18.WILD CHALLENGER Act.4
吾妻円は緊張した面持ちでその時を待っていた。刑に処される前に死刑台の13階段を見上げる感じ、ただし処されるのは彼ではなく後藤希である。
デュエルは1対1の早撃ち勝負を行う形となる、1回戦の相手は隣の卓ののりしお味@大尉であった。
「よろしく……お願いします」
「フン、君如きによろしくお願いされるいわれなんて僕には無いけどね」
円が挨拶した後脂ぎったほほの上にある眼窩にはまったぎろっとした眼が円を突き刺すように一瞥しにちゃつく口から嫌味を呟く。
円はタクティカルマスターをテーブルの上に置いた。相手ははどうやらホルスターからの抜き撃ちで挑むみたいだ。
しばらくの静寂、自分の心臓の音がフィールドに響き渡る感覚。
「ピー!」
ブザーが鳴り響く。
円はタクティカルマスターを握り引き金を引く、しかし引けない!
なんと、円のタクティカルマスターはマニュアルセーフティがかかったままだったのであった。セーフティというのはいわゆる銃の安全装置で不用意に発砲しないためにかけるものだ。円はサバゲーマーとしては初心者ながらガンマニアとしてはベテランゆえに常日頃からコッキングしたらマニュアルセーフティーをかけるのを心がけていた。しかし、それが今仇となった。普段であれば抜くとマニュアルセーフティーを外すがワンアクションであったが、抜いた後に机に置いてしまったためセーフティを外し忘れたのであろう。
相手は既に手にしたHK45をターゲットを撃った後であった。円はセーフティを外してようやく撃つ。
「マヌケだなぁ……」
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競技を眺め後藤希を含め皆が円の不手際を見て頭を抱えていた。周りの心情としては皆が吾妻円と陸奥ハルト寄りだ。この場には女漁りでなく純粋にエアガンいじりに来ただけであり、あの騒ぎが起こった以上は3人に退出してもらいたいと口に出さずとも皆心のどこかしらで思っている。
希の番になり競技グリットへ向かう、あいてはせなだった。
せなはルガーLPCを持っていた、コンシールドキャリーとよばれるジャンルでポケットにでも隠し持てるような小さく服にひっかからない様に角が丸いデザインの銃だ。ジーンズの内側に装着されたカイデックス製のマガジンポーチと連なったホルスターにLPCを収納して参加する。
希はスタームルガーをレザーホルスターから抜いてセーフティを外して机の上に倒して置く、その際には銃の一部を意図的に机の上からはみ出して銃を斜めに向けて置く。
「そういえば同じスタームルガー同士ですね」
「あ、そっスね」
せなのルガーLPCと希のスタームルガーMk-Ⅰは同じスタームルガー社から出ている銃をモチーフにしたエアガンだ。
お互い和気あいあいとしてから準備ができた旨を伝える。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いしまス」
お互いにお辞儀をする。
ブザーが鳴る、希はテーブルの上に置いたスタームルガーを4本の指で手前に弾く、スタームルガーは親指の付け根に吸い付くように滑りそのまま銃の角度を少し立てて狙わずに撃つ。
希はせなよりも早くターゲットに当てた。
――――――――――――――――――――――――
円は先の対決を見て彼らに対して技量で全く勝てない事を悟った。たまたま凡ミスをしたからそちらが注目されたが真っ当に戦ったとしても勝てる要素は何一つ無く彼らと戦える立場にも立っていなかった。
シード1回戦のハルトの競技を見て特にそう思った。慣れた手つきでレースホルスターからガバメントをクイックドローして腰だめ撃ちで圧倒的な技量でコーンフレークの虎に勝ち抜く。
自分もああいうレースホルスターやクイックリリースホルスターがあればなぁと思っていた、ふと手元にあったP90を見て思い出す。忘れていたけど持っていたのだ。
運営にP90を使ってもいいか聞き、許諾を得て敗者復活戦に挑む。
次の相手は後藤希に敗北したせなであった。
「なんか、大変なことになっちゃったけどお互いがんばろう」
「よろしくお願いします、手加減無用で来てください」
円はせなにそう言った。
せなに負けるのであればせなより技量のあるであろう隣の卓の中年男たちには絶対に勝てない。
グリッドに立った円はP90のセレクターを確認し銃口を真下にしてから2クリック銃身を立てた状態に調節しブザーを待機する。腰元つけてる都合そうしないと全く抜けないのだ。
ブザーが鳴りお互いに銃口を上げる、しかしその姿勢は対照的でせなはスタンダードかつ綺麗なアイソセレススタンスを作ったのに対し、円は世にも珍しいSMGのクイックドローを試みた。
円は結果を見る、円の勝ちであった。
しかし速さは未だ上位陣には足りていなかった。これで残り5試合全てに1度も負けずに全勝しないといけない。
つまりはまだ改良が必要という事になる。しかしこの時点でかなり分が悪い。ぶっつけ本番で後が無いのとクイックドローという技術に関して円は全く明るくないからである。
ホルスターの角度を高くする?
