11.Dirty deeds done dirt cheap Act.4
吾妻円はデッカーズから採用通知を受け勤務初日を迎えた。
デッカーズの前には「本日従業員研修のため休業」と可愛らしい文字で書かれていた。
ガチガチに緊張しながらデッカーズに入り、約束通り面接を受けた部屋へ向かう。するとそこには円と同じく採用されたであろう2人がすでにいた。
1人は円と同世代ぐらいの耳にピアスをしてしている気だるげな顔をした金髪ソフトモヒカンの青年で頬杖を付きながらスマートフォンを見ている、その斜め向かいにはもう1人丸メガネをかけたダボダボのトレーナーを着た猫毛の長髪で胸の大きい女性は座面に足裏を乗せてくるくる回りながらエアガン雑誌に赤ペンで何か印をつけている。
まだ席は多くあったが円は丸メガネの斜向い、耳ピアスと1つ空いた場所に座る事にした。
2人共癖の強そうなメンバーだなと思いつつ円は時間を待った。時間目前になりドアがいきなり開く。
「よしよし、まだ時間にゃなってないな」
円はその人物に見覚えがあった。学食で円に助け舟を出してくれた大男だった。特徴的なハーフミラーのシューティンググラスをかけた彼は円の向かいにドカッと座る。
彼が座ると同時に松岡が部屋に現れる。
「全員いるね」
松岡はホワイトボードの前へ向かった。耳ピアスは頬杖を止め、丸メガネは雑誌を閉じ、大男はサングラスを外し、円は姿勢を正した。癖は強そうであるがそれぞれ根は真面目であるらしい。
「改めての自己紹介を、ここのオーナーの松岡だ。それでここにいる4名は本日付けでここの従業員になった。まっ、堅苦しいのはここまでにして、先ずは自己紹介をしていこう」
「はい! はい! はい! 拙者一番手やります!」
丸メガネが元気よく挙手をする。
「拙者、武者小路敦子と申します。サバゲーは未経験だけどシューティングマッチを嗜んでいますぞ!」
武者小路は勢い良く敬礼をしながら挨拶をする、円はその勢いに気圧されていた。
耳ピアスが武者小路に続く。
「武内、武内翔です。よろしくお願い申し上げます」
武内の一礼もありその見た目にそぐわず意外と礼儀正しく誠実な印象を武内から円は受けた。
「次ぁ俺だな。俺は加藤拓郎、知ってるやつは知ってるだろうが元々は別な店で販売員をやってた」
「加藤サンってあの加藤拓郎ですか?」
「その加藤拓郎ってヤツだ」
「マジで!? 勝ち確ですな」
2人共加藤に対し尊敬の眼差しを送る。確かにここまで親しみやすい性格だとと顔が広いのかなと円は思った。
「こいつはもっとすげぇヤツだぞ。なんせ俺の後に自己紹介するんだからな」
加藤が円に会話をトスする。
「吾妻円です。みなさんと違い初心者ですけどよろしくおねがいいたします」
「ここにいる5人ともう1人従業員がいるが彼女には今日は休みを取らせている」
彼女が円には誰であるかわかった。後藤希だ。
そこから研修が行われた。接客の練習からレジ打ち、接客等の基本的な事はそこそこに、銃やエアガン、サバゲー、カスタム等で使われる略語、海外製エアガンや装備類を売る時の注意事項等。円は熱心にメモに取る。
意外にもミリタリーの知識はなく、サバゲーの知識が1割それ以外のありとあらゆる知識が9割でであった。掃除の楽なやり方、効率的な商品の陳列方法、台車への荷物の載せ方の注意、ダンボールの簡単な畳み方、怒っている人のなだめ方等、小売業特有の知識が特に多かった。
円以外の3名はそれらに対しての知識が豊富で色々な補足情報を追加してくれた。
「ま、俺か店長が大体入ってるからわかんねー事があったらどっちかに聞いとけ。生半可な知識でやられるよりは客にもオマエ等にもよっぽどいいだろうしぶっちゃけ客に教わる位のノリで行け。むしろ掃除とか精算とかみたいに客が出来ない事から地道に覚えるべきだな」
向かいに居た加藤が笑いながら皆に話す。
勉強会だけで午前が終了した。ノートのページを多く消費して多くの知識を円は得た。
そして午後は親睦会を兼ねたサバゲーが行われる。そのために全員銃とゴーグルを持ってきている。
サバゲーは大徳寺バラクータというフィールドで行われ、車は加藤のFJクルーザーに乗っていく事になった。運転席が加藤、助手席は松岡、後部座席には武者小路、武内とその間に円が乗る。
