15.WILD CHALLENGER Act.1
吾妻円は真壁まりから話したいことがあると聞き普段使わない大学内にあるカフェに来ていた。チェーン店で大人からすれば安価だが円みたいな学生の身分だと少々キツい値段設定だ。一番安いアイスコーヒーだけを買おうと思いながらあたりを見回し、まりを見つける。まりの向かいには見知らぬ男子学生がいた。男子学生の方が気づき手を振る。
「はじめまして。吾妻くんだよね?」
男子学生の方が先に気づき挨拶をする。メガネを掛け、ネルシャツを羽織り清潔感はあるが冴えない感じの上級生だ。
「僕、真壁さんとお付き合いしています教育学部の陸奥ハルトといいます、よろしく」
ハルトは気さくに挨拶をし握手を求める。円はそれに返しに座った。
まりはミルクを飲んでいてハルトはパフェを食べていた。2人共自然体だ。
「1年の吾妻です、よろしくおねがいします」
自然体の2人と違い円はかしこまったような感じで縮こまる。
「飲み物買ってくるよ、吾妻くんには来てもらったんでここは僕が出すよ」
「じゃあ、アイスコーヒーの一番小さいので」
「あ、わたし牛乳おかわり」
円は渡りに船と思い陸奥の好意に甘えることにした。
円は席に座る。しばらくの間沈黙が支配する。
別に真壁まりという人物に嫌悪感を抱いていたり苦手という訳ではないが、そこまで親しい関係でもなく円はまりが何を考えているのかわからなかった。
「今日呼んだ用事って?」
意を決しまりに聞く。
「えっと、シューティングマッチに参加いたしませんか?」
「シューティングマッチ?」
シューティングマッチとは全てのターゲットや行程を手際よく終わらせ、その時間や得点等で順位をつける競技だ。いわゆるパブリックイメージの射撃競技とは違い、射撃の正確性よりも行程を全て終わらせる手際の良さが重要視される。3ガンマッチやATPF、PPS等がある。
と、インターネットで円は学びざっとしたルールも覚えた。
「そこは僕から説明を」
ドリンクを買いに行っていた陸奥が戻ってきて円にアイスコーヒーをまりにはミルク、ハルト自身はアイスティーを持ってきていた。
ハルトはトレーから各人のドリンクを配膳しまりの隣に座った。
「プライマリ主催のプライマリ&セカンダリマッチをご存知ですか?」
円は首を横に振った。プライマリというのは田所ヨウの話で出てたのはうっすら覚えている。が、そのゲームルールは知らなかった。
「いわゆる初心者向けのシューティングマッチで連発式のハンドガンと長物があれば参加できる初心者向けの大会なんですよ。僕とまりちゃんともう2人の4人チームで参加する予定だったんですけどその2人が来れなくなってしまって、こう見えてぼくもまりちゃんも人見知りで他人と組むのも嫌で、かといって人の確保にちょっと苦心していまして……本当に申し訳ないんですけど参加費僕持ちで大丈夫なので参加しません?」
「もう2人って事は1人誰か来る感じですか?」
円はハルトに聞いた。
「いやぁ、そこもまだ確保できてないね」
ハルトは両手を挙げておどける。そのすこし後にまりがおずおずと手を挙げる。
「えっと……吾妻さんこの前一緒に帰ってた子、呼べませんか? その……流石に一緒に参加してくれるのに知らない相手が3人だと疲れるでしょうし」
まりがおどおどしながら提案をする。なるほど後藤希位に気心の知れた相手なら知らない相手よりも円も安心だ。
「さっき講義で一緒でしたし、今呼びましょうか?」
ハルトがそれに快く了承をする。
円がSNSで概要をかいつまんだ説明を希に送る。いつも同じ服を着ていて一見ズボラで既読スルーしそうだが希は意外とマメでレスポンスも早い。連絡を取ってすぐに返信が来た。
「飯、おごって」
スタンプで「ごはんたべよ」と貼られた後にそのメッセージが来ていた。ちゃっかりしているなぁと円は思いながらもハルトとまりに話す。
「おっす」
円の背後に希が現れた。いきなりの事で円は驚く。
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「と、いうわけで。一緒にシューティングマッチに来てほしいんだ」
希は円の財布から出したカレーライスを食べ終わった後に本題に入る。
「それいつッスか?」
「ちょっと急で今週の土曜なんだ、7時半入場、8時開始の11時終了。場所はプライマリのフィールド、本店じゃないよ」
