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Wine・Red  作者: 雪白鴉
五章
62/70

60、understand

 夜十一時、飲食店での合コンが終わり、水瀬たちは店を出た。水瀬は腕時計を見て、さすが帰らなければと二次会をお断りすることにした。


「水瀬さん、二次会来れないんですか?」

「明日の仕事に差し支えますし・・・」

「そうですか・・・ホテルの職員の方ですもんね・・・」


 二次会に来ないという水瀬に寂しそうな笑顔を見せる椎奈。そんな椎奈の気持ちを察せないほど、椎奈の友人たちは野暮じゃない。


「ほら、真知、暁くん帰っちゃうよ〜」

「えぇ・・・」


 椎奈の背中を押すように声をかける四人に戸惑い、頬を赤らめる椎奈。椎奈たちの様子を見た水瀬も察しがついた。水瀬は鈍感なのではなく、考えないようにしているだけなのだから。



 その頃、


「今日、水瀬先輩合コンなんですか!?」

「そうみたい・・・」


 白井は倉橋と一緒に外食に出ていた。独身同士、最近はよく外食に出ている。倉橋は今日、水瀬が合コンに行っていることを聞かされ、とてつもなく驚いていた。あの水瀬が合コンに行くような性格だろうかと倉橋も思っていた。


「先輩も合コンとか行くんですねぇー。意外です」

「正確には行かされるって言っておられたんだけど・・・」


 紅露から水瀬が合コンに行くと聞かされてから、白井はずっとモヤモヤしていた。水瀬さんだから合コンとか行かないだろうと自分の中で何故か安心していた。

 絶対にモテる水瀬は、いずれ近い未来に彼女ができるだろう。ただの同僚で、いろんな人に人気な水瀬。かっこいいところしか出てこないハイスペック。幼馴染でもなんでもない。なのに、水瀬に彼女ができるのは嫌だ。


 モヤモヤと頭の中に霧がかかる白井の横を歩いていた倉橋が、突然足を止めた。すると、近くにあった電柱の後ろに引っ張られ、白井と倉橋は隠れるように電柱に縋った。


「先輩、あれって、水瀬先輩じゃないですか?」

「え?」


 倉橋がビシッと電柱の先を指す。十メートルくらい先だろうか、倉橋が指差した方を見ると、後ろ姿だったが確かに水瀬が見えた。水瀬の前には可愛らしい女性と、その後ろに男性二人に女性二人が控えていた。目をこらえて見ると、水瀬の前にいる女性はおどおどと、耳と頬を赤らめ、まるで今から告白するような状況だった。


「合コン会場って・・・」

「確かに、そこのお店、おしゃれで合コンにぴったりなので合コン常連のお店なんですよ」


 やはり合コン会場だった。後ろ姿でも水瀬はわかる。後ろ姿だけでもイケメンなのがわかるのだから。


 しかし、どう見ても今の状況は告白だ。合コン終わりといえば、告白フィーバー。水瀬がモテないわけがない。倉橋は熱心にその様子を見ているが、白井は違った。持っていた鞄を握り締め、どこにいるかもわからない神に祈った。


 もじもじしていた椎奈がようやく小さく口を開ける。


「あの・・・水瀬さん・・・」


 恥ずかしそうに小さな声で言う。そんな椎奈を見守るように水瀬は優しく、静かに聞いていた。これから何を言われるのか大抵想像はついている。こんな状況を何度体験しただろう。もうわかっている。不本意にも自分はモテることを。


「今日は・・・その、色々とありがとうございました・・・。一緒にお話しするのも楽しかったですし、あの、ハンカチも、ありがとうございました・・・」

「いえ」


 告白というものは言いにくいものだろう。水瀬はしたことがないからどういう気持ちなのかわからないが、言いにくいものというのはわかる。だから、結果を考えていたとしても、その勇気を無下にするわけにはいかない。それをわかっている水瀬はただ、椎奈の言葉を待った。


 一呼吸置いて、整理がついた椎奈は意を決して顔を上げた。


「今日、初めて会って、おかしなことかもしれませんけど、私・・・・・・水瀬さんのこと、好きです!!」

「・・・」


 電柱までたった十メートル。その距離でも聞こえる声だった。目を光らせる倉橋の横で、白井は瞬きをする気にもなれなかった。わかっていたことなのに、告白を目の当たりにするとどうも思考が停止する。水瀬さんはどういう返事をするのだろうか・・・、そういう結果しか考えられない。


