62、不確実な失恋
最近、水瀬から目が離せない。常に無表情で真顔な彼なのに、ついつい目で追ってしまう。別に顔がいいからという理由じゃない。彼の性格に惹かれているのだ。紳士という言葉が一番似合うと言っても過言ではない。
「はぁ・・・」
休日の昼過ぎ、スーパーのキャベツを手に取る白井。激安と書かれた値札を一瞥して、カゴに入れる。
「はあぁぁぁ・・・」
重たいため息をつく。キャベツの前で重たい空気を漂わせていればヤバめの人に見えても仕方がないことだ。
夕飯は何にしようかと野菜コーナーの前でうろちょろした後、牛乳とプリンをカゴに入れ、レジに向かった。
会計を済ませ、スーパーを出て家に帰る。冷蔵庫に買った食材を入れて、時間を確認した後、また玄関を出た。
まだまだ夏のような暑い日差しが照り付けてきて、日傘をさす。休日といっても今日は特に予定もない。友人は仕事で時間が空いておらず、特に誰かと連絡もとっていないので、どこか涼しいところにでも行こうと、街中を歩いて行った。
(カフェでも行こうかなぁ〜)
近くのカフェにでも行って涼もうと、カフェに向かった。
その途中、ふと誰かとすれ違った。見たことのある髪の長さに、同じくらいの身長。可愛らしい服を着て、小走りしている。
白井は、その時、耳を塞げばよかったのに。
「あ、水瀬さん?ごめんなさい、もうすぐ着きます!」
その言葉に白井は足を止めて、振り返った。小走りしている女性は電話をしているようで、その相手は水瀬という人。果たしてその人物が白井の知っている「水瀬」なのか、それとも全く別の「水瀬」なのか。この時、白井の頭の中から「カフェ」という文字が消え去っていた。
コツコツという靴の音を最小限に抑え、なるべく怪しくないように後をつけていく。少し歩くと、女性は曲がり、大きな建物の中に入っていった。
(図書館・・・?)
そっと中に入り、女性がギリギリ見えるような位置の本棚の後ろに隠れた。すぐそこにあった大きめの本を手に取り、あたかも読んでいますよ感を出して目だけ女性の方を向いた。すると、女性のそばに誰かが寄ってきたのが見えた。目を凝らしてよくよく見てみる。
(水瀬さん・・・)
綺麗な黒髪に、白いカッターシャツを着た、白井の知っている「水瀬」だった。そして、その相手の女性といえば、見覚えがあったのにもうなづける。彼女は、この前、水瀬が合コンに行った際にいた女性だ。あたりを見渡してみても、水瀬と女性の連れがいるようには見えず、二人で図書館を満喫しているようだった。
あの合コンの後、白井は水瀬に啖呵を切ったくせに、最終的な水瀬の返事を聞いていない。倉橋に聞くようなこともしなかったし、もちろん、水瀬自身に聞けるわけがない。だけど、あの時の水瀬の話ぶりから、水瀬はあの女性をフッたように見えた。だからか、ちょっと安心していたのかもしれない。でも、最終的にどうなったかわからないから、水瀬はもしかして、女性と付き合った可能性だってある。それに何より、普段は外へ出かけない水瀬が、女性と二人で出かけている。もしかして、という可能性が絶大になってきた。
(楽しそう・・・)
水瀬の表情を見る気になれず、白井は女性の表情ばかりを見ていた。その表情はなんといっても可愛らしい笑顔。図書館など、男女が意図してくるようなところには思えないが、水瀬は結構、勉強やら本が好きらしく、図書館は水瀬にとっては宝庫だろう。そんな水瀬についていけている彼女は、全くもって水瀬にお似合いだ。
白井は本を閉じて、棚にしまい、頭に手をやった。パチンという音が耳の中に入り、ハーフアップで止めていた髪がするりと落ちる。髪飾りをカバンにしまいこみ、誰にも見られないように図書館の外に出た。
眩しい日差しに目をやらず、スタスタと歩いて行った。
本回は白井視点でしたが、どうでしたでしょうか。二十代でもこんな恋はできますよね・・・?




