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Wine・Red  作者: 雪白鴉
五章
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69、いっときの青春時代

「皆さん、ありがとうございました!!」


 結婚式、披露宴と終わり、晴れて夫婦と認められた新郎新婦は結婚式に携わったスタッフたちに礼を言っていた。ブライダルの人材はもちろん、水瀬や白井、山田などの普段、接客をたんとする宿泊業務のスタッフたちにも丁寧にお礼を言った。


「紅露さんは最初から最後まで本当にお世話になりました」

「いいえ、こちらの仕事をしたまでですよ。こちらこそ、お二人の門出に携わらせていただいて光栄です」


 にっこりと大人な笑顔を見せる紅露を見て、水瀬はさすがだなぁと感心するしかなかった。ホテリエとして一流と言われる水瀬だが、これでも数年しかホテリエとして働いていない。一流、ベテランと言われるのはこういう人のことを言うのだろう。


「ホテルスタッフの方々もお忙しい中、ありがとうございました。妊娠のこともあり、色々とお手数をおかけして・・・」

「何をおっしゃいます。結婚式という大舞台の主役は新郎新婦のお二人です。我々がそんなお二人を支えるのは当然のことです。改めて、おめでとうございます」


 まるで常套句だが、結果的にスタッフはそうとしか思えない。幸せを自分たちの手で作ることができるのは他でもない幸せであり、安らぎである。仕事なことに変わりはないが、それでもどこか、結婚式というのはいっときの息抜きだと思っている。こう思うのは果たして水瀬だけなのだろうか。


* * *


「終わりましたねー」

 

 何だか寂しそうに山田は片付けながら水瀬に漏らす。水瀬は小さく頷き、山田とシャンパングラスを厨房へ持って行った。初めて結婚式のスタッフとして起用された山田はどこか気が晴れたような顔をしていた。


「山田さん、結婚式のスタッフをしてみて、いかがでした?」

「正直、楽しかったです!」

「楽しかった・・・ですか?」

「はい!」

 

 山田は結婚式のスタッフが楽しかったと言ったが、その感覚が水瀬にはよくわからなかった。

 水瀬は結婚式に関わらず、仕事が楽しいと思ったことはない。仕事は仕事で、やらねばならないこと、という感覚が大きく、学校で出された宿題のような感じがするのだ。


 自分に課せられた義務のような・・・。


「山田さんはこの仕事が好きですか?」


 水瀬が唐突に質問した。山田は一瞬考え込んだが、すぐに大きく「はい」と返事をした。その言葉に偽りが隠されているようには見えない。心の底からホテリエという仕事に誇りを持ち、楽しんでいる。


「そういう先輩はどうなんですか?」

「私ですか?」

「はい」


 自分の質問が跳ね返ってきたようだが、やはり水瀬は仕事に好きも嫌いもなかった。自分で選んだ仕事であれ、好きかどうかは別である。税関から追い出され、自分に合うであろう職業を選んだにすぎない。自分の性根に合うから好きというわけではないのだ。


「・・・さぁ、どうなんでしょう。私はあれが好き、これが嫌いという感覚が人より疎いというか、そのように考えないというか・・・」


 自分でも自分がよくわからない。だから人に理解されようとしないし、思わない。自分がわからないことは相手もわからない。それが家族であれ、好いた人であれ。


「じゃあ先輩は好きな人ができたことって無いんですか?」

「・・・これまた直球に聞きますね」

「あ、ダメでしたか!?すみません!!」

「いえ、いいですよ。それに、そうやって話を振ってくれる方とは接しやすいので、失礼過ぎ無いことであればなんでも仰ってください」


 一瞬慌てた山田だが、水瀬にそう言われて一安心した。


「それで、好きな人ができたことはないか、という質問ですね?」

「はい」


 若い人はやはりそういう話が好きなのかとは思ったが、そういう人がいるから恋バナというものが発達するのかと少々感心した。

 そしてその若者である山田は目をキラキラさせて水瀬の返答を心待ちにしている。その物欲しさの目を見て言葉を収めることができるのはよほど口の固い堅物なのだろう。


「少し待ってください。まずはこのグラスを厨房に置きに行きましょう」

「あ、はい・・・」


 二人は厨房にグラスを置き、すぐに厨房を出た。

 山田はまだかまだかとそわそわしている。落ち着きのない様子を見て、水瀬はため息をついた。


 本当はいう必要もないし、いうつもりではなかった。しかし、いつかはバレるであろうし、水瀬は山田を信頼している。ホテルスタッフというのは守秘義務がつきものであり、比較的口が硬い。水瀬は山田の性格を信じて、言うことにした。


「ありますよ」

「え、本当ですか!?」

「えぇ」


 待ってました!と言うように山田がいっそうに目を輝かせる。


「いつですか!?何人!?」

「また直球な・・・」


 水瀬は少々困ったが、一呼吸おいて答えた。


「つい最近、初恋を体験しました」

「はつこっ・・・!?」


 初恋が遅くて驚いたのか、山田が目を丸くする。そして、これまた度直球山田が水瀬に小さく問いかけた。


「お、俺の知ってる人ですか・・・?」

「えぇ」

「!!」


 まるで学生の恋バナのようだが、だんだん水瀬は楽しくなってきた。

 学生時代、好きな人がいなかった水瀬は、クラスメイトたちが修学旅行などで度々恋バナをやっているのを見ているだけで、介入しなかった。そしてまた他の男子たちも水瀬はお高く止まった存在としてみており、恋バナに混ぜるようなことはしなかった。だからか、こういう同性との恋愛話をすること自体に水瀬は少々、憧れを抱いていたのかもしれない。


「俺が知ってる人って・・・もうそれ職場の人一択じゃないですか!!」

「そうですね」

「先輩、誰が好きか言っちゃってるようなものですよ!?いいんですか!?」

「山田さんのことですし、正面から誰が好きか聞いてくると思っていましたが」

「き、聞いていいんですか!?」

「そのつもりでしたよ」

「マジで!?」


 驚きのあまり、つい私語が出てしまった山田だが、流石にしょうがない。普通の人なら好きな人は知られたくないものだ。そう言う考えが水瀬には少々欠けているのだった。


「じゃあ・・・聞きますよ・・・?」

「どうぞ」


 山田が息を呑む。


「・・・先輩は、誰が好きなんですか?」

「白井さんです」

「回答はやっ!!・・・ていうかそれより白井先輩!?マジですか!?」

「本当です」


 ぴたりと止まった山田はキョロキョロと辺りを見渡し、大きく深呼吸した。


「すみません、頭が追いつかないです。落ち着けません」

「さっきの深呼吸はなんだったんです・・・?」


 その後、二人で歩いている最中、山田はずっと水瀬に白井のどこが好きなのか聞いてきたが、流石にそれを言うのは恥ずかしく、水瀬は顔を逸らしながら黙っていたのだった。



水瀬は山田がお気に入りですね〜。おそらく、純粋で純情ボーイが接しやすいんですね。

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