「まぁ、気楽に遊んでよ。ここは僕が持つからさ」
フィールドにつくと皆それぞれ銃を出した。
テツ兄からエアガンは2本持っていけと助言を受けたので円はP90とタクティカルマスターの両方を持ってきていた。テツ兄にその理由を聞くと「色んな銃を使いたいだろ?」と笑いながら答えられた後に「現実と同じでメインアームが壊れてもサイドアームで戦える、自分が楽しめないサバゲーほど惨めなものはないからな」という理由も真顔で答えられた。
武内は布製のガンケースからUZIを取り出し、武者小路は箱型の巨大なガンケースからレミントンM1100を取り出す。どちらも見たことのないエアガンで格好良かった。
加藤はサイドホルスターとバックホルスターがついているベルトを締めて2丁のデザートイーグルを装着し、松岡はレンタルのG3を借りていた。
着々と戦闘への準備を進め、いつもと同じルール説明などが行われる。セーフティでの銃の扱い、フィールドからセーフティへ戻る際にはバケツに1発撃ってから戻る等前回とほぼ同じであった。
大徳寺バラクータは屋外フィールドであるが所謂市街戦フィールドで室内を模した全身や下半身の隠れるバリケードで区切られた部屋が左右と中央に障害物が多数置いてある大通りで構成されている、それともう一つ名物と言われるルールがある。
それはシールドの使用だ、赤、黄共に1枚ずつのシールドがゲーム前に用意されている。シールドはシールド正面からの攻撃ではヒットされないがそれ以外の場所からはヒットされ、ヒットされた場合にはシールド毎の退場をする。その辺りは「空気を読んで」運用して欲しいと言われた。
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円達は赤チームに配属された、平日の中日なので円達以外は全員相手チームになった。
「さてと、シールドは誰が使う?」
加藤が場を仕切り皆に聞く。
「拙者、使いたいですぞ!」
武者小路がアピールをしたため彼女にシールドを預ける。ショットガンとしてもかなり大柄なM1100とシールドとの両方持ちはかなり動きづらそうだなと円は思った。武者小路は得意げであった。
戦闘開始のブザーが鳴る。相手チームはざっと見た感じでアサルトライフルが3名、ハンドガンが1名、SMGが1名、マークスマンライフルが1名。相手の方が1名多いものの集まった人数が奇数なので仕方ないところである。
武者小路がシールド片手にグイグイと身軽に前進するが射撃に阻まれ後続が続かず囲まれてヒットを取られた、またアサルトライフルの1名に裏取りされて武内と松岡がヒットを取られる、加藤が対応してアサルトライフルのヒットを取った。
ブザーが鳴りはるか遠くでハンドガンがフラッグを取っていた。
「してやられましたな」
全くいいところのないまま皆戻る。
「シールド重いから武内殿パスー」
「え、俺!?」
円はこの一戦で相手に違和感を覚えていた、あるべきものを黄色チームに見なかったのだ。
そうしてから数戦似たような試合運びになり回数を重ねる毎に武者小路のテンションが下がっていた。
「勝てねぇー」
やる気なさげに武者小路が愚痴る。
「もしかして、シールド無いほうが強いんじゃ?」
円はふと思ったことを口にした。黄色チームはこの数戦で全くシールドを使用していない。
「よくわかったな。シールドってのは長物と同時に持つと機動力が落ちるし特性の違う銃を2本同時に持ってる様なモンだからとっさの判断力も鈍るんだ。さらにいえばシールドが活躍するのは強行突破が必要な場面で今日は頭数が少ねぇからその状況がほぼ無いんだな」
円はふと考え込んでいた。
「次、僕が持ちたいです」
円は皆に宣言をする。
「おう、いいぜ」
「吾妻ちゃんなんか策あんのー?」
武者小路がやる気なさげなまま円に聞いてくる。
「とりあえず皆さんは全力で銃撃戦をしてください。それと……」
円はここである作戦を皆と共有した。
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円はこの数戦で見ていた事があった。
