03.On Your Mark Act.2
吾妻円はサバイバルゲーム研究部会の部室前に立っていた。ここ、旧技術試験棟は清掃は行き届いているものの雰囲気の暗さは相変わらずだ。建物含め全体的に古く白熱蛍光灯の陰鬱な白い光が緑色の床と白い壁で構成された廊下を照らし、地下の踊り場の裏には紙パックの自販機とお菓子や栄養食品が入っている落下型の自販機、固そうな茶色い合皮のベンチなどが置いてあり壁の掲示板には今年のスタンプが押してある掲示物がある事から彼がタイムワープしていないのが辛うじて分かる。
円はそれらを横目にしてあるドアを開ける。
「「あ」」
そこには上半身が裸で下がボクサーパンツだけの女がポカリスエット片手にスケッチブックで何かを書いていた。
乳房は小ぶりながらも、ピンと張った形で肌色もいい。
彼女は慌てて胸をスケッチブックで隠す。白衣こそ着ていなかったが彼女こそが円に「月曜2限以降に来い」と呼んだ人物なのだ。
「……少年よ、3分ほど待ってくれやしないか?」
「そうします……」
円は部室の外で待っていた。
意外と大きかったんだなとか着痩せするタイプだったんだなとか身体つきが丸っこいな等と色々妄想し反芻している内にこの前みたいに白衣の女がドアを開けてくれた。白衣とシャツはキレイになっていたが足元はなぜか木製サンダルであった。
「いやぁ見苦しいものを見せてしまって申し訳ない」
顔を赤らめながら白衣の女は謝った、「いえそんな事は……」と言い出す前に円は口をつぐむ。
改めて部屋の内部を見る。手前には柔道畳が4枚敷いてあり、出入口ドアのすぐ横の壁際にはオーディオ機器とスクリーンがあり映画の1シーンで止まっていた、スクリーンの最前列にはこたつがあり、柔道畳の外側に先輩が半裸で寝そべっていたソファーがあり柔道畳を介せばこたつやオーディオ、スクリーンにも素足で行ける様だ、ソファの上のプロジェクターは丁度いい高さに置かれていた。柔道畳の向こう側には冷蔵庫とDVDと雑誌がみっちり詰まった本棚が綺麗に整列されて詰まっている。
そしてよく見るとパイプで中2階を作っているらしく棚の裏側には階段がある。
ソファーの後ろには島型に配置されている作業台と奥には製図机やミシン台等がありその裏側にも何かスペースがあるらしくカーテンと様々な種類の作業機器で遮られてる。右側には前回の機械が置かれていて「高圧」とか「危険」等と書かれている警告ボードが貼られている。
ドアの内側には全体的に生活感が溢れているが共有部分と違い陰鬱さや無機質感を全く感じない部屋になっていた。
改めてスクリーンを見る、そこにはサングラスの髭面の男がクラシックカーのハンドル片手にヤティマティックというサブマシンガンを連射しているシーンが写っていた。
それが「コブラ」の一シーンであるとすぐにわかった。
コブラという映画はシルベスター・スタローン主演のアクション映画で謎のカルト集団に狙われたヒロインをシルベスター・スタローン演じるマリオン・コブレッティ刑事が守るというあらすじの映画だ。
スタローン主演作ではランボーやロッキーやエクスペンダブルズと比べシリーズ化されておらずデス・レース2000やジャッジ・ドレッドみたいなカルト性やコップ・ランドみたいな共演に恵まれているわけでもないマイナー作品だ。
「コブラ見てたんですか」
「よくわかったね」
「ところで……セガールといえば?」
「沈黙の陰謀か沈黙の断崖」
「ヴァン・ダム」
「サドンデス」
「トラボルタ」
「ソードフィッシュ」
「デ・ニーロ」
「マラヴィータ」
「カート・ラッセル」
「スネーク・プリスキンシリーズ」
「ミッキー・ローク」
「レスラー」
「ステイサム」
「ブリッツ」
「イーストウッド」
「グラン・トリノかサンダーボルト」
「少年、話せるねぇ」
「ありがとうございます」
「ところで何書いてたんですか?」
少し考えてから「これ?」と円に聞いてスケッチブックを裏返した。
「次はこれ作ろうと思って、企画図を書いてた所だ」
要:金属インサート
ボールベアリング(6200番台:以降未定)
ここは手抜き!
