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05.Welcome to the Jungle Act.2

「悪いねークルマ出してもらっちゃって」


 田所のゲレンデワーゲンに吾妻円を含め皆が乗っている、運転席に田所、助手席に部長、後部座席にはシイちゃん、円、加藤が並んで座っている。シイちゃんはあの後着替えてまた無口になった。

 ゲレンデワーゲンの車内は広く後ろに3人乗っていても後部座席には余裕があり、荷物も多く積める。加藤のライフルを平積みして田所の装備類を置いても余裕があるぐらいの広さはあった。

 大学を出た後に加藤のマンションと田所のマンションに寄ってそれぞれ装備を調達した。円はレンタル装備があるのと時間が足りなさそうなのでタクティカルマスターを持っていくのを諦めた。こういう時の諦めは重要。


「そういやそこ(・・)ガンショップになるらしいぞ」


「へぇ……」


 円の自宅近くを通過した頃に前の2人が話をしていた。去年までは物流倉庫だったが今年の頭から改装が入り「Deckers」という看板と黒地に原色のペンキを塗りたくったような派手な外観を横目にその会話が終わる。


「……えっと、その、部長さん?」


 車内が沈黙に支配される前に加藤が部長に質問をする。


「なにかな?」


「その、部長さんはなんでわたしを呼んだのでしょう?」


 部長は少し思案してから答える。


「先ずガンケースを背負っている時点で君はサバゲーマーだとわかるよね。次にこの大学に在籍しているサバゲーマーのほとんどは部室などにガンケースを置いて講義を受けるんだ、重い銃を抱えて移動なんて面倒だからね。数少ないその例外に当たるのはサークル等に所属していないフリーのサバゲーマーということになる」


 円は部長の洞察力に感心した。タクティカルマスターみたいな拳銃ならともかくあれだけ大きいものを背負ってあの広い校内を行き来するのは確かに面倒だ。


「す、すごい。流石です」


「伊達に大学の牢名主をやっちゃいないからね。ただ一番の理由は君とサバゲーをしてみたいと思ったからかな?」

「あ、次左ね」


「あいよ」


「そういえばこれから何処に行くんですか?」


「この道だと多分……BIGHITだな」


「正解。あそこは飛び入りに寛容なのがいいよね」


 円はふと自分の懐事情が少々侘しいことを思い出した。財布の中には千円札が3枚と小銭が少々しか入っていない。


「えっと、その」

「……そこまで手持ちを持ち合わせてないんですけど」


 部長は暫く思案しながら円が言いたい事に気づきケラケラ笑いながら答えを返す。


「今日はわたしに付き合ってもらってるから今回は全員分のフィールド料からジュース代まで出そう」


「おっ、太っ腹。流石部長サマ~」


「あ、ありがとうございますっ」


「ありがとうございます部長」


「なに、君たちもいつか似たような(・・・・・)事で返してくれればいい。いわば先行投資みたいなものさ」


 ゲレンデワーゲンはBIGHITの駐車場に停まった。BIGHITは元パチンコ屋を居抜き改装して作られたフィールドで広大な駐車場の半分に工事現場にあるような鉄製の仮囲いを付けた屋外フィールドとパチンコ屋の中の室内フィールドの2つに分けられている。それ以外にもシューティングレンジや中古銃やサプライ品の取り扱い等もある。