前衛同士の消耗自体が多いもののこの数戦全てにおいてフラッグを取られての敗退であった。大徳寺バラクータは広さでいえばかなり広く、10名ちょっとで遊ぶにはあまりにも広すぎるフィールドだ。
さらにいえば障害物や侵攻ルートが多く、前線が形成される前にいくらでも敵陣に潜り込めるため5人程度の集団戦やチームワークとの相性が最悪に等しいのだ。こちらは5人いるので単純な銃撃戦であれば黄色チームに負けない、しかしこちらは軍隊が1つなのに対し相手は全員単独行動を取るため実質6つの軍隊と相反しているのだ。
フィールドの内部は小部屋が複数組み合わさっていて人数が多ければクリアリングにも信頼が置けるだろうが今日みたいに少ない場合にはクリアリングに信頼が置けずクリアリングしたとしても制圧を維持出来ずいたちごっこそのものである。
ただし黄色チームが必ず来る、否来なければならない場所というのがある。
それはフラッグ前広場だ、フラッグは赤、黄色共に各所に障害物の配置されてる小さめの広場になっていて様々な侵攻ルートの実質的な終着点となっている。
故に円が取った戦術はフラッグ防衛だ。強行突破が起こりにくいなら強行突破が必要な場面を作ってやればいいと結論づけた、侵攻ルートが大まかに左右正面とある中で右側に身を寄せる。
しかもその戦闘スタイルは歪だった、壁に身を寄せながらも正面や左側に意識を向けず右側のみに狙いを付けて待機している。さらにしゃがみでシールドを背中に立て掛けている。円は小柄であるためシールドの曲がりも合わせ広い角度で身体のほぼ全てが隠れている。シールドと銃を同時に持つととっさの判断力が鈍るのであれば、シールドはあくまで移動可能な障害物として扱い背面の防御に徹しててもらう。そして待ち伏せをする範囲を狭めるために右側を守る。
戦闘開始のブザーが鳴りしばらく散発的な銃撃戦が行われる、円は息を呑んでその時を待った。
不意に衝撃が背中に走った、普段であればヒットであるが今はシールドがある、シールドに隠れながら落ち着いて状況判断を行う。
背後を振り返るとアサルトライフルの指切り射撃が視界に入る、シールドに阻まれている事に気づき側面への移動しながら指切り射撃のフルオートで2発撃つ動きが見える、手練の動き、しかし対応できる。落ち着いて近場の障害物の中にシールドと共に隠れる。
今一番嫌なのはフラッグを取りに来るもうひとりと挟み撃ちにされる事だ、毎回フラッグを取られて負けた理由というのはアサルトライフルとハンドガンの2名がそれぞれ別ルートでフラッグを取りに来ているからである。仮にどちらかを防いだとしても残りがフラッグを取る、だから毎回負けたのだ。
次に嫌なのは今みたいに障害物に釘付けにされる事だ、本来であればシールドで防御している間に華麗に反撃するのが理想の運びであった。
円は少し躊躇ったが次善の策を行うことにした。相手の射撃はかなり正確だ、ドットサイトと拡大鏡を併用して円の隠れている障害物のみに集中し狙撃に専念していている。相手の射撃の正確さと早さが自分の策と動きに追いつけないことを祈って、ついでにズルだとフィールドの運営や相手チームに叱られないように祈って行動を起こす。
先ずわざとらしく顔をシールドで隠しながら障害物の上から相手に見えるように動かす、当然相手は撃ってくるがシールドで守られているので無傷だ。その時にシールドも下げておく。
そして一息置いてからシールドを障害物に立てかける、障害物のほうが背が低いためまた先程のおちょくりだと相手は思い射撃を行う。
相手はドットサイトと併用して拡大鏡を使っていた事も幸いし、障害物の反対側から円が別の障害物に移動している事に気づくのは円の予想よりもずっと後であった。
相手が意図に気づいたときには無防備な側面を晒していた。円はそこをP90で狙い、射撃を行いヒットを取る。
「ヒット!」
円は一息つく間も無くシールドを回収し、もう1人の追撃に向かう。
アサルトライフルは最短距離を突撃しフラッグを掴むのに対しハンドガンはアサルトライフルを囮として使い巧妙に誰にも気づかれる事も無くフラッグをかすめ取る、フラッグを取られる確率が高い理由はそこにあった。ハンドガンの動きの巧さから挟撃されると思ったが幸いにもそれは無かった。
