66、門出
随分遅くなります申し訳ありません!!
結婚式、というのは人生最高の門出である。そして、晴舞台。結婚式場のある階は大慌て。厨房のシェフたちも腕と脚が空回りするほど忙しいかった。
しかし、そんな階があるにも関わらず、客室階はいつも通りの平穏な空気が滞っていた。
「先輩たちがいないと、こんなに寂しいいんだ・・・」
階段を清掃中の倉橋がぽつりとつぶやく。一緒に掃除をしていた石川も「そうだね」と返答した。
今日は二人の先輩である水瀬、白井、そして同期の山田が結婚式に借り出されているのである。その上、本日、西野も休みときた。よく話す人たちがいなくなり、今日一日、二人は寂しい仕事をしなければならなかったのだ。
「山田さんも借り出されるなんて・・・」
「なんたってブライダルプランナーの紅露さんの抜擢だから・・・」
前にあったSNS事件で大活躍をした山田の名声はブライダルまでに届いていた。
結婚式というのは婚礼部、つまりブライダルのみがスタッフを受け持っているわけではない。
ブライダルの基本は式の進行や新郎新婦のケアや衣装、そしてフラワーコーディネートや写真撮影など、結婚式という幸せにリボンを付けたプレゼントをする役割である一方、普段、客と触れ合い、ホテルの顔ともいえる仕事をするホテリエの結婚式の役割というのは主に、会場スタッフである。その力は婚礼の儀ではなく、その後の披露宴で発揮される。会場準備、厨房と連携し、食事の用意、カトラリーの設置。また、ゲスト対応もホテリエの役割の一つである。
普段は一緒に仕事をすることの無いブライダルとホテリエ。同じ便の中にいるのに混ざり合わない二つの役職がようやく力を合わせるのが結婚式なのである。
「緊張、されてますね」
「うっ・・・」
いつもはしないキリッとした髪型に、真っ白なタキシード。左胸には薄く青付いたシンプルなブートニア。緊張を手に、水瀬と新郎、津和野泉は新婦の控室の前までやってきた。
「・・・順番が、違ったかもしれません」
「はい?」
ぎゅと手を握りしめ、泉が水瀬に言う。
「僕たちはまだ、二十二です。僕はまだ、大学を卒業していません。それなのに、みつやのお腹の中には子どもがいて・・・今、ようやく結婚式、という状態になってしまって・・・。これからやっていけるのかちょっとどころか結構心配なんです」
新婦みつやは短期大学卒業後、公務員に就職。泉は大学に通いながらバイトをし、アパートで二人で暮らしているという。
「ご実家はどこでしたでしょうか」
「二人とも京都です」
「では、ご家族やご友人は・・・」
「僕らの家族は京都に今も在住で、友だちは何人かこっちに来てます。みんな、遠路はるばる来てくれてもうれしい限りです」
ほんのりと柔らかな笑みを浮かべる新郎。
何度か結婚式に立ち会ったことのある水瀬の経歴の中で一番若い二人であろうが、妙に大人びた感覚に水瀬はやはり結婚式というのは疲れるが晴れやかな気分になれると考えるようになった。
「そういえば、ご家族やご友人の方以外にも多くのゲスト様がいらっしゃいましたが・・・」
「あぁ、大学の教授とか実家のご近所さんとか、高校のOG・OBの方とか来てくれているんです。そういえば、このホテルで結婚式を挙げるって言ったら近所のお兄さんがとても喜んでくれて」
「京都のご実家のご近所の方が?」
「はい。夏の終わり頃にこっちに旅行しに来てたみたいで」
「夏の終わり頃・・・?」
このホテルで式を挙げることに喜んだ、ということは夏の終わりに京都から旅行に来て、このホテルに泊まったことがあるのだろう。
水瀬は夏の終わりに京都からやってきた宿泊客を頭の奥から引っ張り出そうとしていた。
「もうお兄さんという年齢ではないのかもしれないですけど僕にとっては兄みたいな存在で、頭も良くて、気が利いて、医者なので家が大きくて」
「・・・医者?」
医者、という言葉を聞いた水瀬は考え込んでいた頭をぱっと上にあげた。
「水瀬さん?」
驚いた泉が水瀬に問いかける。水瀬のなにかハッとしたような顔をはじめての見た泉はあからさまにびっくりしていた。
しかし、水瀬にとっても驚くべき事実だった。
「その方、京都宮古病院の精神科医の方では・・・」
「え、はい、そうです。なんで知って・・・」
「いえ、随分とお世話になりましたから」
そう、その夏の終わり頃にやってきた宿泊客というのは、京都宮古病院精神科医こと関野原健太郎である。
「健さんのお知り合いだったんですか!?」
「知り合いってほどでは・・・。ただ、私が仕事中に倒れてしまったのを助けていただきまして」
「え、それ大丈夫なんですか!?倒れたって・・・」
「いえ、ご心配なく」
あまりの偶然の縁により、話が盛り上がり、自然に新郎の緊張が解けていた。
そんなとき、新婦の控室のドアがガチャッと開いた。
「話、盛り上がりすぎです」
『す、すみません・・・』
二人は出てきた白井に怒られ、肩をしゅんと落とした。
「そんなことより、みつや様の支度が整いました」
その一言で、瞬時にぴんっと泉の背中が伸びる。
「ここで緊張していては後が心配になりますね」
「そうですねぇ〜」
部屋から出てきた白井と共に、泉の背中を見ながら控室に入る。新婦の控室なだけあって、控えめながら絢爛であった。
「泉」
柔らかで優しげな声が新郎の耳をくすぐる。お腹の膨らみをものともしない見事なドレスアップ。やはりこのホテルのブライダルは最高である。
「みつや、綺麗だよ」
「泉はかっこいいね」
幸せに溢れる二人の笑顔に魅了され、その場にいたスタッフも口がほころんだ。これからが本番だというのに、こんなにも悠長にしていられないのだが、この纏わりつくような空気がどうもスタッフをだめにしてしまうらしい。
「どうか、この結婚式が二人の幸せな門出でありますように・・・」
そう願って。
この色づく秋の紅葉と共に、一生に一度の晴舞台が始まる。
お久しぶりです。随分休んだ結果、随分長〜い文章ができました。今回の話は新郎新婦である泉とみつやが主人公のようですが、この小説の主人公は水瀬暁です!あ忘れなきよう!!
しかし、最後のカギ括弧は一体誰が言ったものでしょうかね。気になりますよねぇ〜。私も気になります。おそらく白井なのでは?水瀬はあんなロマンチックな事言いませんから!!(断言)。
やはり、結婚式というのは新郎新婦が主人公ですから詳しく書くとやはり主人公が変わってしまいますね。それほどの威力があるのだと感じました(ただ作者が泉とみつやに愛着があるだけ)。それでは最後に作者から。
おめでとう!! 以上です。




