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Wine・Red  作者: 雪白鴉
二章
9/67

7、昼食

明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願い致します!

 いつも通りの朝がやって来た。

梅雨が明け、カラッとした夏の暑さがホテリエたちを悩ませる。


「暑いですねぇ〜・・・」


いくら冷房の効いたホテルの中といえど、キッチリとした制服は暑苦しい。まだ慣れない西野はぐったりとしている。


「西野。405号室のルームサービスを頼む」

「わかりました〜」


水分補給をして西野がルームサービスに向かった。


「流石西野さんですね。子供っぽいのに仕事はちゃんとやっておられる」

「えぇ。彼は前期の試験で最も優秀でしたから」


水瀬と白井は新人たちの観察を行っている。


「今日の午後から試験なんですよね?」

「はい。今期に入職するのは何人ですかね・・・」

「そうですね〜」


人手不足のロイヤルホテルカリテルは、今日、今期の試験がある。水瀬はその試験官である。


「私は面接であまり良い印象を与えなかったそうです」

「そうなんですか?」

「笑顔ですよ。実力はあるのにどうしてそうも暗いのか、なんて言われて。こっちだって笑顔の練習しましたけどいくら経っても出来ませんでしたよ」

「あはは。笑顔って案外難しいですからね」


水瀬は入職後に支配人から聞かされた評価を白井に言った。白井は苦笑した。


「確かに水瀬さんの笑顔、見たことありませんね」

「そうですか?」


はてと白井が水瀬の顔を覗き込む。びっくりして水瀬は肩を少し上げた。


「表情筋が機能してないんじゃ・・・?」

「失礼ですね」


真剣かつ不思議そうに白井が言った。水瀬は少し目を細めた。


「ほら、こう上げるんですよ口角」

「今練習するんですか?」

「試験官だって笑顔はいりますよ?試験生が強張りますから」

「別にいいと思いますけどねぇ〜」

「鬼ですか?」


鬼の形相の如く、水瀬は微笑を見せた。


「水瀬。試験生の資料を確認しておけよ」

「はい」


同僚に言われて自分の机から貰った試験生の資料を拝見した。約二十人の試験生を相手ににしなくてはならない。試験生も大変だろうが試験生の話を聞き取り、良いか否かを見極めなくてはならない試験官も大変なのである。


試験官は三人。水瀬と支配人、同僚。質問はほとんど支配人がしてくれるが水瀬もたまにはしなくてはならない。


「来期は私も試験官ですかね〜」

「誰になるかわかりませんよ」

「そうですよね。でも、試験官やってみたいです」


試験官に憧れる白井。

確かに白井なら試験官に向いてそうだ。場が和むというか試験生の気持ちがやわらぐというか、プラス思考しか出て

こない。水瀬より向いているかもしれない。


「水瀬さんの代わりにしっかり新人のホテリエたちの指導をしておきますね!」

「はい。よろしくお願いします」


ちょうど正午の鐘がなる。


「昼食の時間ですね」

「はい」


ホテリエ日勤の休憩時間は約一時間と短い。その間に昼食を済ませなくてはならない。


「白井さん、今日の昼食はそれだけですか?」

「え?」


鞄から白井が取り出したのはコンビニで買ったサンドイッチと珈琲のみ。水瀬はいつも通りのお手製の弁当である。


「少食なんです」

「栄養・・・」


ぷいっとそっぽを向く白井。水瀬は白井の栄養バランスが心配になってきた。

水瀬の弁当はお馴染みの日の丸に焼いた鮭、煮しめ、昨日の残りの照り焼き、ドレッシング付き千切りキャベツである。


「うわぁ、バランスいいですね・・・」

「残り物ですけどね」

「それでもお煮しめも照り焼きも美味しそうです!」


水瀬の料理のセンスに圧倒された白井だった。


「照り焼き、お好きですか?」

「はいっ!!」


こう見えても白井は意外と肉食だ。

今日のサンドイッチもちゃっかりカツサンドイッチ。


「いります?」

「くれるんですか!?」

「えぇ。目で訴えられてるので」

「あ・・・」


白井のキラキラとした目で訴えられては仕方がない。水瀬は押しに弱い。


「でも箸が・・・」


照り焼きを食べるにも水瀬は割り箸などもう一本箸を持っていない。どこかに無いかと探している水瀬に白井が、


「大丈夫です。こんなこともあろうかと自分の箸は持っています!」

「・・・」


サンドイッチにもかかわらず、なぜ箸を持っているのかを問い詰めるほどの元気は水瀬に無い。

水瀬は白井に照り焼きを一つあげた。


「美味しいです!」

「それは良かったです」


きれいな形といいさっぱりとしていて食べやすい照り焼きは白井の口に合ったようだ。


「水瀬さんってお料理もお得意なんですか?」

「まぁ・・・。叔母の料理が好きで子供の頃、よく台所で叔母の料理を拝見していたからでしょうか」

「水瀬さんの料理が美味しいのはその人のおかげなんですね!」


親しそうに話す二人を遠目で見ているのは同僚達である。


「水瀬さんってお料理が得意らしいわよ」

「凄い!!やっぱりエリートなのね!!」


水瀬を見てキャーキャー叫ぶ女たちとは裏腹に男どもは水瀬が気に食わはないのかもんもんといやぁな空気を漂わせている。


「俺だって料理くらい出来る!!」

「あいつばっかり白井さんと話してぇ〜!!」

「くっそ、水瀬ぇぇぇぇ〜!!」


女子に人気な水瀬と男子に人気な白井の組み合わせはホテリエ達にとっていいものではなかった。


こっそりと話している男達女達の存在に水瀬は随分前から気付いていた。

女達はいつものことであるが男達が水瀬にわかりやすい嫉妬感を抱いてくるのは初めてのことである。


(白井さんは美人だからなぁ〜・・・)


くりっとした大きな目と子どものような優しい顔立ちは二十六歳にしては似つかない。その美人さに女達は嫉妬することすら出来ないのである。それに、白井自身の性格がいいため、白井を嫌っていた女達は白井の優しさにあてられ許してしまうというのが末路である。


(白井さんは友達が多そうだ)


そう思っている水瀬の友達はものすごく少ない。まず、友達を作ろうとも思わない水瀬に、否があるのは確実だ。水瀬は宮河だけで友達は十分だと思っている。


(どうせ友達はいなくなるんだから)


水瀬はいろいろ考えながらおかずを口に運んだ。



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