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12.修久羅利《カラージャ》

4/29 改変済(ポンヌ登場)


 ベルジェは背後からの殺気を感じての身をよじる。そのすぐ脇を闇棘が切り裂いていった。シキリの魔動杖によって生成された闇泥は、毒の性質を持つ以外にも、そのなかを自由に移動するための媒体にもなっているらしい。シキリの虚を突いた攻撃だったが、今のベルジェには通用しない。

 回避の行動をそのまま攻撃に転じる。闇泥の霧を斬ったのだ。すると、その切り離された闇がシキリの形となり、姿を露わにする。


「よく私の居場所が分かりましたね」

「聞くが、お前は闘技場出身か?」

「‥‥‥答えるとでも?」

「なら、ベルジェという名に心当たりは?」

「さてね」


 反応から見て、俺がいた闘技場出身者ではないらしい。別の闘技場から放牧場に連れて来られたということか。そうだとすると、この放牧地は規模が大きい。


「っく」


 頭が割れるように痛む。連天観紋を収束させた影響で先ほど頭痛がひどい。まったくもって集中力が維持できない。術法を収束させたことが、これほどまでに膨大な情報量を頭に流し込んでくるとは想定外だ。俺の凡庸な脳が焼き切れしまうように、目と鼻から血が流れ出る。術法は完璧なのに、結局のところ凡人の俺では完全には扱いきれないってことか。だが、倒れるにはまだ早い。もう少しだけ体が動いてくれさえすればいい。


 ベルジェの満身創痍の姿を見て、余裕を取り戻したようにシキリがほくそ笑む。そのまま闇泥に逃げ込まれてしまった。


「私は警戒しすぎていたようですね。よくよく冷静に考えてみれば私は死ぬことはない。逆に貴方の方こそ毒で死にそうではないですか」


 毒か。それもあるし、戦闘に時間が掛かれば剣奴の増援がやってくるはず。くそっ、何とかしないとならないと気が焦るばかりだ。ふと、師匠の言葉が頭を通り過ぎる。『焦り、体が固くなれば、何をも斬れぬ』と、よく言われていた。そうだったな、こんなに力が入っていちゃあ、リリもモモも守れねえよな。

 ベルジェは刀を鞘に納めた。そして脱力する。立つべくして立ち、構えるべくして構える。それ即ち無構えの型、それ身刀一体ゆえに斬れるものなし。

 ベルジェの無構えを、諦めの姿とみなしたシキリが喉を鳴らす。


「毒で死ぬより、私が最後を与えてあげましょう。そうですね、死の手向けに名乗ってあげましょう。私の名はシキリ、死するまでの短い時間ですが覚えておきなさい」


 いつものシキリならば毒で苦しむ姿を愉悦をもって愛でていたが、今回ばかりは己の手で止めを刺すという行動に出た。それは無意識の決断であったにせよ、自らの仲間が殺されたことの意趣返しの気持ちが大きく働いたのかもしれない。それが勝敗を決めてしまう一手となった。


 ベルジェは刀の柄に手をのせた。


 泥闇に霧散していたシキリの存在が一点に集まっていくのが観える。機を伺おうとしたとき、背後から魔弾が襲ってきた。それを敢えて避けずに受けて、前方によろめく。その瞬間を待っていたとばかりに、止めを差しに闇が一気にベルジェに近づいてきた。


 対して、ベルジェの体が後の先を制するための動作に入る。考えるよりも早く反応していく意識は、そこしかないという刹那を勝ち取るための道筋を描く。積み重ねた研鑽と連天観紋との相乗効果が自然とベルジェの体を電光石火に動かしていく。


 柄に触れていた右手が円を描くように動いた。


『天無辺・双華月(かげつ)



□■□異世界メモ□■□

 刀剣術の上位スキルである法術技=カラージャ。その技名には「天無辺」とあります。技名を解説すれば、『無辺光仏』という言葉があります。それは阿弥陀仏の発する十二光の一つという意味ですね。一切の世界をあまねく照らす光明である、と。ここから話を広げていけば、カラージャというのはベルジェがいた元世界と関係があるのかもと・・・と伏線として捉えることができるかもしれません。

□■□メモ終わり□■□



 刀剣術の先にある修久羅利(カラージャ)、その達人の域に据えられる居合技の一つ。ベルジェが、かつての盗賊時代に師匠から伝授された刀技。しかし、術技として一度も発動が出来なかった刀技、しかしあれから十数余年、ようやくを修久羅利(カラージャ)に辿り着いた。


 居合が双月の軌跡を残す。


 たったそれだけで、闇弾も、闇泥も、毒剣さえもが問答無用に切り裂かれていった。天無辺・双華月(かげつ)は浄化の居合。その抜刀の軌跡は華を表し、双月は陰陽真偽を断ずる。目前の出来事を偽月として斬り捨て、真なる理月をもって浄化となす。


 すなわち闇泥が白霧となって消え去り、発動し続けていた複合魔術が砕け散った。毒霧の晴れた場所に体を上下に両断されたシキリが、別々の方向を向いて転がっていた。


「知っていることを話してもらう。お前は黒ノ信徒に組したのか?」

「どうでしょうね」


 上半身となっても体がグールだからか、話すことはできていた。だが、魔動器としての機能は完全に失ったようだ。


「まったく信じられません。貴方はこちら側ではない、貴方は混ざっていない、黒ノ信者どもの臭いがしない。それなのに、なぜ! なぜ、こんなにも強い!?」

「実存強度3の体で複合魔法を完全に発動させるのには無理があっただろ。体が同調印に引っ張られ過ぎて、到底戦うなど出来やしなかったんだ」

「何をいまさら‥‥‥それでも、この飼育場では戦わねばならない。違いますか?」

「ああ、そうだな」

「実存強度1が3を倒すなど。ああ、やはりこの世界は、この世界は―――に満ちて、いる」

「一つ聞く。お前のその同調印の本体はどこにいる?」

「‥‥‥」

「そうか。ならば、輪廻の果てに逝け」


 シキリは応えずに、代わりに口端を上げた。それで十分だ。



御一読下さいまして、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何の説明もなしにオリジナル用語が出てくる。 読ませる気が無いとしか思えない。
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