16.輪廻葬送ノ儀
4/29 改変済(ポンヌ登場)
キナノ翁が足早に駆け巡り、治療を終えていた同胞たちの間を次々と駆け巡る。それを遠目に見ていたベルジェは、ふととある視線に気づいた。傍らから自分をじっと見上げているモモの視線。なにやら思いつめたように濡ていた。
「ベルジェさ、いえ、ベルジェ様。私も弔いのお手伝いを致しますにゃ」
「モモ、いきなり改まってどうしたんだ? 手伝ってくれるのは有難いが、骸を運ぶのは一団の者たちの方が良いと思うぞ。最後の別れの言葉もあるだろうし、運ぶとなると骸は重いしな。それと俺の呼び方なんたが。様付けされるより、いつも通りに呼んで欲しいだがな」
「あっ、ごめんなさいにゃ。そ、その、ベルジェさ、ん。私‥‥‥輪廻葬送ができますにゃ! お役に立てますのにゃ」
「輪廻葬送!?」
モモの輪廻葬送の単語を聞いて、思わずベルジェは驚愕した。モモは教会の関係者、年齢的にその生徒なのだろうと勝手な読みは入れていた。だが、それ以上の立場なのだと理解した。12歳かそこらで輪廻葬送の儀式をこなせるモモは、おそらく名のある神官位ではないか? 違うとしても名のある神官の家系だろう。手厚く保護されるべき身分の者がなぜ黒ノ信徒の飼育場などに堕ちてきた? 疑問が胸中に沸き上がってしまうが、「いずれにしても、無事にこの飼育場を出てからじゃないと何もできんな」モモに再び目線を向けた。
「そうか、輪廻葬送ができるんだな。それは願ってもないことだ。無念のうちに死んでいった者達の為にも輪廻葬送をやって欲しい。それにな‥‥‥俺はモモが思うような立派な人物ではないよ」
「で、でも! ベルジェさ、んは聖じっ」
「モモっ。俺は只の奴隷に過ぎないよ。それだけの人間だ」
「わ、分かりましたにゃ」
ベルジェ様と呼んでしまったのは、自分と同じ原始聖霊信仰者を前にして高ぶってしまったモモの勇み足だったかもしれない。でも、胸の奥を熱くしている期待は消えてくれそうもない。だから理由を作ってしまう。ベルジェ様は聖人様。だけど、今は名乗るべきその時ではないと私に諭してくれたのだと。聖人様の考えは矮小な自分では推し量ることはできないのだ。
モモは胸に手を当てて、呼吸を整える。ベルジェ様を前にして行う輪廻葬送の儀式に失敗は許されないにゃ。一族の面汚しであった自分が唯一誇れる輪廻葬送の儀式。「ベルジェ様のために!」口元に力を入れてモモは儀式に臨むのだった。
◇
魂を輪廻に還す。この世界には死した者達の魂が還る場所があるのだという。万物全てに魂があり、死して輪廻に還り再び世界に戻ってくる。この輪廻観は原始聖霊信仰に謳われ、そして女神教会の教えに集約される。ベルジェは無意識に口ずさんだ。
「戦いが終れば死者に敵味方の別はなく、全ての御霊は輪廻をもって世界の礎となさん」
しゃん。
鈴の音が聞こえた。モモの手首に掛けた鈴が鳴る。再び両の手を打ち合わせて、鈴音が響いた。それから両の手が広がり、魂の穢れを濯ぐ舞いが始まった。
ベルジェは目の前に広がる光景を静かに見つめている。輪廻葬送の儀式。モモの前には無念に死した同胞たちがおり、その骸からは黄色の淡い光球が幾つも幾つも淡く浮かび上がっていた。その光は揺らめきながら天に昇っていく。
モモの儀式の舞いが深みを増す。驚いたことに地面が淡く輝き出した。その大地からもまた綿毛のような光粒が生み出されて天に昇っていくのだ。おそらく、この飼育場で亡くなった御霊があったのだろう。
輪廻に魂が還っていく様子は、とても幻想的だとベルジェは思った。大小さまざまな光球が互いに寄り添うように揺らめきながら昇っていく。目を細めて見上げ続けた。
「なんという奇跡じゃ、皆の魂が輪廻に還っていく。ううっ」