ハルトは自分のスマートフォンを円と希に回して概要を説明する。プライマリのフィールドは近場であるがかなりの山奥にあった。近くまでバスは通っているみたいだが基本的に自動車で来ることを想定されている。
「その時間だとわたしバイトは空いてる、参加する?」
「僕は参加する予定」
「じゃ、参加しまス」
断る理由もないので参加する。
「じゃあ決まりだね。後日追って詳細とか詰めるからSNSのアドレス交換しましょ」
4人でそれぞれSNSのアドレスを交換し合う。
「それともう1つ聞きたいんだけど。吾妻くんって……もしかして映画とか作ってたりしない」
希は「なんじゃそら」と円の方を向いた。
「ええ、作ってましたよ」
まさかの肯定、希も驚く。
「あ、やっぱり! 吾妻くんグループ6主催の学生映画祭で賞取ってたよね!」
希は吾妻円の知らない一面を知る。
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「へぇ……吾妻ちゃんシューティングマッチ行くんだー」
バイト中、武者小路敦子と雑談しながら円はバックヤードでエアガンのカスタムを見学する。加藤に慣れたほうがいいだろうとの事でカスタムの経験がない円と希はカスタムを行う際には見学をする事となった。
武者小路は手際よく海外製AR系の電動ガンを分解の準備を行う、自分は道具類のチェックを行い、円は気を利かせ分解作業に用いる納品されたばかりのAR系ライフルを持ってくる、デッカーズは現在カスタムの注文は取らないが、納品されたエアガンの初期不良やパワーオーバーのエアガンを改修し不良在庫を解消するためにメカボックスを開ける事をし、将来的にはカスタムや修理なども扱う可能性があると松岡と加藤から言われた。
「武者小路さん的になにか助言とかありますか?」
「んー、先ずは自らが経験のない初心者であることを自覚するかな? 総ての知識は経験に基づくって言うしね」
「カントの言葉?」
「それ自体はカントの言葉らしいけど、その語源である経験論自体は古代ギリシャから言われてた事よね。つまり吾妻青年は今ここでカントの言葉が古代ギリシャ時代からある概念と知れたわけですな。つまりはそういう事。まぁ吾妻ちゃんはこの趣味齧ってる野郎としてはかーなーりー謙虚な方だからこの話自体釈迦に説法でしたな」
武者小路はケラケラ笑いながら続ける。
「精神論じゃなくてシューティングマッチに関してなら順番は後ろの方を取る位ですな。葬式の焼香みたいな物で少なくとも動きという経験は得られますぞ」
たしかに焼香ってやりかた毎回忘れるよなって数度の葬式に出た円は思った。
精神論の伝授とシューティングマッチに関する助言をしながらも「ここのテイクダウンピンをポンチで押し込んで外す、その後に後ろのピンも外してレシーバーを分離させる」と作業手順を円に見せる。
円の手元にある加藤拓郎の作成した手順書は写真入りでわかりやすく書かれている、その上で実際の作業を見てエアガンの構造を把握する。
「んで中古はここのミミのチェックも必須ね」
武者小路は分離したARのレシーバー上側の下部にあるでっぱりを指差す、確かにミミと言えるような形だ。ウサギのミミ。
「なぜ?」
「折れてる可能性あるから、特にマルイの古いのは新品でも買った後にチェックしておくのが安泰よ」
武者小路はそのまま手際よく分解作業を行っていく、パイプストックを外し基部の内部に赤く底が半球形のドライバーを突っ込んでパイプストックも外す。その後にマガジンキャッチを押し込んで外し、グリップ底のネジも外し、トリガー上部のピンもポンチで押し込む「ここは両方から抜ける場合と片方からしか抜けない場合があるので慌てず騒がず反対側も試す」と円に説明し逆方向から押し込む。
「今回はコネクタになってるんだけどはんだ付けされてる事もあるね、今回はコネクタなので丁寧に外す。はんだは加藤殿に聞いたら多分丁寧に教えてくれるでしょうな」
武者小路と円はエアガンの分解を続けていく。その次にモーターの無くなったグリップ底にドライバーをツッコミグリップも外す。
「これでようやく、メカボとご対面ってワケ」
武者小路はそのまま伸びをする胸元がかなり揺れ円は見入る前に目をそらす。
「シューティングマッチの件なんだけどさー」
目を反らしている円を気にすること無くシャツをパタ付かせる。