ところどころにそういった注釈が書かれているスケッチブックには非常に上手に書かれているヤティ・マティックの設計図があった。
「ああ、そうか。埋め合わせだったね」
彼女は奥にあるカーテンで仕切られた区画に吾妻を案内する。その中は15メートル位のシューティングレンジであった。
「機材集めるからそれかけて待っていてくれ」
円は無色のゴーグルを渡された。ゴーグルをかけしばらく待っているとゴーグルをかけた彼女がカゴと箱を二つ持ってきた、カゴにはカセットガスみたいな缶と口先に注射器みたいな器具とペットボトルに入っている黒い何かが入っていた。
「それは?」
「ああ、そうか。キミは本当に初心者なんだな」
彼女はニヤリと笑う、その笑みは何か楽しいものを見つけた子供みたいな表情であった。かわいい。
「じゃあ説明しよう。先ずこれはBB弾、実銃でいう弾頭だ」
部長はペットボトル入ってる黒いものを何個か出して見せる。そこには黒い小さな玉があった。
「これを飛ばすんですか?」
「基本的にはそうなるね」
箱は二種類あり黒い紙箱と黒いジュラルミン製の頑丈そうなアタッシュケースであった、紙箱の方にはベレッタM92が写っていて右下には「TACTICAL MASTER」と書かれていて、アタッシュケースには「KSC M9エリートA1」と書かれたテプラが貼ってある。
紙箱を開けるとカスタムされているであろうベレッタが一挺とマガジンが一個あった。
彼女はマガジンをさかさまにしてボンベを後ろに差し込んだ。
そうしてから注射器を使ってBB弾をマガジンに込めていく。
「さあ、どうぞ」
彼女はバレル部分を握って銃を差し出す。円はグリップを掴み動作の確認をする。なるほど、実銃とほぼ同じか。
そうしてからマガジンも渡してもらいマガジンを装填してからコッキングして弾を装填する。
上のレールが動きアサルトライフルを持ったデフォルメされた彼女らしきキャラが書かれている紙が横から現れ、レンジの半分およそ5m位の辺りで止まった。
エアガンを握って吾妻は改めて思った、想像し得る本物の銃に負けず劣らず本当にズッシリと来た。思っていたよりもずっと重く硬く冷たい。
深呼吸をしてから1発目を撃った。
弾は円の予想より上の方に飛んでいった。
「右手は銃の中心線が手首を通るよう握り左手を右手に添えて……うむ、それで手首ではなくて肩や身体のひねりを使って腕全体で照準を合わせるようにして、銃と腕が一体化するように構えて……うむ、よろしい」
彼女が優しく指導してくれる。
その最中、甘い匂いの吐息を肌で感じ、鳥肌が立ち、下半身が熱くなり、脳は思考を緩め、何故かさっきのおっぱいを思い出していた。
「射撃中は心臓や呼吸の動きでブレないように息を止めて」
「そうしてから両方の目でリアサイトを見てフロントサイトと合わせ、丁寧に狙う」
「引き金を引くときは人差し指の先の中央、爪の付け根の裏側を意識して引いて、引くときは肉じゃなくて骨で丁寧に押し込む」
照門と照星越しに狙いをすまし2発目を撃った。
2発目は先輩の眉間に当たった。ヘッドショット。
「いいね、いいね。非常にスジがよろしい」
そこから円は何発か連射して撃ち込んだ、どれも驚くほど真っ直ぐに飛ぶ。
「次は片手で撃ってみなさい、先程の体勢から左手を抜くだけでいい」
言われるがまま円は片手撃ちを行う。
ややブレるが10発を超えた辺りでコツを掴んだのかそこそこちゃんと当たるようになった。
「じゃあ、次のステップに行こう。まぁここは予備知識程度に覚えてくれればいいさ」
彼女がそう言った次の瞬間に発砲音が響き渡る。
円が次の瞬間見たものは彼女の手にいつの間にか握られていたコンテンターピストルと白衣の下のホルスターであった。コンテンダーピストルは前回のモックアップ銃で未塗装の白いプラと銀色のパーツで構成されている。
何をしたか円は即座に理解した。クイック・ドロー、所謂早撃ちだ。
映画とかではよく見るが実際に生で見るのははじめてであった。
「ものの見事に腕が鈍ってるな」