「じゃあわたしは入場手続き済ましてくるから仲良く荷物運んだりしてくれ」


「一緒に行きます」


 円はサバゲーフィールドがどういったものなのか知りたくてたまらなかった、部長もそれを察したのか同行を認めてくれた。

 円の予想とは裏腹にフィールドへの道は明るく清潔感にあふれていた、ただところどころにBB弾が落ちている。

 ショップを覗きたい欲求に駆られながらも部長の手続きを見学する。


「定例会予約の丸だ、頭数は4人とそれと装備レンタル2人分、あと見学を1人入れてほしい」


「えーと4名と見学1名の丸様ですね、見学の方はシューティングレンジ入場という事になりますがよろしいでしょうか?」


「かまわない」


「支払いは、定例会が3500円×4名、レンタルの方はM4とゴーグルのみで1200円×2名、シューティングレンジが1000円で計17400円になります」


 部長は見学なのかと円は思っていた。


「ああ、そうだ。吾妻くん、君は学生証(・・・)は持っているだろう?」


「学生証ですか?」


 自分の財布から学生証を出す。


「サバゲーフィールドでは基本身分証ないし会員証の提示を求められるんだ。会員証を作る事になるからそこで記入事項を書いてきなさい」


 円は部長に促され会員証を作る事にした、ボールペンで記入事項を書いていき。最後に係員のお兄さんに学生証を提示した。いつの間にか来ていた加藤とシイちゃんもそれに続いて会員証を作っていった。

 田所は既に会員だったのか会員証を提示して先に入っていった。

 皆で入場して田所が取っていた卓を囲む。田所は既に装備や銃を出して支度をしていた。銃はHKの416Cという短い銃(カービン)であった。


「じゃあ弾速チェックしてきますね」


 加藤はそう言うと銃を持って係員のお兄さんの方へ向かった。


「弾速チェック?」


 円がまた聞き慣れない単語が出たので田所に聞いた。


「あー、マジで何も知らねぇんだな。弾速チェックいうのは持ってきた銃のパワーが1J以下であるかのチェックだな」


 田所は作業しながら少し嬉しそうに答える。


「1J以上あると何かダメなんですか?」


「1J以上の銃は違法(・・)なんだ。まぁ1J以上のガンはノーマル(箱出し)からかなりイジるか、検品すらしない怪しい店で買ったの程度だから初心者はあまり気にする必要はないけどな」


「正確には0.989Jだね」


 エアガンのパワーは法律により上限が制限されその上限は0.989Jとなっている。それ以上の威力が出るエアガンは日本国内では銃砲刀剣類所持等取締法により所持、購入、譲渡などの一切が禁止されている。


「まぁ今日はレンタルだろうからその辺りの事気にしなくていいんじゃね?」


「じゃあ我々(・・)も行こう、久しぶりのサバゲーだから滾るねぇ」


 吾妻はここで疑問を部長にぶつける。


「部長も遊ぶとなるとじゃあ、誰が見学なんですか?」


「あ、わたしです」


 シイちゃんが挙手をする。


「ああ、言ってなかったね彼女サバゲーをしない(・・・・・・・・)んだ」


「サバゲーをしない?」


「銃が好きだからわたしと付き合ってもらってる」


 円はそういう遊び方もあるのかと思った。家でエアガンをを弄っているだけでも銃としてのリアリティや愛着を感じるのは事実だ。


「そういうことですのでよろしくおねがいします」


 シイちゃんは丁寧に頭を下げる。


「じゃあ、装備を借りよう」


 部長に促され円は係員のお兄さんからダストカバー部分に「RENTAL06」と書いてあるM4とマガジンとフルフェイスのゴーグル、それとBB弾の袋を受け取る。吾妻のM4にはLMTリアサイトがついていてハンドガードには20ミリレイルのないタイプのM4であった。


「使い方の説明させていただきますね。先ずセーフティ、セミオート、フルオートになります」


 係員のお兄さんがM4のサイドにあるセレクターを弄って説明をする。


「セーフティ内ではマガジンを抜いてセレクターをセーフティに入れてください、それとフィールドからセーフティに戻る際には各出口にポリバケツがあるのでマガジンを抜いてから1発撃ってください」