「あーくーまーでコレ自体が吾妻ちゃんの問題じゃない上に割と理不尽に降り掛かってくる厄災みたいなモンになるけど、シューティングマッチに限らず男趣味に女の子連れてくると女の子目当ての直結野郎が群がってくる事がありますな。拙者もひっどい目にあったことがありましたなー」
武者小路は遠い目で語る。
円はふと希とはじめて遭った時を思い出した。あの時も男が希に群がっていた。
「それって、対策ってなんかありますか?」
「んー、係員に言うのが無難じゃない? でも、一番楽チンなのは本人かツレが格の違いを見せつけてワンチャンすら無い事を認めさせる。こういう風にネ」
武者小路は舌を円に見せる、舌の中央から先は裂けていてそれが左右に色っぽくぬらぬらとうごめく。異形、されどエロティック。円はその光景にゾクッと来た。
「オ!、新鮮な反応ゥー」
ケラケラと笑う。円は赤面して顔をそらす。
「まっ、あくまでそういう可能性があるってコトを頭の片隅に置いておくってコトね。たのしんでおいでー」
武者小路と円はそのままメカボックスの分解に入った。
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若宮ツカサは里見ユキヲに連れられてクラブの個室にて面談を行っていた。今の所女のコは無しだがツカサの緊張を解し本音を聞くためにと輸入品の医療用の精力剤とエナジードリンクを飲ませた。
「もう一度だけ確認する、オマエは吾妻円が嫌いなんだな?」
ツカサの沸点の低い怒りを抑え粘り強く聞いた怨嗟のこもった話では「長岡京という好きな女の子を吾妻円に盗られた」に集約された。話の内容は幼馴染だった長岡京という1コ下の女の子が同じ高校に入った、そこまでは良かったのだが、吾妻円と同じ映画同好会に入りあまつさえは吾妻円に懐きツカサはお付き合いを断られた。大学も同じ大学で部活動まで同じで故にユキヲに頼んで吾妻円を排除したとの事だ。今までの行動にある程度の一貫性「吾妻円に対しての憎悪」で動いている事がわかった。
「ああ、アイツは俺が殺る」
ツカサは強い言葉を口にする、ユキヲはツカサの事をゲームが上手くて顔がいいだけの口先だけの男だと侮り今まで信用していなかったがその言葉と殺意に関して本物だと感じ、アンダーグラウンドな付き合いのあるユキヲでもそれに気圧された。一言で言えば「殺る男」の眼だ。これを知れただけでもむしろ有意義と言えるだろう。
ハルトが去年から目をつけていたのがよくわかる。確かに、面白い。狂気、特にアグレッシブかつ方向が定まった狂気は画面の向こう側に需要がある。
「オーケー、わかった、それに関して全面的なバックアップを確約する。ここからは楽しく行こう」
ユキヲは電話をかける、5分もしない内に女の子が4人来た。HEROESの名前を出せば当日でも1ダースはすぐに集まる。ユキヲも楽しみたいので来られる中から顔と身体で選んだ、女の子達と入れ替わりにクラブの外に向かい店内の喧騒から離れる、目の前の自販機から缶コーヒーを買い少し離れた場所に座り電話を掛ける。
「あ、俺。ユキちゃんおつかれー」
電話の相手はハルトであったが電話の向こうから大音量で爆発音が響いている。
「騒がしいぞ」
「ああ、ごめん。映画見てた」
即座に爆発音が止まった。
「俺が爆弾処理してる間に呑気に映画か?」
「いや立派に勉強よ、それで?」
「ああ、オマエの予想通り女だったな。だが確かに面白かった」
ハルトは「だろ?」と電話の向こうで答えた。
「要約した話でいいから聞かせてよ」
「ああ、同じガッコの後輩の長岡って子が好きだったんだがそれが同じ部活で映画作っててそれでヤツに靡いてたんだとよ」
「理由それじゃねぇだろうな……おつかれ」
ハルトは少し考えてそうボヤいてからユキヲを労った。
「そっちはどうなってる?」
「俺の方はまりちゃん経由で今日会った、んで今週土曜に腕前を確認する」
「方法は?」
「今週の土曜にプライマリで初心者向けのマッチコンペあったでしょ? アレに誘った」
「コンパニオンでも用意するか? 土曜なら6人程度なら用意できる」
「大名行列みたくそう何人も女のコ連れて来てもしょうがないでしょうよ? 俺とまり、吾妻とツレで枠埋まってる」
「なるほど、じゃあそっちは任せた」
ユキヲがそう言うとハルトとの電話は切れた、ユキヲは自分も女のコ達と楽しむことにした。
