67、白き祝の品
心地の良い青空。そよそよとまだ暖かい風が紅葉を揺らす。
式場の一番奥には新郎が立ち、その後ろには本日司会を務める紅露の姿があった。
このホテルの挙式は、キリスト教式ではなく、人前式である。神に結婚成立を認めてもらうのではなく、人前、つまり参列者に認めてもう方式の結婚式である。
式場の外のドアの前には、新婦と父親、スタッフが待機し、紅露の司会の言葉を待つ。
「続きまして、新婦みつや様のご入場です」
その言葉の合図とともに、水瀬と山田が重たいドアを開く。頭を下げた状態の新婦と父親は、ゆっくりと顔を上げ、バージンロードを進んでいく。花嫁の後ろには黒のスーツを着たブライダルの介添えと呼ばれるスタッフが付いている。
ドアを閉めた山田と水瀬はバックヤードで待機。ドア係りは基本チャペルには入らない。
「うわぁ~緊張したぁ〜」
ひとまず、一番最初の役目を終えた山田はバックヤードで緊張をほぐしていた。
「山田さん、初めてですもんね、結婚式」
「はい」
山田は今年入ってきたばかりの新人。勿論のこと、結婚式のスタッフは今回が初である。
山田と水瀬の役割はドアの開閉。それだけ?と思うかもしれないが、結婚式、いや、すべての厳粛な式で、ドアというのは思いもよらないほど大変重要なのである。
まず、式場のドアは重たく設計されており、開けるだけでも一苦労なのだが、それに加え、タイミングを合わせたり、キィッという音が出ないよう配慮しなければならないのだ。
厳粛な式の始まり、はじめの第一歩がこのなんの変哲もないただのドアに託されているのである。
「先輩は慣れてるんすか?」
「これに関してはいつまで経っても慣れないようです」
結婚式以外のドア係りをやったことがある水瀬でも、慣れるものではなかった。
「あとは、退場のときですね〜。タイミングが合わなかったらどうしよう・・・!」
「大丈夫ですよ。練習したじゃないですか。それに、BGMと紅露さんに合わせていれば大丈夫です」
紅露および、ブライダルの人たちは一流である。なにかハプニングが起こったとしても冷静に対応できるように教育されている。このホテルの中で、結婚式に関して一番詳しいのは紛れもなくブライダルの一行である。
「そういえば、白井先輩は?」
「白井さんは披露宴会場の方へ行っています。前回のようなことが起きないよう、厳重に調査しておく必要がありますから人手で呼ばれたんです」
「そうなんすね〜」
挙式が終わったあとは近くの会場で披露宴が待っている。この披露宴こそがホテリエ最大の多忙スポットである。
「・・・あの、先輩」
「はい、なんでしょう」
山田はとにかく水瀬と喋ろうと水瀬に話しかけてきた。
「先輩ってなんでこの仕事選んだんすか?」
全くもって今の状況と違う話である。とはいえ水瀬もだんまりとしているよりはマシである。
「ほぼテキトウですね」
「テキトウ!?」
「テキトウ」という言葉に相当驚いたのか、山田は結構大きな声を出してしまった。
「自分に合った職業を探した結果です。私は特に機械には興味もありませんし、医療系にも関心はありますが自分が仕事をしている姿が思い浮かばなかったので」
「それでどうしてホテリエなんすか?」
「人と関わるのはそこまで苦でもありませんし、なにせ、疊園さんからのお誘いもありましたから」
「バーの方ですよね」
「えぇ。酒類は好きなのでそういう仕事もいいかなと」
もともとバーでバイトをしていた身だ。接客は特に嫌でもない水瀬にとって、職場を移動せずバーでバイトができるというのは喉から手が出るほど魅力的なものだったのだ。
以外にも山田は水瀬の経歴に興味津々で、長いこと水瀬は語り続けなければならなかったが、それも挙式の間だけである。
「もうそろそろですね」
「そうっすね。行きますか」
「えぇ」
時計の針が挙式の終わりを告げる少し前、二人はバックヤードから出た。
チャペルのドアの前で、トランシーバー片手にブライダルスタッフの指示を待つ。
ドアを開けるタイミング、これがずれれば門出の門は慎ましやかには終わらない。
「それでは新郎新婦、ご退場です。お二人の新たな門出を祝し、どうぞ、盛大な拍手でお送りください」
チャペルの中から紅露の声が聞こえる。トランシーバーからはスタッフからの合図、そして退場のBGM。
(練習通りに練習通りに・・・!!)
呼吸を落ち着かせ、山田がドアノブに手を掛ける。
水瀬もそっと手を添え、タイミングが来るまで冷静に待つ。
「山田さん」
「はい」
水瀬の小さな囁きで、二人はタイミングよくドアを開く。
すでに白く眩しいチャペルに、ドアの向こうからさす明るい光。まるで、新たな夫婦を祝う天の贈り物のようだった。
最近、水瀬の後輩たちの下の名前が思い出せません。山田の下の名前が出てきません。倉橋は覚えています!千尋です!!調べてみたところ、山田は山田雅紀でした。石川は颯人だそうですね!