「チャンバー内に1発残ってるからそこ空にしてから戻るって事ですよね?」


 円がその理由を答える、サバゲー未経験ながらも銃の知識を持っているからこその返答だ。


「お兄さんもしかして経験者?」


「いやこの子は銃に詳しい(・・・・・)だけで未経験だ。ここから先は知らないだろうから、続けてくれ」


「それ以外にですとマガジンのリロードの仕方を教えます。これ覚えてないと楽しめませんので、絶対忘れないでくださいね。先ず給弾口を開けます」


 係員のお兄さんは、STANAGマガジンの上側の給弾口の隣にあるフタを開く、そこに醤油差しみたいな口のついたボトルの醤油差しを突っ込んだ、醤油差しの中には白いBB弾が入っていてマガジンの中に大量に入っていくのが見える。


「これぐらいにして次にマガジンを立ててネジを後ろから前に回します、この時この様に結構回してください」


 係員のお兄さんが1分以上回していきあるところで「カチリ」と音が鳴った。


「はい、これで撃てるようになったわけですので。次発射と弾速チェックしていきましょ」


 お兄さんは中央よりやや端よりに穴の空いたデジタル表示がついた何かの機械とネットが張られた額縁みたいなのを出し吾妻は部長に促されゴーグルをかける。機械の穴の先にネットが張られた額縁を並べてM4を機械の穴に向けて撃つ。デジタル表示には0.878Jと結果が出た。

 いつの間にか用意していた部長の銃も同じく弾速チェックを行い0.884Jと結果が出た。

 そうしてからお兄さんはマガジンを抜いてゴミ箱に一発ずつ撃って吾妻と部長に銃とマガジンと、BB弾の入ったボトルをそれぞれ渡す。

 円は渡された銃のセフティを目視してセーフティになっているのを確認した。


「お、流石ですね」


 銃とゴーグルを抱えて2人で卓に戻る。加藤は既に準備を済ませているらしく持ち物を整頓してちょこんと椅子に座っていた。シイちゃんは無表情で加藤の隣に座っている、田所は乱雑に物を置いて何処かへ行ってしまっていた。


「田所くんは着替えにでも出かけたのかな?」


「あ、ヨウちゃんはHOP調節しに行きました」


「HOP?」


 円の質問に加藤が答える。


「先ずエアガンはBB弾を飛ばすのはわかるよね? 普通にBB弾を撃つよりよりも回転を加えて撃ったほうが飛距離が飛ぶんだ。それがHOPUPシステム」


「なるほど」


 その横でシイちゃんは即席で図を描いて説明を加える。HOPUPシステムとは発射されるBB弾をチャンバー部分に組み込まれたゴムや樹脂素材などで押さえつけて回転させることでマグヌス効果を発生させパワーを上げずに飛距離を飛ばすシステムである。

 先に説明したエアガンのパワーに上限がある代わりに昨今のエアガンの大半はHOPUPシステムで射程距離を長くしている。


「わたしは丁度いい場所にマーカーでマーキングしてるからすぐ調節できるけど、毎回微調節する人もいるよね」


「加藤くんは同じ弾を使い続けてるのかな?」


「はい、リミットレスのダブルプラスの0.29グラム使ってます」


「アレ、結構値段するでしょ?」


「あまり撃たないので……」


 円は話し込んでる2人からシイちゃんに「そのダブルプラスってのはそんなにすごいんですか?」と聞いた。


「すごいといえばすごいんですけどね……」


 シイちゃんは歯切れの悪い回答を円に返す。


「戻ってきたぞー」


 田所がエアガンを持ってマガジンを片手に席にどかっと座る。


「はいじゃあそろそろ始めます、皆さん準備よろしいですかー。ここからの話はよく聞いといてくださいねー」


 そこから店員さんが細かいルールやマナーなどを伝える。今回は主にフラッグ戦、殲滅戦、大将戦を行いそのどれも一回5分の制限時間で済ませる。

 先ず基本的な事、フィールド内ではゴーグルを外さない、セーフティ内ではマガジンを銃に装填しない、喧嘩をしない、暴言を吐かない、困ったことがあったら運営に相談する。等の注意事項の説明がされた。その辺はシイちゃんの話してていた部分と同じであった。