笑いながらそう言って排莢を行い銃をホルスターにしまった、アレで腕が鈍ってるのなら腕が鈍ってない時がどれ位か想像もつかない。
「クイック・ドローのコツとしては常に銃を抜けるポジションを構えておく事と、撃つ対象と順番は決めてから抜く事だ」
「たとえば敵が3人いてキミと対峙したとする、2人はキミほどではないが凄腕で1人はヘボだ、2人の内の1人は銃を構えづらい体勢をとってる。さあ、どうする?」
円は少し考えてから「凄腕、構えづらい体勢をとっている凄腕、3人目」と答えた。
円が考えた答えは銃を抜く速さが早い順だ、3人目や構えづらい体勢から撃ったら、凄腕に撃たれてしまう。
「正解だ。いいね、いいね」
拍手しながら彼女は説明を続ける。
「つまり相手の脅威度が高い順番に倒す。重要なのは銃の構えづらさで、いくら私でも背後を取られたら中々早撃ちで勝てない。サバゲーにおいて常に背後に気を配る以外にやることもやれることも多いし常に背後に気を配るよりも背後を取らせない方がずっと楽だしね」
「クイック・ドローというのは練習と経験を積まないと中々巧く出来ないものだよ。ま、興味があるなら追々稽古をつけよう。地味でつまらん話はここまでにしておいて次は……」
もう1挺ベレッタをアタッシュケースから出して拳銃2挺構えて笑いながら「お楽しみの二丁拳銃の時間だよぉ」と円に言う。顔が引きつっていたであろう円は「うえっ?」と反応をこぼす。
「TACTICAL MASTER」のマガジンに手際よく弾を装填しながら彼女は話す。
「「うわきっつ」的な反応しないでもうちょっとテンション上げなさいよ。中二臭くてもこれ意外と使えるんだからさ。例えば面制圧する必要がある時には……」
彼女は2挺のベレッタを構えて撃った、明らかに4発の銃声が響き渡る。
「こういう風に手数で抑え込む」
「コツとしては左右同時ではなくて反対の手、利き手と交互に撃つ事だ。やってみなさい」
先輩は2挺のベレッタを渡してくれた、右と左では同じベレッタではあるのだが違うメーカーのエアーガンみたいだ。握った感じが違うと円は感じた。
左、右、左、右、2巡したあたりから連射を早める。
「基本を意識しなさいよ」
両方の銃が弾切れになったのを確認してから、彼女は「やってみなさい」とマガジンへの弾込めを円に教えた。注射器みたいな器具は「BBローダー」といい注射器の要領でマガジンにBB弾を装填できる、先輩がやるのを真似して吾妻もやってみる。そうして弾込めは難なく出来たのだがガスが失敗して「プシュー」と上へ抜けてしまった。
「コツはボンベとマグの穴の中のピンを一直線にする、ボンベの中の気体を意識する事だね」
教えてもらったとおりに円はガスを装填する。今度はうまく行ったらしくガスが漏れずにすんだ。
「そうしてから温める。そこのドライヤーを使ってもいいけど実戦派のやり方を教えよう」
「マグを握って手を裏返しにしなさい」
円は言われたとおりにマガジンを握り掌の甲を下に向ける。
「そうしてからわたしが握る」
先輩の指が吾妻の手を包み掌でぎゅっと握られる。
「こうすればすぐ温められる」
「まぁ、単純に両手で握ればいいだけだけどこれの本質は他人の手を堂々と触る名目にあるんだ、意中のあの子に使ってみるのもテだな」
他人にモノを教えるのが好きなのと、意外と他人との距離をグイグイ押し込みながら近づいてくるタイプなんだなと円は感じた。
「さてとここで講義を行おう、二丁拳銃の利点というのは単純な真実を突くのであれば火力が2倍になるんだ。だが欠点も多い、常に両手が塞がってる状況に追い込まれる、つまり……」
「……つまり」
「マガジンの交換が非常にしづらい。こればかりは練習ではどうしようもないのだよ。人間の腕は2本しかないしその上リロードは倍以上かかるのだよ。しかも、厄介な事に二丁拳銃は……」
「……二丁拳銃は」
彼女が円に顔を近づける、ゴーグル越しに映る瞳が悪戯っぽく輝いている。
「そう、二丁拳銃は楽しいのだよ、とてもね。どうしてもバカスカ撃ちたくなるんだ!」
芝居ががった動作で説明をする。