極端なことを言えば90度の角度に立てて抜かずに撃つならアドバンテージはある、しかしそれはテクニックではなくルールの隙間を突いただけの行為だ。それで勝てたとして中年男たちが納得するとは思えない。
ふとはじめてサバゲーを行った時の、見様見真似で直ぐにでもある程度の成果に直結することと、修練などを積まないと行えない事の2種の事を部長から説かれた事を思い出した。シューティングマッチに関してはクイックドロー自体に関しては修練を積まないと行えない行為だがそれ以外の部分、たとえばホルスターの選び方、装着位置等は見様見真似である程度の成果が出る、もしかしたらそれ以外にも何かあるのではないかと円は気づきを得た。そしてある人物に教えを請う。
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「クイックドローで勝つ身体の動かし方を教えてほしい?」
おちてるまがじんは円の頼みを聞いていた。現状だとこのコンペティションの中で円が一番ベテランだと思うのが彼だった。
「いい…けど、教え方ヘタクソだからあまり参考にならないよ」
おちてるまがじんは戸惑いながらもそれを快諾する。円が低姿勢で頼んできたのもあるが円に対する好感度も悪くなく多少の同情心もあったからであろう。
おちてるまがじんは少し考えてから説明を行う。
「先ず銃を撃つ際に使う関節を意識する、指、手首、肘、肩。それ以外にも腰、膝、足首、爪先等もどれぐらい動かしたら最短距離で銃を抜けるか。またはどこなら動かさなくてもいいか?」
「動かさない?」
「うん、例えばこう」
おちてるまがじんは指鉄砲で円にもわかるようにゆっくりと大きな動きでクイックドローを行う。円はその意図がすぐにわかった。
「肩と手首だけ動かして、肘を動かしてない!」
「わかってるね、理想を言うならば全てスムーズに動かして抜くのが最適解だけど必要なところを最低限動かすのが次善策だよね、右手でファストドローするのに左手を動かすのは理由がなければやる必要がないからね」
彼が語った前口上と比べかなり理知的な解説かつ初心者向けの助言でむしろわかりやすいと円は思った。
「それで銃口と的が重なったら引き金を引く。的自体は大きいからそこは簡単だろうね。僕が教えられるのはこの程度かな?」
円は「ありがとうございます」と謝意を示す。
「それよりも君は気づいてなさそうだから言うけど、今回の勝負仮に君たちが負けたとしても問題はないんだ。だって連中にメルアド教える教えないはあくまで君たちの彼女の自由意志であって、極論教えたとしても後にメルアド変えるなり着拒するなりすればいいわけだ。眼鏡の彼はあの場を収めるためにああ言ったのかもしれないだろうけどね」
アツくなってしまっていたがその真実に気づいていなかった。
「彼自身本戦側に残ってるし、銃の弄り具合から見ても勝つ自信みたいなのはあるんだろうね。まぁ君もほどほどに頑張ってね」
おちてるまがじんは自分の番になり円に別れを告げて競技に参加する。
その真実に言葉に言い表せない違和感が残るがそれははさておき円は自分の気付きを整理すべくノートを出して、メモを取る。軍事の定石というのは基本に忠実であらば一定の成果が出せる、故に円の1回戦みたいな下方向のハズレ値は出ても上方向のハズレ値は出にくい。そして、円はクイックドローにP90を持ち出している以上は基本から外れている事になる。
定石から外れるならば逆に徹底的に定石と違う部分を徹底的に書き出していくことにする。
先ずハンドガンとSMG、円のP90はSMGとしては大型、ハンドガンと比べ大型の電動ガンゆえに中距離以降の精度は悪くないが取り回しが悪い、スライドの動くガスブローバックとスライドの動かない電動ガン、しかし真壁は電動のハンドガンを使っていてせなはスライドの動かないLPCを使っている。
円はある事に思い至った。そしてわずかながらの勝機をそれに見出して急いでシミュレートしてから可能性を見いだし支度をする。
次の対戦相手は鶴田であった。
「勝ちを譲ってやりたいが……それは性根が許さんでな。本気勝負で行こう」
「望むところです、お互いがんばりましょう」
言葉を交わしお互いにグリッドに立つ。
ブザーが鳴る。
円は右側に装着されているP90を抜く、しかし撃ち方はかなり歪で左手をP90の上部に装填されてるマガジン部分を抑える形の腰だめ撃ちであった。しかしせなの時とくらべるとかなりスムーズかつ綺麗に抜けた。
結果を見ると円の勝利であった。
