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Wine・Red  作者: 雪白鴉
五章
63/70

61、酔い

「フるこっちも大変なんですよ」


 苦しそうにそう告げられ、椎奈はフラれたと再確認した。それもそうだ。今日初めて出会って、数時間しか一緒にいなかった。そんな自分が水瀬に好意を寄せられえるわけもない。


 さっき、吹っ切れると言いながら、椎奈は全く吹っ切れられずにいた。初めて好きになった人、今ままで彼氏がいたこともないし、好きになった人もいなかった。だから合コンに誘われ、今日こそはと思い、初恋を実らせた。そんなことは知らずに、彼女の初めての告白を水瀬は断ったのだ。モテる男というのは大変なものだ。


「そう、ですよね・・・。わかってました」

「・・・」


 今、一番辛いのは椎奈だろう。でも、そんな辛そうな椎奈を見る水瀬も辛いのだ。


「それでも・・・私は水瀬さんが好きです!」


 椎奈は泣きながら言っているが水瀬も今にも泣きそうだ。自分のせいで誰かが辛くなってしまうのは嫌なことでしかない。


「だから、友達から始めて、私を知ってもらってからまた、挑戦してもいいですか・・・?」


 なんて強い子だろう。フラれてもなお、諦めない芯の強さ。


(私の手には余る・・・)


 それでも、この彼女の決心を蔑ろにするわけにもいかない。水瀬にはそれができない。


「はい、いいですよ」




「で、結局どうだった?」

「どうだったって?」

「いや、だから合コンの結果」

「・・・知り合いが増えただけ」

「何だよそりゃ」


 数分後に迎えに来た宮河の車の中で、水瀬はずっと外の夜景を眺めていた。


「モテる男は大変だなぁ」

「やっぱり行くんじゃなかった」



 次の日、ホテリエたちの空気が強烈に悪かった。それもこれも、昨日の水瀬と白井、倉橋のせいである。


「山田さん、私がルームサービスしてきます・・・」

「あ、は、はい・・・」


 カラカラとルームサービース用のカートを押して、白井はエレベーターの方へ向かって行った。見えないはずなのに、白井の周りにはドヨドヨとした空気がまとわりついていた。その原因を白井に直接聞こうとする勇者はホテリエの中に誰一人いなかった。


「千尋、昨日白井先輩と夜出かけるって言ってたよね。なんかあった?」


 山田の代わりに、いや全員の代行で石川が倉橋に何故白井があのような状態になっているのか聞いた。

 倉橋はキョロキョロと辺りを見渡し、水瀬がいないことを確認して石川に小声で言った。


「昨日、先輩と出かけて帰る途中、水瀬先輩の合コン現場に居合わせてしまって・・・」

「せ、先輩が合コン!?」

「しっ!!聞こえちゃう!」

「あ・・・ごめん・・・」


 また辺りを見渡して水瀬がいないことを確認してふーと安堵した。


「ちょうど終わったところで、私たちと同じくらいの女性の方が先輩に告白中で・・・。水瀬先輩の告白の回答が曖昧すぎてせっかく隠れてたのに白井先輩が首突っ込んじゃって、多分そのせいで気まずいんだと思うの」

「気まずいね・・・それ」

「私たち、ちょっと酔ってたからなんかよくわからなくなって、白井先輩、水瀬先輩に怒った後そのまま走って行っちゃうしで・・・」


 あの後、おそらく一番疲れたのは倉橋だろう。走り去っていく白井は結構な速さで、追いつけず、走りにくいヒールで、少し酔いがあった倉橋は何度転けそうになっただろうか。


「大変だったね」

「!」


 ちょんと石川が倉橋の頭に手を乗せる。ぴくっと倉橋の方が跳ねる。


「もう!別れてるんだからこういうことしないで!!」

「あ、ごめん・・・」


 頬を赤らめてぷくっと頬を膨らます倉橋。石川は昔、倉橋と付き合っていたのでその両様で無意識に頭を撫でてしまったのだ。


「石川さん、倉橋さん、私語厳禁です」

「っ!」

「!」


 突如、二人の間に入ってきたのは水瀬だった。先ほどの二人の会話は水瀬に聞かれていたようで、倉橋と石川はまずいと挙動不審になっていた。


「倉橋さん、昨日のことはここまでで内密にいておいてください。この話がどのような形で広まるかわかりませんし、最悪の場合、私が悪い男になってしまうので」

「す、すみません・・・」


 倉橋がぺこりと水瀬に謝る。石川も一緒に頭を下げた。


「しかし、昨日はお見苦しいところを見せてしまいましたね。あまり良いものではなかったでしょう?女性が知り合いにフラれているところを」

「まぁ・・・みたくはない絵面でしたね・・・」

「あの後、白井さんは大丈夫でしたか?」

「え?」

「少しですが酔っていらしたように見えたので・・・。怪我とかされてませんか?」

「は、はい!大丈夫です・・・多分・・・」

「そうですか。よかったです」


 それだけ言って、水瀬はさっさと仕事に戻って行ってしまった。取り残された二人は、今後、水瀬と白井にどう対応すれば良いのか、皆目検討もつかなかった。



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