 フラッグ戦は赤、黄色2チームに分けて相手の陣地にあるブザーを押したら勝ち。

 殲滅戦は時間内に相手の殲滅または終了時に相手よりも人数が多ければ勝ち。

 大将戦は両チームともに1人選出しその人物がヒットされたら負けというルールだ。

 また細かいルールとしてセミオートのみの使用可、フレンドリーファイアは撃たれた側も撃った側も退場、走り禁止、障害物から銃を出しての射撃禁止、フリーズコールつまり銃を突きつけての降参要求禁止、ナイフアタック白兵戦の禁止等禁止事項や注意事項等が読み上げられる。

 それ以外にもヒットコールは明るく元気な声で、失敗しても「しゃーない切り替えていけ」の精神で行こう等の助言がなされた。

 そこからチーム分けがなされ吾妻達は赤チームに配属された、円と部長はレンタルのマーカーを両腕に巻き加藤と田所は持参したマーカーを巻きフィールドに入る。シイちゃんはお留守番なので「いってらっしゃい」と言って手を振り皆を見送る。


――――――――――――――――――――――――


 円はフィールドに入り緊張をしていた。期待で身が弾けそうになりながらも同時に自分が受け入れられるか不安も感じていた。

 周りを見れば誰も彼もがベテランに見え、当たり前だがその全てが吾妻にとってサバゲーの先輩先達である。

 どうにかなってしまいそうな心を抑えながらも今か今かとブザーの音を待っていた。

 ブザーが鳴り響く、吾妻は最前衛に走って進んでいきそのままヒットを受けた。

 円の初サバゲーはそれで終わってしまった。

 トボトボと帰り、弾抜きをして座るとフィールド運営のお兄さんが吾妻の席まで来て屈み。


「すいません、坊っちゃん。次からは走らないでいただけるととてもありがたいです……よろしくです」


 円はその時初めて自分が走っていた事に気づく。


「しょうがないのね」


 シイちゃんに慰められ吾妻は耳から火がでる思いで縮こまる。

 ぞろぞろとフィールドからサバゲーマー達が戻ってきて田所、部長、加藤の順番に戻ってきて黄色チームが勝ったらしい。


「おめー走ってただろー」


 田所が笑いながら円を肘で突く。


「序盤の内にやらかしておいた方が長期記憶に残るからね。君はあくまで今日が初陣みたいなものだし、同じ失敗は踏まないタイプだろう?」


 部長が理性的に諭す。

 円は猛省しつつ、次のゲームに備える。


――――――――――――――――――――――――


 数ゲームやっていて、円はサバイバルゲームは集団と集団の戦いでありながら個人競技であると再認識した。

 大局を見据えつつ今の自分が出来ることを着実にやっていき戦いに貢献をする、円が自らの言葉でサバイバルゲームを語るなら今の所こうだ。

 円は自分が出来ることが何かとスタート前に考える、考えすぎてスタートが遅れた。

 そして円は他のサバゲーマー達の背中を見て、初めて自分が逸って行動をしていた事に気づく。走ってしまった初回ゲーム以降も毎回最前線に立ち1ヒットも取れず序盤に退出する。

 心を落ち着かせて同チームの仲間と共同歩調を取って進軍をする。

 田所はHK416Cの短さ(・・)と遮蔽物を使い迅速かつ戦術的な動きで最前線で的確なクリアリングを行い、加藤はその逆に後方から障害物を使わず立射で視認できる敵を片っ端から撃っていてヒット数を稼ぎ、それ以外にも十人十色で皆各々の戦術を駆使して戦っている、そこに強弱こそはあれども優劣はなくその全てが円にとっては新鮮だった。