円は周囲を確認してから大通りの方に向かう、隅っこの障害物の裏手に潜んでいたハンドガンは顔を出し敵がいなくなった事を確認してからフラッグを取りに行く。
しかしフラッグをかすめ取ろうとするハンドガンは近くにある障害物を銃撃され行動を阻害される事となった。大通りの方を見ると円が前線を背にハンドガンをP90で狙っていた、狙いは粗いものの右手にシールド左手にP90を持ち電動ガンの片手撃ちとシールドの防御でゴリ押しして接近してくる。P90の小ささ、操作のしやすさを最大限に活用しているものの技術、経験においてハンドガンが圧倒的に上である。しかし、現在この戦況を支配してるのは圧倒的に円の側にあった。電動ガンの圧倒的火力による制圧射撃とシールドと障害物を最大限に活用して的を狙わせない動きによりハンドガンをその場に釘付けにしじりじりと近寄ってくる。
ハンドガンにとって幸いなのはこの状況になっても未だに五分以上の優勢でフラッグは取れていないものの自分のヒットは取られておらず丁度いい障害物に身を隠せた、相手は頭は回るようだがその頭に技術が全く追いついてない。その証拠として射撃の狙いが甘いし装備、特に銃を見るに明らかな初心者だ。
P90のドットサイト付きを選んでる時点で初心者なのだ。理由は単純明快、P90のドットサイトは使いづらいのだ、この時点である程度のエアガンの知識さえあればドットサイト付きのP90ではなく3面に20ミリレイルのついているTRの方を選んでそこにアイアンサイトでも使いやすいドットサイトでも乗せて使う。
だが技術や装備選定の稚拙さに相反して頭の回転は異常といえる。その的確な状況判断に関してはハンドガンは驚きを隠せないでいた、円がシールドを持ち始めたのは見ている限りで今ゲームからで自分がこの状況に陥ってる事はたった数回の戦闘でこの戦術を見抜いた事になる。シールドの使い方が巧く、シールドの大きさや防御をしながら攻撃をする都合上体の全てを隠せないが攻撃とシールド、障害物を的確に使い的を狙わせない。これができるだけでも脅威だ。
そして何よりも自分が不意打ちされ正面を切っての銃撃戦に持ち込まれた事も彼の頭の回転の異常さを裏付けている。彼が去った事でフラッグに視線が行き一番油断する時を的確に狙われた。
ハンドガンは少し悩んでから障害物伝いに一端引く事とした。火力と防御力に勝る相手に狙われている以上正面を切っての撃ち合いは得策じゃない、なおかつ相手から死角の位置に次の障害物がありそこを抜ければ迷路区画に戻れる。
「おかしい……」
考えるより前に自然と口にしていた。先程の囮はたった1発でヒットを取っていたのにどうして今になって隠れているとはいえたった1発から当たらない射撃に変わったのだろうか?
ハンドガンは疑問を抱く。常識的に考えるならば先程のはビギナーズラックと考える、しかし自分に不意打ちを仕掛ける初心者にその様な常識は通用しない。
次の瞬間彼は一目にフラッグに向かっていった。解に至る前に自分の長いサバゲー歴と直感が電動ガンに狙われる危険を冒してまでもフラッグを取れと脳が命令をくだした。
そしてその時がやってきて不意にブザーが鳴る。フラッグまであと10歩もない位置にいた、しかしフラッグは取れていない。
つまり赤チームがフラッグを取ったのだ。この時点でようやくハンドガンはようやく理解した、初心者は重装備で奇襲しヒットでなくあえて足止めする方向で攻め、あわよくば逃げてもらい相手チームがフラッグを狙うまでの時間を稼いでいたのだ。
なるほどとんでもない初心者だとハンドガンは思った。
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「オマエ、アレどうやったの?」
円はセーフティでの休憩中に加藤から話しかけられた。
「アレって?」
「最初に俺がフラッグ取った時の。2人はフラッグ狙いがいただろ、あれ1人でどうやって抑えたんだ?」
「アサルトライフルの人はシールドを囮に使いました。あの人狙撃する時に拡大鏡を使う癖があるので視野が狭いだろうなと思ってうまくハマってくれてそれで側面からズドンって」