この勝利には秘密が2つあった1つは左手の存在、左手でP90を抑えつけている事である。これは腰だめ撃ちの際に照準の角度を決めるためと後述する別の理由もある。もう1つは右手、普通腰だめ撃ちをする際に銃を持つ側の手はある程度制御されていなければならない。手を制御することは当然、照準を制御することと同じであるからだ。しかし円は右手を全く制御せずトップスピードで動かしていた、そして前述した左手で押さえつける事がその役割を担った。おちてるまがじんの「動かさない」という助言を関節でなく筋肉にはめ込みガスブローバックガンでは出来ない芸当をこの短期間に編み出したのだ。そしてそれを全身の関節を動かし行う。
「やるな」
「ありがとうございます」
腹筋の痛みに耐えながら円は不適な笑みをこぼす。格好自体は不細工であったしセオリーから外れた変な体勢で腹筋を痛めたがが円に勝利と論理的な自信をもたらした。円は確信した、ようやく勝負の舞台に立てたのだ。
しばらく他のマッチが続き円の次なる対戦相手はタキオンPに決まった。
「よろしくお願いします」
円は挨拶をすると競技に集中した、ようやくここからが正念場だと自分に言い聞かせつつグリッドに立った。
何も聞こえない、静寂、無音。
思考が加速する、彼に対し思うところは色々あるが先ずは撃つ、撃ってからその後は考える。円はそう結論づけた。
鼓膜が揺れる。
円はターゲットを見据えたまま腰元に手を回す。
P90のサムホールに指が絡みホルスターのロックを外す。
銃口を上げる、右手を動かし速度は一切制動しない。ここまでいい感じだ。
同時に動かしていた左手をP90に押し当て右手の制動を左手で行う、最高の位置だ。
緊張感が最大限に張り詰めた状態、引き金を引く。
そしてようやくブザーが鳴り響く。
それを見ていた面々は息を飲んだ。
それは先のぐだぐだっぷりからは信じられないぐらいの早撃ちであった。SMGの早撃ち、矛盾しているが吾妻円はその矛盾を一切否定することなくそれを成し遂げた。
最序盤の頃から比べ皆が吾妻円を見る目がガラリと変わっていた。
負けたタキオンPは自分が勝ったと思っていた、しかし周りの反応を見てその時点で自分が負けたことにようやく気づく。
「ありえないっ、ズルをしただろう、貴様!?」
タキオンPは円に食って掛かる。顔に立った青筋やつばの飛びぐあいまで円には見えていた。そして息をするのを忘れていたらしく、そこで息を吐いた。
「具体的には?」
冷静に円は聞き返す。不正はともかくルールの隙間すらもついてもいない、真っ当な勝負で真っ当に戦って正々堂々と勝ったのだ。
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ハルトは円がため息をついて「具体的には?」と聞いた時点で「煽りセンス」が高いなと感じた。
単純な口撃でなく実力の伴った上での煽りの一撃は見ていて楽しい、特に画面の向こう側には需要がある。ハルトはますます円を気に入った。
しかし3人ほどそれに水を差す者たちがいた。
「あいつブザーが鳴る前に腕動かし始めてた、フライングだ」
親父連中が運営に物言いをつけた。他人の物言いに対し理不尽な批判した舌の根も乾かぬうちに同じ事をする、この場にいる全員が「面倒くささ」を彼らに感じているのをハルトは察する。空気を読めない人たち。だから女の子にモテないのだ。
しかしその物言いを破る者がいた。
「えっと……その……多分、吾妻さんはルール破ってないと……思います」
真壁まりがおずおずと挙手をした。ハルトも存在を忘れかけていたまりは自分の競技以外は無言でカメラ手に徹していたらしい。手元には高性能カメラが握られていた。
まりが運営の1人にそれを見せる、運営の背後からは様々な人が小さいバックモニターを眺めようと連なっている。まりは設定を弄り再生速度を0.25倍速にして見せた。その映像は吾妻円の右側面から撮影されていて、円が銃を抜く姿が見える最適な位置だった。皆息をのんで0.25倍速のゆっくりとした動画を見る、かすかにブザーが鳴った直後に円の腕が動き出した、ブザーの鳴りの遅さと連動するように円の腕も遅く動く、しかしその動きは一切の無駄のないクレバーな動きをしていてそこに不正や反則の入り込む余地は一切無かった。
判定の確認の為流した映像に皆が熱中する、吾妻円は大会の中心人物となっていた。
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脱落者が増え対戦の間隔が明らかに短くなり、勝負もたけなわになってきた。
円の次の対戦相手は1回戦で負けたのりしお味@大尉であった。
