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Wine・Red  作者: 雪白鴉
五章
61/70

59、ロマンチックな出会いはほどほどに

「かんぱーい!!」


 合コンが始まり、一時間くらいがたっただろうか。ビールやら色々と出されてくるが、水瀬は酒好きだがビールは飲まない。日本酒もあるらしいが今日は飲む気にはならない。


「合コンといえば王様だーれだ、だよね!」

「お、いいね〜!!」

「やろやろー!」


 準備してきたのか、女性陣の一人が六本の割り箸を取り出した。一本、赤いテープが貼られており、そのほかの割り箸には番号がふられてある。それを順々に引いていくらしい。


「どういうゲームなんですか?」

「やったことないんですか!?」

「はい。あまりパーティー系は好きではなく・・・」

「そうなんですねぇー」


 王様だーれだという謎のゲームのルールがわからない水瀬のために、割り箸を持ってきた椎奈真知(しいなまち)が教えてくれた。全員が割り箸を一本取り、赤いテープが付いている割り箸を取った人が王様で、王様は割り箸に書いてある数字を指名してその数字が書かれてある割り箸を持っている人は王様の命令に従う、というものらしい。


「なるほど・・・。ルール説明ありがとうございます、椎奈さん」

「い、いえっ!」


 椎奈真知は比較的おとなしい方で水瀬と気が合うっぽい。


「王様だーれだ!!」


 掛け声と共に一斉に割り箸を引く。


「あ、俺だ」


 王様になったのは宮河の後輩、越前正治(えちぜんまさはる)だった。嬉しそうな越前が番号を指名する。


「よし、じゃあ・・・三番が俺と連絡先交換する!」

「あ、僕だ」

「お前かい!!」


 越前が指名した三番の割り箸を持っていたのは越前の友人、岸江勇吾(きしえゆうご)。勿論、連絡先はとっくに交換済みだ。残念だったなと岸江が悪い顔をする。どっと笑いに包まれ、その空気のせいか、水瀬もだんだん口が緩んできた。


 ちょこちょこ王様になったり指名されたりと比較的楽しみながら合コンが続いていった。


「王様、僕だ」


 最後に王様に当たったのは岸江。岸江は少し悩んだ後、机の上を見渡し、飲み物がなくなったことに気がついて言った。


「一番と・・・じゃあ二番、水を持ってきてください!」

「私、一番だ!」


 一番は椎奈。そして、二番は、


「私ですね」


 二番になったのは水瀬だった。


「私もちょうど喉が渇きましたし、お水、いれてきましょうか」

「あ、はい!」


 二人が立ち上がり、ドリンクバーのところまで歩いて行った。


「合コン、楽しいですか?」


 ぽそっと椎奈が水瀬に問う。少し考えた後、水瀬は「はい」と頷いた。ふわっと水瀬が見せた小さな

笑顔を見た椎奈も笑顔になる。その笑顔は白井のようで、何だか安心した心地がした。


「白井さんに似てる・・・」

「白井さん?」


 思ったことが声に出てしまい、水瀬はおっとと口を押さえた。


「白井さんってどなたですか?」

「同僚です」


 水瀬はそれだけ言って前を向いた。


 だけれど椎奈は何だか、嫌な気持ちがした。これがどういう気持ちなのか、多分椎奈はわかっている。これはもしかして・・・・・・・


 すると、椎奈の肩が誰かにあたった。


「きゃっ!」


 強い当たりようで、椎奈ふらっと倒れそうになった。すかさず、倒れそうになった椎奈を水瀬が支える。


「大丈夫ですか?」

「あ、はい・・・」


 そんな二人に低く荒々しい男声が落とされる。


「おい、どこ見てんだ!いちゃついてっから前見えてねぇんじゃねえか!!」


 大きな声で、お店内全体に響き渡るような声で怒鳴ってきた。気の弱い椎奈はその声に萎縮してしまい、プルプルと震えていた。

 騒動を聞きつけて、岸江たちが急いでやってきた。店員もやってきて、なんとか大声を出すガラの悪い男をなだめようとするが男は落ち着かない。


「ご、ごめんなさい・・・私がぶつかっちゃったから・・・」


 涙目で震える椎奈を見た水瀬はポケットからハンカチを取り出し、椎奈に渡した。


「いえ、椎奈さんは悪くありません。あちらが前を見ていらっしゃいませんでしたから」


 椎奈を岸江たちに預けた水瀬は、ネクタイを整え、どなり狂う男の前に立ち、深々と頭を下げた。

 男の目は確かに水瀬を捕え、ぴたりと声がおさまったところで水瀬を口を開いた。


「大変失礼いたしました。お怪我はございませんでしょうか」


 しぃんと店内が静まり返る。店員たちは唖然と水瀬を見ている。


「しかし、女性に怒鳴るなど、紳士とは言えませんね。怒鳴りたいのであれば、どうぞ、この私に」


 目を細めた不適な笑みを見せた水瀬にゾッとした男は店員を振り払ってそそくさと外に出て行ってしまった。


「うちのお客様より簡単でしたね」


 すっと顔を真顔に戻し、横髪を耳にかけ、椎奈の元へ歩いた。


 店員、客、椎奈たちは先ほどのほんの数秒の出来事に、瞬きの数を抑えられないようで、まぶた以外固まっていた。


 水瀬にとってはこんな騒動日常茶飯事。そして、その騒動止めまくって何年だろうか。水瀬はその道のプロと言っても過言ではない。水瀬のこの威厳を初めて見る人たちにとっては異形にしか見えないだろうが、ホテルのスタッフたちは、最近慣れてきたらしい。よって、面倒な厄介ごとは水瀬にまわされるのだ。


「椎奈さん、もう大丈夫ですよ」


 水瀬にもらったハンカチを握り締めた椎奈。優しく綺麗で心地の良い声。水瀬の全てが椎奈の心を奪った。


 椎奈は確かに、この時、水瀬という男に恋に堕ちた。



早足でごめんなさい。

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