 またヒットされ帰る道中で円は自分の戦術について考える。


「何か困りごと(・・・・)ですか?」


 目の前でシイちゃんの声が聞こえてハッとして顔を上げた、周りには既に仲間やサバゲーマー達はいなかった。

 シイちゃんの真剣な眼差しが吾妻を覗く。


「自分がどのような戦術を取ったらいいのかなって考えていて」


「何故そう思いました?」


「田所さんは的確なクリアリングを行いながら進行していって、逆に加藤さんは立射で的確に攻撃をしている」


「うーん、その2人は既にある程度の経験があるからこその戦術を確立してるんじゃないかな?」

「吾妻くんはこれから自らの戦術を確立していけばいいと思います」


「いいね、いいね」


 後ろから部長が現れて円の隣りに座った。


「それで、何かいいアイデアは浮かんだのかな?」


「特に思い浮かばないのでシイちゃんの話も鑑みて今回は援護に徹します」


 次のゲームが始まる旨が伝えられた。


――――――――――――――――――――――――


 ゲームがはじまり円は周りの洞察も兼ねて援護へと動く。

 改めて俯瞰をして円が感じたものは見様見真似で直ぐにでもある程度の成果に直結することと修練などを積まないと行えない事の二種類があると気づく。前者は田所の動きで、後者は加藤の射撃だ。

 そこで改めて部長がいない事に気づく。後衛にはおらず前線にも見たところ見当たらない、すると敵がヒットを受け退場したところを歩きながらも高速で動く白い影が見えた。

 その相手は前線の人手の薄い場所を守っていたらしく、部長は相手チームがそれに気づく僅かなスキをついて前線を押し上げていた、部長自らが攻撃したのではなく誰かが開けた前線の穴を狙って進行しているようだった。

 部長が押し上げた前線に気づいたのか、敵が部長めがけて集中砲火を繰り出す、しかしその隙きを田所はじめ味方のサバゲーマー達も見逃さなかった。部長に集中砲火されているという事は自分たちが狙われていないという事で火力を集中したり側面攻撃をしたりして相手チームが押されているのが目に見えてわかる。

 円は部長がこの動きの間一発も撃っていない事に気づく。撃たずに移動するだけで敵の前線に穴を開け着実な味方の支援をする。

 それは円には直ぐに出来ることではなかったが、今の円にできる事を考え部長の援護に入る事にした。

 吾妻は部長の援護をしつつその動きの要点を考える、部長はフラッグを目前に敵に囲まれてしまった、障害物の裏に隠れて応戦をしている。

 円はそこで部長がかつて話していた「撃つ時と撃たない時のメリハリ」という言葉に気づきを得た。この言葉の真意は撃たない(・・・・)という部分にもあったのだ。

 円はそこで撃たれて足早に戻る。そうしてから既に席についていた加藤、田所にある作戦を話す。


「なるほど皆で部長の援護するってコトだな」


「吾妻くん冴えてますね!」


「わ、わたしっ! 狙撃で援護するよっ!」


 部長も戻ってきた、善戦したが敗退してしまったみたいだ。


「みんな楽しそうに何の話をしているんだい?」


 意を決した円があるお願い(・・・・・)をする。


「次もフラッグを狙って欲しい?」


「ええ、出来れば今回みたいな感じで。そこを全員(・・)で援護します」


 部長は円の瞳に宿る意思を察してか作戦(・・)を真面目に聞いた。


「いいね、いいね。そういう積極性好きだよ、やってみよう」


――――――――――――――――――――――――


 円の作戦は先ず味方とともに前線を維持し中盤の敵味方の頭数が少なくなった辺りで部長を突撃させる。

 加藤が狙撃で前衛を排除し部長が大胆かつ慎重に前線を押し上げる、部長の一歩後ろに円と田所が陣取り加藤が後方支援をし楔形に前線を崩す。味方もそれに呼応し前線を押し上げる。

