57、愛のあり方
季節もなかなか過ごしやすくなってきた頃、前にやってきた、結婚を控えたカップルがやってきた。
「水瀬さんと白井さんも結婚式のお手伝いをしてくださるんですか!?」
「はい、そういうことになりまして」
「わぁ、心強いです!」
まだ一度しか会っていないのだが、なぜか水瀬は少し前にやってきた、津和野泉と神代みつやカップルに気に入られていた。どこで気に入ったのかは知らないが、白井もなぜか気に入られていた。どうせ、紅露が口出しでもしたのだろう。
「結婚式まで、あと一ヶ月ちょっとですね」
「はい!みつやも安定期に入ってきて・・・。計算が合っていてよかったです」
津和野カップルは現在二十二歳。だが、もう妊娠がわかっている。そのため、六ヶ月くらい前にこのホテルで結婚式を挙げることに決めたのである。
今は妊娠六ヶ月くらい。神代は安定期というものに入った。おそらくあと一ヶ月ほど安定期は続くだろう。津和野の口振から、結婚式の依頼をしてから六から七ヶ月後に結婚式を挙げることと、妊婦の安定期が妊娠五ヶ月から七ヶ月ということを考慮していたのだろう。名門照耀大学に通っているほどだ。ぽやぽやしているように見えて、ちゃんと考えている。そして、彼女に対してのこの優しさ。こんな彼氏、世界中を探しても一握りしかいないだろう。
「結婚式が一ヶ月後と迫ってきているため、本日は最終確認をさせていただきます」
流石に慣れている。紅露のベテランオーラは滲み出ている。
結婚式一ヶ月前に新郎新婦とホテル側がやることは主に最終確認。式の参加者の確認や司会・演出の打ち合わせなど、最後の最後までやることが多いのである。ちなみに、披露宴の打ち合わせも込みで。
「当日、お二人の着付けのサポートには水瀬と白井がまわり、司会は私、紅露が行います」
「はい。お願いします」
前回騒動が起きた結婚披露宴の時と同じよな役割だ。新郎新婦の着付けのサポートなど、水瀬と白井は手慣れている。
その後、メニュー表や座席表の話し合いもスムーズに進み、途中、少し仕事で抜けていた白井も加わって、最終確認は坦々と終わった。
「紅露さん、水瀬さん、白井さん、いろいろありがとうございます。こんなに良い方に手伝っていたけるなんて、本当にこのホテルを選んでよかったです」
「いえいえ、これが私どもの仕事ですから」
にっこりと紅露が笑顔を見せ、それにつられたのか、カップルも自然と笑顔になった。
カップルが帰ったあと、三人は休憩に入った。紅露がお茶を出してくれたので、少しの時間、三人のティータイムとなった。
「二人は、結婚式にいい思い出がないでしょう?」
「そうですね」
六月ごろにあった結婚披露宴。あれが良い思い出なわけがない。
「二人は、結婚してみたいとか思ったことないの?」
紅露が聞く。紅露自身はもうすでに結婚して子供にも恵まれている。それに比べ、二十七歳の水瀬と二十六歳の白井。彼氏彼女どころか、結婚しても良い年齢だ。そんな二人は彼氏も彼女もいない。モテそうな二人だが、伴侶がいないとなれば結婚に興味がないのだろうか。
「結婚したいかしたくないかで言われたら勿論結婚したいですよ、彼氏も欲しいですし!」
「白井ちゃんは引くて数多なんじゃないの?」
「違いますよ〜!それに、結婚はしたいですけど、怖いんですよね」
「怖い?」
「はい」
女性二人の話に入れないし入る気もない水瀬はお茶を飲みながら聞き耳を立てている。
「親が不倫で離婚していまして・・・離婚が怖くて結婚しないんです」
「不倫しないような人を探してみたら?」
「どんな人でしょうか・・・?」
「ん〜」
不倫しないような人と言われてもはっきりわかるわけがない。不倫しないという性格が目に見えるステータスのように現れるわけがない。それに、見た目や性格だけでわかるものではない。人にとって、何が不満で何が良いのか、隠されれば一切わからない。人の心は読めないのだから。
「そうね、水瀬くんとか?」
「っ!?」
飲んでいたお茶が水瀬の気管に入る。
「み、水瀬さん、大丈夫ですか!?」
「あ゛、はい・・・だ、だいじょうぶ、です・・・」
ハンカチで口を押さえて気管からお茶を吐き出す。白井がトントンと背中を叩いてくれるが、紅露はニヤニヤとこちらを見ている。
「あら、どうしてむせたのかしら」
「紅露さん・・・」
そこへ白井が水瀬にトドメを刺す。
「でも、確かに水瀬さんなら不倫しなさそうですね!」
「・・・なんて話してるんですか・・・」
ようやく落ち着いた水瀬は残りのお茶を飲み干した。
確かに水瀬は自分自身、不倫をするような性ではないと思っている。本当に好きになった人としか関係を持とうと思わないからだ。
「まぁ、私も不倫をするような方とは付き合えませんね」
「ですよね!」
白井が「同士だ!」というような目で水瀬を見る。
だが、誰だって不倫はされたくないものだ。セカンドパートナーというものがあるそうだが、それは不倫とは違う。それでも、水瀬はたった一人を愛したいし、たった一人に愛されたい。
「水瀬くんは結婚はしないの?」
白井にした質問と同じものを問いかけてくる。
「できればしたいですが、結婚式は絶対に挙げたいとは思いませんね」
「何でですか!?」
白井が突っ込んでくる。
水瀬は別に結婚式を絶対に挙げたいとは思わない。お金もかかるし、第一に主役となることが嫌いなのだ。
「女性にとってウェディングドレスは高嶺の夢なんですよ!?」
「確かに、好きな人のウェディングドレスは見てみたいですね。ただ、式に意味があるとは思えないだけなんですよね」
「あなたはそういう人よねぇ・・・」
熱心に語る白井の横で紅露が水瀬に呆れている。
「結婚話は置いといて、私、水瀬さん彼女いると思ってました」
「私は水瀬くんも白井ちゃんも付き合っている人がいると思っていたわよ」
水瀬も白井には彼氏がいるものだと思っていた。だが、だんだん話すようになってからいないことが判明した。それを嬉しいなどと思ったことはないが。
「そのことに関して友人に咎められました」
「もしかして宮河さんですか?」
「ええ。今度、宮河の提案で合コンに行かされるんです」
『え!?』
白井と紅露がハモって驚く。そんなに驚くことだろうかと、水瀬はちょっとびっくりした。
「水瀬さん、合コン行くんですか・・・?」
「えぇ、正確には行かされるですが・・・」
「そ、そうですか・・・」
白井が見るからにしゅんとする。紅露は開いた口が塞がらないようだった。
(そんなに珍しいんですかね・・・)
言っておくが、水瀬は別に鈍感なわけではない。
次回!合コンです!