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希は夜中に寝れなくなって、ふと昼間に話していた吾妻の映画が見たくなった。
スマートフォンで「吾妻円 映画」と検索した。すると一番上に動画配信プラットフォームのURLが出てきてそれをクリックする第3回グループ6主催高校生映画コンペティション参加作品 ラブレターと出てきた。
希はそこで一旦止めて起き上がってトレーラーハウスの外にあるテレビへ向かった、テレビ機能は無いものの動画配信プラットフォームとサブスク配信だけ見れるタイプのスマートモニターでそこにスマートフォンからURLを送信して動画を開く。冷蔵庫にあったキンキンに冷えたクリスタルガイザーと自分用のグラスも用意してソファーに座り再生ボタンを押す。
CMを挟んで動画が再開される。クラシック調の音楽と共に県立馬走第一高校映画部制作 主演 No と黒地背景にに白文字のテロップが出てきてその次にタイトルの「ラブレター」と出てきた。
本編がはじまる。画面には教室が映っていた、夕日が眩しく、机と椅子がたくさんあり窓際にはカーテンが靡いている。
その中に1人いる女子生徒にフォーカスしていく、半袖のポロシャツとプリーツスカートを着ていて黒いマスクをしているが美人の女子生徒であった。
「先輩! ラブレターありがとうございます」
黒地に字幕が映る。その後に女子生徒の顔が映る。
「え、返してほしい?」
字幕。女子生徒はニヤつく。
「いやです!」
字幕が矢継ぎ早に続き一人称視点で女子生徒との追いかけっこが始まる。そこから女性ボーカルのハードロック調に曲が代わる、ブレブレの画質で始まったそれは最初のうちは普通の追いかけっこだったが廊下から階段にはいると女子生徒は手すりに座り滑りながら踊り場へ向かい踊り場の窓から飛び降りていた。カメラは踊り場から地上に下りて回転している女子生徒を窓から追っていた。
ここまででドラマ重視の映画と思っていたから、いきなりのアクション展開に希は追いつけず映像を眺めているだけであった。
カメラは玄関まで向かい女子生徒を外まで追いかける、施設の外に出て路上をしばらく追いかけっこする女子生徒はガードレールから飛び越え川沿いの下の遊歩道に落ちて走り、カメラは併設されている上の道を走る。
目の前の川に渡してある水道パイプの上を女子生徒は両腕を伸ばしてバランスをとりながら渡っていきカメラはそれを少し奥の橋から追いかける。
川を渡り来た道を戻っていく、その先には線路があり女子生徒は電車用の架線柱を登っていき架線柱を渡っていく、カメラは併設されている跨線橋で追跡し、跨線橋越しに女の子の手紙をもぎ取ろうとする、しかし女子生徒はいい笑顔で背中から落ちる、カメラは下を眺めるとトラックの荷台に立っていた女子生徒はラブレターをヒラヒラさせトラックは発進する。
カメラはその場にあった自転車に鍵を差して乗りトラックを追いかける、トラックは駅前で止まってカメラはトラックを見る、すでに女子生徒はおらず路地裏を走っていた、自転車から下りてカメラは路地を突き抜け石段を登る。そこは神社であった、本殿をクルクルと回り、その勢いで手水舎や絵馬掛所等をクルクルとまわり直線距離で玉垣に向かって走りここでスローになり玉垣を背面跳びの要領で触れずに飛び降りる。スローから戻ったカメラは参道の石段を下りていく神社の下は公園で女子生徒は埋め込まれているタイヤをテンポよく飛び越え、鉄柵に飛び乗り、鉄棒を綺麗な踏み越し下りで抜け、鉄棒の裏にあった石段を登っていく。石段の先は路地裏で女子生徒はある一軒の家に入っていく、家の軒先には老夫婦がいてカメラは一礼をして女子生徒の方へ向く、女子生徒は塀を乗り越えて、憎たらしい顔で手を振っている。カメラも塀を乗り越えるとそこは商店街であった、カメラは女子生徒の後を追いかけ商店街を右往左往する、様々な店の前を通り女子生徒は小さいデパートに入っていく、女子生徒は正面のエレベーターに乗って上へ上がっていった。カメラは左手にあった階段を登っていき金属扉を開けた、音楽が止まり環境音が流れる、風の音と遠くの喧騒だけ。外は数十秒前と比べ大分暗くなっていた、そこは小さい庭園であった。カメラは慎重に女子生徒を探していき、あるベンチに女子生徒が座っていた。
「先輩、どっち飲みます?」
字幕の後に女子生徒が赤いコーラと青いコーラを差し出してきた、カメラは青い方を飲む。
