11.刀剣術の先へ
4/29 改変済(ポンヌ登場)
「でしたら、くくく、お分かりでしょう? ですが、贄の横取りは良くありませんねえ」
「贄だと? まさかとは思うが、その贄というのは女、子どもを言っているのか!」
「それ以外に、何があるというのですか?」
「ふざけるなっ。贄だと? そうやって我欲のために、戦いも出来ない者を何百人も殺してきたというのかっ」
「何百人? 一桁違いませんか? 我欲は否定すべきものではありません。人間の本来あるべき性質ではありませんか、むしろ讃えるべきですよ」
「それは黒魔術師のご高説そのものだろ。人倫荒廃を推奨するなんざ、呆れて物も言えん。願い下げだ。それに死者の数が一桁違う? おいまさか、お前らは凝縮に手を出したってのか!? 人間結晶石を凝縮するための制御式を‥‥‥黒魔術師から貰ったってわけかよ。クソがっ! 本当に度し難い連中どもだっ」
「何を怒る必要があるのです? 人間が人間を利用するのは自然な事。本当に黒魔術師はとても素晴らしいものをくれましたよ」
「その首筋の同調印を言ってんのか?」
「ええ、そうです。同調印による人間結晶石の利用可能性。それ以外に何があります? 貴方も同じでしょう?」
シキリは口に含んだ何かを噛み砕き、斬り飛ばされた頭部を本来の場所に置いた。すると、リリが斬りつけた傷があっという間に癒されていく。「分かっているとは思いますが、同調印は私の体と相性が良くてね。人間結晶石さえあれば、私は死を恐れる必要がありません。それに知っていましたか? 聖霊死属性には死の訪れを遅らせる魔法があるのですよ」シキリは持っていた杖から闇連弾をベルジェに撃ち放つ。
さらに後方に飛び退くしかなく、無理矢理に距離を取らされたベルジェは、完成された複合制御式を苦々しく見やった。
死の訪れを遅らせる死属性だと? 詭弁だな。その同調印は漆黒複合魔術を制御と発動を成すもの。そして魔法効果は人間結晶石による確定再生だろ。
そもそも死そのものに作用する魔法は実存強度3で扱える代物ではない。同調印は上位者が持つ能力の一部を行使できるーーー能力の限定行使が許可されていることを表す。首が飛んだことを引き金にして漆黒の複合魔術が自動起動。その時点から確定再生の範囲に入ったのだろう。
おそらくシキリは死人だ。最初から心臓なんて動いちゃいない。シキリの血は乾ききっていた。だから飛び散った血など小細工でしかないのだ。ただ、いくら死人とはいっても首を斬り飛ばし、心臓を潰してしまえば死ぬ。それを防ぐための確定再生の発動なのだろう。シキリは慎重な男というわけだ。
殺し方として、同調印を壊して確定再生を停止させる。その後に首と心臓を潰す。そのためには、現在広く展開している連天観紋を収束させる必要がある。斬るために深く観る。万物の根源であるカロリックの流れを観れるところまで収束できれば、その流れに合わせて斬れるはず。
「では、こちらの番ですね。貴方の生命結晶石を頂くとしましょうか。さぞや素晴らしいものであるに違いありません」
シキリの魔動杖が光る。闇泥とよばれる毒霧が森を覆わんばかりに溢れていく。
「くそっ」
悪化していく状況に腹を立てたところで、事態は好転しない。ベルジェの索敵術である連天観紋の残り効果時間はあと10分。リリとモモは闇泥に飲まれて混乱しているし、ダトを拘束し続けるので手一杯だ。攻撃の連携は望めない。
そうこうしているうちに泥霧は毒の濃度を徐々に高めていく。この闇泥を解除しなければ、毒に冒されて全滅する道しかない。魔動杖を壊すか、シキリをこの場で仕留めなければならない。
そもそも実存強度3では複合魔法を完璧に発動できないのが道理だ。実存の壁は越えられない。もし唯一越えられるものがあるとすれば、刀剣術のみ。だから、同調印をもって複合魔術を発動したとはいっても、十全ではない。シキリは複合魔術を扱いきれていないのだ。それがベルジェにとっての好機となり得る。この好機は長く続くとは限らず、だからこそ、すぐにでも連天観紋を収束させ、一気に戦いを終わらせる必要があった。だが、ベルジェは躊躇していた。
盗賊時代に連天観紋を使用したときでさえも、一つの対象に収束させることはなかった。それは過去の失敗から常に奇襲や退路を確保しなければと思っていたから。もちろん現在だって他の奇襲を警戒し続けているし、リリとモモの安全を常に把握するために索敵範囲を広げ続けている。だが、シキリを切り伏せるにはーーー。
自分に言い聞かせる。「リリとモモは強い、なにせベルジェ組だ。毒にだって負けやしない」俺は意識を一点に収束させた。それに応じるように展開中の連天観紋がシキリをただ一つの対象として、ベルジェの五感のすべてが収束していった。
「ああ、くっそたれ! そういうことかよ」
吐き捨てた。遅々として進まない刀剣術。十年以上も足踏みしていたはずなのに、突如として深奥に進む光明が見えた。刀剣術の先に進むためには、連天観紋を収束させる必要があったのだ。皮肉なものだと思う。この術を使うときは常に仲間を守ろうとして拡散させていた。それを、敵を倒したいという我欲の為に収束させてしまうのが正解だとはーーー「いや、違うな。仲間を信頼してこその一歩ってことか‥‥‥そういうことか? 師匠」全てが拓けた。聖霊魔法、ひいては万物の根源であるカロリックが観える。その先の動きすらも観えてしまうほどに。ベルジェはシキリを初めてその瞳で捉えた。
「黒魔術師も随分とふざけた真似をしてくれる」
シキリを観てすべてが分かった。シキリの体自体が複合魔法を稼働させる魔動器であり、同調印で無理矢理に稼働させられていた。しかも他の種族の体と繋ぎ合わされた混合種。首から下はグールそのものだ。実験のための被検体の成れの果て、だからこその同調印。全く生命を弄んでんじゃねえ。
「っ!」
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