円は相手の銃を見ながら身振り手振りで説明を行う。
「シールドを囮に……マジかよ、とんでもねぇヤツだな」
加藤は嬉しそうに笑う。
「んでハンドガンの方は?」
「あの人は一度も銃撃戦にならずフラッグ取るタイプの人だったので、あえて気づかないふりして隠れてからフラッグに向かってくるとこを攻撃、そこでヒット取れれば良かったんですけど隠れ方巧いんで牽制で時間稼ぎに徹しました。撤退してくれるかなーって思ったんですけど、作戦読まれてて最後の方気づいたっぽいんですけどね。アレ結構ギリギリでしたよ」
「そこで撤退してたらどうしてたんだ?」
「先ず隠れ方上手くてヒット取れないんでつかず離れず嫌がらせですよね。フラッグ狙いが現状2人だけで1人目をヒットして2人目を常にマークしておけばいつか僕がヒットされてもヒットされるまでフラッグはしばらくは安全ですし。その間にみなさんが何かしてくれるでしょうし」
その言葉に加藤はゲラゲラ笑う。頭が回るしかし何よりも周りをよく見ている。良いサバゲーマーの資質を持ち合わせている。
「すっげーな、っていうか大学の学食で会ったよな?」
「あの時は助け舟出してくれてありがとうございます」
「いいって事よ」
しばらく2人で空を眺める、2人共早々に退場したため暇であった。
「オマエ、加藤環っての知ってるか?」
加藤がいきなりたまきの話をふる。
「知ってます、仲間です」
「アレ、俺の妹なんだ」
円はサバゲー部部員との悶着を思い出し、質問をする。
「もしかしてサバゲー部でも助けてくれました?」
「ま、一応な」
加藤自身は助けてないがたまたまいつもゴーグルをつけてる吉田がいたので吉田にグレネード持たせて突入するようにお願いした。
「その時の話をしたいのだが、いいか?」
加藤はバツが悪そうに円に聞く。そして改まりシューティンググラスを外す、筋肉のついた首筋とごつい輪郭と比べつぶらだが意思のこもった瞳が円を見る。
「先ず1つ、あんな怖い目に合わせて本当に申し訳なかった。サバゲー部を代表して謝罪したい」
いきなりの謝罪に円は驚く。考えてみれば大学で会ってサバゲー部にもいたという事はサバゲー部の関係者なのであろうと円は推測した。
加藤はシューティンググラスを掛け直して話を続ける。
「謝罪しておいてナンだが、俺はOBでアイツ等とは直接関係はねぇんだがな。ま、一応厳しく指導しておく予定になってる」
円はふと新歓の事を思い出して話そうとする。
「加藤殿ー、円ちゃんと何話してるでありますか?」
円が本題に入ろうとしたら武者小路がヒットされたのか戻ってきて空気を読まずに間に入り込み加藤と円の間に座り込む、近い。
「おー、男同士ナイショの話だ」
「猥談?」
円は顔を赤らめる。
「オマエもぶっこんでくるなー。っていうかオマエ「大会荒らし」だろ?」
「バレてるー、やっぱ胸?」
武者小路は両手で胸を強調する。男慣れしてる。
「ちげぇよ! 動きだよ、動き。オマエ足さばき独特だから見ててわかんだよ」
加藤も赤面して否定する。確かに武者小路の胸はそれほどまでに大きかった。
「大会荒らし? 武者小路さんって有名なんですか?」
「コイツ、この辺りのシューティングマッチで優勝かっさらっていく有名人なんだよ。スピードシューティングから3ガンマッチまで何でも出張ってくる」
「最近は近所の大体制覇して暇になったからバイト始めたー」
最後まで残っていた武内と松岡が戻ってきた。
「あ、武内さん松岡さんおかえりなさい」
武内のその姿にはどこか覇気がない。松岡は武内を支えながら席まで移動して係員と何か話をしている。
「銃、壊したっぽい……」
「どこを壊した?」
「セレクターがバカになった」
加藤は武内から「借りるぜ」と言い銃を借りバッテリーを抜いてから確認した。
「銃ってやっぱよく壊れるものなんですか?」
円は武者小路に耳打ちした。
「壊れる時はフツーに壊れるよねー、特に武内殿のウージーは生産終了品だから部品の替えないだろうし」
「こりゃセレクター折れてんな。知り合いにエアガンパーツ専門の小口制作やってる工場あるから口利きしてやるよ」
「ありがとうございます、ちょっと落ち込んでるんでしばらく休みます」