「よろしくお願いします」
円は挨拶をしたあとグリットに立った。今までに会った先達たちから得た教え、気付きなどを咀嚼し自らの力としてここに立っている。ようやく相手と同じレベルにまで来れた。
それは初心者故無かった自信を得て、泰然自若を身に纏った姿であった。
一方ののりしお味@大尉は焦っていた。初戦で負かせた相手が地道に敗者復活戦を勝ち抜き対戦相手として今、相対している。しかも明らかに戦いの中で成長をしてきている。
それはかつてあったベテラン故の余裕が失い、精細を欠いた姿であった。
のりしお味@大尉は円と同等、むしろそれ以上のプレッシャーに晒されていた。30年以上の年月と多額の資金で積み上げてきた彼のサバゲー歴がセーフティの解除を忘れるようなマヌケの若造に負ける。それだけは避けたかった。ただ伊達に30年以上もサバゲーに関わってきていないからわかるが隣のマヌケに勝てない。
となりのマヌケの若造を死刑台に登らせてるつもりが逆に自分が墓穴を掘っていたのだ。
のりしお味@大尉はこの場から逃げ出して家の布団に入り、サバゲーの講釈を垂れながら同居の老親の作る昼飯が食べたかった。しかし30年以上のサバゲー歴が敵前逃亡を許さなかった。
どこで間違えた?
隣の女の子にちょっかいをかけた時か?
マヌケ若造ののツレに軽くあしらわれた時か?
SNSで女性レイヤーに上から目線で物言いをしてブロックされたと気付いた時か?
給料の3ヶ月分を費やしてカスタムガンを発注した時か?
ホームを捨て去り3人で各地のサバゲーフィールドを転々とし始めた時か?
女の子に声をかけすぎてホームにしていたサバゲーフィールドの係員に注意されてそこに行きづらくなった時か?
隣の卓の女の子が困ってたから親切心で助けたら思っていた以上に感謝された時か?
初心者を抜け出した頃にたまたま同じ卓になった彼らと世間話をして思っていたよりも馬が合って仲間になった時か?
始発電車に乗り何時間も揺られはじめてサバゲーに行った時か?
自分の小遣いではじめて映画のチケットを買いヒートという映画を見て、ガンアクションという概念を知った時か?
父親にプラ製の安い輪ゴム銃を買い与えられてそれに魅了された時か?
のりしお味@大尉は不意に鳴ったブザーに気づいたものの最早勝負もサバゲーマーとしてのプライドも勝負もどうでもよくなっていた。
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円は競技を終え電光表示板を見てようやく勝てた事実を理解した。勝った喜びよりも負けなかった安堵の方が勝り、正直怖かったし未だ勝てたという実感を得なかった。未だに周りが遅く視界内にはいる総ての情報が円の脳をパンクさせていた。
フラフラとよろめきながら手を取ってもらいなんとか着席した。
せなと鶴田が心配そうに眺めてるのをぼうっと眺めていた。周りが何かを話していて耳が未だに慣れてないから言語が理解できない。
「よく頑張ったな。しかし、残念だがここまでの様だ。こういう時には銃を握らないほうがいい」
鶴田は円を見てそう言い残しP90の本体とマガジンを置くとその場を去った、円は口の動きで言語としてそれを理解したがその意図や意味は理解できなかった。段々と周りと自分の時間が合わさっていき脳がハッキリとしてきたそして遠くではおちてるまがじんとハルトの最終決戦が行われていた。
円は段々と周りを理解しはじめた今のが準々決勝で勝者の円が棄権した事から準決勝がスルーされ、おちてるまがじん対ハルトの決勝カードがスライド行われていたのだ。
そして意識がはっきりし始めると震えるほど寒くなり全身がしびれはじめた、緊張と脱力が同時に襲ってきて倒れそうになるが誰かが力強くしっかりと手を握って肩を抱いてくれていた、その両手の感触は滑らかで丸みを帯びながらもしっかりとした意思を円は感じた。
疲労はあったものの不安はもはや無く、安心感さえあった。
横を見ると、後藤希が円に寄り添っていた。
「おつかれさま」
希は円に微笑む。
段々と意識がハッキリとして視界が開けてきた、どうやら会はお開きの様だった。
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希は脚がガクガクで手を離せばすぐに倒れてしまいそうな吾妻円の手を取った。希はそれに嫌悪せずむしろその姿に尊敬の念すら抱いていた。