 しかし侵攻があまりにも早すぎた、狙撃などで多少の頭数を減らせたものの10人以上の敵をフラッグ近くの一箇所に集める結果となった。


「急げ、急げ!」


 田所が側面から回り込んだ敵をセミオートのダブルタップで倒す、今まで通りの中距離間の撃ち合いではなく乱戦、ごった煮の状況となっていた。

 円と田所は包囲陣の一角になったが同時に包囲されていた。敵もバカではないし部長は白衣を着て参加していたので白衣の女が厄介という事は言葉で共有されずとも敵チームの間では共通認識となっていた。白衣の女にこれ以上戦線を乱させないため、2名ほどが白衣の女の裏取りに出で、部長、円、田所と3人の後方支援に徹していた加藤を分断する。

 円はここで賭け(・・)に出た。


「部長、行ってください!」


 円は後方に回り込んだ敵と銃撃戦を繰り広げながら言う。

 部長はフラッグに向かって一直線に走る、だが障害物の死角にソーコムを構えたスナイパーが隠れていてヒットされてしまった。


「ヒットー」


 弾が当たった時点で彼女という直接的な危機を乗り越えたのか敵は後退し集結する。円はそれを確認する少し前にM4を丁寧に障害物に立て掛け準備を済ませる。

 そこで円の最終ベットが始まる、掛け金は自分、目指すは敵フラッグ。

 円が事前に皆に説明した作戦はこうだ。

 先ず部長を援護して敵陣深くまで全員で潜り込み部長にフラッグを取ってもらう。そのままフラッグを取れればそれでよし、取れなかった場合には部長がやられた直後敵が油断している瞬間を狙いすまし円が突撃する、田所もやりたがっていたが円が未だに自分が1ヒットも取れていないことを理由に援護側に回ってもらった。

 またその際には包囲される可能性が高い事を円は指摘していたため背後から不意打ちを取られる事なく円と田所は応戦し加藤も包囲網の背後に隠れ慌てずに支援射撃で以て1人撃破した。

 部長の迎撃に相手の意識を集中させた円達は包囲網を敷いている敵を排除し分断されていた加藤と合流する。

 部長を撃破し完全に油断しきったところに部長と同じ動きをする円と息を合わせた援護が、フラッグを掴む事のみに、今向けられる。

 そしてあえて撃つ(・・)選択を除外しそれを仲間に任せる事で両手の自由と身軽さを得る、油断しきっていた敵は慌てて持ち場に戻り銃を構えるがソーコムを持った軽装のスナイパーは田所の制圧射撃で顔が出せず、それ以外は加藤が狙撃でスムーズな排除を行う。

 フラッグまで3歩、2歩、1歩、吾妻はフラッグに肉薄しそしてフラッグのスイッチを両手で掴んで押す。

 フラッグのブザー音が鳴り響く、その無機質な機械音は円たちにとってのファンファーレとなった。


――――――――――――――――――――――――


 帰りの車中、話題の中心は円になっていた。すでに3回目になるあのゲームの行動で話題は持ちきりだった。初心者がフラッグを取るという事はこれほどまでの大金星なのだ。


「あ、えっと……その」


 3回目のフラッグキャッチの話題が落ち着いた頃に加藤が挙手をしながら言う。


「わたしのことたまきって呼んでもらっていいですか? えっと……そのわたし本名加藤たまきって言いまして、加藤さんとかだと他の加藤さんと分かりづらいので」


「あー、それならわたしもヨウでいいぞ」


「覚えておこう」


 部長が話をまとめたまきとヨウとシイちゃんと円は納得する、窓の外でブレーキランプや店のネオンが前から奥に流れるのを円は眺めていた。ただその心はサバイバルゲームに未だ残っていた。

サバゲー解説


サバゲーにおけるルールとマナー


フィールドのハウスルールは遵守する

サバゲーには法的に決められた0,989J以下のパワー、ゴーグルとマーカーの着用、18歳未満が18歳以上用のエアガンを持ってきてはいけない等どのサバゲーフィールドでも守らないといけない基本的なルールや法律以外にもフィールド毎に決められたハウスルールがある