 意を決して告白をしてくれた椎奈に、水瀬はどう応えようと悩んだが、すぐに答えを出した。


「椎奈さん、ご好意はありがたく受け取っておきます」

「っ・・・」

「ですが、私と椎奈さんは今日初めて出会った身。私はまだあなたを知りません」


 なるべく傷つけないようにと、言葉を選んで、まるでパズルのように組み合わせて行く。言いたくもない言葉を口に出していくのはどれだけ辛いか、相手にはわからないだろう。


「私の仕事はホテリエですので、私の行動は勘違いされやすいですが生まれつきのものではありません。私のどこを好きになられたかわかりませんが、私はあなたが思うような者ではありません」


 遠回しに椎奈の言っていることを否定している。それでもこれは水瀬の本心だ。

 この言葉は、水瀬の自殺行為と言ってもいいような言葉だ。椎奈を守るための。自分と相手を否定し、相手を遠くにしようとする。水瀬がよく使ってきた方法だ。でも、そうしないと、水瀬が辛くなってしまう。


「第一に、私はあなたに見合うような男ではありません」


 椎奈が息を呑むと同時に、白井も息を呑んだ。そして、二人はわかった。この水瀬という男は、ただの謙虚な男ではない。


 自分のことが嫌いな、自分を縛る男だと。


「そんな・・・そんなことはないと思います・・・!いくら仕事柄で性格が成り立っていても、それを自然に反映なんてできません!」


 おそらく、今まで一番大きな声だろう。椎奈の言葉に水瀬は口をつぐんだ。何を言えば良いのかわからなくなったからだ。


「・・・付き合っちゃうのかな・・・」


 静かな空気に、ポツリとつぶやかれた言葉が水瀬の耳に入らないわけがない。聞き慣れた声がした方へ、パッと振り向く。歩道に立つ電柱から覗く白井と目が合う。さっき聞こえた言葉は、白井の言葉だと瞬時に判断を下した水瀬は目を丸くした。


「白井さん・・・?」

「っ!」


 ふとこぼした心の声がまさか聞こえていたとは思わず、白井は水瀬から隠れるように電柱へ顔を引っ込めた。せっかくの告白をダメにしてしまったと、白井は申し訳なさそうに縮こまったが、すでに水瀬に見つかっている。倉橋も倉橋で焦っているが、倉橋が焦ってもどうにもならない。


「盗み見ですか?」

「えっと・・・」


 いつもの水瀬の声だ。白井は肝が冷えた。

 だけれど、白井は水瀬に言わなければならない。一人の女として。


 電柱の影から出て、泣き出しそうな声で一声を浴びせた。


「Yes or No!はっきりして下さい!!」

「!」


 側から見たら痴情のもつれだ。結果的に、水瀬と椎奈を見守っていた四人は痴情のもつれだとしか思えなかった。だが、これはちょっと違う。


「せっかく勇気を出して告白してくださっているのに、なんでそんな全否定みたいなこと言うんですか!?ちゃんと、返事してあげて下さい!!」


 大粒の涙が今にも溢れそうな目を震わせながら白井が水瀬に怒鳴る。水瀬が驚いたのは言うまでもないが、椎奈も驚いた。何やら恋敵にフォローされたような気がして。


「失礼します!!」

「せ、先輩!?」


 白井は啖呵を切ってそのまま走っていってしまった。気まずい雰囲気の中、倉橋は水瀬たちにぺこりと一礼して、すぐに白井を追いかけて行った。


 白井に説教をされた水瀬は、少しの間呆然としていだが、落ち着いてから椎奈の方を見た。

 椎奈は多分これからフラれるんだと心を決めていた。だから、言った。


「さっきの人・・・、白井さん、可愛らしい方でしたね・・・」

「・・・」

「・・・水瀬さんは、あの人が好きなんですか?」


 容赦のない問いに、水瀬は静かに答えた。


「わかりません」

「そうですか・・・」


 泣き出しそうなのを堪えながら、水瀬の目を見て椎奈が言う。


「じゃあ、早く私をフってください。吹っ切れますから」


 涙とは反対の笑顔でそう言う。

 椎奈真知は強い女性だ。水瀬はわかっている。フラれるとわかっていても、子供のようになくわけでもなく、その未来に想いを馳せ、淡々と耐えて待つ。水瀬は白井と出会っていなければ、彼女を好きになっただろう。でも、もう過去へは行けない。


 頭を抱えた水瀬は、苦い顔で椎奈に返した。


「・・・フるこっちも、大変なんですよ」


 

 いつもより長くなりましたが、ついてこられたでしょうか?今回は賛否両論ある話だったと思いますが、どうぞ暖かい目で見守ってくださいませ。

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