「先輩、どうしてお手紙奪おうとするんです?」
「断られるのが怖い」
「断られるのが怖いなら手紙を出さなければいいじゃないですか」
「でも出したかった」
「さいですか、じゃあわたしの答え教えますね」
字幕パートがおわり女子生徒が指を鳴らす、すると遠くで花火が鳴った。
「これ、わたしの答えです」
カメラが女子生徒とその隣の男子生徒からヒキになって夜空を映す。
そうしてからまた激しいロックに戻りスタッフロールに入る。
女子生徒 No
男子生徒 藤原あすか
スタント 松代さおり
モーションアクター 松代さおり
アニメーション 藤原あすか
絵コンテ 吾妻円 藤原あすか
字幕文字 藤原あすか
VFX 広島暁 長岡京 藤原あすか 松代さおり
映像 吾妻円 広島暁
カメラ 吾妻円
音響 吾妻円 広島暁 松代さおり 地元の先輩たち
主題曲 あいしてほしい/地元の先輩たち
とクレジットされていた。あれだけの映像をたった数人で作っていたのに驚きだ。
どうやら市と学校、神社、デパート、商工会、地元の警察、途中に突っ切った民家、それと地元の先輩たちがスペシャルサンクスで載っていた。
グループ6主催高校生映画コンペティション参加作品と移り、その後に監督 吾妻円と出て映画は終わった。
「すげぇな……」
「そっスね……」
いつの間にかマツケンもソファーの後ろから映画を見ていた。
「うわっ、いつの間に」
希の背後にマツケンが現れた。いきなりの事で希は驚く。
「オマエこんな面白いモン見るなら呼べよなー」
マツケンはソファーの後ろから希の隣に座る。
「グループ6の勉強?」
「いや、吾妻サンと土曜に遊ぶことになって」
「昼間に土曜に出かけるって言ってたな。いいことよ子供は外で遊べ」
「じゃあ仕事減らしてほしいっス」
「そら、だめだ」
マツケンはリモコンを動かしてラブレターのメイキング映像を見始めた。しばらく2人でそれを眺める。どうやらあの映像の大半はクロマキー合成を用いられているらしく、映画監督である吾妻円がそれを丁寧にかつ面白く説明をしている、目測で距離や高さを測る方法など薀蓄のある話をしている。もし青春というのがあったのならこんな感じで楽しいものなのだろうかと希ブルーバックの前で飛び跳ねる女子生徒を見て思った。
「マツケンさ……」
「なんだ?」
希は意を決して聞く。
「マツケンが子どもの頃ってどんな感じだった?」
希にとって幼少期とは苦痛と受難の塊であった。しかしこの映画を見ていると吾妻円の過去は苦痛や受難もあったかもしれないが少なくとも映画を見ていて相応の楽しさを感じた。矛盾、故に希は身近な大人であるマツケンに尋ねた。
マツケンは少し思案してから断りを入れてから映像を止める。この人のこういう優しさが希は好きだ。
「マジでクソガキそのものだな、ほんっとヒデェガキだった」
「聞かせてよ」
「いいのか? 長くなるぞ」
「眠れなくなったからさ、ゆっくり聞かせてよ。コーヒー淹れてくるよ」
希はトレーラーに戻りマグカップにお湯を入れインスタントコーヒーを入れてマツケンの隣に座る。マツケンには砂糖を入れたほうを渡す。甘いのが好きな人なのだ。
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アメリカ西岸のワシントン州、シアトル・タコマ空港に松岡少年が降り立ったのは15歳の3月末であった。当時の松岡少年は日本にいれなくなって仕方なくアメリカの遠縁を頼って移住した。
遠縁は空港に迎えに来てくれたがリムジンはなく代わりにボロのフォード・Eだった、パネルには「M.P.O Corp.」と描かれていて車内はヤニ臭かった。松岡少年の処遇としては妥当だった。
遠縁はホテルやプール付きの屋敷でなく自分が経営する印刷所の屋根裏に松岡少年の部屋を用意した、ベッドにトコジラミがいないだけありがたかった。
そこから遠縁と松岡少年の生活は始まった、当時の松岡少年は多少英語を喋れたが学校で多分にバカにされた、地元になじみのないぽっと出の日本人の扱いとしては妥当だった。松岡少年としてはそれは気になる事でなかった。学校では波風立たずに過ごし遠縁の事業を手伝った。灰色の青春、松岡少年にはピッタリだった。
