実存強度1の魔法ではございますが、何かと役に立っておりますじゃ。ほれ、エルマ。こっちに来て挨拶なさい」

「改めまして、ベルジェ様。私はエルマと申します。先程の戦いの最中にアンナを救って下さいましてありがとうございます」


 深く感謝の意を示すのはアンナの母親であるエルマ。夫に先立たれた20歳半ばの未亡人であり、配偶者を失うことは飼育場ではよくあることだという。そのエルマから先程も感謝を伝えられて、ベルジェは受け取っていた。今回も改めてエルマに伝える。


「アンナが無事で良かった。エルマもアンナもあまり無理をしないようにな」

「はい、ありがとうございます」

「そうだ。キナノ翁に聞いたんだが、料理の腕もなかなかのものだと聞いている。うちのモモも料理に興味があるようで、目をかけてくれればありがたい。それと、食材で足りないものがあったら言ってくれ。収納術に納めているものなら何でも提供しよう」

「モモ様ですね。先ほど、香草についての相談を受けました。ちょうど保存していた薬草がモモ様が求めている香草の素材になるようでしたので、お渡し致しました。さっそく調合されましたところ、出来上がった香草はとても風味良くありました。そこで、私どもの郷土料理に使ってみようとの運びになりました。ベルジェ様、どうぞご期待下さいませ。ああ、そうです! 僭越ながら、私の聖霊魔法は火属性標準型でございますが、入り用あればどうぞ何なりと申しつけ下さいませ」

「ああ、助かる」


 一礼してエルマは退席していく。洞窟内を流れる風が食材を焼く香りを微かに運んできた。芳ばしさが鼻先をくすぐり、不思議と懐かしさを感じてしまう。エルマの話ではモモとリリが料理を手伝っていると聞いた。少し心配でもある。またリリが、「塩だけあれば、美味しさが違うんだよ」とか言って迷惑を掛けているのではないだろうか? だが、エルマも戻っていくのだから大丈夫だろう。


 ベルジェはここまでの道中を思い起こす。エルマは料理が得意であり、香草で悩むモモと意気投合したのは必然だった。洞窟に向う道すがらでの香草談義も、ベルジェの耳に入ってくるほど白熱していた。だから、腹がすいてしまったのは決して食い意地が張ってのことではない。

 ふむ、とベルジェはおとがいに手を載せて考えた。「確かに香草は大事だよな。前の世界では調味料とかもあった。もしそれが作れたら、この世界の食文化が劇的に変わるよな。ただ、俺よりも先に来た来訪者が調味料などは作らなかったわけはない。その調味料といった来訪者由来の事物がないというのは、何かがあるということ。それが明らかにならない限り、調味料等といったような来訪者であることを喧伝してしまうものは表に出すべきではないよなあ」などと独り言ちていた。


「ベルジェ様?」

「ああ、すまん。別のことを考えていた。話しを戻そう。キナノ翁が知っていることをもう一度整理してみようか」

「はい。この飼育場は6つの杭によって閉ざされておりますじゃ。そのなかで剣士さま、いえ剣奴どもが東西に分かれて争っているのが現状でございます。しいて言えば西区は力を求める男が多く、東区は人材を求めていると申しましょうか‥‥‥特に女と子どもが多いと聞いております」

「では、東西の首長についてどこまで分かっている?」

「これは剣奴どもの話から盗み聞いた事でございますが、西区は女性、東区は男性が長を務めているとのこと。実存強度はどれくらいあるかは、分かっておりませぬ」

「なるほどな。しかし、キナノ翁は本当に情報に精通しているようだ。剣奴が支配する村にいたのだろう? 村人は自分の村に縛られていると思っていたが、そうではないらしい」

「ベルジェ様っ、大変ご無礼を。申し遅れてしまいましたが、儂はかつて迷い人(・・・)として飼育場にやって来た迷い人ですじゃ。以前は帝国の女神教会の、その、情報を扱う部署に努めておりました。ですので、この地においても情報網を整えることを自らの責務としてやっておったのです」


 言い終わるとキナノ翁は、自分の後ろに目線を送った。そこには先程から狸鬼タヌオ族のポンヌとポリーヌが直立不動の姿勢で畏まっていた。失礼があってはならないとの緊張感が滲んではいたが、どちらかというと狸鬼タヌオ族の縫いぐるみのような愛らしさが際立っていた。


「ベルジェ様もご存じの通りに、彼女らは狸鬼タヌオ族と言いますじゃ。見た目は愛らしい狸の姿形でありますが、実質は蜘蛛ごときの性質を有しておりまする」

「狸鬼族が蜘蛛の性質を? どうみても愛くるしい狸といった感じだけどな」

「はわわ~、愛くるしいって。お姉ちゃん、ど、どうしよう?」

「こ、こらポンヌ。はわわ~じゃないでしょ、ベルジェ様と団長の話し合いに失礼があってはならないの!」


 舌っ足らずな妹のポンヌに対して、しっかり者の姉ポリーヌ。狸鬼タヌオ族のなかで生き残ったのが2人だけと知り、ベルジェは慰めの言葉をかけるべきかと迷った。つらい過去を思い出させてしまうようで気が咎めていたのだが、


「そんな緊張しなくても、ポンヌとは顔見知りだし、そもそも俺は剣奴ってわけじゃないからな。同じ輪廻信仰者の仲間としてお手柔らかに頼むよ、先輩方」

「せ、先輩って、はわわ、わ~」

「ポンヌ! はわわじゃなくて、ここは一団の皆の怪我を治してもらったお礼をして、覚えをよくしなきゃってところなの」

「は、はひっ。あ、あの、治療ありがっとです」

「ポンヌぅ~」



御一読下さいまして、ありがとうございます。

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