13.敵対者
4/29 改変済(ポンヌ登場)
ベルジェはシトリの首筋に刀を振り降ろした。
地面に静かに横たわるシトリを数秒ほど観て、刀を納める。気付けば辺りはすっかり夜に沈み、月明かりが森の深奥を微かに照らしていた。しかし、その淡い光はベルジェの刀の柄に置いてある手を避けるように通り過ぎていく。
互いに殺し合ったのだから、結末はいずれかの死であることは当然だ。しかし、結局のところは今しがたの戦いですら黒ノ信徒の掌の上でしかない。互いに潰し合わせ実存強度を高めさせる。口の奥にざらついたものを感じながら、ベルジェはリリとモモがいる場所に意識を向けた。
戦いは終わった。
これからのことを考えなければならない。言質こそは得られなかったが、ほぼ間違いなく剣奴たちは飼育場で独自の組織を作っているようだ。「規模の大きな放牧場。それに組織だって動く実存強度3の者たち。それぞれ単独で動いていてくれれば良かったんだがなあ。組織として動いているとなると、飼育場からの脱出は一筋縄ではいかないか」もっと力が必要だ。その点、先ほどの戦闘で得られたものがあったのが光明といえる。
既に連天観紋は解除されたにもかかわらず、集中すれば万物の流れが観えるようになった。索敵力が格段に上昇したのだ。これも刀剣術の先を手にした恩恵なのだろう。ただ持続時間が極めて短いが。
それでも刀剣術のさらに深奥に進んで行く道を見つけることができた。思わず笑みがこぼれそうになって、無理矢理に首を振った。同じ剣奴が逝ったのに、俺は刀剣術の先を見つけたことに浮かれている。ったく、そうじゃないだろ。リリとモモを守る当てが出来たから、確実にものにするってことだろ。そう自分に言い聞かせる。
「モモ、大丈夫だったか?」
「ベルジェさん! 私達は大丈夫にゃ。それにドロってした霧みたいなものも消えちゃった。そうしたら嘘みたいに毒も治ったみたいです。あ、あのベルジェさんは大丈夫なのにゃ?」
「心配してくれてありがとな。ほら、俺は昔から毒には強い性質らしいしな。モモも大丈夫そうで安心したよ。で、リリは毒がきちんと抜けているか?」
「ベルおじに心配されるまでもなく、問題なしだよ。なんたって、ベルジェ組はさいきょーなんだから、毒なんて効かねーし!」
「はは、その元気さがあれば大丈夫だな。で、問題はこいつか」
「名前はダトです。でも、それ以外はさっぱりなのにゃ」
手足は縛られ、口には猿ぐつわ。見事に拘束されていた。止血もされており、出血量もさほどでは無くようで、もちろん会話も無理なく出来るだろう。
「ここからは俺が聞く。リリとモモは怪我をしていた人達―――おそらくポンヌの仲間だろうな。その手当を頼む」
「え? オレも一緒に聞き取りしたいんだけどさ」
「リリ、ここはベルジェさんにお願いするのにゃ。私達は私達にできることをする。それがベルジェ組です」
「モモ、そんな恐い目で睨まないでもいいじゃんか。分かったよ、じゃあベルおじ、行ってくるぜ」
リリが走っていく。その後をモモが一度俺に目くばせをしてから、流民たちのところに向って行った。モモは察しのいい子だ。これから俺が何をするのか分かっていたのだろう。ダトに行うのは、俺が盗賊時代に身に着けた尋問方法の類だ。とうてい子どもに見せられるものじゃない。
「ダトと言ったな? それじゃあ、これから大人の話をしようか」
「っ!」
かいつまんで纏めれば次のことが分かった。闘技場とは選別の場所。そこで合格した者が放牧場に行く。その放牧場はある一定の広さを持つ地域を指し、実存強度を上げさせられる蟲毒の壺だという。つまり、剣奴同士の潰し合いが強制され、実存強度が大きくなったものは黒ノ信徒に肉屋に連れて行かれるのだという。そこまで分かっていながら、なぜ剣奴同士で戦うのか? それは付番刻印によって放牧場から逃げられない。ならば享楽を独占するために潰し合うのは当然だという。
享楽とは、地域内にいる村人を好き放題に出来る旨味を指す。剣奴のなかでも上位者なれば絶対的な享楽に耽ることができるから。刹那的快楽を独占するために戦うのだという。
ではなぜ黒ノ信徒を排して、この地域を独占しようと思わないのか? それは黒の刻印があるため逆らえないという。逆らったら黒の刻印によって体が溶かされて終わりだから、それよりは快楽に浸った方がいいという。
そして、人が集まれば組織が形成されるのが道理だろう。
放牧場は東西の組織に二分されているそうだ。シキリ達は西区に所属していて、生命結晶石を集めるのが仕事だったという。西区に村を構えている幾つかの集落が剣奴の享楽の対象として目を付けられ、その享楽の祭りで滅びた。女子どもは遊ばれ、強い奴は剣奴の贄として切り裂かれた。で、残った村人は邪魔だから殺して結晶石を採取していた。ただ思いのほか獲れた人間結晶石が少ない。だから、別の村で石を稼ごうとしたところ運良く流民に遭遇した。流民は村人ではないから、上役に献上しなくてもいい。自分たちの実存強度を上げるための石にしようと、これ幸いに人間結晶石を採ることにしたのだという。そこまでは、分かった。
もちろん先ほどの戦闘で周囲を索敵していた術・連天観紋で観た内容と突き合わせる。戦闘が始まった直後に、地域に点在していた実存強度3の者たちが一斉に東西に分かれて移動していくことを確認している。
確かに話の内容は一致する。東西に移動したところを見ると、おそらく連天観紋の波動を感じて、組織の上役に報告に行ったということか? すぐには追ってはこないだろう。
「ダト、情報をありがとよ」
既に原形を留めていないダトだったものに声を投げた。それからベルジェは、ダトとシキリ、イダを一つの場所に集め、合掌する。戦いなればこそ敵味方に分かれるが、死ねば皆仏だ。俺とていつ躯になるか知れたものではない。
この異世界では輪廻信仰がある。この輪廻観は来訪者である俺にも容易に受け入れることが出来たものだ。輪廻の果てを辿り、再び世界に生まれ出でる。戦いに身を置くものとして、この信仰は拠り所となる。死して終わりではなく、また生まれる。死と生を謡う輪廻信仰は、この異世界が戦乱の世であり続けていることを表していた。
ベルジェが立ち去った後の血肉となった屍。
イダとダトの骸から滴る血が、シキリのグールの体を赤く染め上げていた。すると、ぴくりとグールの体が動いた。血を、もっと血を、と求めるグールの本能だろうか。死に至ろうとしていたグールの屍が血を求めて触手を伸ばす。幾本もの触手を線のように延ばして、イダとダトの血肉を貪り喰らう。ダトが呻いた。痛みなど既に感じないだろうに、ダトの意識が微かに残っているのだろう、掠れた言葉が零れた。「シ、キリ、ぼくたちの分ま、で、生きて‥‥‥きゃはは、は」それに呼応するかのように触手はダトの心臓を貫いて、その零れ出る血を飲み続けるのだった。
□■□異世界メモ□■□
聖霊魔法は六律系譜を原典とする体系。火、水、風、土、死、天の六属性がある。
風:操作中心点【大気】⇒ 振動、圧縮
効果概念【変化】
補:動作
死:操作中心点【死】⇒ 闇、精神(感情・思考)、呪い
効果概念【混沌】
補:停滞
□■□メモ終わり□■□
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