「対策としてはこれ全体的に言えるけど撃つ時と撃たない時のメリハリをつける、これだな」
「はい」
円は気のこもってない返事で返す。
「少年、映画好きなくせに意外と二丁拳銃に対して偏見持ってるでしょ? 自分のスタイルを貫くのは悪いことではないけど、食わず嫌いは良くないよ」
そもそも二丁拳銃というのは西部開拓時代のガンマンの間で流行った技で当時の銃はリボルバーでなおかつ今みたいにラッチ一つで排莢出来るのではなく、1発、1発排莢して再装填していく時代だったので6発以上撃つのに銃を複数持つ必要がありそれが二丁拳銃に発展した。なので制圧する際の脅しの二丁拳銃は好きでも攻撃の為の二丁拳銃はそんなに好きではない、それする位であれば小型のSMGでも持ち込めばいいし二丁拳銃で弾をバラ撒く位であればそれこそ必中を心掛けるべきだ。
等と円は心の中で反論をしたが、同時に彼女が用意してくれた楽しいこの場を汚すまいと意見は気のこもってない返事までに留めておいた。
円は先輩の指導のもとに二丁拳銃での射撃を3リロード分行った、ただ3リロード目辺りになると彼女の言うとおりに円は楽しんでいた。
「じゃあそろそろ実戦の時間といこうか」
「実践?」
「そう、実戦だとも」
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円は彼女に連れられ廊下を挟んで部室や作業室のある側と反対側の部屋に入る。
電気を点けると倉庫みたいに骨組みだけの棚が複数並んでいてそれ以外にはキャビネットがあったり奥の方に作業机があり様々な工具などがある。部長が作業机やキャビネットの前でロールカーテンを落とす。
「箱の中身はわたしのコレクションだったりするから使用禁止ね」
この人がどれだけの銃を持っているのか想像もつかない。
「ここで何をするんですか?」
「決まっているじゃないか、サバイバルゲームだよ」
ニヤリと笑いながら彼女は言った。
「サバイバルゲーム」という言葉に円はときめきを覚えた。
そうだ、彼がやりたくて渇望していた事だ。
「キリが無いから1回だけね、ルールはわたしはこの1発だけ……」
彼女はポケットをまさぐり実銃の弾みたいな何かを吾妻に見せた。
「これは所謂カートという奴でタクティカルマスターでいう所のマガジンみたいな物さ」
先ほど撃ったカートを抜き新しいカートを再装填する。
「少年は一マガジンでわたしとの決闘を受けてもらう、先に相手に弾を当てたほうが勝ち、じゃあスタート」
彼女はそう言うと走って部屋の奥へ行き棚の角に消えた。
円は慌てて追いかけ隣の通路に出る、出た瞬間にそれを見越して彼女が狙いすましていたので慌てて先輩に向けて2発牽制弾を撃ってから進行方向へ向かい隠れる。
不利を察すると彼女は即座に身体を屈めて反対側に向かった、慌てて追撃しようと思ったがまた同じ事になると円は推測した。
先ずはマガジンを抜いてマガジンの隙間から見える弾数を数える、円がざっと数えたところ残りは23発だ。チャンバーに入ってる分も勘案すると24発。
そして少し落ち着いてから円は相手との戦力差を考えてみた。
彼女は破天荒な事は好きだが同時に戦術的には堅実な方法を取ると円は分析した。
それはさっきの隣の通路を狙いすましていた事から推測出来るしクイック・ドロー、二丁拳銃などのテクニックから確実に円よりも戦闘力は上でなおかつ攻撃方法も多彩だ。
彼女は先程は抜き撃ちを披露してくれたが今回はちゃんと狙っていた、持ち玉は1発のみで外すのは許されない状況下だ。外れたら勝ち。
「おーい、少年ー動かないならこっちから行くぞー」
彼女は喋りながらが動くので円は棚の対角線、死角を意識しながら避けていく。
円は逃げながら大体の作戦を練った、相手は射撃も巧いし動きを見るに反応も思っているよりもずっと早い。
本人同士の戦闘力において現状円が相手に勝てる部分は何もない、ただ銃の性能は天地の差がある。外れたら勝ちだが彼女が外す筋が全く見えてこない、多分上下逆に吊るされても円の眉間に当ててくるだろう。
果たしてそれだけだろうか?
