64、友人密談
夜、白井の友人のスマホがうるさく鳴った。
応答ボタンを押して、電話に出る。
「はーい、どうしたの?夏希」
電話をしてくるのは珍しいと、美顔器を使いながら不思議そうな顔をする。
『沙彩・・・』
「うぇ!本当にどうしたの!!」
スマホの向こうから聞こえてきたのはいつもはつらつな白井とは打って変わった力尽きた声だった。心配になった白井の友人、寿沙彩は美顔器を机の上に置いた。
スマホからは微かに、泣き声が聞こえてくる。これは相当やばい何かがあったと確信し、白井と真剣に話すことを決めた。
「ねぇ、夏希。何か悲しいことでもあったの?そうじゃないと、そんなんにならないでしょ」
『・・・』
「いいから話なさい。この寿沙彩に」
白井と寿は中学からの親友である。信頼できる友人同士であり、子供の頃はしょっちゅう遊んでいたものだ。寿の方がお姉さん感があり、白井が何かやらかせば、すぐに救いの手を差し伸べる存在だった。そんな関係は今でも健在であり、鉛筆と消しゴムのような仲である。
そんな彼女だからこそ、白井は寿に電話をしたのだ。口の硬い大親友の女性にしか話せないようなのだから。
『沙彩・・・、私・・・好きな人、できたの・・・』
「えっ・・・!?」
流石に目を丸くする。何か不幸なことでもあったのかと思って覚悟していたのに、「好きな人ができた」という内容はあまりにも不幸な話とはかけ離れている。ましてや、泣くようなことではない。
「よ、よかったじゃん・・・」
『・・・よくないよ・・・』
「なんで?もしかして、その人が彼女持ちだったりとか?」
『・・・まだ、わかんないの』
「あー、なるほどね・・・」
察しがついた。
昔から白井は手の届きそうなものには手を出すのを恐れる。出そうとした時でさえ、石橋を叩いて渡る。そして、一つの情報だけで感情を左右させてしまう単純で繊細な心の持ち主だ。その挙げ句、ロクでもない男子と付き合い、結婚どころか、本当は付き合うことさえ怖い。人一倍、恋愛感情を恐れているのだ。
「まだわかんないってことは、いる可能性があるってことだよね?」
『そう・・・』
「じゃあ、その好きな人が誰か女性といたところを見たりした?」
『・・・見た』
「どこで?」
『・・・・・・図書館』
「図書館・・・いや、流石に図書館デートはないでしょ」
『だ、だって水瀬さん本好きだもん・・・』
ぽろっと白井の口から溢れた名前。口からこぼれたことを白井はわかっていない。
寿は白井の口から「水瀬さん」という言葉を聞いたのはこれで二度目である。おそらく白井は覚えていないだろうが、花形の髪飾りを自慢された時、白井は水瀬の名前を出していた。その時は人物像を聞きはしなかったが、男性からものをもらう、ましてや結構高価な髪飾りだ。それを白井が喜んで毎日つけるくらいのものっぽい。白井が信頼して髪飾りをもらうほどの人なのだから、悪い人なわけがないと思っていた。あった事もない謎の「水瀬さん」だが、寿の中では信頼に足る人物像が出来上がっている。
「じゃあ、手を繋いだり、スキンシップとかしてた?」
『私が見た間じゃ無かった・・・と思う・・・』
ぐずぐずと泣き止もうとする声が聞こえる。なるほど、よっぽど女といるところを見てしまって傷ついたのだろう。とはいえ、ぶっちゃけ寿にはどうしようもなかった。友人の恋路を応援するべきなのか、諦めろというべきなのか、その女が彼女か彼女じゃないのかを調査するのか、どれが正解なのかわからない。
「ねぇ、夏希。その人のどこが好きなの?」
わからないからこそ、こういう時はぶっ込んでみるのも手である。
『え!?』
「だから、どういうところが好きになったの?」
恥ずかしいのか、白井は一瞬黙り込んで、震える声で話し出した。
『優しいところと・・・感情を汲み取ってくれるとこ。あと、照れると可愛いところと、ごく稀に見せてくれる笑顔が可愛いとこ・・・』
「感情を汲み取るって・・・本当にそうだとしたらもうすでに夏希の恋愛感情気づかれてるんじゃない?」
『はっ!た、確かに・・・』
ようやく気がついたかと寿はちょっと笑った。
「夏希」
『なに?』
「泣きやんだ?」
『え?・・・・あ・・・・泣きやみました・・・』
ようやく、白井の可愛らしい声が聞こえてくるようになった。これで寿は一安心である。
「夏希、あのね、好きな人ができるっていうことはとってもいいことなんだよ。でも、それを好きな人に留めておく必要はないし、とどめていたらなにも始まらない。あなたは言っちゃ悪いけど行動力が少ないから今、こうやって悩んで、ただ話に来ただけ。それじゃだめ。何かしようとしなきゃ。感情を汲み取ってくれる人なら、もっと感情を表に出すこと。そうしたらその人がちょっとは振り向いてくれるんじゃない?それか、普通に彼女がいるかどうか聞いてみるのも手よ」
『沙彩・・・』
「ま、なかなか無理だとは思うけど、そういじけてないで猛アタックしてきなさい!!これは友人の命令!!」
『そ、そんなすぐにはできないって・・・!!』
「がんばりなさーい!」
『ちょっと、沙彩〜!!!』
プツっと通話が切れる。白井は呆然とスマホの画面を見つめた。
「沙彩らしい・・・」
まるで母親のような寿だが、彼女はまず彼氏がいない。一生独身でいると高校の時宣言してからその宣言を全うしようとしている意地の強い人である。
寿にあれだけ説教のようなことを言われたが、白井はどうも自信がつかなかった。自分で行動量がないことくらい知っている。周りの人には行動力があるように見られているようだがそうでもない。
そんな自分に、告白なんてできるわけがない。完璧超人で顔もよく気遣いもできる高嶺の花のような存在である水瀬に。
「・・・私と違って、あの人はすごいなぁ・・・。人前で水瀬さんに告白するなんて・・・。その人に比べたら、私なんて・・・・・・」
スマホの電源を切って掛け布団にくるまった。
主人公が出てきませんでしたが!?水瀬はなにをしている!!おい!!