「係員と話付けて相手チームから1人こっちに来てくれることになったよ」
松岡が皆に報告をする。
「ういーっす、応援の神林です」
先程円と接戦を繰り広げたハンドガンこと神林が来た。
「あ、よろしくおねがいします。席ここ使ってください」
円は自分の向いを指差した。
「皆さんチームみたいな感じ?」
「仕事仲間みたいな感じだな」
加藤が答える。
「街道沿いのデッカーズって店の従業員なんだ君も良かったら遊びに来てね」
松岡がデッカーズの宣伝用カードを神林に渡す。
「あー、あの派手なお店ね」
神林はカードを受け取った。
次のゲームが始まろうとしている、円は少し悩んでから「良かったらこれ使ってください」と武内にP90を貸してタクティカルマスターを握る。「自分が楽しめないサバゲーほど惨めなものはない」というテツ兄の言葉が脳裏に過ぎった。
「いいのか?」
「うん、使ってください」
「ありがとう」
武内は礼を言ってゲームに参加した。ゲームはまだ開始されておらず皆が待っていた。様子を見た係員さんが気を利かせて待ってくれていたのだ。
ゲーム開始のブザーが鳴る。
「君、初心者?」
ブザーが鳴った後に神林から質問を受ける。
「はい、今年の4月からはじめました」
「一つ忠告したいんだけど」
神林がフルフェイスゴーグル越しに真剣そうな声で指摘をする。
「マガジンに弾入ってないよ」
円は慌ててマガジンを抜いて確認した、マガジンにある目視用のミゾには弾が1発も入ってなかった。それにマガジンに装填した記憶もない。
無情にも戦闘開始のブザーが鳴っていた。
「ホラ、コレ使いなよ」
神林は自分の持っていたサプレッサーとドットサイト付きのFNX-45を貸しその後に屈みシャツの下に隠すように差していたリボルバーに弾を装填し始める。
「まぁトラブルでごたついてるとよくある事だよ、気を取り直して行こう」
神林が慰めるとブザーが鳴り響く。
「じゃ、また後で。それ今日中に返してくれればいいから」
そう言うと手を振り神林は去っていった。
ゲームがはじまり円は試しに1発誰もいない場所を狙って撃った、タクティカルマスターと勝手が大分違いリコイルの自己主張が強くスライドの動きも機敏で円の手の中で暴れる。タクティカルマスターが優等生だとするとこのFNX-45はやんちゃ坊主だ。
円はFNX-45を構えながらサバゲーを行う、リコイルの自己主張は強いものの同時に仕事はきちんとこなし数ゲームの内で多数のヒットを取られながらも1ヒットを取った。
そしてちゃっかり併設されてるシューティングレンジで撃ち比べを行う。どちらも5メートル先の的に1発で命中した。FNX-45は銃の大きさもあり遠距離の狙撃には向くものの銃の大きさやサプレッサー付きという事もありとっさの近距離では使い慣れたタクティカルマスターの方が好みであった。
「神林さんありがとうございます。これお返しします」
ゲーム終了時に神林にマガジンを抜いてFNX-45を返却する。
武内から貸していたP90を受け取り、バッテリーを抜いておく。
そうしてから手早く道具類を確認してマガジンや銃本体に残弾がないか、そしてしまい忘れや他人の私物が混ざってないか確認して撤収準備を行う。
皆で車に乗り込みデッカーズへと帰る。夕焼けが車内を照らし隣の武者小路が円の肩ですやすやと寝息をたてる。
見慣れない場所から段々と見慣れた建物が増えそして見慣れた街に戻る、ただいま。
デッカーズの駐車場にFJクルーザーが入ると同時に後から軽自動車が入ってきて隣に停まり1人の人物が下りて運転席の窓を叩く。キャップをかぶっていて顔はわからないが体格が女の子らしい。
運転席の加藤は窓を開けてその人物と話す。
「おう、なんでオメェここいるんだよ?」
「んー、モラトリアム?」
円はFJクルーザーの高い車高から軽自動車を見下ろす。少し古ぼけた赤い屋根を眺めその向こうの運転席側のドアから見知った顔が下りてくる。後藤希であった。
「っていうかタクちゃんこそ何仕事辞めてんのよ」
「それは聞くんじゃねぇよ、こっちにも都合ってモンがあるんだ」
「ふーん」
希の方もクルマから出ると同時に何故かしゃがみ込む。
