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Wine・Red  作者: 雪白鴉
五章
65/70

63、エレベーターボーイの感

遅くなりました!!

「あれ、白井先輩、久しぶりにポニーテールですね!!」


 ハーフアップにしていた真っ黒な髪を白井は久しぶりにポニーテールにしていた。これがどういう意味なのか、倉橋は知るよしも無かった。


「そうなの。ちょっとハーフアップに飽きちゃって・・・」


 倉橋はポカンとした。

 いつも笑顔の可愛らしい先輩が、今日はどこか寂しそうな顔をしていた。もし、その顔にさせたのが、水瀬の合コンに何か関係しているというなら、これは女の問題だ。察しの良い倉橋はなんとなくという極微量の訳がわかったような気がした。


 白井は先輩ホテリエに呼ばれて、館内施設の案内に駆り出されて行ってしまった。倉橋も他の先輩から呼ばれて仕事に向かった。


「白井先輩、イメチェンですかねぇ」

「・・・さぁ、どうなんでしょう」


 ロビーを歩いていた水瀬と石川はポニーテールにしている白井を見て、驚き、コソコソと話していた。不思議そうに話す石川だったが、水瀬にはなんとなく想像がついている。

 ポニーテールにしているということは、髪飾りをつけられないということと同義だろう。つまり、白井はあの髪飾りをつけたくないと言っているようなものなのだ。


「・・・髪飾りをなくしたとかでしょう」

「あ〜、なるほど・・・」


 そうこうしている間に、水瀬の担当する客がやってきた。荷物を預かり、部屋のカードキーを受け取った客とエレベーターに乗り、客室まで案内をした。リピーターだったため、館内の案内は必要ないと言われたため、水瀬は中間スタッフ用フロアのある二十階まで降りようと、エレベーターに乗り込んだ。エレベーターはガラ空きで、水瀬とエレベーターボーイしか乗っていなかった。

 とはいえ、もうボーイでもないし、最近ではエレベーターボーイという役職すらなくなってきているが、支配人の意向でこのホテルにはまだエレベーターボーイが存在する。


「元気がないな、水瀬くん」

「そう見えます?伊吾(いご)さん」


 エレベーターボーイ、伊吾拓治(いごたくじ)、三十一歳。比較的水瀬と歳が近く、何かと突っかかってくる人であるが、正直でどストレートな彼が苦手ではない。どちらかというと結構な好感度がある。ちなみに、バーで働いている聶園(じょうえん)が三十歳のため、伊吾と聶園、水瀬は仲が良い。飲み仲間である。


「なんでぃ、宝くじが当たらなかったとか?」

「まずやったことありません」

「そ」


 伊吾は一個一個の言動が何かとおかしいことで有名である。しかし、客を前にすると人が変わったように完璧な仕事っぷりを見せるのである。そして、何かと感が良いのである。


「そういや、今日、白井ちゃんポニーテールだったな。いつもの髪飾り、つけてなかったし」

「・・・」


 白井の話が出てきて、水瀬は黙り込んだ。それを見た伊吾はちょっと驚いたように水瀬に問いかけた。


「水瀬くん、彼女できたん?」


 前に聶園から聞いたことがある。伊吾はその親しみやすさと正直さで、ものすごくモテていたらしく、ついでに姉と妹がおり、女子の感情に関しては鋭いのである。そして、男子の考えていることも。


 しばらく沈黙が続き、二十階に着いてしまった。水瀬は顔を下に向け、そそくさと出ようとしたが、伊吾がそれを阻止した。


「答えてくんねぇか・・・」

「・・・」


 廊下は誰も通っていない。エレベーターに乗ろうとする人もいない。でも、いつまでもここで止まっているわけにはいかない。水瀬は目に出された伊吾の腕を払い、顔だけ伊吾に向け、ぶっきらぼうに言い放った。


「できたわけないでしょう。相手が白井さんじゃないのに」


 水瀬はプイッと前を向いて、いつもの二倍の速さで歩いて行った。取り残された伊吾を前に、エレベーターのドアが閉まり、伊吾と共に、エレベーターは一階へ降りて行った。


「へぇ、あいつ、白井ちゃんが好きなんだな」


 手に取るように人の恋愛事情がわかる伊吾だ。前々からなんとなく水瀬と白井の感情には気がついていたが、水瀬が捨て文句のように言った先ほどの言葉。あれを聞いた限り、水瀬はもう白井への恋愛感情が芽生えている。そして、同じく白井もだ。女性にとって、髪を切ったり、髪型を変えたりすることはなんらかの感情の揺さぶり。例えば、失恋だ。


(白井ちゃん、勘違いしちゃったのか〜。なんで勘違いしたのかは知らないけど、ま、おおかた告白現場でも見ちゃったんだろうな。あいつ、モテるし)


 モテるのも大変なんだよなぁと、自身の過去を振り返る伊吾であった。



初登場、伊吾さんでした!!ちょっとなかなかキャラ設定が・・・く、苦しいです・・・。あと、なかなか「ちゃん付」って、男性いいませんよね。この小説では宮河と伊吾が言いますよ。

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