印刷所内で雑用ばかりをやっていて数年も過ぎると印刷機も扱え印刷物のデータ作成も任されるほどになった、そして裏で様々な紙類を密売するようになった、それも印刷所の事業の一端であったからだ。障害者用の駐車スペース割当チケットからワシントン大学の卒業証書まで。他の偽造品を密売する輩と違う点を挙げるのであらば密売する偽造品は全て印刷所内で完結することであった。
松岡少年は変造に関しての才能もあったが変造した書類を使う才能もあった。それらの証書類を使って様々な違法物品を正規の方法で入手し転売をした。主に輸入車の25年ルールの穴を付く事と米国カナダ間の関税をパスする事に長けていて様々な物品を転売していった。
松岡少年は松岡青年となり松岡青年の十代後半と二十代前半はそれで費やされた。その頃になると松岡青年は地元のギャングともつながりが出てきた、ギャングといってもブラッズやアジアンボーイズとかみたいな一流じゃなくて同じ地区の冴えない連中の寄り合い所帯みたいな三流だった。
松岡青年のおかげで三流は金のある三流となり、二流となりわずか数年で市内では一流と張り合えるレベルの勢力をつけた。その頃には印刷所は副業を複数経営するまでになっていた。
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「へぇ、サクセスストーリーじゃん」
希は大分温くなったコーヒーをすすりながらマツケンの話に相槌を打った。
「ばーか、こんなん成功とは言わないんだよ。裏稼業ってのはなドブの中這いずり回ってその上澄みを奪い合ってるだけの日陰者の集まりだ、真の成功ってのはな誰にも後ろ指を差されず面白おかしく真っ当な人生を送る事。それが欲しいからこそ俺もオマエもここにいるんだろ?」
忘れていた本質を突かれて何も言い返せなかった。
「ま、ここまでサクセスストーリーを進んでいた松岡青年はこの後に地元も親族も切ってサンフランシスコに移住してそこでもっとヤバイやつに搾取されるようになったって訳、んで、そこでオマエに投げ飛ばされて米軍の装備品を横領したとして連邦刑務所への収監か計画への参加を以ての恩赦かを鏡子に強制されたってハナシよ。」
「なるほど」
「いい時間になったから早く寝ろ。明日も計画のために頑張ってもらわなにゃいかんからな」
「面白おかしい真っ当な人生のためにね」
「そういう事、じゃあな」
希はしばらくソファーで温くなったコーヒーを飲みながらメイキング映像を最後まで見て、もう一度ラブレターを見てから、テレビを消して自室のベッドに入り眠りにつく。
ふと真っ当な人生って何だろう?
あの女の子と自分の違いは何だろう?
と、疑問が浮かんだがタオルケットに包まりまどろむ希にそれを説いてくれる人は今はだれもいなかった。
サバゲー解説
シューティングマッチとは
サバイバルゲームと違い射撃の技量で競うエアガン競技
基本的に全ての行程を行った時間を競うか様々な要素から得られる得点を競うかの2つのパターンがある
参加するにあたっての心構え
先ずレギュレーション及び必要なものを確認する、サバイバルゲームと違ってシューティングマッチでは銃本体以外にホルスター、予備マガジンやマガジンポーチ等が必要になってくる可能性がある
またレギュレーションもサバイバルゲームとは違い銃の種類に加え、コッキングしての装填が可能か、薬室に弾を装填してのハンマーダウンいわゆるデコッキング機能や実銃と同じ装弾数のリアカンであるか否か、また複数種類のエアガンの用意やエアガンでなく火薬式モデルガンの用意等が必要になってくる
それに加え、競技の性質上でホルスターの有無やマガジンポーチが必要になってくる場合もある
初参加時においては事情がない限り後の方の順番を取る。
サバイバルゲームと違いシューティングマッチにおいては様々なルールがあり口頭や資料などで説明されても実際の動きがわからない場合が多くある、ベテラン勢に先手を譲りベテラン勢の動きを見て研究して立ち回りや動きの注意点、反則のパターン等を覚えるといい
優劣でなくあくまで自分への挑戦とする
ここを見ている方々は初心者であろうから事前に断っておくが、シューティングマッチは一朝一夕でどうにかなる物ではない
あくまで挑戦を意義としてその中でトップを狙うでなくベストを尽くし運営を妨げないような方向で動くと精神衛生上いい、優勝せずとも参加費を払ってまで挑戦のために来たチャレンジ精神は誰もが認めざるを得ないのだから