今作においてはフィールドで走ってはいけないの部分で、それ以外に作者の行ったことのあるフィールドだと、セミオート射撃のみ、モスカート禁止、セーフティではマガジンを外し射撃できない常態にする、Co2ガスガン禁止、特定のエアガンないし特定の機能使用禁止、18歳未満は入場禁止、分煙、公共交通機関を利用する等が挙げられる

それらはゲームを円滑に行いゲーム内外で無用なトラブルを避けるために考えられたものである

またゲームを行う前にレギュレーションチェックという行為が行われ、パワーオーバーでないか、そのゲームに準じたエアガンであるか等を検査され合格を受けたらシールを貼られる


ドレスコードをなるべく守る

サバゲーフィールドのハウスルールと違い参加するゲームや大会にドレスコードみたいなものがある場合もある

例えばベトナム戦争を再現した戦史系(ヒストリカル)ゲームではベトナム戦争で運用された銃器や装備、最低でもその時代にはあった銃や装備を用意しなければならない

これは参加条件かつ他人と共有する、共有したい世界観を壊さないための礼儀でもある

しかし参加するにあたってそれに囚われすぎるのも良くない、戦史系(ヒストリカル)ゲームの銃器はともかく装具類となるとすべて揃えるにはレプリカでもかなりの出費となる、先ず銃器を揃えその上で服装をそれっぽくするのが最低条件と見ていいだろう

ベトナム戦争再現系ゲームであればM1911とイサカM37のみを持っていきホンコンシャツとスラックスを履いてナイロンスリングベルトと革ホルスターを装着したCIA内勤職員という設定で参加、この程度の再現性なら確実とは言えないが大丈夫だと作者は感じる

また戦史系(ヒストリカル)系みたいなコスプレイベント以外にも、特定の銃器のみ参加できる、特定のメーカー製のエアガンのみで参加できる、10歳以上用エアガンのみ使用できる、初心者のみ等のゲーム等がある

ドレスコードのある大会はサバゲーフィールド自体で募集している場合もあれば個人で募集をかけてサバゲーフィールドを借りる場合もある

装備類に不安がある場合には運営と連絡をとり装備類の写真などを送り手直しを求めるのもアリだと思う、ただし常識的な範疇にとどめておく事


マナーを守る

サバゲーは極端な事を言えばルールありきの暴力である

その上で法律やハウスルールを守っていても不快な思いをしてしまう、させてしまう事は少なくないし何かしらのトラブルでハウスルールを守れない破ってしまった場合もある

それを起こしてしまった場合にはサバゲーフィールドの運営から注意を受けたら素直に謝り改善をし、起こしてしまった相手にも一言謝罪を入れておく

それ以外にもゾンビ行為、いわゆるヒットを受けても退場しない、与えられたテーブルスペース以上のテーブルを使う、他人への中傷、暴言や付きまとい、しつこい指摘、多量の自分語り、時間を守らない等他人と楽しく遊ぶ上でやってはいけない事は基本封印しておくのが大切と作者は感じる


感謝、尊敬、交流

最後になるがサバゲーとは多くない同好の士が集まり、時間とお金をかけて楽しく遊ぶ会である

その上で重要なのが感謝、尊敬、そして交流である

今作においては車を出してくれた田所には感謝して然るべきで、ガソリン代等を支払えるなら完璧である

それ以外にも様々なサバゲーマーやガンマニア達から助けられる事や気付かされる事も多く、そして何よりもかっこいい銃や素晴らしい装備類を目にするだけで多大な苦労をしてまでも行く価値がある

「その銃かっこいいですね」と言われて嫌な思いをするサバゲーマーやガンマニアはあまりいないのだ

またネット上で知り合った者同士ではじめて会うオフ会的な要素もあり、その際には自らを手短に自己紹介できるととてもいい

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― 新着の感想 ―
私は0.4j世代(無制限でベアリングボール飛ばして流血ゲームやってる連中も居ましたが)ですが、楽しく読ませていただいております。 専用フィールドもちゃんとした弾速計も無かった当時とは隔世の感も有ります…
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