涙をこぼすキナノ翁は、自分の手の中にあった形見の結髪が淡く輝くのを見てさらに涙にくれる。亡き娘の形見が粒状の光球に変わって、別れを囁くようにキナノ翁の前で小さく揺れた。そして天上に昇っていく。泣き崩れるキナノ翁をはじめとして、多くの流民達もとめどなく涙を流していた。昇っていく光粒は、最後に一際大きく輝いて鈴の音とともに夜空に吸い込まれていった。
しゃん。
モモの儀式が終わった。鈴音の余韻が儀式の成功を締めくくる。そして、残されたのは静寂と悲しみ。それから幾ばくかの喪失感が場を支配していた。しかし、役割を思い出したキナノ翁が、
「ベルジェ様。一団を代表しまして、この度の輪廻葬送の儀を行ってくれたこと、真にっ、真に有難く存じます」
「ああ。輪廻葬送を行ったことで、彼らの魂は安らぎのなかに、聖霊と共に輪廻を巡るはずだ」
「はい。そしてモモ様、とても美しい舞いでございました。皆の魂も道に迷うことなく輪廻に行けますでしょう。このキナノ、かような地で聖霊の儀式に立ち合えたこと心より感謝致しますのじゃ」
「原始聖霊を信仰する者として当然のことですにゃ。彼らを輪廻に送ることが出来たのも、ひとえにキナノ翁始めとする皆の忍耐が生んだ賜物。彼らと貴方がたに聖霊の祝福があらんことを」
キナノ翁はモモに恭しく礼をとり、それからベルジェを見つめて得心したように何度も頷いた。それはキナノ翁の、自らの胸中に芽生えた考えが間違いではないことを確信するかのように。そもそも輪廻葬送の儀を行えるのは高位神官である巫女様のみ。その巫女様を傍らに置くことが出来るベルジェ様は、徳の高い方に違いなく、まさに聖人そのものに違いない。胸に手を置いて「聖霊の導きに感謝致しますじゃ」と呟く。確信に満ちた力強い瞳でキナノ翁は、今度はモモを見た。モモはキナノ翁の無言の問いにしっかりと頷き、だが続けて首を横に振った。「今は、そのときではないのにゃ」とでも言うように。
キナノ翁とモモの無言のやり取りが行われているのを露しらず、ベルジェは自分の横にリリが来ていたことを知った。見れば、彼女はふんすと鼻息荒々しく、ベルジェのすごさが一団全員に伝わった事にご満悦の様子だった。
ベルジェはそんなリリの頭をぽんと撫でて、一団を見る。やはり輪廻葬送の儀式は効果抜群だったようだった。流民全員にあったベルジェたちに対する警戒感はいまや氷解し、代わってベルジェ組は長年連れ立った仲間のように、いやそれ以上の一団のまとめ役でもあったかのように受け入れられている‥‥‥ような気がした。「いや、さすがに気のせいにだよな?」ベルジェは頭を振って、話題を変えた。
「ちょっといいか? キナノ翁。気付けば、夜も深まってきている。皆も疲労と空腹で一息入れたいところだろう。そこで相談なんだが、少し場所を変えて野営の準備をしないか? 俺たちは魔獣の肉を持っているし、一緒に食事でもどうかと考えているんだが」
「はい。ベルジェ様の仰せのとおりに」
「やったああ、メシだぜ!」
「まったく、リリは儀式よりもメシの方が大事みたいだなあ。まあ、リリらしくはあるがな」
「ベルおじー、それは当然じゃん」
「だから、リリは信心が足りにゃ〜い!」
□■□異世界メモ□■□
流浪民の一団の人数は50人から15人(全て実存強度1)に数を減らす。
人間族:10人(老男1、大男1、子男2・若女4、子女2)火魔法、水魔法
豚豪族:3人(すべて男)土魔法
狸鬼族:2人(すべて女)風魔法
□■□メモ終わり□■□
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御一読下さいまして、ありがとうございます。