彼女が手を握っていたのは誰かのため自分より強い相手にも立ち向かう、後藤希の人生ではあまり多くいない善性をもった人だった。その姿に格好良さはどこにも無く、後藤希という個人よりもか弱い存在だ。正直、男たち別に言い寄られたとしても煙に巻く方法は向こうで教わったし、連絡先も使い捨て用を教えればいい、仮に実力行使に至ったとしてもあの程度なら3人まとめてノセる程度の心得はあった。
だからこそ、その全てを持ち得ないながらも対峙した吾妻円の勇気に後藤希は尊敬の念を抱いていた。
故に彼の手を取って肩を支えていた。それは男とは思えない弱々しい手のひらと力めて少し捻ればば折れそうなほど脆弱な体躯であった。
そしてこの時間が長く続けばいいなと希は思った。
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ポイントの集計が行われ、1位はおちてるまがじん、2位が陸奥ハルトとなった。
「次は敢闘賞です。厳正な選出の結果ratさんが選ばれました」
皆が拍手をする。円も皆に倣って拍手していた。
「オマエじゃい」
希が円の背中を叩いて立たせる。ここでようやく皆の拍手が自分に向いている事に円は気づいた。
円は1万円分の金券を受け取りM.A.R.Uシングルショットを抱えたおちてるまがじんの隣に立った。
3人で写真を撮ってる時に隣の男たちがいないのにはじめて気がついた。思うところはあるが勝利に水を差したくないので触れないでおく。
席に戻り会の解散を宣言されると午後の定例会のため皆撤収をしつつ、休憩する者、併設のグッズの売店や自販機を物色する者、装備を整備する者と皆が三者三様の行動を取っていた。
「あ、銃!」
ここに来てようやく円はP90の所在がわからない事に気づく。
「俺が回収しておいた、ちゃんと空撃ちもしてある」
鶴田がマガジンを抜いたP90を円に渡す。見慣れない傷が1つあったが円はそれを気にする事もなく慣れた手つきでストックパッドを外しバッテリーを抜いた。
「なんか色々ありがとうございます」
円は鶴田に感謝をする。
「今回の戦い、男としても、サバゲーマーとしても、人としても完全に連中に勝ってたぞ。俺は男として、サバゲーマーとして、そして人としても君を尊敬する。また会おう」
支度を終えた鶴田はそのまま去っていった。円も皆に倣い撤収の作業を行った。
「あ、そう言えば2人ともお昼とか考えてる?」
「考えてないっス」
円もここで解散かなーとゆるく考えていた。
「実はこの近くにいい焼肉食べ放題の店があるんだ、良かったら是非奢らせてほし……」
「是非付いていきまス!」
ハルトが言い切る前に希が食い気味に答える。やはり肉は強いし食べ放題もタダ飯も強い、行かないという選択肢は希に無かった。
撤収準備を済ませ円は希のジムニーに荷物を乗せて助手席に座る。
それと同時にSNSのコールが鳴る。
「あ、僕。今からまりちゃんが先行するからそれに付いてきてね」
ハルトから通話で指示が来たので希にその旨を伝える。ジムニーはピンク色の軽自動車の後ろに付く。
「そういえばさ」
「んー」
希は円の呼びかけにハンドルを握りながら答える。
「この車って後藤さんの趣味?」
「ふえっ!?」
希は素っ頓狂な叫び声を出す。
「後藤さんってカッコいいの好きっぽいからこの車も好きで選んだのかなーって」
確かに後藤希という人物はカッコいい物が好きであった。ホームセンターに行けば工具やアウトドア用品の場所に行きたくなるし、腕時計はGショックを、カバンは男物、服装はレディースよりもユニセックスだったり小さめのメンズを履いている。
そう考えてみればジムニーもカッコいい物の1つに入る。
吾妻円という人物は他人をよく観察してるなと希は思い、希自身の事もよく観察してくれて何故かそれがこそばゆく感じた。
――――――――――――――――――――――――
ハルトとまりが連れてきたお店は円の地元では有名な「牛太郎」というバイキング焼肉店であった。休日のこの時間だと予約をしないと何時間も待たされる位の人気店である。
駐車場に2台入れ皆で店舗に入る。
「予約していた真壁です」
真壁がスマートフォンを読み込ませると1分も経たずに席に通された。
店員が来て90分食べ放題の説明とオプションの有無を聞いてから食べ放題が開始された。
ハルトと希が猛ダッシュで肉コーナーへ向かう。円とまりは後からゆっくりと肉コーナーへ向かう
「そういえば、ハルトさんが吾妻さんに悪い事したなぁってボヤいてたんですけど、何かありました?」
円は少し考える、何も悪い事はされていないが多分発破をかけられた時の事を言ってるのだろう。
「ちょっと発破かけられただけですよ」
円はハルトから発破をかけられた時を思い出す、あの時部長ならどうしたのだろうか?