しばらく2人が車外で話し合っている中円は松岡がいなくなっている事に気づく、いつの間にか下車していていた。
――――――――――――――――――――――――
「……それで通すぞ、いいな」
「ウス……」
後藤希は携帯電話でマツケンからの指示を仰いでいた。
マツケンからの早口で要領を得ない指示は「計画の事は話すな」この一点に集約された。
しかしそれは計画の構成員としてグリコをはじめグループ6の面々に紹介されてしまっている以上無理筋な気がしている。
希は頭の中で仮想のノートを開いて優先順位を決める。
計画の事は話さないのは絶対、その上でいかに筋道立てて辻褄のあう話に持っていくかが問題になる。そして1つのアイデアが生まれる。
「計画の事を話すな」は前提で既に覆されしまっている、ならばマツケンと計画との関係性を消せばいいのだ。
重要なのはマツケンと希との関係性だ。幸いグループ6側にはマツケンの存在を知られていない。
そうなるとここで同居している理由だ。
上司と部下? まんまじゃん、怪しまれる。
大家と下宿人? いや、こんな場所に住む奴いないでしょ。
男と女? マツケンとはさすがにやだ。
「これだ!」
希の中に一筋の光明が見えてきた。そうなると瞬間的に落ち着きを取り戻した。
「あ、おじさん! 帰ったったっスよ」
希の考えたアイデアはマツケンとの血縁関係だ、その中でも親子、兄妹と違い比較的に怪しまれにくいおじと姪という立場を噛み噛みの言葉ででっち上げる。
「おじさん?」
グリコが怪訝そうに希の方を見る。
「こ……ここの店長わたしの叔父なんスよね」
嘘が組み上がったのか落ち着きを取り戻し口が回るようになる。
「お、お疲れ! 希」
黄色いSUVの陰からマツケンが現れる。
「ああ、紹介してなかったね! 彼女、僕の兄の娘の後藤希! ここの従業員!」
白々しい説明口調だがそれに疑問を唱える親しい人は誰もいなかった。マツケンも落ち着きを取り戻し口が回るようになった。どうやら嘘がバレなかった時に口が回るようになるのは全人類共通らしい。
「おう、見た顔だな! 改めて自己紹介するが俺は加藤拓郎、本日付でここの従業員になった者だ。それともう1人見た顔がいるぜ」
加藤と名乗った男はSUVの後部座席を叩いた、窓が下りると確かにそこには見知った顔がいた。
「あ、後藤さん」
吾妻円がそこにはいた。希は瞬時に顔を真っ赤にしていた、今一番希の気になっている人物がそこにいた。
「へ、なんで吾妻サンがここにいんの?」
円は少し考えて「ここで働くことになった、よろしくね」と答えた。
駐車場に希の素っ頓狂な驚きの声が響き渡る。
メカニック解説
東京マルイ UZI
東京マルイからかつて販売されていた電動ガン、現在は生産終了している
電動コンパクトマシンガンに匹敵にする小型サイズの電動ガンで、その小ささから電動ガンの中ではパワーは弱い方でメカボックスが特殊なためカスタムやメンテナンスにも細心の注意を必要とする
しかし本体の剛性は強くストックはしっかりしていて、片手で持ってもバランスがいい、スリングスイベルが2点ついている、セレクターがわかりやすい、マガジンキャッチが大きい、バッテリーが入れやすい、マガジンポーチが色々なものを使い回せるなど、スペックではなくハードウェア面での利点が多いエアガンである
なおサードパーティ製のコルト9mmのマガジンは実銃では使い回せるがエアガンでは基本使い回せないので注意が必要である
マルゼン M1100
マルゼンから発売されているライブカート式ガスショットガン
リアルな排莢をセミオートで楽しめるエアガンであるがライブカート式なので1発毎にショットシェルが必要でサバゲーで使うにはショットシェルの紛失を受け入れるかカートキャッチャーなどを組み込むかするべきである
ショットガンのエアガンにしては珍しく発射できる弾数を選べ1発から3発までライブカートに装填した数で決められる、複数発の発射をする際は軽めのBB弾を装填しておくといい
市場に出回っている数自体は少ないもののマルゼンのガス式ショットガンの間での部品共有率が高くポンプアクションタイプのM870の固定ストックタイプとガスタンクが共有できガス式ショットガンの間でショットシェルは使い回しができる