そしてふと円はうっすら塵が舞っているのを見てそこからかすかに自らの影がうっすらと写ってる事に気づく、照明がついておらず採光窓の僅かな光のみが部屋を照らす、そして薄っすらとだが光と銃を持った影があった。
これだ! と思った瞬間に行動を起こしていた。
今日教わった全てを思い出し改めて銃を構える。銃の中心線が右手首を通るよう握り、左手を右手に添え、両目でリアサイトを見てフロントサイトと合わせ、心臓や呼吸の動きでブレないように息を止る。銃の撃ち方はこれで完璧だ。
そこまでしてから意を決して飛び出す。
彼女は後ろを向いていた、円が行動を起こした最大のきっかけは確実に後ろを向いていると知ったからだ。拳銃というものはたとえ左利きであろうと二丁拳銃でない限り基本的に右手で撃つものだ。その理由は拳銃を含めたほぼ全ての銃器は右利き用に作られているからだ。長く伸びた銃口が身体からにょきっと出ていてそれで彼女の左右を知りそこから彼女が後ろを向いているのを知った。
つまり普段背後を取らせない相手の背後を取り一時的なアドバンテージを得た。外れたら勝ちという消極的な選択肢ではなく撃たせる前に勝ちに行く選択肢をとった。
その証拠に彼女は今、ようやく気がついた。
その時点で円の眼は照星越しに彼女を狙い指は引き金を弾く寸前であった。
引き金を引くときは人差し指の先の中央、爪の付け根の裏側を意識して引いて、引くときは肉じゃなくて骨で丁寧に押し込む。
今日の短い時間で教え込まれた全ては引き金を弾き、弾を穿つ。そして彼女は1発の弾に撃たれる。
映画の中とくらべたらあまりにも抜けた音だし血も硝煙もなかった。
だがしかし、円はこの小説の主人公になる資格を今、得た。
しばらくの静寂の後、彼女は膝から倒れた。
円は驚いて彼女の元へ向かう。
「大丈夫ですか?」
「キミの勝ちだな」
ゆっくりと起き上がり、彼女は床に座り込む。
「ありがとうございます」
「ところでなんで倒れたんですか?」
「だってその方がキミもわたしも愉しいからだよ」
倒れた瞬間に円は達成感を感じた。
それは彼女を倒したからなのかそれとも円が主人公となったからなのかはわからなかった。
「サバゲーマーたるもの、勝ち負けや装備や友情と共に死に方もまた愉しむべきなのだよ。どうせやっていれば嫌というほど死ぬのだし」
「それとキミも大分サバゲーの毒が回ってきたようだね」
「サバゲーの毒?」
「まぁ、その辺りもキミもそのうち理解するさ」
彼女は立ち上がり、膝下を叩いてから銃をホルスターにしまう。
「さてと、友好の証としてその銃はキミにあげよう」
円は驚いた。
「えっ、いいんですか!」
「いいとも」と部長が言うと手に握っているそれを愛おしく眺める。
「いいね、いいね。その反応。男の子なんだからいつもそういう顔しなさいよ」
「ありがとうございます、その……大切にします。あの……またここに来ても」
「おっぱいはもう見せないぞ」
「見ません!」
彼女は円に手を差し伸べた。
「丸だ、名前を覚えるのが面倒なら部長でいい」
「それと先輩というのだけはやめてくれ。残念ながらわたしはそんな偉い人間じゃないし程度のいい人間でもない。むしろキミに学ぶ事も多いだろう」
「吾妻、吾妻円です、部長」
円は部長の手をにぎる。
そしてその時世界を巻き込む騒動の渦中に立った事を円はまだ知りもしなかった。
ただ今は部長の熱くしっとりした力強い手を感じるのみであった。
メカニック解説
タクティカルマスター
東京マルイのガスブローバックエアガン
発売日は古く東京マルイラインナップの中でも古参で、固定HOPであったりアンダーマウントレイルが存在しない等設計の古さを感じるが箱出し状態でカスタマイズされているため格好良く、現行で売られていてるマガジンを使用でき東京マルイ製であるため作動の不安は低い
もしこの話を見て購入するなら中古ではなく新品を購入するべきである、理由は対して値段が安く大量に普及していてプレミア価値も低いため新品のほうが後腐れなく所有できるからである
吾妻円がもらったタクティカルマスターには何か秘密があるらしい