幾ら考えても現実的な答えは何も出てこなかった、理想論を言うなら円と同じ行いをしていてほしいが果たして彼女は同じ事をするのだろうか? わかった上で見過ごすかもしれないし、もしかしたらもっといい方法で丸く収めてしまうかも知れない。
「えっと……ハルトさんってああ見えて結構俺様気質なところあるんですよね。それで吾妻さんにご迷惑おかけしてないか不安で。それと吾妻さんのやったことは正しかったとわたしも思います」
「ありがとうございます」
まりから自分の行いを肯定される。円は少しだけ救われた気分になった。
「とりあえず何か取りましょうか?」
皆それぞれ肉や野菜を取る。円達が席に戻るとハルトと希が既に肉を焼いていた。円とまりは残った席に座りそれぞれのカップルが並び合う形になる。
「あー、おほん……えーと……」
ハルトが少し居心地悪そうにする。まりがハルトを小突く。
「吾妻くん2つほど、後藤さんにも1つ謝らないといけない事があります」
「1つは勝手に後藤さんを賭けの対象にしてしまった事、これは2人に対し本当に申し訳ないと思ってる。もう1つはその時に部長さんを引き合いに出してしまった事。ぶっちゃけ僕もあいつらには苛ついていたし吾妻くんが勝ってくれたから胸のすく思いだった」
「なのでこれはお詫び……あと、いいものを見せてもらったお代として吾妻くんに献上します。後藤ちゃんはー、そうだなーまた今度ってコトで」
ハルトは1万円分の金券を円に渡す。円は「いただきます」といい金券を受け取った。
「さースッキリしたから食お、食お」
ちょうど良く肉が焼けたので皆で焼肉を食す。90分の戦いが今幕を開ける。
サバゲー解説
サバゲーギアについて、3
イミテーション
いわゆる機能性よりもかっこよさや自己表現を追求した装備類で
ダミーグレネードやダミーナイフ、ダミー電子装備、プレートアーマー、サイリウムやタイラップ、ハサミ、手錠等の小道具系、パッチやワッペン、ステッカー等のシンボル系がある
一部の小道具系はBB弾ボトルや冷却剤も兼ねている場合もある
装備の調達は各々のセンスや哲学に任せるが、注意すべき点はフィールドに持ち込みが可能かどうか、特に注意したいのがダミーナイフとシンボル系全般でダミーナイフ等の白兵武器類はフィールドのハウスルールによっては持ち込みが制限または禁止されている場合があり事前にフィールドの規約やゲームのルールなどを読み込む必要があり叩かれると痛いので基本的にはサバイバルゲームには使用できない、当然刃のある本物は銃刀法に関わるので絶対に持ってきてはいけない、意外とやりがちなのが銃剣で着剣式ならダミーナイフと同じ処理で回避きるものの銃剣が本体に固定されているエアガンが特に要注意である、使用したい場合に事前に運営に許可を得ておき念のために予備のエアガンも持っていくことを勧める
シンボル系は、ハーケンクロイツや赤十字等みたいなセンシティブなシンボルは事前に同じ意味でありながらも別のシンボルに替える、ハーケンクロイツは黒十字に赤十字はスターオブライフ辺りに変えておくと同じ意味でもニュアンスが違うためセンシティブさが途端になくなる
それ以外にもイラスト系のシンボルでセクシーすぎるものは持ち込まないのは男の常識である、そういうのは家で独りで楽しもう




